お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

私の想いは封印。しかし他人の記憶は封印できない。

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「…エリカ、顔どうしたの?」
「ん? 大丈夫。スッキリしたから。試合頑張ろうね」

 ユキ兄ちゃんにつられて大泣きしてしまった私は泣き腫らした目をしていた。だけど不思議と心はスッキリしていた。
 私は半年前の失恋をまだ引き摺っていたらしい。だけど今回改めて叶わぬ想いなのだと再確認した。
 …二階堂エリカの姿で想いを告げるのは私が嫌だから、この想いはユキ兄ちゃんに伝えずに私の心に封印してしまうことにした。
 …それで良いのだ。だって私は死んだ人間なのだから。

 友好関係を結んでいる高校との招待試合を前に私は色んな人に心配の声を掛けられたが、私の心は落ち着いている。
 大丈夫、私は戦える。

 体育館の2階部分にある観覧席を見上げるとそこには渉とユキ兄ちゃんがいた。その隣には一連の流れを見ていた慎悟も座っている。文化祭の出し物は昨日興味のある場所を全て見て廻ったので、暇つぶしだとは言っていたが……多分、多分だけどこちらに気を遣って同行してくれているのかもしれない。
 
 ユキ兄ちゃんはあの後やっぱり私に謝罪してきた。自分が忘れ物をしたせいだと自分を責めていた。私がそんな事ないっていくら言っても後悔の念は消えないらしい。
 私だって後悔だらけでそう簡単にそれを忘れることは出来ないから仕方ないのかもしれないけど……
 本当、あれは運が悪かったとしか言いようがないんだけどな。悪いの犯人だし。

 ……とりあえず今は試合だ。私の世界の中心であるバレーでスパイカーとして、チームを勝利に導くのが私が今すべきこと。

 対戦相手と挨拶を済ませると、コート内で出場メンバー達と円陣を組んで、チームの指示塔セッターである先輩の掛け声に合わせて気合を入れる。
 そして所定のポジションに付くと、試合開始の笛が鳴り響いた。

 私は深呼吸をすると、バレーボールに集中したのだった。
 
■□■
 
 試合は英学院バレーチームの勝利に終わった。
 私はスパイカーとして攻撃アタックをしまくっていたが、新たな課題を見つけた。私のスパイクの威力の弱さだ。
 …自分がチームの足を引っ張っていた感が否めない。
 自分の不甲斐なさに自己嫌悪して、試合終了の挨拶をしたあと一人考え事をしていた。

「二階堂、ちょっと」
「はい」

 コートを出てトボトボ歩いていたらコーチに呼ばれた。そちらに近づくと、自分が考えていた課題について指摘されてしまった。

「お前はバレーボール選手としては身長が低い。だけど攻撃をしてやるというその気迫は誰にも負けてはいない。リベロとしても使えるが、折角だからお前のその意気込みを生かせるように、今話した修正点を自分でよく考えてみろ」
「はい…」

 やっぱり身長が低いと不利だよなぁ…わかっていたことだけども私は凹んだ。
 これじゃ春の高校バレーどころじゃない。レギュラーにすらなれない。きっとコーチは私の今の実力を試すために今回の招待試合に出場させてくれたのだ。
 …だけど今の私では全国の壁どころか、予選でチームメイトの足を引っ張る羽目になるからダメダメだろうな…。

 試合には勝ったけど、私の攻撃ボールは相手に拾われることが多く、得点をあまり稼げなかった。
 筋力か、それともやはり身長なのか…

「……スパイクをする時、身体が変な姿勢になっているのよ。だから決定的なアタックが出来ない…肩の力入れ過ぎなんじゃない?」
「え…」
「君、関係者以外は2階の観覧席に…」

 今まさに試合が行われていた試合会場。見学希望は2階の観覧席だけ入場可能であって、1階は立ち入り禁止のはずである。
 そこにいるはずのない人物の姿に私は限界まで目を見開いた。

 コーチに注意されているその人物はコーチの声が聞こえていないのか、私をじっとまっすぐ見つめてきていた。

「……依里」
「…もう試合終わったんですよね? ちょっとボールとコート貸してくれません?」
「えっ、ちょっ…」

 依里…私の親友だった少女は質問の形をとってはいたが返答を必要としないようで、バレーボールを積んであるカゴから1つボールを手に取ると空気の確認をして軽くドリブルした。

「え、あれ、強豪誠心校の制服じゃ…」
「エリカと知り合い…?」

 部員たちが依里を見てサワサワと騒ぎ始めたけども、依里はそんなのが聞こえてないとばかりに私に向かって「ほら、コートに入って」と促してくる。
 私は彼女の目的がよくわからずに言われるがままにコートに入っていく。依里は慣れた手付きで沢山バレーボールの入ったボールカゴを押していた。
 なんでボールカゴまるごと押して行ってんの? 依里さん、色々疑問があるんですけど…

 なんで依里がここにいるの? なんでコートに入るの? ボールで何すんの?

「じゃあトスあげるからスパイクして」
「えっなんで!?」
「始めるよ」

 私の質問は受け付けてくれないらしい。
 次から次にトスを上げてはスパイクしろと命じてくる。
 時に叱責、時に褒める言葉。アメとムチを使い分けて情け容赦無くトスを次から次にあげてくる依里。
 試合の後にこれはキツい。だけど依里は中断してくれなかった。


「そう! 今のフォームを忘れないで!」
「………」

 ゼェハァと荒く呼吸をしながら私は体育館の床に膝をついた。ようやく依里の納得できるスパイクが打てたらしい。
 フォーム…そうかフォーム…身長や腕力以前に姿勢が悪かったのか……

 私が必死に息を整えていると、何処からか別の人の声がした。

「…うぅん、今さっきのフォームの癖は何処かの選手と同じ癖を思い出すな……あぁそうだ、そこの彼女と同じ高校だった……実に惜しい選手をなくしてしまったね。インターハイでの彼女の活躍を密かに楽しみにしていたのだが」

 対戦校のおじいちゃん監督だ。若かりし頃に日本男子代表として出場したことのある人らしい。彼は私と依里をまじまじ見て残念そうな顔をしていた。

「……はい、私のチームメイトでした」
「名前は確か…」
「…松戸笑」

 依里が私の名前を呼んだ瞬間、ギクリとしてしまった。
 
「そうだそうだ。松戸笑さんだ」

 まさかこの場で私の名前が出てくるとは思わずに反応してしまったが、私は恐る恐る依里に視線を向けた。
 依里は私を見ていた。
 その目は潤んでいて、口はへの字になっている。

「…一緒に、オリンピックに出ようって約束してたのに」
「……」

 責められるような目を向けられて私は萎縮してしまった。
 それは、エリカちゃんを責めているのだろうか。いくらエリカちゃんは悪くないと言っても、理解してもらえないのだろうか……
 依里の目を真っ直ぐ見ることが出来ずに私は俯いてしまった。
 もうなんかそんな目で見られると辛い。

「ねぇ…私の電話番号は覚えているでしょ?」
「え、あ…うん……」

 依里の言葉に私はバッと顔を上げて、条件反射のように返事をした。
 私が以前松戸笑として使っていたスマートフォンは二階堂家にある。もう通信サービス利用はできないが、どうしても処分できなくて電話帳や写真などのデータはそのまま残してあるのだ。

「……夜に連絡して。絶対よ」
「へ……」

 そう言い残すと、依里は踵を返していった。

 残された私は体育館の床に座ったままポカーンとするしか出来なかった。
 部員にどういう知り合い? と聞かれたので、松戸笑のお盆の法事で知り合ったと誤魔化すしか出来なかった。

 

 …依里は何故、エリカちゃんの姿をした私に指導まがいのことをしてきたのだろうか。
 しかも電話って…それってさ。

「バレてるんじゃないか?」
「…やっぱり?」
「いいんじゃないか? 信用に値する相手なんだろ」
「そうだけど……」

 ちょっと混乱してしまった私は観戦していた慎悟をとっ捕まえて相談していた。

「状況はわからないけど、どうせあんたがボロだしたんだろ」
「ぐっ…否定できない……」
「1人で抱えても苦しいことがあるんだから、理解者がいたほうが気が楽じゃないか?」

 慎悟の言葉に私は頷けなかった。
 依里は私の親友だ。彼女は私の事をよく知っている。きっと話せば支えになってくれること間違いなしだ。
 だが…

「…半年前に私は死んだんだよ。なのに今はエリカちゃんの身体にいます、じゃあ次エリカちゃんに身体を返した後に今度こそ成仏したら…また依里を悲しませてしまうじゃない」

 真っ先に二階堂夫妻や自分の家族に正体を現した私が言うのはなんだが、その可能性を今更考えてしまったのだ。
 どっちにしろ二階堂夫妻には黙っててもバレている気もするけど……私が次こそこの世からオサラバする時に私はまた大切な人たちを悲しませてしまうことになるのだ。

 それを考えると、私の行動はまずかったんじゃないかと思うようになったのだ。

「……悲しいかどうか判断するのはあっちだし、あんたが今ここでどうこう考える必要はないんじゃないか?」
「…そうなんだけどさ」
「もう既にバレてしまったんだから、考え込んでも無駄だろ。ほら解決」

 解決してないよ。
 …慎悟は他人事だからかドライであった。
 だけど彼の言っていることは正しい。ドラ○もんがいたら依里の記憶からエリカちゃんが私だなんて事実をなかったコトにできるかもしれないが、ドラえ○んは21世紀の現代に存在しないのでどうしようもない。

「もうすぐ文化祭も終わるし、あんたもさっさと教室に戻れよ。片付けが終わったらすぐに後夜祭だから」

 渉もユキ兄ちゃんも帰ってしまったし、相談できるのは慎悟だけなのに冷たい男である。
 奴が体育館から遠ざかっていくのを見送りながら私は夕焼け空を見上げて、深い溜め息を吐いたのだった。
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