お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

兎追いし、ゴリラ反抗し。

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 うさぎ…かーわーいーい。
 たれ耳だし、ロップイヤーっていう種類かな? 膝の上に乗せている焦げ茶と白のミックスのうさぎは大人しくて人懐っこい。
 私は現在ふれあいパークでうさぎと戯れていた。…ゴリラとは大違いだ。この子は汚物投げつけたりしないもんね。…食べる習性はあるけど。
 うさぎの他にもモルモットとかフェレット、その他様々な小動物と触れ合うことが出来る。動物園は植物園よりも家族連れが多く、子どもが小動物と触れ合っているのを親が微笑ましく見守っている姿があちこちで見られた。植物園は興味がない子供にとっては退屈だもんね。そうなると自然と動物園に家族連れが集まってしまうか。

 私は植物園でどう気配を消すかに専念していて、その度に慎悟とかくれんぼをしていただけのような気がする。植物園で見た植物はウツボカズラとエリカの花しか覚えていない。折角久々に来たのに勿体無いことをしてしまった。私は何しにここへやって来たのであろうか。

 トクトクトクトク…
 小動物って心臓の鼓動が早いんだなぁ。抱っこしていると心臓の早さが伝わってくる。鼻を頻りにヒクヒクと動かしている仕草も可愛いし、この丸いフォルムも可愛い。
 癒やされるなぁ。うさぎを撫でていたら実家犬のペロに会いたくなってきた。うさぎも可愛いけど、ペロには敵わない。うちのペロの色味がこのうさぎに似てるんだ。だからこの子を捕まえて愛でていた。
 近いうちに実家に帰ろうと考えていると、膝の上でうさぎがピクリと反応した。それと同時に、目の前に人が立った気配がしたので顔を上げると…。

 息を切らせた慎悟が私を見下ろしていた。…どうしてここにいるんだろうか。

「…どうしたのそんなに息を切らせて」
「…捜した」
「……えっ、私、別行動って」
「馬鹿かあんたは。連絡先も交換していないのに別行動とか…あんた何のために俺を誘ったんだよ」

 まぁ確かに誘っておいて別行動って普通に考えたらおかしいけど……ねぇ?

「空気読んでふたりきりにしてあげたんだよ」
「はぁ?」
「慎悟と丸山さんいい雰囲気じゃない。丸山さん性格いいしさ、良いと思うんだけどな」

 慎悟なら丸山さんの好意には気づいているはずだ。エリカちゃんの中にいる私に気づいたくらいなのだから、慎悟は鈍い男ではないだろう。…でも加納ガールズで免疫がついているからか、あまり浮かれてはいないけど。
 私の言葉を受けて、慎悟は苛ついたように顔をしかめていた。あらら眉間にシワが寄っちゃって…でもそんな顔しても慎悟の中性的な美貌は損なわれていない。むしろ凄みが増している…

「…そういうの余計なお世話っていうんだけど?」
「だって丸山さんの応援したかったんだもん」
「あんたがしゃしゃり出るようなことじゃないだろ。…俺の気持ちも考えないでお節介するなよ…迷惑だ」

 迷惑…そうだったのか。
 慎悟はお膳立てされるのは嫌いみたいだ。こんなにイライラしている様子を…最近よく見てるかもしれない。だいたい私が苛つかせている気がするわ。ごめん。本当にごめん。
 2人とも本当にいい子だし、2人が仲良くなるといいなと思ったけど、慎悟にその気がなかったのなら私のしていることは単なる自己満足。…慎悟にとって迷惑な行為だったのかもしれない。
 自分勝手だったかも…うわぁ、なんでそこに考えつかなかったんだろ… 
 ていうか……今思い出したけど、慎悟はエリカちゃんのことが好きなんだったわ。いちばん大事なことを忘れてしまっていた。エリカちゃん(の姿した私)から、他の女の子を充てがわれるって…なんて残酷なことをしたんだ…私のバカ! 
 全身から血の気が引いた気がした。

「…ごめん……」

 彼に謝罪すると、慎悟の手がこちらへと伸びてきた。膝の上に乗っけていたうさぎが慎悟によって抱き上げられると、地上に降ろされた。地面に降り立ったロップイヤーはすぐさま何処かへとピョコピョコ飛び跳ねて行ってしまった。
 あぁ、うさぎ…さよならなのに素っ気ないのねあんた…少しくらい名残惜しげにしてくれてもいいじゃない。

「……丸山さんを待たせているから行くぞ」
「う、うん…」

 慎悟に手を差し伸べられたので、その手を取って立ち上がると、ふれあいパークを後にする。丸山さんは何処で待っているのだろうか。植物園のレストランかな? 彼女にも謝らなきゃ。結局彼女を1人にさせてしまったのだ。本当に申し訳ない…


「慎悟様、二階堂様を見つけられたのですね」
「丸山さん、何故…」
「遅いので私も捜していたのです」

 ふれあいパークからしばらく歩いたところで、私と慎悟は丸山さんと合流した。…丸山さんにも探させてしまっていたのか私は…
 私は自己嫌悪に陥った。なーにしてんだ自分は…情けないったらありゃしない…

「丸山さん…ごめん…」
「……いえ、私も学びましたので」
「え?」

 学んだ? 私は頼りにならないって事を?
 彼女は怒ってはいなかった。いや内心では腹を立てているのかもしれないが、表面上では穏やかな様子で。
 だけど彼女の目は違った。

「…二階堂様、私、諦めませんわ」
「…なにを?」
「それに、人に頼ってばかりではいけませんね。私も反省します。私こそごめんなさい」
「なにが!?」

 丸山さんは1人で納得して1人で反省していた。主語を入れてくれよ。しかもなんだか戦いを挑む様な目を向けられている気がしてならない。まるでバレーの試合で見た依里の好戦的な目と同じのような…いやちょっと違うかな?

「疲れましたので休憩いたしましょう。…二階堂様、もう大丈夫ですから。私、自分から正々堂々といきますので、お気遣いいただかなくても結構です」
「あ…そう?」

 私は2人に包囲される形で、動物園内の喫茶店に向かうと、そこでお茶をした。
 そこにたどり着くまで、もう逃げることは許さない的な感じで2人から腕をしっかり掴まれていた。気分はまるで囚人である。慎悟に至ってはしばらく機嫌が悪いままだった。慎悟は私を捜索するために昼食をとっていなかったようで、サンドイッチセットを頼んでいた。ますます悪いことをしたなと感じた私は、ご機嫌伺いでセットで頼んだ自分のケーキを慎悟にあげようとしたけど…要らないと拒否られてしまった。
 さくらんぼのタルトはお気に召さなかっただろうか。甘酸っぱくて美味しいのに。美味しいのになーと見せびらかしながら食べてみたけど、慎悟は食べたがらなかった。

 そのあと仕切り直しで動物園を3人で見て回ったが、またゴリラに汚物を投げつけられた。投げたゴリラは心なしかスッキリした顔をしている。

「またか貴様!」
「二階堂様、またとは?」
「1人で来たときにあのゴリラに同じことされたの」
「あんたが何かしたんじゃないのか」
「してないよ!」

 なんなのゴリラ。人間なら誰に対しても投げつけてくるわけ? それとも私がいるから投げてくるの? 猿は猿でもニホンザルとかは大人しかったのに…ここのゴリラ反抗的過ぎる。
 時間が合わなかったのでチャレンジできなかったけど、ここでは動物への餌やりを有料ですることが出来たようだ。一度象に餌をあげてみたいんだよね。ついでに背中に乗りたい。でも万が一のことがあるかもしれないから止めといたほうが無難だな。絶対に安全というわけじゃないし。
 私は動物園2週目だけど、慎悟と丸山さんはそうではないので、時間の許す限り見て廻った。キリンを眺めていた2人の写真を抜き打ち撮影したら、慎悟にじろりと睨まれた。
 大丈夫だよ、変な顔してなかった。ちゃんとイケメンだったから。丸山さんのスマホに写真を転送してあげたら喜んでた。
 慎悟もさ、そんな睨んでないで写真くらいは記念で撮らせてよ。

 お土産売り場でも慎悟が目を光らせて私を監視していた。もうかくれんぼしないから大丈夫なのに。
 その視線にさらされた私は、家族や友達のために買った動物クッキーを慎悟に奪われて、全て食べられてしまいそうな恐怖を感じた。なので、先程動物園限定カプセル販売機でGETしてしまったゴリラのモチーフの付いたマグネットをあげた。これで我慢してくれ。
 本当は象が欲しかったのに、宿敵ゴリラが出てきたんだ。慎悟は手渡したそれをじっと見ていたので、気に入ったようだ。ていうか返却不可だよ。

 
 その日の帰り、疲れてしまったらしい丸山さんが電車内ですやすやと居眠りをしていた。これ私が疲れさせてしまったんだよな…と反省して静かに過ごしていた。
 すると前に座っている慎悟から「連絡先がわからないと不便だから交換をしよう」と言われた。
 私は別に不便じゃないけどと返したら、「こっちがどれだけ捜したか分かっているのかあんたは」と凄まれたので、大人しく電話番号とアドレスを教えた。
 もう煩わせることはないと思うんですけどね…

 思ったんだけどこれ、巻き毛達にバレたら…私リンチされちゃうんじゃないの?
 慎悟に加納ガールズに交換したことを口外しないでくれってお願いしたけど、大丈夫かな。

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