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さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。
皆で一致団結! 楽しいのが大事なの!
しおりを挟む男子が戦うコートの外では熱い応援を送る加納ガールズが悪目立ちしていたが、あれが彼女たちの通常運転なので仕方がない。慎悟はその声援に応えて真剣な表情でプレイしていた。
試合状況は…敗色が濃くなっていた。何を隠そう、対戦相手は男子バレー部の二宮さんがいる3年のクラスだからだ。部員がいるだけで実力に差が出るのは仕方のないことである。
しかも男子の力は強く、その手から放たれるスパイクの速度は女子の比じゃない。それを拾うのもブロックするのもかなりハードルが高い。素人となると尚更だ。
うちのクラスの男子は相手の攻撃ボールに少々腰が引けているように見える。それは仕方がない。慣れてないことをするのは誰だって怖いもん。
「…ボールから目を逸らさないで! 目を逸らすから拾えないの!」
私は声を張り上げて、同じクラスの男子たちに声を掛けた。それに反応したのか彼らがこっちを見てくる。
ボールを見ろと言っているだろうが。誰が私を見ろと言ったか。
「ひとりで戦ってるんじゃない、6人で戦ってるの! みんなで力を合わせて、楽しんで戦え!」
私が言っているのは根性論だけのアドバイスかもしれないが、頑張れって言ってもみんな既に頑張っている。後はもう楽しめとしか言えない。だが負け色が濃いからと言ってここで諦めないで欲しい。最後まで戦い抜いて欲しい。
「あと菅谷君、何度も言ってるけど、もう少し全身の力抜いて。そうガチガチになったら反応が鈍るから!」
バレーはだる~んと脱力して待機したほうが次の動きに移りやすいのだ。
…だから実際に体を使ってレクチャーしたほうが良いのに、慎悟がセクハラだっていうから…私の通っていた学校の部活ではそれが指導の一環だったのに。
今のセクハラ風潮面倒くさいよ。
「ちょっとエリカちゃーん、俺には応援してくれないの~?」
「敵には情け容赦必要ありませんよ、二宮さん」
二宮さんから声がかかったが、私は冷たく切り捨てて差し上げた。今はうちのクラスの対戦相手…つまり敵だ。
3年を叩き潰しちまいな! とクラスの男子達に発破をかけると、慎悟が鼻で笑った様に見えた。あーはいはい、いつもの小馬鹿にした笑いね。
その後の試合の流れはガラリと変わった。もしかしたら私がここにいるから本気を出したのだろうか。初心者には優しくソフトに指導してきたつもりだったけど…彼らは私の指導に恐怖を感じていたのだろうか?
特に慎悟の活躍はめざましく、私は今まで…慎悟のあんな真剣な表情を見たことがあっただろうか? 絶対に諦めないという気迫がこっちまで伝わってきたぞ。
もしかして遂にバレーに目覚めちゃった系? バレーの楽しさに気づいてくれたのね!?
私は声を張り上げて、彼らを応援したのであった。
試合結果だが、うちのクラスの男子は最後まで粘り、善戦したが力及ばず…敗退だ。だが彼らはかなり頑張ったと思う。
「お疲れー! いい試合だったよ~」
試合を終えた男子たちに労いの言葉を掛けに行くと、みんな残念そうにしょげていた。
「…頑張ったんですけど…負けてすいません…」
「な~に言ってんの! みんなカッコよかったよ。よく頑張ったね!」
一番手近にいた菅谷君の肩をバシバシ叩いて褒めてやると、慎悟からの視線を感じた。あ、やべっと思った私は菅谷君から手を離して、素直に自首した。
「ごめんセクハラした!」
「えっ? セクハラ…?」
「肩触っちゃってごめん!」
菅谷くんも困惑している。本当にごめんよ。
私のスキンシップ癖はもう癖になってしまっているから、直すのに相当時間がかかると思う。でもそうだよね。女性の肩を叩くのもセクハラと騒がれる昨今だもんね。男性にもそれは該当するよね…
世知辛い世の中だわ…
「二階堂さぁん…」
「ちょっとあなた調子に乗りすぎじゃなくて…?」
おどろおどろしい嫉妬の色が含まれたその声が聞こえた私は即座に反応した。そうだ、加納ガールズもこの場にいたんだった。危ない危ない。
「そろそろ次の試合があるから戻ろうか!」
「次、平井先輩たちのクラスだっけ?」
「それでは皆様ごきげんよう」
私は加納ガールズに囲まれる前にその場から離れた。
声援かけたただけじゃん。別に慎悟にだけ応援したんじゃないじゃん! クラスメイトへの応援も駄目なの? 面倒くさいよ加納ガールズ!
加納ガールズの圧に対して、友人たちが華麗なるスルーをしてくれたので助かった。さり気なく私の背後をガードしてくれるし。なんて頼りになる友人たちなのだろうか。
お次は3年女子との試合だが…どこまで戦えるか。勝てたら良いな。
バシッ
「ぴかりん!」
向こうは向こうで対策をしていたらしい。私目掛けてスパイクを打ってきたのだ。なんて器用なことをしてくるんだ。
これでは私は守りのレシーブに回るしか出来なくて、攻撃をすることが出来ない。トスを上げられても、体制を整えるのに時間が足りなくてスパイクできないのだ。
代わりに阿南さんや他のチームメイトがトスを上げて、ぴかりんがスパイクを打っているが、ぴかりんは元々守備を担当している。力が足りないとは言わないがスパイク攻撃をしても、同じバレー部の先輩にボールを軽々拾われてしまって、向こうからの攻撃で点を取られる。
3年の先輩方、ガチじゃないですか。…平井さん、私一応あなたとコーチとの仲をお見守りしているつもりなんですけど。私怨ぶつけてきてません?
まずいなこのままでは……
「二階堂様! 私が拾います!」
私に向けて攻撃ボールがやってきた時、私の前に躍り出たのは幹さんだ。なんと彼女は私の危機を見かねてサポート役に打って代わってくれたのだ。
幹さんは運動が苦手と言っていたが、これまで彼女は苦手なりに努力していたのを知っている。勉強以外のシーンだというのに、彼女がとても頼もしく見えた。
彼女の何とか形になっているレシーブでボールが宙を舞う。阿南さんがそのボールを追って、姿勢を整えるとトスした。
このチャンスを逃してなるものか。
私は地面を強く踏み込み、宙を舞った。
絶対この攻撃ボールは取らせない!!
手のひらで強く叩き込んだボールは相手ブロッカーの手をかすめて、相手コートに落下した。
「よっし!」
「ナイスアタック! エリカ」
ぴかりんに声を掛けられたのでハイタッチで応えた。
この後も私は集中攻撃をされたが、クラスメイトの子たちが協力して私に向かってきたボールを拾ってくれた。そのボールをぴかりんと阿南さんがタイミングを図ってトスを上げてくれたので、私はそれを打ち込む。
それとサーブ権が私に回ってきた時に思いっきりジャンプサーブして、ラインスレスレにボールを打ってやって、相手プレイヤーにボールを取らせなかった。
一応相手は先輩だから最後のクラスマッチに花持たせようかなと思ったけど、あっちがそういう態度なら…本気で叩き潰す!
言っておくけどね、現世に戻ってから筋トレ再開したんだからね! プロテイン飲んでるんだからね! 高タンパク質とってんだからねぇぇ!
私達の試合は熱が入っていたように思う。集中攻撃なんてしてくる3年に意趣返しをしてやろうという意地もあって。
…しかし、2点の差で私達は敗退してしまった。試合が終わって私は力なく項垂れた。
あぁ、悔しい…
暫くバレーから離れていたせいで身体が鈍っているせいかな…。ただでさえ今年は色々ありすぎて思う存分バレーが出来ていない…
ぴかりんや阿南さんが慰めてくれるが、今年は自分の力不足が情けなくて悔しいのだ…
「二階堂、ちょっとこい」
「…コーチ?」
今年もまた女子バレー部のコーチは学校行事を観に来たのか。部活動の時間や試合遠征などの時間しか給料出ないんじゃない? コーチ他の場所でも委託の仕事してるらしいし、忙しいのでは?
また去年のように、私にサーブを打たせるのかなと思ったら「そこに座って」とパイプ椅子に座るように促された。
指示通りに大人しく座ると、利き足の膝につけているサポーターを外された。そして見慣れたスプレー缶を膝目掛けて振りかけられる。
あぁ、アイシングか。運動後の冷却は大切だよね。
「痛みはないか?」
「ほんの少しだけなんで大丈夫ですよ」
「試合前にちゃんとストレッチはしたのか?」
「しました」
なるほど私の怪我を心配して声を掛けてきたのね。なんて出来たコーチなんだ。来月に予選があるからかな?
…周りは私が試合に出ることを心配しているが、私が強く出場希望していることをコーチは知っている。だから様子見で観に来たのかも。コーチは一生懸命な選手には真摯だからね。
タオルに巻かれたアイスノンを渡されたので、私はそれを膝に付けた。
…ちょっと離れた場所からジリジリした視線を感じるけど、私は知らない。ていうかもう平井さんなんて知らないよ。
「中々苦戦してたな」
「だって…集中攻撃されましたもん。私以外に決定打を打てるメンバーがいませんでしたし…」
私の返答にコーチは顎に手をやって、考える仕草を取った。
「…対外試合でも他の学校からマークされる可能性もあるから対策は考えておくべきだな」
「ですねぇ」
松戸笑としての試合経験で、自分がマークされたことはあるにはある。その時はチームメイトがフォローしてくれたから窮地に陥ることはなかった。
言い方は悪いが、集中攻撃をして相手のスパイカーを潰せば、ポイントを稼ぎやすくなる。決定打を打たせなければ、ポイントは取られないからね。
スポーツとはいえ、勝負は勝負。勝負の世界はそんなものなのだろう。別にルール違反ではないしね。
ちゃんと冷やしたらストレッチしろよと言い残すとコーチはスプレー缶とか諸々を持ってどこかへと立ち去っていった。
コーチの背中を見送ると、冷却中の膝に視線を向けてため息を吐いた。
あー…平井さんにまた嫉妬ぶつけられんのかなー。今回は反抗しようかな。
なんてことを考えながら。
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