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続編
いくら大人っぽくっても彼女は高校1年。大人に反抗して突っ走ってしまうのだろう。
しおりを挟む「田端せんぱーい! 一緒に帰りましょー」
「植草さん。今日は彼氏のお迎えは無いの?」
「のり君は今日用事があるんですって」
「へぇそうなんだ」
帰りのHRを終えて帰宅する準備をしていると、植草さんがわざわざ三年の教室までやって来て元気よくお誘いをしてきた。
彼氏が出来てから毎日ずっと彼氏がお迎えに来ているというのに珍しいと思ったら、今日は彼氏君の用事でお迎えがないみたいだ。
……ていうか学校が違うのによくも毎回迎えに来れるなと感心していた。彼氏君の学校、ここから二駅くらい離れてるよね。
よく間に合うな。
「ね、先輩今日はウチ来ません? ママが連れてこいってうるさくて」
「んー…まぁいいけど…」
一応私達期末テスト前なんだけど、たまにはいいかと思って彼女の誘いに乗ることにした。
この間も亮介先輩に勉強教えてもらったし、今回のテストは自信があるのだ。
彼女の家にお邪魔して、植草ママンの熱烈なハグを受けた後、おもてなしのエスプレッソをごちそうになった。毎度のことながら効くわこれ。
植草さんと植草ママンが私のためにご飯を作ってくれているのを勉強しながら(二人に勉強しててと言われたからお言葉に甘えた)待機していると、リビングのテーブルに置かれた植草さんのスマホの着信音が鳴った。
「植草さん、電話鳴ってるよ?」
「えー? のり君からかなぁ」
手を拭きながらダイニングキッチンから出てきた植草さんはスマホを手に取ると、明るい声で電話に出た。
おぉ、恋する乙女の表情だな。
「もしもし、のり君?」
彼女は嬉しそうに彼氏君と会話をしていたので、私は邪魔にならないように植草ママンのお手伝いでもしてこようかなと腰を上げた。
「……あ、ごめんね。今日うちに先輩が遊びに来てて……ほら、この間紹介したでしょ? 田端先輩だよ」
植草ママンに手伝いますよと声を掛けて手を洗った私は、人生初の生パスタ作りに挑戦した。
うちにはパスタマシーンがないから普段乾麺しか使わないけど、手作りってやっぱり美味しいよねぇ。作るの大変だけど。
「え…? どうして? だってのり君が今日は用事があるって言ってたから……な、なんでそんな事言うの!?」
麺棒でパスタ生地を伸ばしていた私だったが、植草さんの荒げた声にびっくりしてその手をピタリと止めた。
何だ喧嘩か? さっきまで普通に会話してたよね?
ひょこっとダイニングキッチンからリビングに居る植草さんを覗き見ると彼女は泣きそうに顔を歪めていた
「そんな事無いっ! のり君が一番だよ!……先輩は女の人だよ!? 比較する相手じゃない……ひどい! そんなひどいこと言わないでよ! 先輩はそんな人じゃない!」
なにやら電話の向こうで私は罵倒されているらしい。
おい、ちょっと待てよ。会ったの一度で態度悪かったのは向こうじゃないのよ。どこで私の印象悪くなったっていうの?
こっちは植草さんにその事を漏らす事無く心の中に押しとどめてやったというのに。
とうとう植草さんは泣き出してしまった。
植草ママンも手を止めて植草さんを訝しげに見ていたが、口を開くなり私の知らない言語で喋りだした。
私が宇宙語!? と目を丸くして植草ママンを見ると彼女は植草さんに険しい顔を向けて何やら話しているようだ。
……あ。イタリア語かな?
それにムッとした植草さんも負けじとイタリア語(仮)で反論していた。いきなり始まった親子喧嘩(何言っているかわからない)に私は麺棒を片手にオロオロするしか無い。
何かが決め手となったのか、植草さんは「すぐに行く」と電話先の彼氏君に返事をすると電話を切り、私に泣きそうな表情を向けてこう言った。
「……すいません先輩。あたし、行かなきゃ」
「えっ?」
「埋め合わせはいつかします!」
植草さんは追い詰められた様子でそう叫ぶなり、制服姿のまま家を飛び出してしまった。
植草ママンが止めようと玄関へと追いかけていく。
バタン、と玄関の扉が閉まる音がして、家の外で何やら口論しているのがここまで聞こえてきた。
残された私はと言うと……
「えぇ? …えぇどういうこと??」
人様のダイニングキッチンで麺棒を持ったまま呆然としていたのである。
どうしようどうしようと混乱しつつも私は取り敢えず麺棒でパスタ生地を伸ばしていた。この後どうすれば良いのか指示貰ってないのでひたすら伸ばしては折って伸ばしては折って。
それを繰り返して……15分位して植草ママンが疲れた表情で帰ってきた。
「あぁ、イリスごめんなさいね、あの子が…」
「…いえ……なにかあったんですか? 電話の相手、紅愛ちゃんの彼氏…ですよね?」
植草さんからノロケを聞かされてきたが、私は植草さんの彼氏・のり君とやらの人柄を全く知らない。
植草ママンなら知っているのかもと思って質問したら、植草ママンはため息を吐いてダイニングキッチン備え付けの椅子にゆっくり腰掛けた。
……彼女はおでこを手で覆ってうなだれていた。
「…クレアのね、付き合ってる男の子ね……あぁして、クレアを呼び出すのよ。……それが夕飯時でも夜遅くでもお構いなしに。デートと言ってはそのままその男の子の家に泊まったりして……一度、会ったことはあるけど…あの子はだめよ」
はぁぁ…とふかーい疲れたようなため息を吐く植草ママン。
この数分間でいつも明るく生き生きしている植草ママンの顔がげっそり痩せこけたように見える。
「…反対しているんですね」
「そうよ。……本当ならこんな事言いたくはないけど、クレアが今付き合ってる子はクレアを大切になんてしていない。恋に憧れて愛されたがっているクレアを弄んでるんだわ」
反対されたら余計に恋が燃え上がるとも言うし、植草さんは思春期真っ盛り。
親の言うことに反抗したくなるのもわかる。
…だけど健全な親なら、子供の交際相手に口を出すものなんだと思う。それはうちの父のような「彼氏なんてまだ早い!」というワガママ込みの持論も含めて。
よく結婚相手として連れてきた相手を猛反対する親がいるけど、そのあと相手がとんでもない相手だったと判明することがあるらしいし、子を育ててきた親の見る目は侮ってはいけないのだと思う。
「……紅愛ちゃんの彼氏はお金持ち学校の子ですよね、紅愛ちゃんが指輪を見せてくれましたけど……決して安いものじゃありませんでした。…それにまだ高校生なのに高いマンションで一人暮らししてるとか…」
いくらセレブでもさ、高校生よ? 植草さんの彼氏も高一だからこの間まで中学生だったのよ?
例えば学業とかスポーツが優秀で遠い地域の学校へ通うために寮暮らしや一人暮らししてるならわかるけど……彼氏君は近くに親が住んでるらしいからそうじゃないし。
偏見かもだけど彼氏君の親もどうかと思う。
「……イリス、お願いよ。あなたからもあの子に言ってくれないかしら? クレアは私の言うことを聞こうともしないの。あなたの言う事なら耳を傾けてくれるかもしれないわ」
「えっ」
ぎゅっと植草ママンに手を握られ、涙ながらに懇願された。少々困ったけども私自身、今さっきの流れを見てしまったので彼女のことが心配になってきた。
「……わかりました。明日にでも紅愛ちゃんと話してみます」
「ありがとう…お願いね…」
テスト前なんだけどなぁ。
……植草さんは私の話を聞いてくれるのかな…果たして…
その後、食事する雰囲気でもなくパスタとソース、ちょっとしたおかずをお持ち帰りをさせてもらった私だったが、門限までの時間にまだ余裕があったのでそのまま亮介先輩のお家にお邪魔した。
パスタを作って先輩と一緒に食べながら、私はどこか上の空だった。
そんな私に気づかない訳がない先輩は訝しげな顔をして問いかけてきた。
「…あやめ…また何か首突っ込んでいるのか」
「…いえ、まだ…」
「……今度は何だ」
呆れたようなため息を吐かれてしまった。言っておくけど私が起こしたトラブルじゃないんだぞ。
…この事は先輩に関係ないしなぁ。話して良いものか。
「うーん…人の恋路に口出すことになりまして」
「なんだまた林道か」
「いえいえ林道さんじゃなくて…植草さんです。あの綺麗な一年生の女の子の彼氏がちょっと問題ありで、さっきちょっと修羅場ってたんですよね」
先輩の中で林道さんはインパクトが大きいらしい。確かにあの人アクションが激しいから嫌でも眼に入るよね。
私がたまに林道さんの事を話すからかもしれないけど。
「植草…というと、例の借り物競争で連れて行かれていた相手か?」
「そうですそうです。……なんか、その彼氏君が時間問わずに植草さんを呼び出したり、頻繁に宿泊させたりで。…行動が目に余ってるみたいなんです。植草さんのお母さんも説教してたけど植草さん聞く耳持たずに飛び出しちゃって」
「それで何故お前が?」
「私が植草さんの唯一の女友達かつ先輩だからですかね。植草さんのお母さんが私の口からだったら話を聞いてくれるかもって頼まれちゃって」
私の説明に先輩は少し難しい表情をしていたが、仕方がないなと呟く。
「その後輩と話すだけなら良いが、例の彼氏とやらに直談判するようなマネはするなよ」
「しませんよ。私そこまで猪突猛進じゃありません」
「………」
「なんですかその目は!」
まるっきし信用されてない。私は彼女なんだぞ! 彼女を信じろよ!
イラッとしたので先輩の皿に乗っていた植草ママンお手製イタリア風コロッケをフォークで刺して奪取してやった。
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