攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

文字の大きさ
146 / 312
続編

彼の両親のとある会話【三人称視点】

しおりを挟む
「じゃあ…またね……」

 向こうの通話が切れたのを確認すると、彼女はゆっくり耳から電話を離す。彼女は電話が終わった後もしばらく携帯電話を眺め、ぼんやりしていた。
 携帯電話の待受画面には15分にも満たない通話記録が残されていた。


「……亮介に電話をしていたのか?」
「…お帰りなさい…今日は早いのね。……そうよ…今日はあの子の誕生日だから…」
「…家を出てからというもの、ちっとも家に寄り付かなくなったな。あいつは」

 彼女に声を掛けてきた男性は、表情に疲労を滲ませたままソファに座ると、首元をきつく締めたネクタイを緩めていた。

「……亮介の彼女が言うには、あの子自炊も頑張っているみたいよ。剣道サークルでも上級生に可愛がってもらってるようだし…」
「………彼女?」
「…知らなかったの? 同じ高校の後輩の子なんですって。亮介の卒業式以降お付き合いしているのよ」

 男性は彼女の言葉にピクリと反応した。眉間にシワを寄せ、彼女…自分の妻にどういうことかと視線で問いかける。
 その仕草だけで彼女は夫が訴えていることをすぐに察知し、二番目の息子の彼女の話をし始めた。

「…今年は彼女が受験生だから二人でよく勉強してるんですって。…気立ての良さそうな子よ。それとお菓子作りが上手で、前にはどら焼きを…」
「…どら焼き?」
「あ、いえ何でもないわ」
 
 ゴホンと咳払いをする妻の様子を不審そうに見ていた男性だったが、次男の交際相手のことが少なからず気になっているようだ。
 ……まさか自分の妻が、次男の彼女が作ってきた菓子を自分の分まで食べてしまっているなんて想像すらしていないだろう。しかも二度も。

「二人で今度うちに来るよう誘ってみたけど、亮介忙しいんですって。あやめさんも受験生だし……仕方ないわよね」
「………高校の、後輩だったな。去年の秋頃に高校の文化祭があったはずだ」
「え? …確かあったはずだけど……でもどうして?」

 妻の問いに彼は視線を向けると、人によっては冷たく見えるらしい瞳を細めた。

「……あいつがまた堕落して、道を踏み外す恐れがないか確認しに行くだけだ」
「…裕亮ひろあきさん……でもあやめさんは」
「…あいつには言うなよ。英恵」

 そう念押しすると彼は妻の返事を必要としない様子で、ゆっくりソファから立ち上がって風呂場へ向かっていってしまった。

 英恵は夫が去っていくのを引き止めること無く見送っていたが、先程の電話での次男の反応を思い出し、少し気分が暗くなった。

 夫と一緒に大学の文化祭に行くからと伝えた時の次男の反応は、ひどく緊張をしている様子だった。その反応を誤魔化すようにあの子は「仕事が忙しいだろうから無理して来なくていい」と言っていた。……あれは、来ないで欲しいという意味……いや、考えるのはよそう。
 それに先程の夫の様子だと、亮介の彼女を見定めに行くつもりなのだろう。
 
 英恵は夫の気持ちを理解できた。子供の将来に関わることだ。悪い芽は摘み取って置いて損はないはずだ。
 …だけど自分は亮介の彼女とも面識があるから複雑でもある。
 義父が見た印象では亮介が自然体で居られる相手だったと言っていた。実際に会ってみた自分も印象は悪くはなかった。優しくて気遣いのできるいいお嬢さんだった。
 息子にそんな大切な存在が出来たのなら、引き離すような事態にはなってほしくはない。

 だけど、夫が不釣り合いと見たら……亮介の邪魔にしかならないと判断したら……
 もしもそうなったらその時亮介は……?

 だが自分が表立って庇ったとして、果たして堅物の夫が自分の話を聞いてくれるだろうか…?
 英恵は頭痛がした気がしてしばらくの間、コメカミを手で抑えていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

処理中です...