お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

荒野に咲くエリカ

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「見て下さい、慎悟様、二階堂様。世界で醜い植物5位ですって」

 はじめは植物園に入ったのだけど、電車でもテンションが高かった丸山さんは更にはしゃいでいた。
 うんうん楽しいなら良かったよ。

 今日は休日の為か、植物園には沢山の来園客がいた。だが子供の姿はそう多くなく、年齢層が高い気がする。あれかな。大人が多いのは、社会に揉まれて荒んだ心を植物を見て癒やしたい的な。植物見ると落ち着くよね。

 私はササッと首を動かし、影になれる部分を探していた。駄目だな。ここ温室だから暑すぎるし、この周辺はサボテンとか食虫植物ばかりあって危険だわ。
 丸山さんが指したのはパキポディウムっていう多肉植物。…醜いとは言うけど…私はウツボカズラという食虫植物のほうが怖いな。…ウツボカズラの中身覗いたら、虫みたいのが溶けかかっていた。見なきゃよかった。
 二人がサボテン鑑賞している間、私は少し離れてウツボカズラを撮影していた。こうして少しずつ距離を置いて、いつの間に消えたのがわからないようにするのが私の作戦だ。 
 2人から距離を置いてゆっくり離れていったのだけど、何度か慎悟に発見されてしまって作戦は上手く行かなかった。

「はぐれるな。探すのが大変だろうが」
「私の背後に立つな!」

 温室の奥に進んでいくと、ジャングルみたいに木々が生い茂っていたので、それに隠れて行動していたのに、見つけ出すんだよあいつ…私の背後から声を掛けてくるんだよあいつ…
 子供じゃないんだから放っておいて大丈夫だよって言ったら「あんたは何するかわからないから」と返された私は…年上の矜持が傷ついた。前言撤回して。

 温室の裏手にはヒースガーデンという針葉樹に囲まれた花畑があって、そこはひんやりとして涼しかった。ここでは隠れられないな…と判断した私は雲隠れを断念し、2人の後ろを黙ってついていっていた。
 花壇にはピンクや白の花が咲いている。花に詳しくないので、何の花かはわからなかったが、筒状の小さい花がいっぱい咲いてて綺麗だなと思った。

「エリカの花ですね。二階堂様と同じお名前の花です」
「…へぇ、これエリカっていうんだ」

 エリカという花があることを初めて知った。これがエリカちゃんの名前の由来なのかは知らないけど。
 まじまじと花を観察していると、足元にプレートがあって、そこには花の説明が書かれていた。

「えーと…なになに? ツツジ科の花。別名Heathヒース…荒地? …花言葉は『孤独』『寂しさ』……」

 なんという…あくまで花言葉だけどさ。ちょっと複雑な気分になるよね…なんでそんな寂しげな花言葉なのよ…
 私が引き攣った顔をしていたのが分かったのか、丸山さんが慌ててフォローした。

「二階堂様、白色のエリカは『幸せな愛』、ジャノメエリカには『幸運』という花言葉があるのですよ」
「あっ…そうなんだ…」
「それに外国の男性名のエリックを女性形にした名前がエリカというのですが、由来には『大勝利者』という強い意味を持つのです!」
「あ、うん」

 丸山さん大丈夫、そこまで落ち込んでいないから。そもそも自分の名前じゃないし。慎悟は何も言わずに私達のやり取りを眺めているが、同じことを考えている気がする。

「荒野に咲くエリカはとても強いのです! なにもない荒地に咲くのですから、孤独に打ち勝つ強さを併せ持つのですよ!」
「あ、ありがと…」

 エリカちゃん、すごい良い話されたよ。エリカちゃんの名前にはすごいパワーがあるっぽいよ。良かったね。
 丸山さんいい子だな。必死にフォローしてくれてる。博識だし、上品で女の子らしくてその上優しい。すごく好感度上がったわ。
 ますますこの子の恋を応援してあげたくなったよ。

「そうだわ、おふたりともお腹空いていませんか?」

 丸山さんにいい話をされていて時間を忘れていたが、もうお昼になっていたらしい。丸山さんが私達に問いかけてきたことで、その事を知った。時間が経つのが早い。

「そろそろ昼食にするか…この先にレストランがあったはず」

 慎悟に昼食をとろうと提案されたので、私は2人に黙ってついて行った。だがこの時点で私は目論んでいた。2人きりにさせるチャンスだと。次こそ完遂してみせる…!
 私はレストランに入店したタイミングで大げさに声を上げた。

「あぁ! 私急に売店のホットドッグが食べたくなってきたなぁ!」
「はぁ? ホットドッグならここにも」
「外で食べる醍醐味があるの。ここから別行動ね! 2人はレストランでゆっくり食べて! じゃ、また後でね!」

 我ながら下手くそな演技だったと思う。丸山さんに目で頑張れ! と合図したけど伝わっただろうか。
 急に別行動を宣言されてぽかんとした2人をその場に残して、私はダッシュでその場から離れた。誰も追ってこないな。
 よしよし、これで2人きりの時間が生まれたろう。
 私は好きな人に失恋したけど、丸山さんはうまくいくと良い。自分が駄目だったから余計に彼女の恋を応援したいのだ。こういうの自己投影っていうのかな?
 でもまぁそんな事はどうでもいいや。
 色々お世話になった慎悟には幸せになってほしいのよ。丸山さんみたいな子、めっちゃいいと思うんだよね~。

 私はそのまま売店に向かって、宣言通りホットドッグセットを購入すると、近くのベンチで食べることにした。何の変哲もないホットドッグだけど、こういう所で食べるのって美味しそうに見えるよね。
 ちょうど時期は梅雨で、空は曇り空。降水確率はそう高くないから大丈夫だと思う。でも折角なら青空の下で食べたかったなぁ。

「ねぇねぇ君1人?」
「可愛いねー」
「ん?」

 ホットドッグに齧り付いたその時、私に声を掛けてきた男がいた。知らない人だ。年は20代半ばくらいかな? その辺にいそうな普通の人だけど、ちょっと軽そう。…ナンパスポットじゃないんだぞここは。
 こっちは食事しているのが見えないのか。邪魔になっているとわからないか? エリカちゃんが可愛いから声を掛けたのだろうが、中身は私だ。残念だったな!

「連れがいますので」
「えーでも1人じゃ~ん」
「失礼します」

 もう、ご飯食べようと思ったのに! 
 私は食べるのを中断して、ホットドッグを箱にしまうと、ベンチから立ち上がった。こういう輩は相手しない。ダッシュで逃げる!
 とりあえずその場から離れたほうが良いと判断した私はナンパ男を撒いて、隣接している動物園に逃げ込んだ。丸山さんから動植物園両方の招待券貰っていたから、それを提示して動物園に入場すると、後ろを確認して誰も来ていないことにホッとする。

 …慎悟たちに何も言わずに来ちゃったけど、理由話したら許してくれるよね?
 2人の連絡先知らないからなぁ。特に連絡することないから、あえて聞かなかったし。とりあえず先にご飯食べてしまおう。ホットドッグは少し冷めてしまったけど、美味しかったです。


 食事を済ませた私は、動物園をぐるりと廻っていた。……動物達は寝てるか、食事してるわ…まぁそうだよね普通。サービス精神旺盛な動物なんて…
 ゴリラの檻の前に行くとなんか投げつけられた。距離があるからこっちには届かないけどさ、汚物を投げるのやめようかゴリラ。私が何したっていうのよ。見られるのが嫌だったの? うっぷんを晴らしたかったの? まさか動物園でこんな洗礼を受けるなんて…。
 複雑な気分に陥りながら、園内を廻っていると【ふれあいパーク】と書かれた看板を見つけた。どうやら小動物たちと触れ合えるブースがあるらしい。
 ゴリラに汚物を投げつけられて荒んだ心を癒やすために、私はフラフラとそこに入っていった。

 ふれあいパークには様々な小動物たちが人間を癒やしていた。私は小動物をじっくり観察し、目についたうさぎに手を伸ばした。焦げ茶と白のミックスのうさぎは私に抱き上げられてダルンとしていた。暴れることなく、鼻をヒクヒクさせている。大人しそうだし、セラピー役はこの子にしよう。
 その子を膝に乗せて愛でていると、ゴリラにされた無礼を忘れられた気がする。

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