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さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。
裏でコソコソされるよりはいいけど、いかんせんしつこい。
しおりを挟む昨晩、私のスマホにぴかりんから電話がかかってきていた。だが、考え事をしていた上に着信音を消していたため気づけなかった。
それに気づいたのは今朝方だ。学校で会ったら電話の用件を聞こうと思っていた。
「エリカ、昨日正門で話していた男の人、あの人誰なの?」
「ぴかりんおはよう。…あの人は西園寺さんといって、お祖父さんの紹介でお見合いをしたことがある相手。今は友達なの」
バレンタインデーの翌日、登校してきた私に迫ってきたのはぴかりんだ。昨日の放課後に正門前で西園寺さんと話している姿を見られていたらしい。
そういえばぴかりんにお見合いをしたという話をしたことがなかったような気がする。半年前の話だしなぁ…
するとぴかりんはカッと目を見開き、ガシッと力強く両肩を掴んできた。ちょっと痛い。
「お見合い!? あんた、加納君それ知っているの?」
「…知ってるよ。…お祖父さんの顔を立てるためのものだったの。お見合い相手の彼は紳士的な人だよ。何も心配することはないよ」
「…あんた、昨日加納君があの1年の子と放課後一緒にいたの知らないの? …のんびりしていたら掻っ攫われちゃうよ?」
知ってるよ。
そもそも慎悟は私の彼氏でもなんでもないのだ。その言い方はおかしいと思う。…なんで彼女は私と慎悟をくっつけようとするんだろうか。
「そういうのやめて。私バレーと習い事と勉強に忙しいの」
「でも」
「本当に止めて。慎悟もやめろって言っていたよね? わかんない?」
私も丸山さんと慎悟をくっつけようと裏で画策したことあるけど、こんなにイライラするもんなんだね…今更ながらにすまん慎悟。
私が拒否の意を示したとわかると、ぴかりんは黙り込んだが、やっぱりなんか納得がいっていないような顔をしていた。口をへの字にして私を睨んでくる。
掻っ攫われるか…
そうなれば今までのように慎悟と話すことは出来なくなるのだろう。けれど丸山さんのような女の子が相手であれば慎悟はきっと幸せになれる。
彼の幸せを願っているのに、私はそれを想像しただけで複雑な心境に陥ったのである。
バレンタインが終わると、浮かれていた女子たちも一部を除いてテストモードに移行した。
4時間目の授業を終えて教科書類を片付けていると、フッと視界が薄暗くなった。何だろうかと疑問に思って顔を上げてみると、そこには私を取り囲むようにして腕を組み、仁王立ちする女子生徒たちがいた。
「二階堂さんちょっとよろしいかしら?」
「お話がありますの」
「昨日のことなのですけど」
「出たな加納ガールズ」
わざわざ教室の中に入ってきて、私の机を囲むようにして立ちはだかったのは加納ガールズたちだ。昨日の今日なのでなにか言いに来るかもなと覚悟していたが、やはりやって来た。
どこで情報を入手…あ、このクラスにスパイがいるんだったな。本当に誰だよスパイしてるやつは。
私は席についたまま胡乱に彼女らを見上げた。ちなみに慎悟の不在時を狙って彼女たちはやって来たらしい。彼は昼休みになるなり、クラスの友達とお昼を取りに移動していたからね。
「あなた…慎悟様に手作りカレーを食べさせたそうね」
「…悪い?」
「…ホント、成績はよろしくないのにこういうことには知恵が働きますのね。あなたって」
「悪知恵が働くというのかしら? さすが女狐ね」
3人は嫉妬心を隠すこと無く私を睨みつけ、堂々と悪口をぶつけてきた。成績が悪いこととそれ関係ないやろ。私だって傷つくんだからな。
…自分たちもギフトを渡しただろうに、私には渡す資格がないと言いたいのだろうか。それにはちょっとイラッとしたぞ?
私のことが気に入らないのであろうが、彼女たちには私の行動を制限する権利はない。つまり今のこの苦情を聞き入れる道理などないのだ。
「…悔しかったら自分たちも知恵を絞ったら? いつも私のことを攻撃してくるけど…それを見ている慎悟がどう感じるかとか…わかるよね?」
前々から思っていたが、いくら恋は戦争・先手必勝と言えど、彼女たちは過激すぎる。私のことが気に入らないにしても、他にやりようがあるだろう。
堂々としているところは評価してもいいが、私だって何言われても平気なわけじゃないんだよ。
「なによっ、婚約者を奪われた人が偉そうにっ! あなたみたいな傷物女には相応しくないのよ!」
…あん? エリカちゃんのことを愚弄するつもりか?
私の指摘に腹を立てて、罵倒してきた巻き毛。いくらなんでもその発言は見逃してやれない。
その喧嘩を買ってやろうと、私はゆっくり立ち上がった。そして加納ガールズたちを睨みつけて、反論してやろうと口を開いた。
「あらぁ、それって私にも該当する話かしら?」
しかし別の人物の登場によって私は反撃の機会を失ってしまったのだ。
「武隈さん…」
その人物を見た巻き毛は苦虫を噛み潰すような顔をしていた。
高飛車そうでモデルのような彼女は修学旅行先の台湾・九份で私に声を掛けてきた人ではないか。
瑞沢ハーレムの一員である、賀上氏の婚約者である…武隈伊澄だったっけ? 彼女は加納ガールズを一人一人観察するように見渡すと、皮肉げに笑った。
「加納君も二階堂さんも今現在、婚約者も恋人もいない立場なのよ? 外野が口出すことではないのではなくて?」
「あ、あなたには関係ないでしょう?」
「あなた方にだって関係ないでしょう。…やっていることが完全に2人の仲を引き裂く悪役だって自覚あるの? しかもやり方が下手くそ。ドラマの悪役でももっと上手く演じるわよ」
私と慎悟は恋人同士ではないから引き裂くという表現はちょっと違うとは思う。確かに加納ガールズ何かに付けて私に文句をつけてくるけど、悪役というより姑みたいな感じかな。
思ったけどこの武隈伊澄も、はっきり物を言うタイプだな。私の中のお嬢様は従順で物静かな人なイメージがあったけど、気が強いお嬢様も多い。
武隈嬢に鼻で笑われ、加納ガールズはムッとしていた。だけどそれで負けないのが加納ガールズである。
巻き毛が肩にかかる髪の毛をファサッと手で払い、尊大な態度で武隈嬢を見上げていた。巻き毛のその髪は毎朝セットしてきているのであろうか。何故巻くのだろうかずっと気になっていたけど、それを尋ねるほど仲良くないので未だに理由がわからない。彼女のアイデンティティなのだろうか。
巻き毛の払われた髪のカール部分が揺れているのを私が目で追っていると、巻き毛は友好的とは言えない態度で喋り始めた。
「…武隈さんこそ、こんな所で水を売っていてもよろしいんですの? 二階堂さんと同じく、同じ女に婚約者を奪われているというのに…」
巻き毛の挑発のような言葉に武隈嬢は目を細めていた。赤いリップを引いた彼女の唇が弧を描く。
「私はただ、賀上さんを自由に泳がせているだけよ? だって自由なのは学生である今だけだもの。…彼が私に逆らえるとは思えないわ。必ず戻ってくるとわかっているから、放置しているだけ」
巻き毛の忠告のような嫌味に対して武隈嬢は全くダメージを受けていない様子だ。まるで婚約者の不貞をわざと見逃してあげているかのような口ぶりだけど…何処からそんな自信が出てくるのだろうか。
もしかしてエリカちゃんと宝生氏の婚約のように、金銭援助目的の婚約なのかな。
しかし彼女はなぜこのクラスに来たのかな、ここ一応3組なのに。他のクラスの生徒である彼女たちは私になにかケチを付けるためにわざわざやって来たのかな。
それはそうと今は昼休みで、私はまだお昼をとっていない。加納ガールズに捕まった時点で、友人たちに先に行くようにと促していたので、ここに残っているのは私だけである。
さっきからグーグーとお腹が鳴っていてちょっと恥ずかしい。このお腹の音は彼女たちには聞こえていないのかな…早くご飯食べたい。
「…あのさ、私お昼ごはん食べに行きたいからもう行ってもいいかな?」
目の前で争い始めたのでお腹すいたと言いにくかったけど、言わないとずっとこのまま拘束されてしまいそうだったので、恐る恐る口を挟んだ。
すると加納ガールズよりも先に武隈嬢が反応を示した。
「そうだったわ。彼女たちのせいで忘れていたけれど、私はあなたをお誘いに来たのよ、二階堂さん」
「…お誘い…?」
お誘いって何の? 私が首を傾げると、武隈嬢は私の手を取ってにっこり笑った。綺麗に手入れされた指先はバイカラーネイルがされていた。この学校私立のくせに服装に関する校則ゆるいよね。巻き毛にしても、他の高校なら違反でとっ捕まっているはずなのに。間違いなく天然パーマじゃないもん。
「一度あなたとお食事をしながらお話してみたかったの。サンルームの席をサーブしているから行きましょう」
「あ? え?」
お食事はともかくサンルームの席?
…それってもしかして食堂の一等地のこと? そこを利用するには別料金がかかるんじゃなかったっけ?
太陽の光がさんさん降り注いでいるので、まだまだ寒い今の時期はポカポカと暖かいかもしれないけど、ご飯なんて何処で食べても同じじゃないの。
「ちょっと待ちなさいよぉ!」
「覚えていなさいよ!」
「慎悟様は渡しませんわよ!」
加納ガールズが後ろで吠えているが、私は武隈嬢に手を引かれるまま、黙って彼女の後をついて行った。
「本当彼女たちは姦しいわね」
「……」
「修学旅行中に加納君に牽制されていたのに懲りないのね…彼がいない場でも噂というものは流れていくというのに…」
武隈嬢は愉快そうに笑っていた。修学旅行中に、牽制? もしかして3日めに色々あったから慎悟が注意してくれたのだろうか…あまり効果は見られないけど。
私は彼女の目的がわからず、彼女を観察していた。
同じクラスになったことがないし、今まで関わり合いになったことがない。先程の口ぶりだと、エリカちゃんを陥れた人間の中には入っていないと思われるし……なにが目的なんだろうか。
私は空腹の胃を満たすついでに、彼女の目的を探るべく食堂の扉をくぐったのであった。
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