お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

一難去ってまた一難か。

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 あの後、私は慎悟に促されて6時間目の授業に遅れて参加した。慎悟に面倒くさいからサボろうぜ! って誘ったけど拒否されてしまったんだ。
 私の場合、5時間目もサボっていたので教科担当と担任に叱られたが、学年主任の先生から事情を聞いていたのか小言で済んだので安心した。
 ぴかりんや阿南さんがまた何かに巻き込まれたんじゃ…と心配してきたが、解決したからと濁しておいた。
 瑞沢姫乃が屋上に閉じ込められていた事を話すとなると、上杉の事とか瑞沢姫乃がエリカちゃんを妬んで婚約者を奪った云々を話さないといけなくなりそうでしょ? うまく説明する自信がない私は口を噤んでおいた。
 ぴかりんも私と同じく頭に血が上りやすいタイプだから上杉に殴り込みに行くかもしれないし。今は話さないほうが良いだろう。

 屋上の鍵の件は謎なままだ。
 立入禁止になってからは屋上の鍵は厳重に保管しているはずだし、どうして鍵が開いたのかがわからない。ここには監視カメラがないので犯人を特定できない。
 瑞沢姫乃が証言した為、屋上に閉じ込めた生徒を問い詰めることは出来たが、相手が指示した主犯を二階堂エリカとしか吐かないのでお話にならないとか。 
 これ、実行犯を取り調べした風紀委員会からの情報なんだけど、わざわざ生徒会副会長の寛永さんが私に教えてくれたんだ。

 思ったのだが寛永さんは私のことを疑ってないのか? それとも公平に物事を見極めようと一歩下がって見ているのかな。
 まぁどっちにしても疑ってかかってくる人じゃないので助かる。

 この件、犯人はわかっているが、証拠がない。私は上杉達の悪巧みを聞いているだけだ。提示できる証拠がない今、ここで寛永さんに話しても無駄な気がして言えずにいた。私はまだ彼女のことをよくわからない。もしかしたらアッサリと裏切る人かもしれないし、頼っていい相手なのか判断できずにいたから。
 …なんであの時ボイスレコーダーのスイッチ入れなかったんだろうな私。それさえあれば言えたのに。

 でも慎悟も言っていたとおり、上杉は一筋縄じゃいかない。そこにあまり頭のよくない私が突っ込んで行っても負ける気しかしない。
 エリカちゃんの一大事だから二階堂パパママには相談しようとは思うけど……うぅーん……
 エリカちゃんたら変な男に好かれて罪な女だなぁしかし。

 エリカちゃんの身体の中に入っているとは言え、私にとってはあくまで他人事だ。
 どこか離れた位置から一連の過程を見ているような心境であった。
 
■□■

「二階堂さん!」
「…あ」

 夢子ちゃんもとい瑞沢姫乃に呼び止められて私は立ち止まった。1学年のクラスが並ぶこの廊下で、悪い意味で有名人な彼女に呼びかけられた私は通行中の生徒達に注目をされていた。
 昨日の今日なのでお礼でも言いに来たのか、はたまたハンカチを返しに来たのかなと思ったのだけど、瑞沢姫乃は一味違った。

「あのっ二階堂さん! わたしとお友達になってくださいっ!」
「……意味がわからない。普通に嫌なんだけど」

 このアマ、エリカちゃんにした事を忘れたのか。なるわけ無いだろうが。友達なんかになったらエリカちゃんに身体を戻した時彼女がパニック起こすだろうが。
 お友達になってくださいというお誘いをスパッとお断りすると、瑞沢姫乃はそのアーモンド型の瞳にじわりと涙を浮かべた。

「えぇぇ…ひどぉい、ヒメ、勇気出したのに…」
「知らんわ。ていうかあのハンカチ洗濯してきたんでしょ。返して」
「お友達になってくれなきゃハンカチ返してあげないもん!」
「……あっそ、なら返さなくていいわ」

 相手にしていられない。
 もうすぐ文化祭なのだ。こんな所で油を売っている暇などない。
 私は抱えていた紅茶やコーヒーの入ったダンボールを抱え直して、瑞沢姫乃の隣を通り過ぎる、

 すると瑞沢姫乃は、私の無防備な背中にガバっと抱き着いてきた。

「やだやだやだ! お友達になって!」
「………」

 なにこの人。駄々っ子かよ。
 拒否してんのに聞き入れやしない。

 私は彼女を無視して前に進もうとするが、瑞沢姫乃がくっついていて中々前に進めない。
 教室は目前なのに、この子泣き爺もとい子泣き夢子のせいで前に進めない…!

「姫乃っ! …またエリカお前か!」
「今の状況見て私が加害者に見えるなら、脳外科に行ったほうが良いよ。判断能力に難があるきっと」

 そこにタイミングよく現れた宝生氏がお決まりのセリフで私を睨みつけてきたので私は辟易してしまった。
 瑞沢姫乃は涙を流しながら私から離れると、宝生氏の胸元に甘えるように縋り付いていた。

「倫也くぅん、二階堂さんたら酷いの、ヒメとお友達になってくれないのよ」
「……は? ……姫乃、こんな奴と友達になりたいというのか?」
「絶対イヤだよ」

 どの面下げてお友達なんて抜かしてんだこの女。お花畑か。

「ひどいぃぃぃ!」
「エリカ! 姫乃を泣かせるな!」

 本当のことを言っただけなのに。ていうか宝生氏だって、私…エリカちゃんのこと悪く言っているじゃないの。なのに私には悪く言うなってダブルスタンダードかよ。
 瑞沢姫乃を守るように抱きしめ、こっちを警戒するかのように睨んでくる宝生氏 VS 面倒くせぇなぁという態度を隠す気が微塵もないエリカちゃんの姿をした私は生徒達の注目を受けていた。
 皆が遠くで様子を伺っているのが見えるよ。昼ドラ見るかのようにドキドキ・ワクワクしてんのかね。
 今は放課後で文化祭の準備中。明後日には文化祭が開催されるのだ。だからどの生徒も各クラスで準備に奔走しているというのに私は面倒くさい2人に絡まれてしまった。

 なんだコレ。
 私にどうしろと。

「エリカー…またあんた達? もういい加減にしなさいよ。…ほらエリカ、放っておいて戻ってきなよ」
「…そうだね」

 3組の教室から顔を出したぴかりんは私と同じく面倒臭そうな顔をして2人を見ていた。
 相手するのが時間の無駄だと判断した私はさっさと自分のクラスに入った。


 瑞沢姫乃は一体何を考えて…いや、あれはなにも考えてないな。そのままだろう。
 面倒な人に粘着されそうな気がしてならない。
 私がさり気なく肩を落としている間にも時間は過ぎ去り、あっという間に文化祭前日になった。

 私の中で文化祭の出し物よりも2日目の招待試合のほうが気になっている。
 コーチがつきっきりで鬼指導もとい、スパイクやサーブレシーブの練習に力を入れまくって来たので、是非とも試合には勝ちたい!
 昨日また保健室で身長を計ったけど、ミリ単位の変動しかなかった。私は雑誌の裏に載ってそうな身長が伸びるという怪しい商法に手を伸ばしてしまいそうな衝動に駆られたが、この半年でジャンプ力や筋力で補えるようになったし、大丈夫! と自分に言い聞かせた。
 
「二階堂さん」
「あれ、平井さん。どうしたんですか?」
「明後日の試合のことでちょっと」

 教室で明日からの文化祭準備のためにクラスメイトと準備をしていた私のもとに部活の先輩がやって来た。
 女子バレー部2年の平井さん。身長178cmの持ち主で、明後日の試合では私と同じくスパイカーとして出場するレギュラーだ。
 なんだろうか。後で部活があるのになにか急ぎの用でもあるのだろうか。私は彼女の後をなにも考えずについていっていたのだが、彼女はピタリと立ち止まった。
 そこは校舎の端の方にある、あまり使われることのない階段の踊り場だった。

 人に聞かれたら拙い話なんだろうかと思っていたのだが、振り返ってきた平井さんは能面のような顔をしていたので、私はそれに驚いて固まる。
 彼女の腕がヌッと前に押し出され、私は避ける隙もなく思いっきり突き飛ばされた。

ガン!
「いっ!」

 火事などの非常時のためにある防火扉にぶつかり、私は呻き声をあげた。……あー背中痛い。
 いきなりのことに私は目を白黒させた。それと同時に、以前にも似たことを体験したなと何処か冷静に考えていた。
 そうだ、誠心のバレー部で…去年の秋の予選で私がレギュラーとして任命された時だ…人気がない場所で、レギュラーになれなかった部員に同じように押されたことがある。彼女も同じく1年でスパイカー希望だった。

 平井さんと身長差のある今の私は見上げる形で彼女の顔を伺うと、先程まで能面だった彼女の顔は般若のように歪んでいた。
 この目を知ってる。これと同じ目を向けられたんだ。
 これは嫉妬の目だ。

 …だけど、誠心の部員のあの子とはちょっと違う…なんだろう……嫉妬は嫉妬なんだけど、もっと他の別のなにか…

「…ぽっと出のくせになんであんたなんかがレギュラーになるわけ? 大した実績もないくせになんでスパイカーになるのよ…! 私は2年になってようやくつけたポジなのになんであんたが!」

 平井さんは私に対してそう怒鳴ってきた。私はそれに返す言葉がなかった。
 身体が違うから以前の経験を語るのはおかしいし、エリカちゃんの身体が鍛えればスポーツの出来る身体能力を備えていたからと言っても無理があるのだろうか……

「金で買ったポジションなんでしょ! いくら積んだの!?」
「はぁ!? まさか! お金なんて積みませんよ! 大体学校側だってそこまで馬鹿じゃないでしょ!? 下手くそな選手を試合に出して、この学校のレベルを落とすわけには行かないんだから」
「じゃあなんで! 事件に巻き込まれただかなんだか知らないけどね、皆あんたが可哀相だから優しくしてるんだから! …コーチが、あんたにばかり指導するのは、あんたを哀れんでるからだし…!」
「……は?」

 コーチ? なんでいまコーチが出てきた? 

 私は痛む背中を後ろ手に擦りながら、ポカーンと平井さんを見上げていたのであった。
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