攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

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本編

私は熱血系ではない。だが負けず嫌いかもしれない。

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 体育祭終盤を迎え今現在、私の黄ブロックは四位。最下位で、早くも負けムードが漂っている。
 混合リレーで一位になれたら逆転も可能だが……

 それだけ、最後のリレーは得点が高い。

 私は両親と友人の応援を受けながら入場門に並んだのだが同じ二回目のリレーで走る一年生の女の子が青ざめてプルプルしていたので、声をかけてみる。

「どうしたの? 気分悪い?」

 私の問いかけに彼女は首を横に振る。

「あのう……私、本当に足が遅いんです……なのにじゃんけんに負けてしまって」

 最下位の現在、黄色ブロックは巻き返しに燃えている。不思議なことに体育祭はめんどくさいと感じるものなのだが、実際に当日になると燃えるんだよな。ほんと不思議。
 大方、一年生の子はクラスメイトにプレッシャーをかけられたのだろう。
 私は苦笑いするしかなく、大丈夫だよ。と声を掛けるしかできなかった。

「室戸、走るとき手と足を大きく振って走ってみろ。俺がフォローする。大丈夫だから」
「は、はい」

 話を聞いていたのか、横から風紀副委員長が割って入ってきて一年生の室戸さんに声をかけていた。
 風紀副委員長はなんか雰囲気が武士っぽい。眉目秀麗なクールイケメンなんだけど、全体的に堅物な真面目人間って感じだ。
 いつも隙がないというか…所作が綺麗なんだよな。
 
(そういや副委員長って頼れる兄貴キャラだったっけなぁ。しっかしこの人も背が高いなぁ。剣道部だっけ? )

「田端も」
「へい?」
「リラックスして走って良いぞ」
「…はい、わかりました。」

(気配り屋か)

 まさか私にまで声を掛けてくるとは思ってなかったので、変な返事をしてしまったが、大丈夫だ。問題ない。

 入場の音楽と合図があり、選手達は一斉に入場した。

 早速第一回目のレースが始まり、各ブロックから応援団のエールと生徒達の歓声がグラウンドを包み込んだ。

「アヤちゃ~ん応援してね~」
「はいはーい。がんばってー」
「愛が足りないよー」

 沢渡君が絡んでくるのをあしらい、リレーが流れるのをぼんやり眺めていたのだが、隣に座っている室戸さんが手のひらに人を書いて飲み込むという古いおまじないをブツブツ呟きながら何度も繰り返すのが気になってついそっちに目がいってしまう。 

 パァン! とゴールの合図がなり、ハッと顔をあげると、第四走者の沢渡君が黄色ブロックから歓声を受けていた。
 彼は晴れ晴れとした笑顔でトラック内に戻ってくる。

「え、なに一位なの?」
「ちょっ! アヤちゃんひどい! 見てなかったの俺の勇姿!」
「マジか。すごいね沢渡君、足速いんだね。見てないけど」 
「んもー!!」


 味方が勝利したというのにこんな反応は冷たいかもしれない。
 だけど私も緊張してるのだ。室戸さんの緊張がうつったのかもしれない。

 二回目のリレーとなり、第一走者がスタートに並ぶ。
 室戸さんはガチガチに緊張しており、走ってもいないというのに息が上がってる。
 
「位置について、よーい」
パァン!!

 スタートの合図と共に第一走者が走り出す。
 室戸さんは足を縺れさせながらも必死に走っていた。私は心の中だけじゃなく、口に出して彼女を応援した。彼女に聞こえているかはわからないが、この声援が届いていれば良い。

 第二走者がバトンパスレーンに立って、第一走者から渡されるバトンを待つ。
 うちのブロックの第二走者も一年である。春日君といって成長途中のためか華奢で、可愛らしい顔立ちの男の子だ。
 だがその顔に反して、彼が負けず嫌いの少年であることはリレーの練習で知っている。


 室戸さんは頑張っていた。
 だが、四人中最下位、次々にわたっていくバトンパスも一番最後。
 慌てた彼女は、バトンパスを失敗した。バトンは第二走者の手をすり抜け、カラン、と乾いた音をたてて地面に落下した。
 それを見て室戸さんは青ざめる。

「室戸! バトン!」
「あ、ハイッ!」

 同じくテンパっている第二走者の春日くんの声にはっとして室戸さんはバトンを急いで拾うと春日君に渡す。
 春日君は全速力で駆けていった。
 
 大分遅れたスタートで、前の走者と引き離されている。
 私はうわぁ……とぼやいた。
 だが、トラック内に戻ってきた室戸さんが泣きそうな顔で震えてるのを見て、慌てて口を閉じると、すくっと立ち上がる。

 私はとりあえず軽くストレッチをした。
 アキレス腱伸ばして足首をほぐす。走ってるときにつったらお話にならないからね、

 最下位になってしまったのは仕方ない。ならば、先輩として巻き返しを図ろうではないか。
 できるかどうかは別としてね。


 バトンパスレーンで春日君を待つ。
 他のブロックが次々にバトンを繋いでいくのを眺め、やっぱり最後にバトンを受け継ぐことになる。

 私は助走をつけてバトンを受けとる体制をとる。

「せ、先輩!!」
「はいよ!」

 パシィ! としっかり手のひらにバトンを受け、それを持ち替えると私は勢いよく走り出した。

 ダイエット目的でここ二ヶ月、毎日ランニングを欠かさずにやって来た。
 最初は筋肉痛とか横腹が痛いとかで散々なものだったけども、ここ最近はペースを掴んでどんどん長い距離を走れるようになった。

 今こそ、その成果を発揮するときだ!!

 私は前だけを見ていた。
 300m走るのだからある程度ペースを掴んでおかなきゃならないのはわかってるんだが、50m走をしているかのようなスピードで前走者を追いかける。
 多分私の今の顔は乙女とはいえないものだろう。

 だが、諦めたくない!

 諦めずに必死に走っていると、徐々に前を走っていた走者との距離が縮まっていき、私は一人追い抜いた。

 ワァッ! とどこからか歓声が聞こえるが、今はそれどころじゃない。
 私は別に体育会系じゃない、どっちかと言えば文化系だ。体育祭なんて面倒だと呟くタイプである。

 だけど、負けるなんて悔しいじゃないか。

 息が苦しい。
 胸がひきつったように痛いし、横腹は安定の痛みを訴えている。速く走るために地面を力強く蹴っているせいか、足はビリビリするし、既に髪の毛はボサボサ。
 イメチェンしたキャラらしくない。

(せめてあと一人……!!!)

 ギリッと歯を食い縛っていた口を開いて私はなにか叫びながら二人目を追い掛ける。「待てコラー!」とか叫んでいた気がする。
 そして、バトンを待つ風紀副委員長に目掛けて走った。バトンパスレーンで私は二人目を追い抜いたらしく、まだ、第四走者が三人残っていた。

 風紀副委員長の手に思いっきりバトンを叩き渡すと、風紀副委員長に声をかけられた。

「よくやった」

 そう声を掛けて走り出した風紀副委員長は速かった。あっという間に彼方へ。
 私は彼の勇走を眺める余裕もなく、横腹を抑えながらフラフラとトラック内に戻ると崩れ落ちる。

「アヤちゃん!?」 
「「先輩!!」」 

 ぜーぜーと苦しそうに息をして横腹を押さえていた私は駆け寄ってくる彼らを手で制した。

「救護所いく?」 
「だいじょぶ……やすめば、ゲホッ」
「すいません先輩! 私のせいで!!」
「あー気にしなさんな……」

 室戸さんが罪悪感を感じて謝罪してくるが、別に私は気にしていない。

(……あぁ、空が青いなぁ)

 グラウンドにごろりと仰向けになって空を見上げれば、どこまでも遠い青空が瞳に映る。

『キャー!!!』
 
 またどこからか女子の黄色い声がするが、私はもう燃え尽きた。もういいよ……もう……
 燃え尽き症候群にかかっていると、室戸さんや春日君が興奮しながら私に声をかけてきた。

「先輩! 一位ですよ!!」
「すげぇ! ぶっちぎりだ!!」

(ぶっちぎり……ということは)

「アヤちゃん! 逆転優勝だ!!」

 まさかのどんでん返しに私はガバリと起き上がった。黄色ブロックの面々は狂喜乱舞しており、トラック内の黄色ブロックの生徒も熱狂していた。

「マジか」





 そのあと閉会式が行われ、黄色ブロックに優勝杯が授与された。
 なんだかんだ言って優勝するとやっぱり嬉しいものだ。乗り気じゃなかった生徒もはしゃいでいる様子が見られる。
 
「続いて、MVP賞の発表になります。3年C組、たちばな亮介りょうすけ君に決定いたしました」

 風紀副委員長の名が呼ばれ、生徒達が拍手を送る。 
(だよなぁ功労者だし)

 だが、風紀副委員長はそれを辞退すると言い出した。

(なんだと!? MVPの賞品は食券なのに!! 10食分だぞ!? 何てもったいない!!)

 心の中でヤジを飛ばしていた私は、風紀副委員長がこっちを見た気がして思わず背筋が伸びた。

「2年A組の田端あやめさんの活躍があってこそ、僕は一位になれましたから」

 その一言で私に視線が集まる。
 おい、やめろ。
 私は注目されるのは苦手なんだ。

 ざわざわとみんなが騒ぐ中、壇上で授与する役回りの校長先生が咳払いをした。

「──特例で、二人に授与することとします」

 その言葉に私は目が点になった。

 なにそれ。ありなの?

 思考が追い付かない私とは違ってクラスメイト達は違ったらしい。
 私を前に押し出し、賞品と記念品を貰ってこいと促してくる。仕方なしに挙動不審になりながらも校長先生から受け取った。



「おい! 胴上げするぞ!」
「わーっしょい!」 
「わーっしょい!!」
「おい、おふっ」
「わーっしょい!」
「……」

 
 そのあと、私はクラスメイトだけじゃなく同じ黄色ブロックのお調子者男子たちに囲まれ、強制胴上げされた。
 調子に乗りすぎる奴等によって為されるがまま胴上げされる私であった。
 
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