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本編
見捨てたんじゃない。旅をさせたの。
しおりを挟む「あっ! あやめ先輩こんにちはー」
「はいどーも、こんにちは」
「先輩、今日も決めてますね!! かっこいいです!」
あの混合リレーが切っ掛けで1年の室戸実花になつかれた。
室戸さんは以前の地味な私と雰囲気が似ている。間違っても私のようなギャルギャルしい格好の人間とは関わりがないようなおとなしい子。
「先輩、テスト勉強してますか?」
「うんボチボチね。もう一週間前でしょ?」
「あの、どんな勉強してます?」
「んー。とにかく問題解いてるかなぁ。私、塾行ってないからネットとか本屋で問題集探して……」
室戸さんは小柄でくりっとした大きな瞳がチャームポイントで小動物を彷彿させる可愛らしい子だ。庇護欲が湧いて思わず彼女の頭を撫でてしまった。
学生の本分は勉強。私も例に漏れず勉強をしている。
これがチートというのかどうかはわからないが、女子高生二回目の影響なのか……授業を受けているときに「あ、これわかる」と既視感を覚えることが多く、多分前世の私が学んだこともうっすら覚えてるようなのだ。
ちょっとズルしているような気がしてならないが、悪い結果だと夏休みのバイトを禁止されるかもしれないので、ベストを尽くしたいと思う。
……そういえばテスト。
田端和真ルートのストーリーで期末テストの結果発表で成績が急落した和真がプライド折れたせいで荒れるというシナリオがあったなぁ。
でも正直、若い頃に毒を出しておいた方が良いんじゃないかな。悪いことするのは流石に止めるけど。和真が盗んだバイクで走り出したらぶん殴るけど。
個人的に……和真は今までが出来すぎたから挫折も味わうべきだと思うんだ。
これは姉としての意見だ。冷たいと感じるかもしれないが、和真はまだ子供だ。挫折を知らないと大人になってはじめて挫折した時きついと思うんだよ。
私は敢えて、攻略対象である弟の非行を止めないことにした。
☆★☆
期末テスト全日程を終えて、クラスの皆は早くも夏休みモードである。
私の目の前には前髪チョンマゲおでこをさらしながらにこにこ笑顔でチケットを見せびらかす沢渡君がいた。
「アヤちゃん、アヤちゃん。今度プールいかない?」
「…プール?」
「うちの父さんに割引券貰ったんだ。ユカちゃんリンちゃんも誘ってさ皆で」
「私パス」
折角の誘いだがお断りさせていただいた。
私はまだ目標体重に到達出来ていないのだ。今はちょうど停滞期なのか全く痩せる気配がない。それに夏休みはがっつりバイトに入る予定だ。
「えー!? なんで?」
「目標体重に到達してないから」
「大丈夫だよー女の子は少しポッチャリした方が」
「……私のこと、デブって思ってたってことね」
「えっ!? 違うよ! ちがうってぇ!」
かなり体重の事を気にしていた私は沢渡君のフォローをプラスに受け入れることはできなかった。沢渡君が隣で騒いでいるが、私は求人雑誌に目を落としてスルーしたのである。
キーンコーンカーンコーン…
チャイムと共に担任が教室に入ってきた。うちのクラスの担任は英語の教諭でもある。
「お前ら席つけーテスト返すぞー」
テストの返却の日がやって来た。今回英語は結構できたんじゃないかと思う。自己採点でも過去最高だったかもしれない。
「今回平均点上がってたぞ。よく頑張ったなー。だが夏休み中浮かれて勉強しないのはよくないからな」
そういうと、あいうえお順で名前を呼ばれる。皆順々にテストを返却され、私も名前を呼ばれたので教卓までテストを取りに行った。
「田端ぁ! お前今回よかったぞ! よく頑張ったなぁ」
「どーも」
「……本当に悩みはないのか??」
「ありませんて。……あ、この学校ってバイトオッケーでしたよね」
「!? お前金に困ってるのか!?」
「違いますけど、欲しいものがあるので」
学業に支障ない程度に、と念押しされた私はテストに書かれた点数を見てにんまり笑う。
──中間テストの順位の中の中から期末テストは上の中まで成績の上昇が見られた。
この結果に両親もアルバイトの反対はできなかったらしく、勉強をサボらないこと、ちゃんと門限には帰ることを条件に許してくれた。
……和真は、テストの結果が思わしくなかったようだ。
乙女ゲームのシナリオ通り、弟は日に日にグレている。最近、生意気にも弟はピアスを開けたり髪を染めだしたのだ。お前が言うなと言う話なんだけどね。ちなみにアッシュカラーにしていた。
今までが品行方正優等生タイプの弟だったので、それを見たときは思わず二度見してしまった。
あ、でも私がイメチェンしたときもそんな反応されたわ。
確か悪い友達と付き合いはじめて、夏休みに入ると夜遊びをするようになるんだ。
最近気になるのは弟とヒロインちゃんの接触がないことだ。乙女ゲームではもっと接触があったはずなんだけども。そしてヒロインちゃんの動向もわからない。
ゲームでは確か……夏休み中、和真が夜遊びしてるところで塾帰りのヒロインちゃんが他の不良に絡まれてるのをかっこよく助けるというイベントがあったけど、私門限あって見に行けないんだよ。門限破ったらバイトできなくなるし……
願うのは、グレるレベルが犯罪にならない程度であって欲しいということだ。
ホント盗んだバイクで走るのはダメよ。
窃盗と無免許だからね。
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