攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

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本編

卒業シーズンは告白ラッシュでもある。私もあなたに告白します!

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 呆然と写真を見つめるヒロインちゃん。

 緊張で自分の呼吸が乱れてきている気がしたが私は深呼吸をして強張った表情のままヒロインちゃんに告白する。

「ヒ…本橋さんの初恋の相手の正体は、私なの」
「…え」
「はぁ!?」

 ヒロインちゃんは私の告白に大きな瞳を限界まで見開き、目ん玉が落っこちそうになっている。
 ちなみに最後の声は間先輩である。
 この人落ち着きがないな。橘先輩を見習うべきだと思う。

 私はヒロインちゃんを見つめ、簡単に事情を説明した。

「私が小学生の頃、男の子になりたいと思ってた時期があって、男の子の格好をして男の子の振る舞いをしていたんだ」
「…田端さんが、あっくん…」
「本橋さんの初恋話を聞いた後に、この写真を見て思い出したの。お父さんの転勤で引っ越してお別れしたけど一時期一緒に遊んでいた“かれんちゃん”のことを」

 初めて会ったあの日をぼんやりとしか思い出せないが、私が友達と遊んでるのを羨ましそうにこちらを見ている女の子を見かけて誘ったのだ。
 仲間はずれは自分がされて嫌だったので自分はしたくなかった。
 その子は嬉しそうに笑ったがすぐに沈んだ様子で『でも…私足が遅いの…』と悲しそうに話していた。私は彼女にそんな顔をして欲しくなくて『じゃあオレが一緒に走ってやるよ!』といい格好をしていた。あの頃の私、自分のこと“オレ”って言ってたんだ。なりきってるよね。
 遊んでいるうちに彼女には笑顔が増え、すぐに仲良くなったし、友達の輪の中に溶け込んだ。

 私はそれが嬉しかった。
 可愛くて優しくて、花のように笑う彼女が大好きだった。
 あ、友達としてね?


 彼女の美しい初恋の思い出が私のせいで崩れ去っていくのに良心が傷む。

「あっくん…」

 ジワ…とヒロインちゃんの瞳に涙が浮かび、ボロボロと壊れた蛇口のごとく涙が溢れ出した。

「!? ご、ごっごごご、ごめん! 初恋の相手が実は女でしたとか言われたら傷付くよね! ほんっとにごめん! まさか地味で平凡な私を好きになる子がいるなんて思わなくて」
「あっくんは地味で平凡なんかじゃない! …あっくんは私のヒーローなの。私にとって王子様だったの。…悪く言わないで!」
「ご、ごめんなさい」

 なんか怒られた。
 私は首をすくめて謝罪する。
 ヒーローで王子様か…やばいな。私かなりのことやらかしてしまったな。
 そのせいで乙女ゲームどおりに進まずにヒロインちゃんは攻略対象の誰ともくっつくこともなくゲームの舞台は終わりを迎えようとしている。
 モブのくせに私は何してんだ…

 あー…どうしよう…ヒロインちゃんを泣かせてしまった…

 こうなることも予想していたが実際に泣かれると少々凹む。

「…騙すような形になって…ごめん」
「…あっくん、こんなに側にいたんだね…」
「すいません…」
「謝らないで? …実はね田端さんがたまにあっくんに見えることがあったから、今納得がいった」
「…え?」

 私があっくんに見えた?
 だけど私は今、面影なくすほど化粧してて元の地味顔をヒロインちゃんにあんまり見せていないのでその言葉に思わず首を傾げる。
 修学旅行の夜とか? 化粧落としてたし。

「…夏祭りに私の下駄を直してくれた時、一緒に花火を見ようって誘ってくれた時、階段から転落した私を庇ってくれた時…」

 ヒロインちゃんははらはら涙を零しながら例を上げていく。
 え、そんなことで? と私は疑問に思っていたが、ヒロインちゃんは涙を流しながらも笑顔を浮かべていた。

「それに土壇場で強くなれるところとか」
「え? 土壇場?」
「体育祭のリレーやドッジボールの決勝とか。あっくんも追いつめられた時とっても強かったから。負けず嫌いっていうのかな?」
「…そうだったっけ?」

 首を傾げる私にヒロインちゃんは「うん」と大きくうなずいた。

「私の大切なコートを綺麗にしてくれた時もそう。あっくんはいつだって人に優しくて、自分ができるベストな解決方法で人を助ける優しい人だったもの」
「そ、そうかな?」

 短い期間しか遊んでいないのに…ヒロインちゃんちょっと初恋を美化しすぎじゃないの?
 何だか首が痒い気がして手で擦る。私本当に褒められ慣れてないんだよ。めっちゃくすぐったい。



「…あっくん」
「! はい」

 ヒロインちゃんが真剣な眼差しで私を見つめてきた。私はつられて居住まいを正すと彼女の目を見つめ返す。

「…私はあっくんのことがずっと好きでした。きっと…しばらくはあっくん以上の男の人には出会えないと思う…」
「…ぅ、うん……」

 やっぱり…
 私の何気ない行動がヒロインちゃんの理想を高くしていたのか!! 
 大したことしてないと思うんだけど、どこかツボに入ったんだろうね…

 ヒロインちゃんの言葉に罪悪感で一杯になっていた私。目の端に映る間先輩がすごい顔して固まっている。
 ごめんよ…私が生まれ落ちてきたのがそもそもの間違いなんだよ…

 間先輩に心の中で謝罪していると、私の手を柔らかいスベスベの手が握る。
 そう、ヒロインちゃんに手を握られたのだ。

「あっくん…ううん、あやめちゃん。改めて私とお友達になって下さい」
「喜んで!!」
「良かったら一緒に帰ろ? お茶に付き合ってくれたら嬉しいな」

 照れくさそうに微笑むヒロインちゃん激かわ。
 胸がキュンキュンしてしまったわ。
 おいおい私が攻略されてるやないか!
 
 私は迷わずに即答した。

「行く行く! 一緒に帰ろ!」
「やったぁ! 下駄箱で待ってて! 鞄取ってくるね!」


 ヒロインちゃんはいつもの花咲く笑顔で小走りで駆けてった。そんな慌てなくても今日は金曜だからゆっくり出来るよ? 

 私はウキウキして踵を返そうとしたら、その場に取り残された間先輩の存在に気がついた。

「はっ! すいませんでした傷心中の所妨害して!」
「…お前……お前が花恋を」
「本当にすいません! 悪気はなかったんですけど…でもほら、私達女同士ですし、間先輩も頑張ればワンチャンありますよ!」
「うるせぇよ! 大体お前はなんなんだ! いっつも邪魔してきて!」
「…いつも? いやいや邪魔してるつもりはなくてですね、タイミングがどうも悪いと言うか…」
「お前絶対許さねーからな! 覚えとけよ!!」


 間先輩に宣戦布告された私は、肩を怒らせて立ち去る彼を見送ると肩をすくめたが、今はとりあえずヒロインちゃんだ。
 ウキウキ気分が抑えられずに浮かれ気味に下駄箱に向かって靴を履き替えようと下駄箱を開けたその時、彼に呼び止められた。

「田端!」

 おぉ、帰り際にも橘先輩に会えた!
 ヒロインちゃんもとい花恋ちゃんとも友達になれたし、なんか今日は自分ツイている気がする!

「田端、良かった。まだ学校にいたか」
「あ、先輩今お帰りですか?」
「あぁ…田端、その」

 なんだか先輩は緊張したような面持ちで何かを告げようとしていた。
 はて、どうしたのだろうか。
 私は首を傾げながら彼の言葉を待つ。

「いっし「あやめちゃーん! おまたせぇー」…」
「本橋さん! 全然待ってないよ~」

 先輩がなにか言い掛けたその時、ヒロインちゃんがはしゃいだ様子でやってきた。私はヒロインちゃんの笑顔につられてヘラヘラ笑い返す。

「やだそんな他人行儀止めて? 花恋って昔みたいに呼んでよ」
「…花恋、ちゃん?」
「なぁに? あやめちゃん」

 やだぁ照れくさい! 女の子同士なのに!!
 キャッキャとはしゃぐ私達を異様なものを眺めるかのような顔をした橘先輩。
 私はそんな先輩に用件を聞こうと首をかしげる。

「すいません話の途中で。…どうかしたんですか?」
「いや……随分…仲が良くなったんだな」
「昔遊んだことのある友達だとわかったんです! 私達今からお茶しに行くんですよ!」
 
 ヒロインちゃんもとい花恋ちゃんがキラキラした可愛い笑顔でそう言うと先輩は目を丸くした。
 あっ、先輩もとうとうヒロインの魅力にやられたのか!? 今更すぎないか!?
 私は思わずハッとしたが、何故か先輩はなんだかがっくりした様子に。

「…橘先輩?」
「……いや、今度でいい」
「え? なんか用事があったんじゃないんですか?」
「いいから」

 なんか若干投げやり気味なんだけど先輩どうしたの。

「今夜電話しましょうか?」
「…電話じゃ言えない」
「えぇ? なんですかぁ。じゃあ今聞きますよ?」
「いいから。じゃあな」

 ワッシャーとまた犬のように私の頭を撫でてきた。 
 先輩が帰っていく姿を私は頭をボッサボサにしたままポカーンと見送った。
 
 …なんだったの?


 橘先輩のことが少し気になったけど、花恋ちゃんとお茶したりショップを冷やかしたりして楽しんでたら一瞬その事を忘れていた。

「あやめちゃんって橘先輩のこと大好きだよね」
 
 花恋ちゃんに言われたその言葉に私は飲んでいたお茶をむせた。
 この子にもバレてたのか。私考えてることが顔に出るのかな?

「告白とかしないの?」
「うーん…ちょっと…迷ってる…」
「そっかぁ…でも後悔しないようにね? 私は“あっくん”に告白しないまま引っ越してかなり引きずったから」
「耳が痛いなぁ」

 そうなのだ。
 私は迷っていた。
 初めは黙って見送ると決めていた。後輩のままでいようと思っていた。

 …だけど、欲が出てしまった。これからも彼の隣にいたいって。
 …駄目なら駄目で、スッキリ諦めきれると思う。

 …後悔しないように、か。


「……」
「あやめちゃんがしたい様にするのが一番だよ。…そう言えば髪の根本大分黒くなったね? また染めないの?」

 花恋ちゃんの指摘に私は自分の髪の毛を触る。
 去年の年末バイトのために染めたハニーブラウンは根本が黒くなっていた。染めよう染めようと考えてたが時期を逃していたのだ。
 ふと、今歩いている通りに自分が通っている美容室があることに気づいて私は一緒にいる花恋ちゃんに確認した。

「…ちょっと寄りたい所があるんだけど行ってきてもいいかな? 予約できるか確認してきたいんだ」


 自分のしたいように、後悔しないように。
 

 私はモブだと思っていたけども…未来を望んでもいいのだろうか。
 答えはわからない。

 まだ迷う心を見ないふりして私は行きつけの美容室の扉を開いた。
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