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続編
私は恋愛偏差値が低い。ついつい臆病になってしまうのだ。
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中間テストを終えた今日、私はとある国立大学の見学に来ていた。
私立に比べたら施設の設備の点で劣る部分もあるが、この国立大学は歴史が長いだけあって多くの著名人が通っていたそうな。
オープンキャンパス時期じゃない為、授業を受ける事はできなかったけども、見学した図書館の蔵書数はとてつもない量。本棚に並べられた蔵書の背表紙を眺めているだけで歴史の深さを感じた。自分が志望している理工学部のカリキュラムも私の興味をひいたし、生活圏にある立地なのも魅力的だ。
私が一番目をつけているのは学費。国立もけして安くはないが、私立だともっと高くなる。
自分の学力が及ぶかは定かではないが、進学先候補の一つにこの国立大学を入れようと思う。
一通り見て回った私は構内のベンチに座って、大学側から貰ったパンフレット類を整理して鞄に仕舞い込んだ。
初夏のこの時期に見学に来る人は少ないようで、制服姿の私はここでは浮いている気がする。
…そうだ、亮介先輩に連絡しようとスマホを取り出した私は液晶に表示された電話番号をタップして彼に連絡をとった。
今日私は、彼が剣道している姿を初めて見るのだ。
☆★☆
「キェェェェ!!!」
「ヤァァァァア!!!」
「ぅえーい!」
「………」
わたし、あやめ。
今、道場で剣道の練習稽古を眺めてるの。
めっちゃビビってる自覚はある。
気合の声って言うの? 和真の道場でもよく聞いてたけど、剣道の声すごい…
たまに変な声出してる人いるし…あの人対戦相手からメッチャ打たれてるけど大丈夫?
お面で顔は隠れてるけど、亮介先輩はやっぱりカッコいい。気合の声が少し怖いけど観に来てよかった。
時折変な声を上げる人のテンションが頂点に達したのか甲高い裏声になって来た頃、サークルの部長らしき人が止めの合図をしていた。
サークル生たちがお互いに礼をして、作法に則って防具を外している姿を私は静かに眺めていた。
稽古場所は神聖な場所であり、危険な場所だからここから動くなと先輩から指示を受けていたので、道場の隅っこで私はお行儀よく待機している。
……なのだが。その事を知らないのか、堂々と道場を突っ切る人物がいた。
「橘くーん! カッコよかったー!」
その人物はあろう事か、私の彼氏様に抱きつきおった。
私は正座待機のまま、カッと目を見開く。
だけど動く訳にはいかない。
だってここで待てと言われてるのだもの!
キャラメル色の艶のある髪はキッチリ巻かれており、メイクも洋服も今の流行をしっかり取り入れている。大人っぽいその人は頭の先から爪先までしっかり手入れされていた。
制服姿の自分が子供っぽい気がして何だか恥ずかしくなった。
その人はキラキラのネイルがされた手を亮介先輩の腕に絡めると、にっこりと微笑んでいた。
…沙織さんとタメ張れるくらい美人だ。おっとり清楚美人の沙織さんと違うタイプの派手な美人だけど。
「…稽古場所に入ってこないで頂けますか? 光安さん」
「いいじゃないの~稽古終わったんでしょ? ご飯行こうよ!」
彼女は自分を魅力的に見せる方法がわかっているのか、絶妙な角度からの上目遣い+甘えた声でお誘い+先輩の腕へ意図的にムギュ、と胸を押し付けていた。
なんてことを!!
私は悔しくて唇を噛んだ。
今すぐに特攻したい! だけどここから動けない……
ちょっと先輩!? なんなのその人は!!
「…何度も言ってますが、そういうお誘いはお受け出来ません」
「なんでよ! ていうか敬語はナシで良いって言ってるのに」
「離して下さい。年上の方には敬語を使うようにと躾けられていますので…失礼します」
そうクールにお断りした亮介先輩は、そっと彼女の腕を外すと小脇に防具や竹刀などを抱えて私の元にやってきた。
「あやめ、着替えてくるからもう少し待っててくれるか?」
「………」
「あやめ?」
私は亮介先輩をジト目で睨んだ。
先輩は美女の誘いをキッパリ断っていた。断っていたけども私は嫉妬していた。
他の女の人にベタベタ触られていた…! 何度もやり取りがあった口振りだけど、先輩ったら私がいない時いつもそんな事させてるの?
「…私、嫉妬してるんですけど」
「…アレは俺の意思ではないんだが」
「ハグを所望します」
じゃなきゃ私は機嫌が治らない。ハグをしてくれ。
ん。と座ったまま手を広げると、先輩は呆れたようにため息を吐く。
「後でな。すぐ戻るから」
私の頭をポンポン撫でると、先輩は踵を返して道場を出ていってしまった。
私は先輩の撫でポンに絆されてしまった。撫でポンは卑怯だぞ先輩……!
先輩が立ち去っていくのをポヤーンと見送る私の頬はきっと赤く染まってるに違いない。
「…あなた、橘君の…彼女だったりするの?」
気分が浮上していた所に、私に声を掛けてきたのはあの美女。
彼女は私をジロジロ眺めて、鼻で笑った。
カチンと来たぞ。
沙織さんはそんな失礼な事しなかったのに!!
同じ美人でも天と地の差だな!
笑われて黙っている性分でもない私は正座して痺れた足を抑えながらゆっくり立ち上がった。
しびれるけど…我慢だ……が、ま、ん…
その人の身長も沙織さんと同じくらいだ。
スタイルはスラッとしている沙織さんに比べて、この人のほうが肉感あるけど、私とそう変わらないかも。
私は負けじとドヤ顔で相手にはっきりと返事してやった。
「そうですけど? 私、亮介先輩の彼女なんです」
私は弟のような美形ではない。ただの地味な女子高生だ。
だけどそんな私を彼は好きと言ってくれたし、大切にしてくれてる。…負けてなるものか。
私の反応に彼女は少しばかり驚いた様子であるが、すぐに見下すような顔をした。意地悪そうな笑みを浮かべて、真っ赤に塗られた唇を歪めている。
「……まぁ、時間の問題かしら?」
「…え?」
意味深な一言を残してその人、光安さんという人は道場から立ち去っていった。
なんだって? 時間の問題?
…どういう意味なの?
意味がわからず、私はポッカーンとしていたのだけど、亮介先輩が着替えを済ませて私を呼びに来たので、彼と一緒に道場を後にした。
「あの人誰ですか…」
肩を並べて歩いていた亮介先輩に私はムッスリした顔で質問した。先輩は全くあの人に興味が無いみたいだけどやっぱり面白くない。
「去年の大学祭でのミスコンの優勝者らしい。学部は違うから接点はないんだが……俺はその気はないからな」
「わかってますけど…なんか嫌なんですもん…」
わかっている。
きっぱり断っているのをこの目で見たのだから。先輩はそんな不誠実な人じゃないって知ってる。
……でも…
「美人さんでしたね…」
容姿は整形でもしないと変えられない。化粧をしても限界はある。
別に自分の顔が嫌いなわけじゃない。地味だなぁとは思うけど。…だけど周りから与えられたコンプレックスは根深いのだ。
私は無意識に自分の頬を両手で覆って唸っていた。
「あやめ、ほら」
「え?」
「ハグしてほしいって言ってたろ」
「!」
そう言って両手を広げて待っている亮介先輩の胸に私は迷わずに飛び込んだ。
先輩にギュウウ、と抱きついて充電をする。
先輩の腕が私の体を包んでくれて、守られてるなぁって安心感が湧いてくるからハグが大好きなんだ。
胸の奥から大好きだって、幸せでいっぱいな気持ちが溢れ出してきて、私は笑みを浮かべていた。
「せんぱい、すき。だいすき…」
「…俺もだ」
先輩の唇が私の頭に降ってきた。
それだけじゃ足りなくて、顔を上げてつま先立ちすると、私は先輩の首に抱きついてキスを強請《ねだ》る。
先輩の顔が近づくと同時に私は目を閉じた。
私と先輩はきっと釣り合っていない。
だって私は化粧で派手になっているだけの元は地味顔なんだもの。こうして先輩の彼女になれたのは奇跡でしかない。
だからこそ不安なのだ。
どんなに努力しても限界はある。
いつか先輩が私よりもキレイな人を選んじゃうんじゃないかって何処かで怯えているんだ。
こういう時、普通のカップルは相手に不安を打ち明けるものなのだろうか?
重いと感じられないだろうか?
言ったとして相手を困らせてしまうのではないだろうか?
ようやく甘えられるようにはなったけど、根本的な部分で私は甘え下手なままであった。
私立に比べたら施設の設備の点で劣る部分もあるが、この国立大学は歴史が長いだけあって多くの著名人が通っていたそうな。
オープンキャンパス時期じゃない為、授業を受ける事はできなかったけども、見学した図書館の蔵書数はとてつもない量。本棚に並べられた蔵書の背表紙を眺めているだけで歴史の深さを感じた。自分が志望している理工学部のカリキュラムも私の興味をひいたし、生活圏にある立地なのも魅力的だ。
私が一番目をつけているのは学費。国立もけして安くはないが、私立だともっと高くなる。
自分の学力が及ぶかは定かではないが、進学先候補の一つにこの国立大学を入れようと思う。
一通り見て回った私は構内のベンチに座って、大学側から貰ったパンフレット類を整理して鞄に仕舞い込んだ。
初夏のこの時期に見学に来る人は少ないようで、制服姿の私はここでは浮いている気がする。
…そうだ、亮介先輩に連絡しようとスマホを取り出した私は液晶に表示された電話番号をタップして彼に連絡をとった。
今日私は、彼が剣道している姿を初めて見るのだ。
☆★☆
「キェェェェ!!!」
「ヤァァァァア!!!」
「ぅえーい!」
「………」
わたし、あやめ。
今、道場で剣道の練習稽古を眺めてるの。
めっちゃビビってる自覚はある。
気合の声って言うの? 和真の道場でもよく聞いてたけど、剣道の声すごい…
たまに変な声出してる人いるし…あの人対戦相手からメッチャ打たれてるけど大丈夫?
お面で顔は隠れてるけど、亮介先輩はやっぱりカッコいい。気合の声が少し怖いけど観に来てよかった。
時折変な声を上げる人のテンションが頂点に達したのか甲高い裏声になって来た頃、サークルの部長らしき人が止めの合図をしていた。
サークル生たちがお互いに礼をして、作法に則って防具を外している姿を私は静かに眺めていた。
稽古場所は神聖な場所であり、危険な場所だからここから動くなと先輩から指示を受けていたので、道場の隅っこで私はお行儀よく待機している。
……なのだが。その事を知らないのか、堂々と道場を突っ切る人物がいた。
「橘くーん! カッコよかったー!」
その人物はあろう事か、私の彼氏様に抱きつきおった。
私は正座待機のまま、カッと目を見開く。
だけど動く訳にはいかない。
だってここで待てと言われてるのだもの!
キャラメル色の艶のある髪はキッチリ巻かれており、メイクも洋服も今の流行をしっかり取り入れている。大人っぽいその人は頭の先から爪先までしっかり手入れされていた。
制服姿の自分が子供っぽい気がして何だか恥ずかしくなった。
その人はキラキラのネイルがされた手を亮介先輩の腕に絡めると、にっこりと微笑んでいた。
…沙織さんとタメ張れるくらい美人だ。おっとり清楚美人の沙織さんと違うタイプの派手な美人だけど。
「…稽古場所に入ってこないで頂けますか? 光安さん」
「いいじゃないの~稽古終わったんでしょ? ご飯行こうよ!」
彼女は自分を魅力的に見せる方法がわかっているのか、絶妙な角度からの上目遣い+甘えた声でお誘い+先輩の腕へ意図的にムギュ、と胸を押し付けていた。
なんてことを!!
私は悔しくて唇を噛んだ。
今すぐに特攻したい! だけどここから動けない……
ちょっと先輩!? なんなのその人は!!
「…何度も言ってますが、そういうお誘いはお受け出来ません」
「なんでよ! ていうか敬語はナシで良いって言ってるのに」
「離して下さい。年上の方には敬語を使うようにと躾けられていますので…失礼します」
そうクールにお断りした亮介先輩は、そっと彼女の腕を外すと小脇に防具や竹刀などを抱えて私の元にやってきた。
「あやめ、着替えてくるからもう少し待っててくれるか?」
「………」
「あやめ?」
私は亮介先輩をジト目で睨んだ。
先輩は美女の誘いをキッパリ断っていた。断っていたけども私は嫉妬していた。
他の女の人にベタベタ触られていた…! 何度もやり取りがあった口振りだけど、先輩ったら私がいない時いつもそんな事させてるの?
「…私、嫉妬してるんですけど」
「…アレは俺の意思ではないんだが」
「ハグを所望します」
じゃなきゃ私は機嫌が治らない。ハグをしてくれ。
ん。と座ったまま手を広げると、先輩は呆れたようにため息を吐く。
「後でな。すぐ戻るから」
私の頭をポンポン撫でると、先輩は踵を返して道場を出ていってしまった。
私は先輩の撫でポンに絆されてしまった。撫でポンは卑怯だぞ先輩……!
先輩が立ち去っていくのをポヤーンと見送る私の頬はきっと赤く染まってるに違いない。
「…あなた、橘君の…彼女だったりするの?」
気分が浮上していた所に、私に声を掛けてきたのはあの美女。
彼女は私をジロジロ眺めて、鼻で笑った。
カチンと来たぞ。
沙織さんはそんな失礼な事しなかったのに!!
同じ美人でも天と地の差だな!
笑われて黙っている性分でもない私は正座して痺れた足を抑えながらゆっくり立ち上がった。
しびれるけど…我慢だ……が、ま、ん…
その人の身長も沙織さんと同じくらいだ。
スタイルはスラッとしている沙織さんに比べて、この人のほうが肉感あるけど、私とそう変わらないかも。
私は負けじとドヤ顔で相手にはっきりと返事してやった。
「そうですけど? 私、亮介先輩の彼女なんです」
私は弟のような美形ではない。ただの地味な女子高生だ。
だけどそんな私を彼は好きと言ってくれたし、大切にしてくれてる。…負けてなるものか。
私の反応に彼女は少しばかり驚いた様子であるが、すぐに見下すような顔をした。意地悪そうな笑みを浮かべて、真っ赤に塗られた唇を歪めている。
「……まぁ、時間の問題かしら?」
「…え?」
意味深な一言を残してその人、光安さんという人は道場から立ち去っていった。
なんだって? 時間の問題?
…どういう意味なの?
意味がわからず、私はポッカーンとしていたのだけど、亮介先輩が着替えを済ませて私を呼びに来たので、彼と一緒に道場を後にした。
「あの人誰ですか…」
肩を並べて歩いていた亮介先輩に私はムッスリした顔で質問した。先輩は全くあの人に興味が無いみたいだけどやっぱり面白くない。
「去年の大学祭でのミスコンの優勝者らしい。学部は違うから接点はないんだが……俺はその気はないからな」
「わかってますけど…なんか嫌なんですもん…」
わかっている。
きっぱり断っているのをこの目で見たのだから。先輩はそんな不誠実な人じゃないって知ってる。
……でも…
「美人さんでしたね…」
容姿は整形でもしないと変えられない。化粧をしても限界はある。
別に自分の顔が嫌いなわけじゃない。地味だなぁとは思うけど。…だけど周りから与えられたコンプレックスは根深いのだ。
私は無意識に自分の頬を両手で覆って唸っていた。
「あやめ、ほら」
「え?」
「ハグしてほしいって言ってたろ」
「!」
そう言って両手を広げて待っている亮介先輩の胸に私は迷わずに飛び込んだ。
先輩にギュウウ、と抱きついて充電をする。
先輩の腕が私の体を包んでくれて、守られてるなぁって安心感が湧いてくるからハグが大好きなんだ。
胸の奥から大好きだって、幸せでいっぱいな気持ちが溢れ出してきて、私は笑みを浮かべていた。
「せんぱい、すき。だいすき…」
「…俺もだ」
先輩の唇が私の頭に降ってきた。
それだけじゃ足りなくて、顔を上げてつま先立ちすると、私は先輩の首に抱きついてキスを強請《ねだ》る。
先輩の顔が近づくと同時に私は目を閉じた。
私と先輩はきっと釣り合っていない。
だって私は化粧で派手になっているだけの元は地味顔なんだもの。こうして先輩の彼女になれたのは奇跡でしかない。
だからこそ不安なのだ。
どんなに努力しても限界はある。
いつか先輩が私よりもキレイな人を選んじゃうんじゃないかって何処かで怯えているんだ。
こういう時、普通のカップルは相手に不安を打ち明けるものなのだろうか?
重いと感じられないだろうか?
言ったとして相手を困らせてしまうのではないだろうか?
ようやく甘えられるようにはなったけど、根本的な部分で私は甘え下手なままであった。
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