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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。
喧嘩するなよ、美味しく食べよう。
しおりを挟む「エリカ! 打てぇ!」
ぴかりんから放たれた【スパイクボール】が、アタックライン内でジャンプした私の顔面めがけてやってきた。
トスじゃないのか! アレをするならせめて合図をしてほしかった。だが今はとりあえず打たねば。
「どりゃーっ!」
体を捻らせてそのボールを更にスパイクすると、その威力は増す。対戦相手はダブルスパイクされたボールのスピードに目が追いつかなかったようだ。反応する前にズバンと音を立てて床に叩きつけられた。……2年の子たちはぴしりと銅像のように固まっている。
おい、ぴかりん。怖がってんじゃないかよ。あっちには素人もいるかも知れないんだぞ! これでバレーに恐怖して嫌いになられたらどうするんだ!
だが、対戦相手の中にいた同じバレー部のスパイカーの子は違った。目をランランと輝かせているではないか。…一人だけめちゃくちゃ楽しそうだ。彼女は私と同じ攻撃担当だ。闘争心が刺激されるんだよね、わかるよ。
その後彼女の攻撃に凄みが増したのは想像に難くないはずである。私も楽しかったので、全然いいけど。
2年との決勝試合はあちらにレギュラーのスパイカーがいたため、ちょいちょい得点を奪われたが、こっちも一歩も引かなかったのでなんとか勝てた。
苦戦した場面はあった。なのに何故勝てたかって…やっぱりチームワークなんじゃないかなと思うんだ。日本代表だって団結力で強くなっているところがあるし、決め手はそこだと思う。…ここで後輩に負けてたら、私はきっと凹んでいたことであろう……
『続いて、女子バレー部門優勝は3年3組』
パラパラパラとまばらな拍手が鳴り渡る。すべての競技種目が終わり、グラウンドでは閉会式と表彰式が行われていた。
チームキャプテンはぴかりんなのだが、そのぴかりんに受け取ってこいと言われたので、私は壇上に上がって賞状と記念品をもらった。記念品は英学院のロゴ入りドリンクボトルが人数分だ。もらえないよりはマシだけど…何故これにロゴを入れたんだ。
クラスマッチでの優勝だけど、それでも嬉しいな。私は貰ったそれをチームメイトに見せびらかす。みんな私と同じ気持ちのようだ。嬉しそうに笑っている。
「おめでとう」
「ありがとう! ねぇねぇ、私の勇姿をちゃんと見ててくれた?」
「見てたよ。いつもにも増して楽しそうだったな」
慎悟からお祝いの言葉を投げかけられた私はにっこり笑った。
「だって楽しかったもん! 慎悟は? 試合楽しかった?」
少しでも楽しいと思ってくれるといいな。去年よりもバレーボールのことを好きになってくれていると嬉しい。
慎悟は私の言葉に目を丸くしていたが、その表情は苦笑いに変わった。両手を伸ばしてきて私の頭をワシャワシャしてきた。
「楽しかった。…全試合あんたに観ててほしかったよ」
「私も観たかったなー。学校の監視カメラ映像で観戦させてもらえないかな?」
「娯楽目的ならダメだろ」
体育館内にある監視カメラで慎悟が出場した試合を見られたらなと思ったけど、やっぱりダメか。加納ガールズは録画撮影してないかな。…してたとしても見せてくれないだろうけど。
「次は予選大会に出場するのか?」
「その前に、文化祭2日目の招待試合があるよ」
また応援に来てくれるのかな。だけど…文化祭の出し物の当番によっては、慎悟は応援に来られないのだ。
「あぁ、姉妹校との?」
「うん。去年は出場できなかったから今年は出場したいなぁ…あ、そうだ、文化祭に二階堂のお祖父さんが来るんだって」
先日からの流れで、お祖父さんと文通みたいなやり取りしてるんだけど、文化祭の招待試合について手紙にしたためたら観に来ると返事が来たんだ。どうやらお祖父さんもバレーに興味が湧いてきたようである。いい変化だ。
お祖父さんが文化祭に来る、それを聞いた慎悟は少し緊張した顔になっていた。今日明日来るわけじゃないのに。
「言わないほうが良かったかな?」
「…いや、当日遭遇して焦るよりはいい」
慎悟がお祖父さんに対して緊張しちゃう気持ちはわからんでもない。私も会うたびカチコチになってしまうもの。二階堂のお祖父さんは妙な威圧感があるよね。
私が慎悟の手を掴んでギュッギュと握ると、慎悟も握り返してくれた。これで私の気持ちはちゃんと伝わっているはずである。一緒に頑張ろうって。
大丈夫、お祖父さんは私の様子を見に来るだけだと思うよ。
「おふたりさーん、もうそろそろ引き上げるよー」
「あっそうだった! 3組のバレーチームで打ち上げ参加する人はHRが終わったら教室の後ろに集合してねー!」
ぴかりんに声を掛けられた私は慌ててチームメイトたちにこの後の指示をした。
閉会式を終えるなり、生徒たちはぞろぞろ校舎へと帰っていた。私達も置いていかれないようにそれについていく。
とりあえず今は肉だ、焼肉のことを考えよう!
■□■
学校前までお迎えに来てくれたマイクロバスに乗って、3-3バレーチーム一行は打ち上げ場所の二階堂グループが経営する焼肉店に辿り着いた。
前もって予約していたので、個室の席には大皿に載ったお肉たちがテーブルにスタンバイしてあった。みんなの分の飲み物を注文して席に戻った私は、目の前の風景に閉口した。
「…ちょっと、瑞沢さん、そこどいてくれないかな?」
「どうして? 空いている席なら他にもあるでしょ?」
この店に入って、私は適当に席に座ったのだが、右隣に慎悟が座っていた。その逆隣の席には瑞沢嬢がキャッキャしながら座っていた記憶がある。
私は特に何も考えずにそのままにしておいたのだが、その席を巡って上杉と瑞沢嬢が睨み合っていたのだ。
何だこれ、何だこの構図。
私の隣をかけて一触即発なのか。
「君って本当に神経図太いよね」
「上杉君に言われたくないもん。わたし、前にあったこと怒っているんだからね?」
ぽやーんとしているが、瑞沢嬢だって馬鹿じゃない。婚約破棄騒動の裏で行われた一部の嫌がらせはこの上杉が糸を引いていたということを知っているので、彼女は彼女なりに上杉を警戒している。ただ上杉は曲者なので、瑞沢嬢の手には負えない相手であろう。
全くもう…
私はため息を隠せなかった。
「…そこの席が良いなら座れば?」
「二階堂さぁん!?」
がぁんと鈍器で頭を殴られたようなリアクションを取る瑞沢嬢がいたが、彼女はなにか思い違いをしているな。
私はぐるっとテーブル席を半周すると、一つ空いていた席に腰掛ける。ここの席はちょうど慎悟と対面する形になる。お隣には焼肉系男子菅谷君がいた。去年も隣で焼肉食べたね。早く食べたいのか大皿の肉を見つめながらソワソワしているのが伝わってくるよ。
ぽかんとした顔で私を見てくる上杉&瑞沢嬢。何よその顔。譲ってあげたんだ。その席に座ればいいじゃない。
「私がこの空いてる席に座れば解決でしょ」
「そういう意味じゃないんだけどなぁ…」
「ヒメ、二階堂さんのお隣が良かったのに…」
「打ち上げ始めるから2人とも早く座んなさいよ」
ていうかここは打ち上げの場だ。周りを見ないか。他のメンバーが困惑しているでしょうが。肉なんてどこで食べても一緒だよ。
…上杉、あんたの下心はまるっとお見通しなんだからな。何私の隣に座ろうとしてんだよ。絶対に嫌だからな。
隣同士になった慎悟と上杉が睨み合っているのは見ないことにしておいた。
「お待たせいたしました、お飲み物でございます」
店員さんがソフトドリンクを一斉に運んできてくれ、ご飯や汁物希望の人にも配膳してくれた。
私はグラスを掲げると、チームメイト達をぐるりと見渡した。
「皆さん、クラスマッチお疲れさまでした! 我が女子バレーチームの優勝と、男子チームの奮闘を称えて乾杯!」
ソフトドリンクでの乾杯の音頭で始まった打ち上げは一部除いて和気あいあいとしたものになった。
「エリカお嬢様、こちら社長からの差し入れのカイノミになります」
「ありがとうございます」
カイノミ……どこの部位かわからないが、とにかく美味しい部分なんだろう。
これも焼いてしまおうと網に並べていると、斜め前に座っている上杉が「ねぇ二階堂さん」と声を掛けてきた。
「僕のためにお肉焼いてほしいな」
ニッコリ笑顔で言われたそれに私は冷めた目を向けてしまった。
焼肉の網の端に残っていた焦げている肉を取り皿に乗せてあげると「これ焦げてるやつじゃない」と文句を言われた。お望み通り焼いた肉を運んでやったのにわがままな奴め。
隣では菅谷君が肉と米の往復に大忙しだ。私も遅れることなくお肉を食べよう。
「はい、カイノミ焼けたよ」
焼けたお肉をトングで掴んでテーブルの向こうにいる慎悟の取り皿に乗せると、その隣の上杉が「依怙贔屓しすぎじゃない?」と文句垂れてきたが、無視しておく。
「慎悟、おいしい? もっと焼く?」
「…大丈夫。あんたこそ食べろよ」
慎悟は少食なわけではないのに、今日はあまり食が進んでいない気がする。上杉の隣だから食欲が失せたのだろうか。
「あ、加納様、俺と席交代しましょうか? 二階堂様のお隣がいいですよね、気づかなくてすみません!」
焼肉に夢中になっていた菅谷君がハッとした様子でそう申し出ると、自分の分の皿を素早く移動させていた。
ちょっと強引な感じに見えるが、菅谷君は100%善意だ。慎悟も断りにくいようで、お礼を言うと大人しく移動していた。
隣にやってきた慎悟がおもむろに肉と野菜を新たに焼き始めた。
食べ足りないのかなと思って私も焼く作業に戻っていたが、慎悟は焼けたものを私の取り皿に盛り始めた。
「慎悟、私自分で焼ける…」
「いいから食べろ。さっきから周りに食べさせるために世話焼いて、あんた全然食べていないだろ」
「……いただきます」
こういう場所で私は積極的に肉を焼くポジションに立ちがちだ。世話を焼く側だったのに、それを逆にし返されるとなんか…むず痒いと言うかなんというか……
「…美味しい」
「…そうか」
人に焼いてもらったお肉は美味しいと聞くが、慎悟が私を気遣って焼いてくれた肉は実に美味だ。私は食べる度においしいおいしいと感想を述べた。
慎悟はなんだか照れくさそうな顔をしていたが、新たに焼けたものを私のお皿に乗せることはやめなかった。
「……ちょっと、目の前でいちゃつくのやめてくれる?」
「お前もさっさと食べたらどうだ? ほら」
「君が焼いた肉なんか要らないんだけど」
上杉を黙らせるためなのか、鼻で一笑した慎悟は腕を伸ばしてトングで掴んだ肉を上杉の皿にのせてあげていたが、文句を言われていた。
焼いてあげたのに文句とはなんという恩知らずなんだ上杉の野郎は。
慎悟の焼いたお肉は美味しいっていうのに。
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