80 / 328
さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。
挙動不審な彼女【加納慎悟視点】
しおりを挟む「なんなんだあの人は…」
今日一日様子がおかしかったけど、笑さんはまた変な事を言ってこの場から走って逃げて行った。外で食べようが室内で食べようがホットドッグは一緒だろうに。
『丸山さんに招待券を貰ったから一緒に行かない?』と誘われた時も不思議に思ったけど…あの人は一体何を考えているんだ?
「…慎悟様、二階堂様もああ言っていますし、私達も食事をいたしましょ?」
丸山さんにそう声を掛けられたが、俺は落ち着いて食事するような気分じゃなかった。
あの人はエリカとは別の意味で放って置けない。エリカよりはしっかりした人だけど、時折短気を起こす事があるから目を離せないというか…
「…丸山さん、ちょっとここで待っていてくれないか。あの人を探してくる」
「えっ…」
「後で必ず迎えに行くから。食事も先にしてくれて構わない」
「あっ! …慎悟様!」
エリカの体なのに、あの人が入ってからは全く別人の体のようだ。比べ物にならないくらい足が速い。膝を怪我して弱っていたくせに、あんなに走って大丈夫なのかあの人は。
「マジ! すげー可愛い子だったの! 探してんだけど見つかんねーんだよ」
「お前らの下心にビビって逃げられたんだろ」
「いやいや俺は紳士的に声掛けたし!」
笑さんが食べたいと行っていたホットドッグが販売している売店付近を探していると、ある男達が友人らしき男に興奮した様子で話しているのが聞こえてきた。
「白いワンピースでさ、可憐そうな美少女! 髪はお下げにしててさぁ…めっちゃ可愛かったぜ!」
「でもすげぇ足が速くてさ、追いつけなかった」
「嫌がられてんじゃねーか」
中の人が可憐かどうかはわからないが、特徴は一致している。今日の彼女は白いワンピースを着用、髪は二つ結びにしていたから。
やっぱり。
目を離したらこんなことが起きそうだったからはぐれないように注意したというのに……連絡先を交換していないのも仇になった。
…となると、この男から逃れるために遠くへ逃走したと考えられる……俺は一瞬迷子センターに呼び出しをお願いしようかと思ったが、一先ず先に自分で探して見つからなかったら、それに頼ろうと決めた。
その後、植物園をざっくり捜索して見つからなかったので、隣の動物園に足を踏み入れた。
…本当にあの人は手がかかる。勝手にどっかに行って、こっちが心配していることに全く気づいていない。
「あの子かわいいな」
「1人か? お前声かけてみろよ」
動物園内を探して探して…こんなに走ったのは久々かもしれない。
ふれあいパークという、小動物と触れ合えるイベントブースでようやく彼女を見つけた。あの人はうさぎを膝に乗せてのんびり和んでいた。
同年代~少し年の離れた男たちから注目を浴びているのに気づかないのは、ただ単に鈍いのか、見られることに慣れているからか……
…どちらか悩む所だが、彼女は今にも男に声を掛けられそうになっていた。それを妨害するようにして間に割って入ると、その男たちに一瞥をくれてやる。
「んだよ…男連れかよ…」
男たちが悪態をついて諦めて散っていくのを見送って、彼女に目を向ける。しかし笑さんは俺がいることに気づいていないらしい。未だうさぎを撫でてぼんやりしている。
こっちが必死になって捜していたというのに随分呑気な。
笑さんの前に立ちはだかると、彼女よりも先に、彼女の膝の上にいるうさぎが反応した。それにつられて顔を上げた笑さんの表情はマヌケなものだった。…エリカが絶対にしない表情だ。
…どう見ても顔はエリカなのに、やっぱり別の人間に見える。
…何故皆これに気づかないのだろうか?
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
敵国に嫁いだ姫騎士は王弟の愛に溶かされる
今泉 香耶
恋愛
王女エレインは隣国との戦争の最前線にいた。彼女は千人に1人が得られる「天恵」である「ガーディアン」の能力を持っていたが、戦況は劣勢。ところが、突然の休戦条約の条件により、敵国の国王の側室に望まれる。
敵国で彼女を出迎えたのは、マリエン王国王弟のアルフォンス。彼は前線で何度か彼女と戦った勇士。アルフォンスの紳士的な対応にほっとするエレインだったが、彼の兄である国王はそうではなかった。
エレインは王城に到着するとほどなく敵国の臣下たちの前で、国王に「ドレスを脱げ」と下卑たことを強要される。そんなエレインを庇おうとするアルフォンス。互いに気になっていた2人だが、王族をめぐるごたごたの末、結婚をすることになってしまい……。
敵国にたった一人で嫁ぎ、奇異の目で見られるエレインと、そんな彼女を男らしく守ろうとするアルフォンスの恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる