攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

文字の大きさ
89 / 312
続編

大切なのは中身。そう胸を張れたらいいけど難しい。

しおりを挟む

「ねぇねぇ和真、今度あたしとプリ撮ろうよ!」
「和真君は莉理とクレープ食べに行くの!」
「……………」

 
 今、目の前で弟のトラウマ(仮)が弟にからむ光景が広がっていた。
 和真は慣れた様子で音楽を聞いてシカトしているが、女の子たちの勢いは増していた。

 彼女たちは同じ幼稚園だった子達で、和真のお嫁さんになる! と意気込み、和真を困らせた挙げ句に泣かせた肉食系幼女だった子達だ。
 違う校区だったので小学・中学は違うし、高校も違ったというのに電車で遭遇してしまった。
 和真ほどの美形になると会うのは幼い頃以来でも覚えているものらしい。


(…うん、弟よ。強く生きろ)

 私は弟に逞しくなってもらうために見て見ぬふりをした。
 したのだが、背を向けた瞬間私のスマホが振動して弟から脅しとも取れるメッセージでヘルプが来たので仕方なく救出しに行くことになった。

 私の写真で脅すのはやめなさいって。
 拡散もすんな。私の寝顔いつ撮ったんだあんた。 


 朝っぱらから濃いメンツに絡まれた弟を助けた私はもれなく肉食系女子の顰蹙ひんしゅくを買ったが自分が和真の姉であることを表に出して偉そうにしたら向こうは引いてくれた。

「和真ぁメッセージちょうだいね? 約束だから」
「莉理待ってるからね」

 彼女たちは私達姉弟が高校近くの駅で電車を降りるまで、甘ったるい声で和真にそう念押ししていた。
 二人共中々可愛い子たちなのだが、ガツガツしてるんだよね。和真は肉食系女子が苦手だからなぁ…。喰われそうで怖いみたい。
 和真は朝から大変ご機嫌が悪かった。

「あんたもいい加減自分で女をあしらえるようになりなさいよ」
「…言っても聞かねーんだよ」

 モテすぎるのも考えものなのかも。
 昔からなので私はもうこの風景を見慣れてしまっているが、女の子にアプローチされている和真が勿体ぶっているわけじゃなくて、うんざりしているのもわかっている。
 私はそれを一度でいいから味わってみたいと思っていたが、モテすぎて困ってる弟を目にするとやっぱり嫌かもと思ったり。
 あ、モテてみたいと思ったのは決して浮気じゃないよ! 私は亮介先輩一筋だからね!

 彼女たちとは学校も違うし、家も遠いし、そう簡単に遭遇しないだろうと私は踏んでいたのだが肉食系女子は強かった。




「和真ー! あたし昨日ずっと連絡待ってたんだからぁ!」 
「…なんでここにいるわけ?」
「だってーこうでもしないと和真会ってくれないでしょ?」

 あざとい上目遣い。
 藍那あいなちゃん強いなぁ。昔から積極的だったけどそのまま成長した感じだ。
 気が強そうな女の子でギャル系なのは私と同じだけども、ぶっちゃけ藍那ちゃんはギャルメイクしなくても十分可愛いのに勿体無い気がする。


「和真君はいこれ! 調理実習で作ったの!」
「…いらね」
「そんな事言わないで? 莉理頑張って作ったんだよ?」

 莉理りりちゃんは健気そうに見えて実は虎視眈々と狙っている。ロールキャベツ系女子という称号を与えたい。
 ロリ系統なのが林道さんと被るけど、こっちは巨乳の持ち主だ。女の私でも思わずそのお胸様に目が行くのに和真ときたらアウトオブ眼中である。
 興味が無いのか乳派ではないのか。

 弟の性癖は別に知りたくないのでどうでもいいが、和真は彼女とか作ったりしないのであろうか。


「ちょっと和真君! この子達誰!?」
「…めんどくせ」
「…誰この女」
「和真君、こんなまな板女相手にするわけないよね?」
「まな板!?」

 そこに林道さんが加わってもう大変だ。
 高校の正門では一人の男を巡って三人の女が睨み合うという構図ができあがっていた。
 わぁ混ざりたくないなぁ。私帰っちゃ駄目かな。

 しかし人の身体的特徴を突くのは良くないと思うんだけどな。いくら自分が体型に恵まれてるからってそれはいただけない。
 すごく関わりたくないけど私はその渦中に足を踏み入れた。

「…莉理ちゃん、人の身体的特徴をやじるって趣味悪いと思うんだけどな?」
「! 和真君のお姉さん…」
「あんた達さ…和真の容姿しか見てないよね。和真がそんな女に惹かれるとでも思ってんの? ていうか和真の中身に惚れた女じゃないなら小姑の私が妨害するからね」
「「はぁ?!」」
「和真、ちゃんと自分で片を付けなさいよ」

 弟にそう念押しすると、自分の胸に手を当てて「まな板…」と凹んでいる林道さんの背中を押した。
 スレンダーなのを密かに気にしていたようだ。

 珍しく凹んでいる彼女を駅まで連れて行ったはいいが、どうしよう。彼女の家は私の最寄り駅の先なのに。
 暗い表情をしている林道さん。どうにも気まずくて私は声を掛ける。

「えっと…スレンダーも味があって良いと思うよ? マニアいるくらいだし…」
「あやめちゃんひどい! あやめちゃんもそんな事思ってたの!?」

 林道さんをフォローしたつもりだったが私も自分で言っておいて何言ってんだろうとは思った。
 林道さんがジワジワ涙目になって私を睨みつけてくる。
 ごめん、本当にごめん。

「あやめちゃんは胸が大きいからいいけど、私は切実なんだよ!」
「は!? ちょ、声大きい!」
「あやめちゃん位、私もフカフカになりたい!」

 なんで私の胸の大きさを知ってるんだこの人!
 ていうか平均サイズだよ! 巨乳みたいな言い方しないで欲しい。

 公衆の面前でそんな事を暴露されて私は慌てる。
 ワタワタと彼女の口を抑えようとしていたら、たまたま同じ電車に乗り合わせたとある人物と目が合った。
 いたのか、橘兄。

 …スッ。

 彼は私からそっと目を逸らして聞いてないふりをしてくれたが……なんだろう、この微妙な感じ。
 これを弟さんにバラさないで下さいね? お兄さん…。
 橘兄に変なこと知られて私の心中は荒れはじめていた。

「和真君絶対がっかりしたよね? …私だって大きくなるように頑張ってるんだよ?」
「いや、そんな事無いよ。そもそも期待もしていないから大丈夫だと」
「あやめちゃんひどい!」
「……」

 じゃあなんて言えばいいんだ。
 私は無駄に期待させるほうが残酷だと思うんだけども。

 あの場に放置しててもどっちにせよカオスだったに違いないから彼女だけ引っ張って来たけどもそれが間違いだったのか…
 電車で泣き出してしまった林道さん。乗客から突き刺さる視線を感じて私は途方に暮れた。

「あー。えっと和真は別に巨乳好きじゃないし…うん」
「でもないよりあるほうがいいでしょ! 男の人って皆そうだもん!」
「うーん、私男じゃないからその辺わからないなぁ…」
「好きな子ならサイズは気にならないけどな俺」
「「?」」


 突然横から割って入ってきた声に私だけでなく林道さんも肩を揺らした。
 先日高校を卒業して大学入学を控えているので制服ではなく、私服姿の波良さんがそこにいた。
 彼が持っている大きな紙袋には大学のロゴが入っており、学用品でも買いに行っていたのだろうかと推察する。
 私の隣の座席に座ったかと思えば、身を乗り出して私を挟んで向こうにいる林道さんに話しかけてきた。
 私を挟んで話しにくくないのだろうか。林道さんの隣に座ればいいのになんでここに座るかね。

「寿々奈ちゃんも健気だなぁ。だけど和真がそんなちみっちゃいこと気にする男だと思うか?」
「…そんな事無い…と信じたいけど…」
「心配せずともそのうち大きくなるって。あれだったら和真に頼んでみたら?」
「え?」

 波良さんの言葉に林道さんは目をキラキラさせた。
 しかし私は嫌な予感がしたので波良さんの口をベチッと手のひらで塞いでおいた。

「セクハラやめて下さい」
「いってぇ、ちょっとあやめちゃん痛いんだけど」
「確証もない事を林道さんに教えないで下さい。それとそういう事を勧めるのもやめて下さい」

 私は軽蔑の眼差しを波良さんに送る。
 この人爽やかだと思っていたけども全然そんな事ないな。爽やかにセクハラしてくるやつだ。
 爛れた関係ダメ絶対。小姑は許しませんよ。

「えー? あやめちゃんだって彼氏にしてもらってるでしょう?」
「先輩がそんな事するわけ無いでしょう! 私を大切にしてくれてるんですから!」

 まだ付き合って一ヶ月も経ってないんだぞ。
 恋愛初心者の私を気遣って亮介先輩は清い交際をしてくれている。私はそれに満足しているし、それだけで幸せだ。
 私の彼氏様は私が焦らないようにと気遣ってくれているのだ。私は大切にされているからね。
 フン、と自慢げに波良さんを見上げたのだが、彼は衝撃を受けた顔をしていた。今にも目玉が飛び出そうになっているけどそんなにびっくりすることだろうか。

「ウソでしょ!? いやいやあやめちゃんの彼氏も男なんだから!」
「知ってますよ。どう頑張っても女には見えません」
「そうじゃなくて! …嘘でしょ!? 俺には無理だわ! あやめちゃんの彼氏って本当に男!?」 

 波良さんがなんか騒いでるが、面倒なので私は相手をするのを放棄した。
 波良さんの目には先輩が女に見えるのか。眼科に行くことをおすすめする。
 そんなこんなしていると最寄り駅に着くとアナウンスが流れたので私は座席を立ち上がった。

「じゃあ林道さん、あまり気に病まないようにね」
「え、あ、うん」
「待って待ってあやめちゃんガチなの!? どんだけなの!?」
「波良さんうるさいです」

 駅が同じ波良さんと下車したのだが、波良さんをあしらって帰宅しようとしていた私を呼び止めた橘兄に「…あまり、弟を追い詰めないでやってくれ。あいつも男だから」と言われた。

 追い詰める?
 何いってんだこの人。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

処理中です...