お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。

小話・婚約パーティ騒動! その薬指は私のものだ!【3】

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「ほらー、賢い後輩に先越されてんじゃん。適当な結婚できない立場なんでしょ。切り替えて他の優良物件探さなきゃ、あんた達まずいんじゃない?」
「やかましい! 庶民が偉そうに説教するんじゃなくてよ!!」
「慎悟様が悪夢から目覚めて、私を選んでくださるのを待ち続けてなにが悪いの!!」

 ぴかりんの指摘に能面とロリ巨乳がカッとなって言い返していた。巻き毛は顔を真っ赤にしてわなわな震えている。

「いやいや、ないわ。お前ら周りの男からどんな目で見られてるか考えたほうがいいぜ」
「キィェェェ!」

 ひょっこり現れた三浦君がこれまた火に油を注ぐと、とうとうブチギレた巻き毛がその黄金の右手を強く握りしめて、彼のみぞおちに叩き込んでいた。
 ぐふぅ、と三浦君は呻く。巻き毛は八つ当たりをするかのように三浦君をボコボコにし始めた。

「イッテぇな、このっ暴力クルクル巻き毛女!!」
「あなたみたいな人間が慎悟様のそばにいるから、慎悟様はおかしくなってしまわれたのよッ! 無神経テニス馬鹿男ぉぉぉ!」

 ここ、パーティ会場なのにそこだけが武道会になっているぞ…。巻き毛は三浦君の腹を中心に拳を叩き込んでいる。
 …もういっそこの2人がくっついたらいいんじゃないかなと私は現実逃避することにした。

「…何だこの騒ぎ……」

 友人をたくさん連れた慎悟が阿鼻叫喚な加納ガールズと三浦君を見て引き攣った顔をしていた。
 他校に通ってる友人が何人か来るから紹介すると慎悟から言われていたなと思い出す。
 ……私は説明を放棄した。

「お友達? ごきげんよう。本日はお越し下さりありがとうございます」

 ニッコリと笑顔を浮かべて慎悟のお友達にご挨拶をすることにした。未だに私の隣では阿鼻叫喚な光景が広がっているが、それから目をそらして。


 巻き毛は三浦君をサンドバックにしていた。ロリ巨乳と能面はキィキィ喚いている。ぴかりんたちが抑えようとしてくれているが……ダメそうである。
 慎悟のお友達さんと西園寺さんは彼女たちをドン引きした顔で見ていた。肉食系女子の勢いに完全に引いている。
 ごめんよ、私の手には負えないんだ…

「…騒ぐなら、帰ってくれないか……」

 慎悟はげんなりしていた。
 こうなると分かっていて何故、加納ガールズが招待されているのかと言うと、彼女たちは加納家の取引先の娘だからである。私達の婚約パーティということで意気込んで乱入してきたのだろうが……親はどこにいるんだ。
 しかたない、他の招待客に迷惑がかかると困るから、気分が悪い人用に準備した別室に連れて行ってもらおう。

「あの、すみません。彼女たちを別室にご案内していただけませんか?」

 私はホテルの従業員に声をかけて、加納ガールズをこの場から退出させるようお願いした。ホテルの人に注意された彼女たちは私の悪口を言っていたようだが、困った客の相手に慣れている接客のプロによって会場の外に誘導されて姿を消した。
 プロってすごい。あの3人娘をあっさり退出させちゃったよ。

「イッテェ…あいつゴリラかよ…」

 三浦君がお腹を撫でながら悪態ついていた。メチャクチャ強い拳が入っていたが、イッテェだけで済むのだろうか。

「お前が余計なこと言って怒らせたんだろ。つまみ出されたくなかったら、おとなしくしてろ三浦」
「慎悟それはひでぇよ」

 慎悟がチクリと注意すると満身創痍の三浦君は苦笑いしていた。女相手なので反撃はせず、受け流すことに徹していたのかな。こんなところは無駄に紳士だな君は。
 …三浦君がいなくても、彼女達は初っ端から飛ばしてたから、どっちにせよやかましかったと思うけどね。

 しかし彼女らは……変わらないな。
 大学生だと言うのに…まさかずっとあのままなんて…ないよね…ないと言って……


「…来てくださったんですね」

 慎悟は西園寺さんの姿を確認するなり気を取り直して声を掛けていた。その表情が緊張しているように見えるのは気のせいじゃないと思う。

「…絶対に彼女を幸せにしてあげてね。君たちのこれからを応援してるよ」

 西園寺さんの言葉を受けた慎悟は、深く頷いていた。
 …なんかあの2人、何かで通じ合ってるんだよなぁ。仲がいいとかそうではないけど通じ合ってる。私の知らない何かで……
 やい、私も仲間に入れろよ、寂しいだろうが。

「ちょっとオバサン」

 私が慎悟と西園寺さんの謎の絆に対して不満を感じていると、むっすりした声が下の方から聞こえてきたので振り返る。
 そこにはふくれっ面の小学生女児がいた。
 エリカちゃんの従妹だと思っていたら、全く血の繋がりのない赤の他人だと判明した美宇嬢である。また人のことオバサン呼びして……相変わらず生意気なお子様だ。
 そんな彼女は小さな袋を持って何やらもじもじしていた。

「……美宇ちゃん? なに、どうしたの? おトイレに行きたいの? おトイレはね、」
「違うわ! 美宇を子供扱いしないでって言ってるでしょ!!」

 これ! と言って突き出されたのはその袋だ。有名なファンシーショップのロゴが入っている。

「お祝いの品くれるの? 慎悟に?」
「これはオバサンにお似合いよ! いいこと? 美宇はもっともっと美人になるの。そしたら慎悟お兄様のことを奪いに行くんだからね! 覚悟してなさいよ!!」

 お祝いに来たのかと思えば、宣戦布告か。いやこの間のお正月の集まりでも同じこと言ってたから、彼女にとっては挨拶代わりなんだろう。
 一周回ってこの美宇嬢の素直じゃない性格が可愛くなってきたぞ。


 私と慎悟の婚約が発表された年にお祖父さんとお祖母さんの離婚騒動になったが……今でも離婚調停中だ。お祖母さんが梃子でも動かないって感じで二階堂家にしがみついているのだ。
 問題の托卵された子である紗和さん…美宇嬢のお母さんは全面的にお祖父さんの味方だ。DNA鑑定などの証拠集めなどにも積極的に協力している。
 そしてお祖父さんにも親子の情があるらしく、紗和さんに今まで通りに接してあげているし、紗和さんも以前の傲慢さが鳴りを潜めて心入れ替えた風に見える。
 自分の微妙な立場を理解しながらも、“父と思っていた人”が父親として接してくれるから、彼を父と慕う。……紗和さんは変わったのだ。
 ──変わらないのはお祖母さん一人ってわけだ。

 ただ、お祖母さん方の弁護士がやたら理由つけて離婚させないように引き伸ばしてるみたいでねぇ……明らかに不貞なのにすごいわ。どんな手を使ってんだろう。
 こればかりはどうなるか私もわかんない。

 その孫である美宇嬢が参加しているこの婚約パーティだが、この会場にお祖母さんはいない。エリカちゃんの血縁じゃないし、とっても微妙な立場だからお祖父さんが参加を許さなかったのだ。
 だけどそれはうちだけではない。
 慎悟の従兄である、あの常磐泰弘もここにはいない。慎悟と彼のお母さんである都さんが常磐母子を呼びたがらなかったのだ。
 嫌なら仕方ないよね、で話は終わり。二階堂家も呼びたくない人が居るのでお互い様ってことで。二階堂と常磐は取引先じゃないから特に支障はなかったし。
 結婚式に関しては少し先の話になるので、その時また誰を呼ぶか話し合うことになるんじゃないかな。とは言っても、彼らの間にある溝が深すぎてそこでも呼ばない気がするな…
  

 色んな人がお祝いに来てくれた婚約パーティ。色んな人に挨拶して回ってはお話を振られてちょっと大変だったけど、セレブ歴も早4年目だ。当たり障りのない返事をするのも慣れてきた。経験値を積めば、私だってそのうち問題なく対応できるようになるはずである。

 その後はなんの問題もなく、無事挨拶回りを終えた。私達の婚約はこうしてお披露目され、公認となったのである。
 
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