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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。
出たなリア充イベント。私には関係なくってよ!
しおりを挟む「え、後夜祭ってフォークダンスするの?」
「そうですわ。この後夜祭でカップルが成立することが多いんですの」
「へぇぇ…」
阿南さんの説明に私は遠い目をしていた。
フォークダンス…カップル成立…
ははは。私には縁のない話ですな。チクショー…
(私が)波乱だった2日間の文化祭は無事(?)幕を閉ざし、先程まで文化祭の出し物の人気投票が行われていた。ウチのクラスもランクインしていたが、優勝は3年生に持っていかれてしまった。
だけど準備をあまり頑張ってないせいか、そこまで悔しくないのがなんとなく虚しい。
それはそうと来場すると言っていた二階堂ママに今日会えなかったけど、本当に来たのだろうか。ユキ兄ちゃんと依里の登場で私自身余裕がなくて気が回らなかった。
二階堂ママは上杉の毒牙に引っかかってないだろうか…
「二階堂様、フォークダンスが始まりましたよ」
「私クタクタだからいいや。皆は行っておいで」
女の子たちはフォークダンスの輪に入って、意中の相手を目で追ったり、楽しそうに踊っていた。青春である。
私も中学の時に運動会でフォークダンス踊ったけど「男と踊ってるみたい」と男子に言われたことがあったので、フォークダンスには苦い思い出しかない。
…ぴかりんたら小池さんと踊って楽しそうにして…アオハルだなぁ……
ぼんやりとここで皆が青春しているのを見守っているのも暇だなしかし。
…依里に電話してみようか。
私用に与えられているスマホに依里の番号は登録してないけど、私が番号を記憶している。フォークダンスには興味もないし、そうしよう。
後夜祭中のグラウンドにはダンスの音楽が響き渡っていた。電話の邪魔になるであろうその音から遠ざかるために、皆がフォークダンスでキャッキャウフフしているグラウンドから少し離れた場所に移動すると、スマホの電源を入れて番号入力をした。そして通話ボタンを押そうとしたその時。
「二階堂さん」
「!」
背後から声を掛けられ、私はスマホを落としそうになった。
もうやめてよ。びっくりするじゃないの!
…またもや上杉は気配なく私の背後に迫っていたらしい。
「フォークダンス踊らないの?」
なんだ。私が踊っていないから探しに来たのか? 誘っても踊らないからな。
「…試合で疲れたからやめておく。私あぁいうダンスとか興味がないんだ」
「…そう」
私の返答に対して上杉はスゥ…ッと目を細めた。
それに私は嫌な予感がした。後ずさろうとしたが、その前に上杉が動いた。上杉は私のスマートフォンを持つ手を取るとニッコリと微笑んだのだ。
「…誰に電話かけるつもりだったの?」
「…誰って…友達だけど」
私は引き攣った顔をしていたと思う。だって目の前の上杉が異様な雰囲気を醸し出していたから。
…私だって電話くらいするさ。それの何処が悪いんだ。なんでそんな事を指摘されなきゃならないんだと思ってたら、目の前の上杉が一瞬で真顔になった。
「…友達? …今日抱き合ってた男じゃなくて?」
「……!?」
抱き合ってた…ってそれはもしかしてユキ兄ちゃんのことを言っているの? あれを見ていたの? ……思ったんだけど何処かで監視でもしているのかあんたは。
……上杉が手首を握ってくる力がどんどん強くなっている気がする。
「い、いたっ…」
「細い手首だね…これ折っちゃったら、二階堂さん二度とバレーできないかもしれないね?」
私は痛みを訴えたが、上杉はその様子を見て……ニッコリと微笑んだ。
……なんでこの人笑ってんの…?
恐怖を感じてブワッと全身の毛穴が開いた気がした。
「な、なにを…」
「骨折したら、リハビリしても後遺症が残る場合があるじゃない。バレーができなくなれば……そしたら以前の二階堂さんに戻るかな?」
「……!」
上杉に感じたのは得体の知れない恐怖である。今までにも恐怖を感じていたが、今までになく底知れない何かを感じた。
……上杉はきっと本物のエリカちゃんを好んでいるのだな。そんな口振りだ。
「離してよ…!」
「どうして二階堂さんは変わっちゃったのかな? …代わりに死んだ女子高生の影響かな? ……腹が立つなぁ。二階堂さんの中で大きな存在になってるその女…」
…それは私のことかー!
残念だったな。あんたの目の前にその女子高生がいるんだよ。あんたの大好きなエリカちゃんの中にいるのが私なんだよ!
私は身を捩って抵抗したが、振り払おうにも上杉の手は離れない。怖いこと言ってくるしもう嫌なんだけど。
何こいつサイコパス? ソシオパス?
「ねぇ二階堂さん、僕のものになれば幸せにしてあげるよ?」
恐怖に震えていた私だったが、その言葉に一瞬で頭が冷静になった。
はぁ? 僕のものぉ? ……随分ナメた口聞くじゃないの。
エリカちゃんに対して言っている発言だとわかっているのだが、私は半年エリカちゃんとして生活してきた。だから自分のことのように腹が立っていた。
本当は、傷害罪になるというのは知っている。
だが、緊急事態だ。エリカちゃんごめんよ。
…私は自由に動く利き足を前に振り上げた。
「ぐぅっ!?」
「ふざけんなバーカバーカ!」
「………っ!?」
狙いを定めて奴の体の中心を思いっきり蹴り上げてみせると、上杉の手は途端に力を失った。私は奴の拘束から容易く抜け出すことが出来た。
攻撃を受けた奴はヘナヘナと地面にうずくまっていた。うめき声が聞こえた気がするけど、それを耳にしても全く罪悪感を感じなかった。
このチャンスを逃してはならない。私は逃げる!
禁じ手を使った私はダッシュでグラウンドに戻った。人気のない場所にいたらあいつは追いかけてくる…きっと!
エリカちゃんが汚されるよりも、前科が出来たほうがマシだわ!
大丈夫! 過剰防衛で済むはず!
「あら、二階堂様もフォークダンスに参加されたのですね。ですが、二階堂様…そちらは男性パート…」
「いいの。私女の子と踊りたいから」
私はエリカちゃんの身を守るために興味ないフォークダンスの輪に混じった。ただし男子パートで。
周りから異様な目で見られるが気にしない。エリカちゃんの貞操を守るためだもの。私耐えるよ。
生徒会副会長の寛永さんに捕まって注意されたが、「私は女子と踊りたいです」と反論すると変な顔された。
だって女子パートで踊ったら、いつ上杉が現れるかわかんないじゃん!
早く後夜祭終われ。終わっちまえ。
青春を楽しんでいる生徒達には悪いが、私は一刻も早くセキュリティ万全の二階堂家に帰りたくて仕方がなかった。
■□■
あの後上杉の家から苦情の連絡が来たりしないかなとドキドキしていたが、来なかった。もしかしたら翌日の日曜日に連絡があるかも知れないけど…
そう言えば二階堂ママのことだが、私のシフトとタイミングがずれる形で文化祭に訪れたらしい。ちょうど私がバレーの試合していて、教室に不在だった時間に来たみたい。
上杉のクラスに行ってみたが、奴がクラスに居なかったらしく、結局会うことができなかったって。
それよりもだ、私はつい先程恐怖体験をしたのだ。恐ろしくて思い出すだけで鳥肌が立つよ!
二階堂ママに後夜祭での出来事を相談していたらいつの間にか夜が更けてしまい、私は翌日起きた時にハッとした。
……依里に電話するの忘れてた……
『…電話してくるのが遅いんですけど』
「ごめん! 緊急事態があってエリカちゃんのお母さんと昨晩遅くまで話し合いしてたから忘れてた!」
『……色々聞きたいことあるんだけど1から質問していってもいい?』
「はいっどうぞ!」
朝起きて大事なことを思い出した私は慌てて依里に電話を掛けた。相手方は知らない番号からの電話だろうに受話して開口一番『遅い…』とドスの利いた声を出してきた。
ごめんて。こっちも色々あったんだって。
私はパジャマ姿のまま、依里から聞かれた質問に一から答えていった。
『…ホント、正義感も大概にしなさいよね』
「う…うん…ごめんよ」
『ほんっと…馬鹿。こっちがどれだけ…』
「うん…」
ぐす、と依里が鼻をすする音が聞こえた。
私のやったことは確かに無謀で、決して褒められることではない。…でも放って置けなかったんだ。
あの時、私が動かなかったらエリカちゃんが殺されていたに違いない。何が正解で、何がベストだったのかそんな事考えても答えは出ない。
『…でもさぁあんたが入ってる身体の持ち主は何処行ったの?』
「…それがねぇ、あの世の入口で妨害されたんだよ。怪我していないエリカちゃんがあそこにいたのも疑問だし…この体の中でエリカちゃんの意識が眠っているのか、それとも……私の代わりに逝ってしまったのか…何もわからない」
『私もそういう霊的なこと詳しくないしなぁ…』
私もオカルトには興味ないタイプだったしよくわからない。霊感のある人に会えばなにか見つかるだろうか。
『…ねぇ笑』
「なに?」
『……私達はもう一緒に戦えないかも知れないけど…でも、バレーの試合で対戦相手として戦えたら良いね』
「……うん。そうだね」
どんなに頑張ってもこの身長ではきっとプロのスパイカーは目指せない。
それ以前にエリカちゃんの体を使ってそこまで出来ない。だって私が消えるのは明日かもしれないし、10年後かもしれない。
だからオリンピック選手になろうという依里との約束は果たせない。
「…依里は、夢を叶えてね。応援してるから」
『……うん』
自分で選んだ選択だったのに、私は後悔してしまっている。
でもあの場でエリカちゃんを見殺しにしていても私はきっと後悔していたに違いない。
どの選択をすれば私は後悔せずにすんだのだろうか?
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