攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

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本編

美人が作ると倍美味しそうに見える。美人は本当に得だと思う。

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 ジュワァァァァ…
 200度に設定した油で仕上げ揚げされた唐揚げはカラッと揚がり、中々美味しそうに出来上がったと思う。
 私は唐揚げを冷ましている間に卵焼きを作成し、その他のおかずを大きなお弁当箱に詰めていった。

 今日は学校がお休みだが、私は朝からお弁当作りをしていた。普段は母が作ってくれたお弁当を持っていくが休みの日くらいは自分で作っている。

 時計を見て時間に余裕がある事を確認すると、お弁当を冷ましている間に自分の支度をしようと自分の部屋に一旦戻った。地味系からギャル系へと変身するために。

 準備を終えて台所に戻ると、そこでお弁当に詰めていた唐揚げをつまみ食いする弟の姿を目撃した。
 私は無言で和真の尻を蹴り飛ばす。

 ゲシッ!
「いってーな! なにすんだよ!」
「それはこっちのセリフだわ! 何食べてんだよ! これはあんたのじゃないんだからね!」
「いいじゃん沢山あるんだし。大体今日休みなのになんで弁当作ってんだよ。1人じゃ多くね?」
「図書館に行くんだよ。これは友達と食べるの。あぁ…隙間が空いちゃってんじゃないのよ…」

 和真がつまみ食いした唐揚げは一個や二個じゃなかった。唐揚げが入っているスペースはスカスカになっている。
 朝から唐揚げがっついてんじゃないよ…

 私は仕方なく、余っていた他のおかずを詰めてバランスをとる。唐揚げは余分に作っていなかったのだ。

 ブツブツ言いながらお弁当の蓋をしめて保冷バックに入れている私に和真は冷蔵庫から取り出したペットボトルの蓋を開けながら首を傾げて尋ねてきた。
 この弟、全く反省してないようだ。

「あぁテスト勉強?」
「あんたもちゃんと勉強しときなさいよ。じゃいってくるね」
「いってらー」

 私が荷物を持って玄関に向かっていくとリビングで呑気にテレビを観始めた和真が手を振って見送る。
 こいつは本当に大丈夫なのかと思いつつも、私は待ち合わせの時間に間に合うように家を出た。



 図書館は開館直後に速攻自習席は埋まっていた。皆考えることは一緒なのか。
 私は今回も席を無事に確保することができた。

「じゃぁまずこれね。解いてみて」
「わざわざ用意してくれたの!?」
「ついでだよ。私教えられるほど頭良くないからね。制限時間以内にやってみて」

 ネットで収集したり参考書から引っ張ってきた問題をパソコンで出力した私専用の問題用紙をコピーして沢渡君に渡す。
 人によって勉強の仕方は違うけど、私は問題解くのが一番だと思うんだよね。

 小声でやり取りした私たちは同時に同じ問題を解き始める。開始早々沢渡君がうーん…と早くも唸っていたけどこれ試験範囲だからね?

 その後私達は大人しく問題を解いて、制限時間を迎えるとお互いに自己採点を始める。

「…アヤちゃん…俺、絶望しか無い…」
「どれどれ……沢渡君…」

 沢渡君のテスト結果を見て、私まで絶望するしかなかった。私には彼を助けてあげることは難しいかもしれない…
 思わず頭を抱えた。


「…田端?」

 二人揃って絶望していた所、声をかけられて私はノロノロと頭を上げた。

「! 橘先輩、と…」
「あら、お久しぶりね。貴女もテスト勉強?」
「どうも…」

 そこにいたのは初めて見る私服姿の橘先輩と大人っぽいワンピースを身に着けた沙織さんだ。
 …なんで一緒にいるのだろう。
 私は二人の姿を見た途端胸がモヤついた。

 そんな私を尻目に女の子好きな沢渡君は速攻復活して「アヤちゃん! 誰!? 美人さん!」と小声で騒いでいた。
 こいつ…絶望してたんじゃないのかよ。

 私が沢渡くんを半眼で睨んでいると、橘先輩が声をかけてきた。

「沢渡とテスト勉強してるのか?」
「…泣きつかれたんです。進級危ういから助けてって」

 元風紀副委員長は校則違反者の顔をしっかり覚えているらしい。流石だ。沢渡君も注意したことがあるのだろうか。

「そうか…しかし今日は人が多いな。出遅れてしまった」
「…席確保できなかったんですか?」
「ああこの有様だ」
「そしたら「ここどうぞ! ここどうぞ!!」沢渡君は私の隣においで」
 
 沙織さんを隣に誘導していた沢渡君に私はしっかり釘を差しておいた。奴は不満そうな顔をしていたが、私は無言で私の隣を指差す。
 お前は勉強するためにここに来たんだろう。

 二人と相席することになり、私の対面の席に橘先輩が座って勉強道具を鞄から出していた。
 沢渡君はといえば目の前に座っている沙織さんにデレデレしていたので背中をビシッと叩いておいて、バツだらけのテストを沢渡君の眼前に突き出しておいた。

 周りに迷惑にならないように自分がわかる範囲で沢渡君に小声で教えていたが、人に教えるって難しい。
 そう考えると教師とか塾の講師ってのはすごいんだなと感じる。
 粗方教えた後はまた別の科目をテストして再び自己採点後に絶望した。たまたま沢渡君の苦手科目が2つ続いたのだと信じたい。



キーンコーンカーンコーン…

 勉強していると時間が結構経っていたのか、昼を知らせるチャイムが鳴った。

「十二時か」

 橘先輩はずっと黙々勉強していたがチャイムの音に顔を上げた。
 さっきから私と沢渡君は絶望していたのだが、その姿が視界に入ってうざくなかったのだろうか。ただ単に先輩の集中力がすごいだけなのか。
 席に誘っておいてなんだけど勉強の妨げになってるんじゃないかとちょっと心配になる。


「お腹すいたー。ねぇアヤちゃん休憩しよー」
「仕方ないなぁ。ご飯食べようか」

 私も疲れた。主に沢渡君のテスト結果のせいで。
 しかし休憩は必要なので、その提案に頷く。
 勉強道具はそのままにして貴重品とお弁当の入った保冷バックを持ち上げた。

「アヤちゃん外いく?」
「お弁当作ってきたから。沢渡君の分もあるよ」
「マジで!?」

 先程まで絶望していたというのに沢渡君はパァッと明るい笑顔になった。現金なやつだ。
 沢渡君。あんたもう少し落ち込んだほうがいいと思うよ。ホントにやばいから。

「あらそうなの? 良かったら私達と一緒に食べない? 私も作ってきたの」
「え」
「はいはーい! 食べまーす!」
「沢渡ここで騒ぐな」

 私の返事よりも先に沢渡君が快諾してしまって、四人でカフェテリアで食事をすることになってしまた。

 なんだろう。気まずいと思うのは私だけなのだろうか。
 私はため息を飲み込んで自分が作ってきたお弁当を広げる。

「わぁー! 全部アヤちゃんが作ったの!?」
「そだよ。はいお箸とおしぼり」
 
 私は沢渡君にそれを渡してちらりと橘先輩を見てみたが、沙織さんも同様にそれらを渡していたので要らないかと判断する。
 …しかしお似合いだ。絵に書いた美男美女カップル。端から見たら私達との組み合わせは異様だと思う。 
 片や品行方正な美男美女。片やギャル系男女。
 どういう知り合いなんだと思われるであろう。

「わぁ! 沙織さんのお弁当おっしゃれー!」
「有り合わせで作ったの。恥ずかしいわ」
 
 恥じらう美女、眼福である。
 いいな美人は存在するだけで華がある。

 沢渡君がはしゃいでいるのを半笑いで眺め、私は1人手を合わせていただきますと呟くと自分のお弁当に手を付けた。

 うん、唐揚げ美味しい。今日は塩からあげにしてみたがなかなか。
 沢渡君が沙織さんの作ったお弁当を質問攻めにしてはべた褒めしているのを聞きながら、午後はどう勉強を進めようかと考えていた。

 自分の勉強をまず進めないといけないから沢渡君を手助けできるのは今日だけだ。
 明日は自宅で勉強しよう。弟が勉強しているかも気になるし。

「…美味いな。田端は料理が得意なんだな」
「! そりゃどうも。お口に合ったなら良かった」
「それにしてもポテトサラダが多いな」
「和真につまみ食いされたんですよ。あいつ唐揚げが病的に好きで…余分に作ってなかったので隙間をポテトサラダで埋めたんです」
「そうか。田端姉弟は本当に仲がいい」

 私の話を聞いて小さく笑う橘先輩。
 私は自分の料理を褒められて何だかくすぐったい気持ちになる。ヒロインちゃんに褒められたときも和真に褒められたときも嬉しかったのだが、なんかそれとは違う恥ずかしさと嬉しさがあった。

 橘先輩は私の作ったお弁当を食べ続けていた。もしかして沢渡君が沙織さんのお弁当ばかりに手を付けているから気を遣ってくれたのだろうか?
 いいのだろうか。先輩は沙織さんのお弁当に全然手を付けていないけど。


「…亮介、私のも食べて? 頑張って作ったんだから」
「あぁ」

 私と橘先輩の間にヌッと現れたのは沙織さんの作ったおしゃれなお弁当だ。サンドイッチから始まってキッシュにスパニッシュオムレツ、鶏肉のトマトソース煮込みといったおしゃれなメニューだ。
 私はこういうおしゃれな料理にはあまり挑戦したことがないので素直にすごいなと感じる。私も一つ貰ったけど美味しかった。

「アヤちゃんのも美味しい! アヤちゃんはいいお嫁さんになれるね!」
「そりゃどうも」
「ていうか俺のお嫁さんになりなよ!」
「あっはっはっは。沢渡君冗談上手いなぁ」
「んもーいつもつれないんだからー!」
「それより沢渡君、あんたほんとに危ないんだから危機感持ちなよ。このままじゃ本当に進級できなくなるよ」
「!! アヤちゃん見捨てないで!」
「私は自分のことで手一杯なの! 明日からは自分ひとりで頑張りなさい」

 私は情けない顔をする沢渡君のおでこに張り手した。ペーン! といい音が響く。
 私達のやり取りを見て沙織さんがクスクス笑っていた。

「二人は仲がいいのね。付き合っているの?」
「いやいや勘弁して下さいよ。こんな手のかかる彼氏なんていりません」
「酷いよアヤちゃん!」

 私は手を振って否定する。
 手のかかる弟みたいで放っておけないけど、そういう対象では見れない。
 
「そう? お似合いだと思うんだけど」
「ははは…」

 そんな事言われても、見れないったら見れないんだよ。
 私は空笑いをして沙織さんの言葉を流していた。
 たまにこうやって世話焼いてくる人いるけど何なんだろうね。余計なお世話だと思うんだけど。


 私はさっさと食事を済ませようとそれ以上話すことなく、自分のお弁当を消費していった。
 目の前では沙織さんが中心になって話が盛り上がっていたが、私は返事を返すだけであった。
 時計を確認すると一時を回っていた。お弁当はまだ残ってるけど蓋を閉じる。

「アヤちゃん? まだ中身残ってるけど…」
「時間を見てみなさい。もう一時間経過したよ。休憩はおしまい。勉強しようね」
「えーっ!」
「文句あるなら私は帰る」
「待って待って勉強するから見捨てないで!」 


 片付けを済ませて席を立ち上がる私に沢渡君が慌てて立ち上がった。
 私はポカンと見上げてくる橘先輩と沙織さんに「お二人はゆっくりされててください」と声をかけて踵を返そうとしたのだが、ガシッと後ろから腕を掴まれて私はビクリと体を揺らした。


「!?」
「あやめちゃんも来てたんだ! 和真君は?」
「り、林道さん…和真は今日いないよ」

 私の腕にしがみついてそう声をかけてきたのは
林道寿々奈だった。私内心で「うわっ」と思ったが、かろうじて口にだすのは阻止した。
 和真の不在を伝えると彼女はあからさまにがっかりする様子を見せた。

「そっかぁ……あれ、橘先輩にあやめちゃんのお友達と…誰?」

 林道さんはここにいるメンバーをぐるりと見渡して、沙織さんを目に映すとキョトンとした。
 私は大きな声では言いにくいので彼女の耳元に口を近づけて小さく伝える。

「橘先輩の…元彼女さん」
「はぁ!? ちょ、ちょっと来て!!」
 
 林道さんはオーバーに驚く。
 まぁ沙織さんはゲームに出てくる人じゃないから、間違いなく転生者である彼女は混乱したのだろう。
 林道さんは私の腕を引っ張ってカフェテリアの隅っこの方に私を連れて行く。この人私よりも体が小さくて華奢なくせに力が強い。足がもつれそうになった。

 隅に行くなり、彼女は私の両腕をがっしり掴んで揺さぶってきた。ちょっと痛い。

「どういうこと!? なんで元カノが一緒なの!? ていうかなんであやめちゃんと同席してんの!?」
「勉強机相席した流れだよ」
「そうなの!? え、復縁なの!? 私知らないんだけど!」
「……私も知らないよ」

 なんで彼女がこんなに慌てているんだ。
 林道さんは和真狙いなんだから橘先輩に元恋人がいて復縁しようがなんにも不都合ないだろう。

「あやめちゃんはそれでいいの!?」
「はぁ? なんで私にそんな事聞くの」
「……まさか、気づいてないの?」
「何が? …もういい? 私勉強したいから」
「あっ! あやめちゃん!」

 意味がわからない。なんで私の気持ちを確認するのか。私はただの後輩なんだからそんなことに口出しできる訳がないというのに。
 まだなにか言いたげな林道さんの手を振り払って離れると私は先程まで座っていた席に戻る。

 三人が私を「どうしたの?」と言った目で見てくるが、何も言わずに二人に頭を下げて私はお弁当箱の入った保冷袋と貴重品が入ったカバンを持って沢渡君を促すとカフェテリアを出ていったのである。


 自習席に戻ったのはいいが、私はイライラしていた。
 それが林道寿々奈のせいなのかはわからない。彼女の言葉がきっかけだけど、なんだか…


 私がピリピリしているのに三人も気づいているのか、何も言わずに静かに学習している。
 本当に申し訳ない。

 もう、なんであの人はテスト前に限って私のペースを乱すのか。
 何が言いたいのか。
 私がなんだって?

 私はモブなんだから。あの人だってそう。
 ヒロインちゃんの邪魔をしてはいけないのに。
 攻略対象の先輩が誰を選んでもそれは彼の勝手で。
 ああイライラする。
 

 ボキリッ

 シャーペンの芯が折れた音が妙に自分の耳に大きく届いた。隣にいる沢渡君がビクリと肩を揺らす。

 この際…彼女と差しで話すべきのかもしれない。
 彼女の目的を聞かないで、このままもやもや煮え切らない気持ちでいる私がしんどい。
 もっと早く行動しておけばよかった。
 そう思って私は席を立ち上がる。

「ごめん、沢渡君。これあげるから後は1人で頑張って」

 自分が作ったテストを沢渡君に渡すと彼の返事を待たずに片付けをして1人で自習室から立ち去った。
 林道さんと一対一で話すために。
 


 彼女はカフェテリアにまだいた。スマホを眺めてぼうっとしていたので私は声を掛けた。


「林道さん」
「!」

 林道さんは私を見て驚いた顔をしていたが、私は一呼吸置いて彼女に言った。

「二人っきりで話したいことがあるんだけど、いいかな?」


 私は、ここに来て初めて彼女と正面から向き合うこととなったのである。
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