お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

文字の大きさ
49 / 328
さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

クリスマスパーティ? ごめん私仏教式で葬式挙げたんだ…

しおりを挟む

 走っても、走っても、あいつは私を追いかけてくる。
 今日もあいつは私を殺そうと楽しそうに笑いながら追いかけてくる。

「──!!」

 叫んでも声が出ない。
 助けてほしいのに誰も助けてくれない。

 最後はいつも決まって、私は殺されるのだ。


■□■

「…クリスマスパーティ?」

 【クリスマスパーティのお知らせ】と書かれた掲示物を見上げて、私はポツリと呟いた。
 なんだ、皆でプレゼント交換とかしちゃうのか。チキンとかケーキとか食べちゃうのか。はたまたミサとかやっちゃうのか。賛美歌でも歌うのか。
 でもこの学校、別にキリスト教の学校じゃないよね。

「ダンスタイムもございますから、パートナーを見つけておかなければなりませんわね」

 阿南さんにそう声を掛けられて私はふーん、と気のない返事をした。
 英学院では中・高・大それぞれでクリスマスパーティが行われるそうだ。ダンスタイムって…いきなり西洋っぽいな。ていうかモテない男女にとってダンスって罰ゲームじゃない? やだわぁ。
 だってダンスってヒップホップダンスとかじゃなくて、社交ダンス的なやつでしょう? なにその気取った感じ。あ、セレブ校だからなの?

「二階堂様がお困りでしたら、私の従兄をパートナーとしてご紹介いたしますけど…」
「あ…いや大丈夫。私…この日学校休むんだ」
「え…?」
「…授業遅れるからもう行こう」

 阿南さんの気遣いは嬉しいが、紹介されても私はその日参加できないんだ。パーティがクリスマス当日とかならいいけど、これ、12月22日の金曜日じゃないの。
 …私はそれどころじゃないんだ。

 初公判の日が近づくにつれて、悪夢を見る回数が増えた。それは私の…いや、エリカちゃんの体が憶えている記憶なのかもしれない。

 私を刺殺した犯人が、楽しげにナイフを振り下ろす姿が目に焼き付いていて……夢の中でも私を殺そうと追いかけてくるのだ。夢だってわかってる。だけど私は夢の中でもあいつから逃げて逃げて藻掻き苦しんでいた。
 いつも決まって、ナイフを振り下ろされた瞬間に目が覚めて、二階堂家のエリカちゃんの部屋の天井が目に映る。

 目覚めた私は酷い汗をかいていて、ここが現実だと、あいつはいないのだと安心する。だけど…私が死んでしまった事実を思い出しては苦しくなるのだ。
 何度葛藤しても、どんなに痛いほど理解していても、私がこの世からいなくなってしまった事は変わらない事実。
 なのになぜ私はここにいて、エリカちゃんの身体で二階堂エリカとして生きているのかと自問自答する。
 これはエリカちゃんが身体を引き渡したからだというのはわかっている。でもそう簡単に整理できないのだ。頭の中で色んな事がごちゃまぜになってそれを処理しきれないのだ。

 私はこの葛藤を誰にも吐き出せずにいた。ひとり抱え込んで、人知れず苦しんでいた。
 だって吐き出してどうなる? 相手には理解できないし、困るだけじゃないか。同情の眼差しを向けられるだけ。…それで私が楽になれるはずがない。
 考えても考えても私の心はスッキリしない。

 連日の悪夢と葛藤を抱え込んで、私は慢性的な睡眠不足に陥っていた。
 あーねむい。さっきの授業中もついウトウトしてしまって、ノートが大変なことになっていたし。

「二階堂さぁーん! ねぇねぇクリスマスパーティのドレスの色、わたしとおそろいにしなーい?」
 
 私があくびを噛み殺しながら廊下を歩いていると、キャッキャッキャと楽しそうに声を掛けてきたのは瑞沢姫乃だ。たまに遭遇すると私のことをまるで心の友のような目で見てくる。
 …この人綺麗サッパリ忘れてやがるな、エリカちゃんの恋敵だってこと。私は瑞沢姫乃に対していつも雑な応対しかしてないのに、彼女はそれに気づいていないらしい。
 
 …瑞沢嬢の高い声は睡眠不足の私にはちょっときつい。ズキッと頭が痛くなった気がした。いや、目の奥が痛いのかな…?

「…着ないから無理」
「えぇー!? あっもしかして、倫也君とペア組めないから?」

 なんでやねん。宝生氏に頼まれてもペア組まないから。お断りだ。

「…違うよ。参加できないの」
「なんでぇ?」
「……初公判があるの。女子高生とサラリーマンが殺害された事件の…目撃者だから」

 本当は被害者本人なんですけどね。
 あまり噂になりたくないから、敢えて口にしなかったけど、瑞沢嬢しつこいし、ハッキリ言ったら静かになると思って言ってやった。
 どうせこの人にとっては他人事だろう。会った事もない松戸笑わたしの事件とか過去の話だろうし、どうでもいい話だろう。言ってもそんなに関心もないだろうと思っていた。
 少し苛ついた様に私が言うと、瑞沢嬢はその瞳を大きく見開いた。猫のようにパッチリしたその瞳が悲しげに歪み、そしてしょぼんと項垂れた。長く伸ばしている前髪で彼女の目は隠れてしまった。

「…瑞沢さん?」
「…ごめんなさい、ヒメ無神経だった」
「え? …いや、皆知らないことだし、別に…」
「二階堂さんも辛い目にあったのに……ヒメ浮かれてた…」

 ……こういう反応が帰ってくるとは思わなかった。この人相手の身になって考えること出来るんだ…
 ていうか赤の他人の事件の件で無神経だったと凹めるくせに、婚約者奪取したことに関して申し訳なく感じていないように見えるのは何でだ? 人の生死に関わることだから重く受け止めるの?

「……えーと、まぁそんな訳だから」
「あっそうだ、ヒメがパーティの写真送ってあげる!」
「いやいいよ要らない」
「なんで? 倫也君の写真送るよ?」
「心底要らない」

 私が宝生氏の写真で喜ぶ人間だと思ったら大違いだよ。要らんわ。
 あの日以降、瑞沢姫乃の周りは静かになったらしい。相変わらず逆ハーレムを築いてイケメンセレブ男子3人を侍らしていて、周りに睨まれているようだが……彼らはそれでも幸せらしい。
 宝生氏は瑞沢嬢に本当に夢中なんだな。…今は良くても将来的にどうするか考えているのだろうか? 3人の共有彼女にでもなるのか瑞沢嬢は。日本では重婚できませんけど。

「じゃあご馳走の写真でも撮影して見せて。じゃあね」

 そう言い捨てると私は歩き始めた。
 わかったー! と後ろから瑞沢嬢の元気な返事が帰ってきたが私は振り返らなかった。

「二階堂様…」
「てなわけだから。でもあまり知られたくないから内緒にしててね」

 話の流れで一緒にいた阿南さんにも裁判のことを知られてしまった。
 阿南さんが気遣わしげにこちらを見てくるが、そういう目で見るのはちょっと止めてほしいな。だから言いたくなかったのに。

 彼女の視線から逃れるように目を逸らすと、逸らしたその先に慎悟の姿があった。
 奴はいつもの加納ガールズじゃない女子と何やら話しており、私は「おや珍しい」と眉を上にひょこっと上げた。

「ふん、一般生風情が…慎悟様がお優しいからって調子に乗って」
「気に入りませんわね」
「身の程知らずね」

 加納ガールズが不機嫌そうに慎悟と楽しげに会話する女子を睨みつけていた。相手は一般生らしい。ふーん。結構可愛い子じゃないの。慎悟ってモテるよね。女子に優しいわけでもないのに。
 さては顔か? 家柄か? 成績か? 天は慎悟に二物も三物も与えてしまったのだな。

「あらそこにいるのは二階堂さんではありませんこと?」
「はいはいゴキゲンヨウ」

 巻き毛が私の存在に気がついて、いつものように高圧的に声を掛けてきたのだが…急にハッとした顔をして来た。 

「まさかあなた! 慎悟様のパートナーになろうだなんて思ってないでしょうね!」
「……ごめん、なんで急にそこに辿り着いた?」

 私そんな話振ってないよ。通り過ぎただけじゃないの。突拍子もないな。
 パートナーとか…私がダンスしてはしゃぐように見えるのか? そういうリア充なイベントは馴染みがないから例え用事がなくても、パートナーとか作らんわ。

「私が慎悟様のパートナーになると決めてますの! 邪魔はさせませんわ!」
「いいえ私よ!」
「パートナーになれなくても、ダンスタイムに踊ってもらうと決めてますの」
「へぇ、そうなん…まぁ頑張れ、あと私は不参加だから心配しないで」

 それじゃと手を振って彼女たちから離れた。
 彼女たちは「え?」と三人三様の反応をして固まっていた。
 私は再びあくびを噛み殺した。


 初公判の日が怖い。ここ最近そのことで頭がいっぱいだった。
 しかし私は向き合わなければならないのだ。
 …だけど、エリカちゃんとして証言するというのがどうにも……私が殺されたのに、目撃者として証言するというのは‥…嘘をついているようで……
 複雑な思いが残ったまま、初公判の日は刻一刻と近づいていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

処理中です...