お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。

衣装マジックに魅せられて

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 加納ガールズの地味な嫌がらせがあったり、慎悟がお誘いラッシュを受けて大変そうだったりしたが、それらを乗り越えていよいよクリスマスパーティ当日となった。
 朝から生徒たちは落ち着かない様子。パーティが開催されるとはいえ、日中は授業もあるのに気もそぞろ。昼食を抜く女子生徒も多く、今日の食堂は空いている気がした。今日のお昼は鍋すきうどんにしたよ。美味しかった。

「ネイルのデザイン素敵ですね、とてもお似合いですよ」
「ドレスの色に合わせたんだ」

 阿南さんに指摘された私は手を持ち上げて見せびらかした。ドレスが黄色なので、白と黄色のネイルカラーを使ってフレンチネイルにしたの。ワンポイントでレースも付けてみたよ。
 周りにいる女の子たちはエステやらネイルサロンやらでピカピカに磨いてきたと自慢話をしている。
 私も二階堂ママが手配した出張エステにて昨晩フルコースを受けた。匠の域に入ったエステティシャンの技によって私は爆睡して、気がついたら朝だった。
 エステと質の良い睡眠のお陰で、今日のエリカちゃんは最高潮に美少女である。
 
 オーダーメイドで作られたドレスは更衣室ではなく、部室に一式を保管した。去年の瑞沢嬢ドレスビリビリ事件のことがあるので、念には念を入れてである。慎悟と付き合っていることで多少なりとも恨みを買っているのでね…
 加納ガールズはそういう陰湿な嫌がらせをしないと思うけど、私が把握してない他の人間がやらかす可能性だってある。
 今年は初めてのパートナー同伴なんだ。なんのトラブルもなく慎悟と楽しくパーティ参加したいからね。


「今夜はクリスマスパーティですね。羽目を外さないように楽しんできてください。それではHRを終わります」

 ──ガタッ、ガタガタッ!
 HRを行っていた先生が解散を告げると、それを待ち構えていた女子生徒たちは一目散に準備に走っていた。教壇では担任の先生が苦笑いしているが、毎年のことなので慣れたご様子である。
 慎悟に後で合流しようと声をかけると、私もドレスアップするために友人たちと共に移動した。
 準備会場となった体育館に入ると、大盛況だ。女子のはしゃぐ声で溢れていた。私も出遅れぬようすぐさまメイクに入る。黄色のドレスに合わせて、綺麗に化粧とヘアメイクをしてもらった。

 姿見に映るは、ひとりの美しい淑女であった。
 ……絶対エリカちゃんが会場で一番美しいに違いない。いやぁ何度見ても美しい。エリカちゃんマジ最強である。

「わぁ! 二階堂様とても綺麗です」
「エリカあんた、また自分の顔に見惚れてるの?」
「加納様が会場の外でお待ちかねですよ」

 鏡を見て惚れ惚れしていると、準備を終えた友人たちが三者三様の反応をしてきた。
 私はナルシストじゃない。エリカちゃんの美しさに絶対的な自信を持っているが、それは私の美貌ではないんだ。よって私はナルシストではない。
 そもそもさ、エリカちゃん美少女じゃん? 自画自賛しても許されるはずなんだよね! 
 ……それを言ったらますますナルシストのイメージが固定化されそうなので言わないけど。
 
 ……とりあえず慎悟が待っているそうなので、見惚れるのはおしまいにしとこう。
 友人たちと準備会場を出ると、その外に同じくドレスアップした慎悟が待っていた。その周りを肉食獣の目をした加納ガールズが囲んでおり、私が準備会場から出てきたことに気づいた彼女たちは鋭い視線を送ってきた。
 私は心を落ち着かせるために深呼吸をすると、ゆっくりそこへ近づいていく。
 ドレススーツに身を包んだ慎悟は毎度のことながら色気爆発させていた。…むしろ歳を重ねて大人っぽくなった分、歩く誘蛾灯パワーアップだ。
 …周りを見渡せば、慎悟に見惚れる女子生徒があちこちにいるぞ。この魔性の男め。

「慎悟、おまたせ」
「いや…大丈夫」
「ほら、エスコートしてくれるんでしょ」

 私が手を差し出すと慎悟はその手を取って、自分の腕に乗せた。なんかこのエスコートの仕方ってまさに西洋のダンスパーティのようだね。
 こちらをギギギと睨みつける加納ガールズの背後には、私の友人たちが立っている。多分、何かあったときのために警戒してくれているんだ。つくづく頼りになる友人たちである。
 
 慎悟がゆっくり歩き始めたので、私はそれに黙ってついていく。慎悟は無言だった。
 今年は綺麗だって褒めてくれないんだね。去年はダンスの最中に綺麗だって褒めてきたくせに。私が『エリカちゃんは綺麗だから当然』と言ったから、褒めるのは止めたのかな。
 私は前のめりになって慎悟の顔を下から覗き込んだ。

「…慎悟、今年も決まってるね。前髪上げると大人っぽい。カッコいいよ」
「…ありがとう」
「ねぇねぇ、慎悟が選んだドレス着てるんだよ。似合う?」
「似合ってるよ」

 なんだか言葉少なめだな。慎悟は私から視線をそらして前だけを見ている。
 何だどうした。目のやり場に困ってるのか? 
 
「ちょっとちょっとー可愛い彼女に向かって素っ気ないよー。もっと他になにかないの?」

 慎悟の腕に抱きついて、そう問いかけると、彼はなんだか情けない顔をして赤面していた。

「…思った以上に綺麗だったからなんて言葉をかけるか迷っていたんだよ」
「…ピュアか。ちょっとどうしたの。去年はポンポン褒める言葉を投げかけてきたくせに今年はピュア路線で行くの?」

 年ごとに路線を変えていくタイプなの? 
 それとも去年よりも更に美しくなっちゃったからびっくりして言葉も出ないの?

「ねぇ、私きれい?」

 私は首を傾げて問いかけた。
 なんだか都市伝説の口が裂けた女みたいな問いかけになってしまったが、私は慎悟からの褒め言葉が聞きたい。
 これはエリカちゃんの身体ではあるが、どんな形だとしても好きな人には可愛いと、綺麗だと褒められたいってものだ。私だって女なんだから。

 慎悟は未だ赤みの残る顔のまま、私を見下ろすと「……綺麗だよ」と小さく呟いた。
 慎悟の瞳は潤んでおり、熱い視線が私に降り注いできた。その目にさらされた部分が火傷してしまいそうだ。心臓がバクバクと大きく鼓動し、全身の血液が活発に流れ始めた。
 体が熱い。
 私は慎悟の瞳に囚われてしまい、ピシッと固まってしまった。

 卑怯だ。
 そんな顔して綺麗と言われたら、私だって照れて言葉が出なくなる。慎悟だってエリカちゃんに負けないくらい美人なのに、今は男の顔をしていて誰よりも格好いい。
 いつもにも増して素敵に見えてしまうのは衣装マジックなのか、パーティ効果なのか。
 あんたは何度私に惚れ直させるの。止めてよ、私は恋愛脳じゃないの。脳筋なの。
 …そんな柄じゃないの。なのに……


「キィィィ! 離しなさいよこの庶民んんん!!」
「エリカ、加納君! イチャつくのはいいけど、あたしたちはいつまでもコイツらを抑えきれないからねー!?」
「女狐! 今すぐ慎悟様から離れなさいよ!!」

 どこからか怨嗟の声が聞こえてきた。私と慎悟がハッとして振り返ると、そこでは綺麗に結った髪が乱れそうなくらい暴れている巻き毛を、ぴかりんが後ろから羽交い締めにして捕まえている姿があった。

「このがり勉! その手を離しなさいな!」
「お陰様で3年間主席を守れました! 全てはセレブ生の親御さんの寄付金での支えがあってこそです! ですが私はこの手を離しません! 悪く思わないでください!」

 ロリ巨乳を抑えている幹さんはセレブ生の保護者への感謝とともに、さり気なく主席なんですアピールをしている。
 幹さんも前より自信を持てるようになったな。いいことだ。

「阿南さん、あなたこんなことして…許さなくてよ!」
「結構です! 想い合う2人の邪魔はさせませんわ…!」

 阿南さんは同じセレブ生である能面に睨まれていたが、全く堪えた様子もなく能面をガッチリ拘束していた。

 ──地獄絵図だ。
 怒り狂った加納ガールズは周りの生徒たちに遠巻きに見られている。……美少女が台無しではないか。嫉妬はこうも女を醜くさせるのか……
 これ私のせいだろうか…と遠い目になりかけたが、慎悟が「会場に行くぞ」と声を掛けてきたので、後ろ髪引かれる思いのまま、パーティ会場入りしたのであった。


■□■


『只今より、英学院高等部クリスマスパーティを開催いたします。皆様心ゆくまでお楽しみください…』

 生徒会役員の挨拶が行われ、クリスマスパーティの開幕が宣言された。開会式からちゃんと参加するのはこれが初めてかもしれない。
 もみの木がクリスマス仕様にデコレーションされて、体育館の中央に飾られている。毎年見てきたけど、今年も立派なもみの木だ。
 体育館内を飾った生花が会場を華やかに見せてくれる。去年瑞沢嬢のドレスを直すために、事情を話したら快くバラの花を譲ってくれた業者さんが今年もここの生花を用意したのであろうか?

 キョロキョロと会場内を見渡していると一点に目が留まった。
 開幕早々だが、私は豪華なオードブルに目が惹かれた。そこには既に壁の花候補生らしき生徒たちが群がっている。それを見ていたらお腹が空いてきた。私はくいくい、と慎悟の腕を引いたが、「後で」と却下されてしまった。
 何故却下されたのか、その理由は音楽が流れ始めたことで私は納得した。音楽を合図に、ダンスに興じる生徒たちがダンスフロアに集まっていく。ダンスタイムが始まったのだ。
 ……3回目だけど、未だにこのダンスパーティとやらには慣れない。いや、この日のためにダンスレッスンしたけどさ、私根っからの日本人だから…。それを言ったら慎悟もそうだけどさ…

 背中が痒くなりそうで、その中に混じっていくのに気が引けていた私の手を取った慎悟がダンスフロアへ誘導していく。
 あ、初っ端から踊るんですか。
 去年も思ったけど、あんたは本当に踊るのが好きなのね。…日本人なのに様になっているのがなんともいえないな。
 涼しげな顔をして私をエスコートする慎悟のカッコよさに私がドキドキしている事はバレていないだろうか。
 カッコ悪い所を見せないようにダンスレッスンを受けてきたんだ。レベルを上げて中級者レベルのダンスの振付も習ってきたんだ。

 ここは私のいい所を見せて、惚れ直させるところだ!

「…笑さん、違う。それ男性パートの構え方」

 フン! と気合を入れて、慎悟の身体に腕を回したのだが、手の位置が違うと注意されてしまった。
 これは恥ずかしい。
 だけど、案ずることはない。

「こんな事もあろうかと、私は男性パートの振り付けも覚えてきたんだよ」
「うん、ここでは必要ないな。手はここ」

 この際逆のパートで踊ろうと提案しようとしたが、慎悟によって直された。私は格好いい所を見せようとしたけど、結局慎悟が素晴らしいリードをしてくれた。
 私はそれに合わせてくるくると踊っていただけだ。

「去年より上達したじゃないか」
「格好いいところが見せたかったの…! なのに慎悟が先に格好いい所を見せつけるから…!」
「また調子に乗ろうとして」

 呆れた顔をしているが、その瞳は優しい。私は目を細めて慎悟を見つめた。

「いいじゃん、あとでパート交代して踊ってみようよ」
「断る」

 折角覚えてきたのに頭の硬いやつだな。
 ムッとしていると、腰を強く引き寄せられた。更に密着した慎悟の顔が至近距離に迫る。

「…せっかく綺麗に着飾っているんだ。今夜くらいは大人しくエスコートされてくれ」

 声を潜めて、耳元で囁かれた慎悟の声はいつもよりも低く艶があった。私はゾクッと反応してしまった。
 彼の顔が近くて、息がぶつかりそうだ。周りの目があるのに、こんなの駄目だって…。心臓がバクバクして周りの音が聞こえなくなってきた。
  
 先程までピュア慎悟だったのに、色気モードにスイッチでも入ってしまったのか。ドキドキして心臓に悪いからどちらかに統一してくれ。……頼むから、私を誘惑するでない。

 ダンスパーティは始まったばかりである。


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