攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

文字の大きさ
76 / 312
本編

こんなエンドあったっけ。初めて見るパターンなんだけど。

しおりを挟む

 三年生卒業式前最後の登校日。
 その日も告白ラッシュは続いていた。

 私はといえば今現在中庭のベンチの裏で身を隠していた。
 その訳は目の前で行われている告白の邪魔にならないようにである。


「あの…卒業しても、また会いたいんだけどな…?」
「好意を持ってくれて嬉しいが…すまない」
「そ…そっか…」

 同じ三年生に告白されて振っている橘先輩。
 私は自分が言われた気分になって一人で凹んでいた。
 大体なんで好きな人が他の女の子に告白されてるのを眺めなきゃいけないんだか…

 振られた女子生徒が泣きながら走り去っていくのを橘先輩はため息を吐いて見送っていた。
 どうか私の存在が先輩にばれませんように…

 私は姿勢を低くしてその場から去ろうと移動を始めたのだが、その先でも告白が行われていた。

「本橋さん…良かったら俺と付き合ってほしいんだけど」
「…ごめんなさい…」

 ヒロインちゃんが三年生男子に告白されてこれまた振っているシーンである。
 みんなモッテモテだなぁ。
 …私はまたしばらく忍者ごっこみたいなことを一人でしていないといけないのだろうか…

 自分は売店に行こうと思ってちょっと横着して中庭をショートカットしていただけなのだ。そしたら橘先輩が告白されてるシーンにかち合ってしまった。

 それにしてもヒロインちゃんに告白してる人、結構イケメンだけどダメか。
 まぁよく知らない人に告白されても困るもんね。

 …はやくここから立ち去りたいなぁ。


「アヤメちゃーん? こんなところでなにしてるのー?」
ふぅっ…

 耳に息を吹きかけられ、私は「ひゃあ!!」と悲鳴を上げてしまった。
 耳を手で抑え、バッと振り返るといつの間にか私の後ろに接近していた久松の姿があった。
 私は自分が大きな声を出してしまったことに気がついてパッと口を抑えたけども、ヒロインちゃんと相手の三年男子にはバレバレらしい。目を丸くしてこちらを見てきている。

「あ、耳感じちゃった? アヤメちゃん感じやすいんだねぇ?」
「ちょっ寄るな! おい久松! ヒロ、本橋さんが男に告白されてるぞ! いいのか!?」
「大丈夫だよ~花恋は軽い女じゃないから~」
「だから私の首の匂いをかぐなと! 離せ!」

 久松に後ろから抱きつかれ、私はジタバタもがいていたが久松に完全ホールドされて身動きが取れなくなった。

 この間からコイツはなんなんだ! 何故私にセクハラしてくるんだよ!
 本命のヒロインちゃんの前でよくもこんな真似できるな!


「…久松。お前はあれだけ絞っても学ばんな」
「…うぇ、いたのー? もーいつも邪魔してくるんだから」
「彼女が嫌がっているのがわからないのか。早く離せ」
「イタタタタタ! ちょ、橘痛いって!」

 騒ぎを聞きつけた橘先輩に救出された私は何だか気まずくて先輩の顔が見れなかった。
 告白現場盗み見してしまった罪悪感が半端ない。

「久松君! 田端さんが困ってるでしょ? ダメじゃないの」
「なになにヤキモチ? 大丈夫だよ花恋が本命だから~」
 
 ヒロインちゃんが怒った顔して久松を注意するが、奴はヘラヘラ笑っているだけだ。しかもさらりと私が遊び相手認定されてるが、私にはそのつもり無いからね。久松とは関わりたくないんだよ。
 ヒロインちゃんお願いだからコイツだけはやめよう? ヒロインちゃんが泣きを見るだけだからきっと。

「田端、なぜここに?」

 ヒロインちゃんに心の中で話しかけていたら橘先輩にそこをツッコまれた。やっぱりそこ気になっちゃう?
 とりあえず嘘ついても仕方がないので正直に自供することにする。

「す、すいません見るつもりはなかったんですよ。邪魔しないように去ろうとしたらあの色魔に襲われました。助けてくれてありがとうございます…」
「…見てたのか」
「すいません…」

 項垂れる私に橘先輩は苦笑いするだけだったが、何かを思い出したように口を開いた。

「そうだ、田端今日の帰りのことなんだが」
「橘先輩! いまお時間よろしいでしょうか!」

 私に何かを伝えようとしていた橘先輩だったが、一年生の可愛らしい女子生徒がタイミング悪く声をかけてきたもんで肝心なことが聞けなかった。

 橘先輩は一瞬疲れた顔をしていたが「あとでメールする」と言って一年生女子の呼び出しを受けていた。
 …あれがモテる男は辛いオーラか。ジェラシー通り越してちょっと大変そうだなと私は哀れんでしまった。

 それにしても帰りのことって? 一緒に帰れないとかそんな話かな?
 別に毎日一緒に帰ってるわけじゃないから私にわざわざ断る必要はないんだけど先輩は気遣い屋だから仕方ないのかな。

 ここに居ても仕方がないし、昼休みがもうすぐ終わりそうだったので私は教室に戻った。
 先輩は後でメールくれると言っていたけども…放課後になっても来なかった。

 そんなに緊急の用件じゃないのかな?
 そう思いながら私は帰り支度をしたのである。



「花恋」
「…間先輩?」
「…ちょっと、いいか?」

 さぁ帰ろうとしたその時、教室の出入り口に間先輩が現れてヒロインちゃんを呼び出していた。

 私は『まさか! 生徒会長ルートのエンドか!?』と思って鞄を持つと慌てて二人の後を追った。
 本来なら明々後日しあさっての月曜日にある卒業式に攻略対象とのイベントはあるはずなんだけど色々おかしなことになっている乙女ゲームの舞台だ。フライングもあるのかもしれない。

 (元)生徒会長・間先輩は、あのコートの件でヒロインちゃんと距離が生まれていたけど…挽回できたのだろうか。
 私は二人にバレないように尾行する。

 二人について行くとやっぱり中庭に来ていた。中庭って告白スポットなんか?
 またまた私はベンチの裏に隠れて二人の様子をうかがう。趣味悪いかもしれないけどヒロインちゃんのイベントはやっぱり気になってしまうのだ。


「間先輩、どうかしたんですか?」
「…花恋、俺はお前のことが好きだ。俺は陽子の家の力を借りずとも自分の力で会社を大きくしてみせる。……だから俺についてきてくれないか…?」

 プロポーズかよ。
 この人元々のスペックは高いけど自信過剰だから、ちょっと気を抜くと手ぇ抜くからなぁ。…本当に大丈夫かな。
 しかも乙女ゲームとなんか台詞が違うし。
 ゲーム上では【お前が好きだ。俺の側にいてほしい】のシンプルな告白だけである。

 やっぱり現実とゲームの誤差は大きいな…
 これにて生徒会長ルートで舞台は終わりか…と私は勝手にしんみりしていた。
 なんか画面で見てきた乙女ゲームと違うけどまぁまぁ…。

 ここでヒロインちゃんは【はいっ!】って可愛い笑顔で返事をするのだがー…

「…ごめんなさいっ!」

 …あるぇー?
 ヒロインちゃん!? ヒロインちゃん台詞が違うよ!? ヒロインちゃんが断るエンドなんて初めて見たよ!?

 私はベンチから思わず顔を出してしまった。
 二人の間には微妙な空気が漂っている。

 間先輩はショックでフリーズしているし、ヒロインちゃんは沈んだ顔をしている。
 間先輩って今まで振られたこと無さそうだから余計ショックなんだろうな。青ざめて呆然としていらっしゃる。

「…なぜ…」
「ごめんなさい。私はやっぱりあっくんを忘れられないんです。…どうしてもあっくんと他の人を比べてしまう! 私はあっくんが今でも好きなんです!」

 …なんと。

 私までフリーズしてしまった。
 やばい。このままではヒロインちゃんはあっくんのことを引きずって素敵なJK生活が送れないんじゃないか!?
 人生は恋愛だけが全てじゃないよ?
 だけど存在しない男の子を想い続けても虚しいだけじゃないか! だって私なんだもん!

 私は罪悪感で一杯になった。
 私の行動でヒロインちゃんをそこまで思いつめさせる事になっていただなんて!

 だめだ、ヒロインちゃんは幸せにならないと!
 なによりも私が納得できない!


(…嫌われてしまっても仕方がない)
 
 私はずっと、あの子供の頃の写真を制服のポケットに仕舞っておいた。
 ヒロインちゃんに言うか言うまいか迷った際に入れておいてそのまま放置していたものなのだが…
 これを見せればきっとヒロインちゃんも納得してくれるだろう。

 うう、ヒロインちゃんに軽蔑の眼差しで見られることを想像すると胃が痛くなってきたが私は自分を叱咤し立ち上がる。


「ちょっと待ったぁ!!」

 なんかどこぞの婚活番組の横槍みたいだけど、私は二人の間に割って入っていく。
 それには間先輩もヒロインちゃんもぎょっとした顔をしていた。

 私はすぅっと息を大きく吸うと叫んだ。

「私も! 本橋さんに告白したいことがある!」

 思いの外、声が大きく響いてしまったけどもう後戻りはできない。
 それを聞いた間先輩が「はぁ!?」と騒いでいるが、それに構わず私はベンチをぐるりと避けてズカズカとヒロインちゃんに近づく。
 ぽかんとしているヒロインちゃんの前に立つと、制服のポケットに手を突っ込んで写真を取り出すと彼女の前に差し出した。

「…?」

 ヒロインちゃんは首を傾げながらその写真を受け取ると、目を大きく見開いた。

「…あっくん…?」

 私はとても心苦しかった。
 だけど、もう黙っていられなかったのだ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...