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続編
皆で創り上げるから価値がある。高校最後の文化祭はワクワクの予感しかない。
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「アヤちゃんアヤちゃん! みてみて!! これっ」
「……仮装大会?」
「後夜祭で開催するんだって! 一緒に出場しない!?」
「…出場ったって……」
沢渡君がそう言って私に見せてきたのは、文化祭後の後夜祭で行われる生徒会の出し物のお知らせだった。今回はビンゴゲームと仮装大会があるそうだ。どちらも豪華賞品が用意されてるそうな。
その仮装大会に一緒に出場しようと誘われたのだ。
……文化祭の準備だけでも忙しいのに、それとは別に準備するのは大変じゃないの?
「豪華賞品がもらえるんだよ!? それに高校最後の文化祭じゃない! 楽しまなきゃ!!」
「そうなんだけどさー……」
中間テストの結果があまりよろしくなかった彼は担任に「お願いだから勉強しよう? な? お前はやればできる子だから」と肩を掴んでお願いされていた。
……沢渡君、君は仮装大会どころじゃないと思うんだ。
「アヤちゃーん…おねがぁい…」
「……なら、それに出場したらちゃんと受験勉強に取り組む?」
「うんっ! 俺頑張るよ!」
沢渡君の泣き落としに負けた私は、仮装大会にペアで出場することになったのである。
…豪華賞品ってなんだろうか。食券だったら嬉しいな。
☆★☆
各クラスが何を出し物にするのかは、文化祭前の実行委員の会議で把握してるんだけど…うちの隣のB組はどうやら体育館で劇をするそうだ。
ていうかあの下半身節操なし久松が「観に来てねー」と女子にだけチラシを配っていたから。
題目はアラジ○だそうだ。もちろん主役は下半身節操なしである。
「本当は花恋にジャス○ン姫を演じてほしいんだけどクラスが違うから仕方がないよねー」
「そんな事言わないの。クラスメイトとの大切な思い出になるんだから。頑張ってね、久松君」
花恋ちゃんの手をニギニギしながら、久松は本来の姫役に失礼になりそうなことを言っていた。なんて失礼なやつなんだ。花恋ちゃんがそれを軽く窘めていた。
興味を失くして奴から視線をそらすと、下半身節操なしに貰ったチラシを眺める。
ア○ジン……ミュージカルなんだろうか。それともただの劇?
……時間があれば観に行ってもいいけど長時間拘束されるのはなぁ…
二日目の一般公開では亮介先輩と見て回る約束をしているし、一日目はシフトが同じになった花恋ちゃんと回る予定だ。
他の出し物も見たいから、劇だけに時間は割けないんだよね。
「あっそうだアヤメちゃん! 仮装大会のエントリーありがとうね!」
「…どういたしまして」
久松は花恋ちゃんの手をしっかり握ったまま私に話しかけてきた。
……仮装大会のエントリー者のこと把握しているってことは、一応生徒会の仕事はしてんだね。てっきり生徒会長に全フリしてるのかと思ってた。
「あやめちゃん仮装大会に出場するの? なにするの?」
「当日のお楽しみ」
花恋ちゃんがキラキラした目で私に質問してきたが、そんな期待されるようなものには仮装しないよ。
ただネタバレしたらつまらないから後夜祭まで教えない。一番用意しやすいからあれにしたんだけどね。
「楽しみだなー…ふふふ、冥土喫茶も楽しみだね!」
「そうだね。ゾンビメイクとびっきり怖くしないと」
「えーゾンビー? 花恋ゾンビなら俺食べられても良いかもー」
「やだ久松君たら。食べたりしないよ~」
多分久松と花恋ちゃんの【食べる】の認識には差があると思う。だが私は何も突っ込んでやらないからな。久松お前本当にブレないな。
そう言えばこの間、亮介先輩に私のクラスの出し物を教えたのだが、去年の女装メイドのトラウマをまだ引きずっているのか、とっても渋い顔を返された。
ちゃんと女子がメイドで、男子は執事ですよと説明したけど、メイドの意味が冥土だっていうことは言っていない。「メイド喫茶をする」と言っただけなので、きっと彼は世間一般のメイド喫茶を想像しているだろう。
当日驚かせてやるんだ……去年先輩私のクラスのお化け屋敷に来なかったから、その分おもてなしをしてやるのさ…!
でも亮介先輩はホラー平気そうなんだよね。
去年の後夜祭の時、暗闇の中の血まみれティフ○ニー(私)を見ても全然ビビってなかったし。間先輩は飛び跳ねて驚いてくれたのに…。
今年もうちのクラスでは和洋折衷がテーマなので、ゾンビメイド・ゾンビ執事の他に、鬼装束、和風亡者、その他諸々のモンスターコスも取り揃えている。
林道さんは和服メイドの猫娘になるらしいよ。怖がらせるのがコンセプトなのに、萌えさせるつもりかあの人は。
私はメイド服でガッツリゾンビメイクするつもりだけどね。
今回の文化祭で私は裏方の調理を希望した。
接客も嫌いじゃないけど、作る方を担当したかったのだ。だから先輩が来た時は表にいる人に声を掛けてくれって言ってある。そしたら私も先輩をおもてなしできるからね。
「血みどろオムハヤシ…うーん、ボルシチのほうが良いかな?」
「ボルシチは好みが分かれるじゃん。ミネストローネにしたら?」
私は今、裏方担当とメニュー会議をしていた。
そしてそこには山ぴょんの姿もあった。こいつ容姿が優れてんだから表で接客してれば良いものを。
「あまり不謹慎だとクレーム来るし、難しいなぁ…」
私達の店のことでクラスで色々話し合ったのだが、お客さんを出迎えた際に「ご臨終です」「ご愁傷様です」というのはやっぱり文化祭の雰囲気にそぐわないので、その辺りは普通のメイド喫茶と同じような挨拶にしようという事になった。
ただ、死後の世界という設定だからちょいちょい不気味な所がある感じ。
「ねぇねぇ二日目にさ…私、してみたいことがあるんだよね!」
「なんだよ」
「バケツプリンチャレンジ…! 一度やってみたかったんだよね~」
「へぇ、いいじゃん。プリンなら来た客に振る舞えるしな」
山ぴょんがはじめに賛成を示してくれたのに続いて他の調理担当も賛成してくれた。プリンなら予算内で収められそうだしね。
メニューを決め、段取りを大方決めた後は試作品を作ってクラスメイトたちの意見を聞く。
準備の時ってワクワクするよね。お客さんがどんな反応するか考えるのも楽しい。最後の文化祭だから更に力も入るし。
準備に力が入りすぎて、私達のクラスは大分遅くまで学校に残っていた。担任がそろそろ帰りなさいと言いに来たのでクラスメイト達が渋々帰っていく。
いい所だったのを止められると不完全燃焼みたいな感じで嫌だよね。
「あやめ一緒に帰ろうぜ」
「あ、ごめん。今から先輩が迎えに来てくれるから」
「橘先輩が? …先輩もマメだな」
「ふふん、私は大切にされてるからね!」
「そのドヤ顔やめろ」
山ぴょんが気を遣って一緒に帰ろうと誘ってきたが、私は他の殿方と二人きりで帰宅はせんぞ。先輩が妬いちゃうからね。
幼馴染相手にノロケてやったら山ぴょんは当てられたようにうへぇと顔を歪めていた。
足早に正門に向かっていくと、すでに私の彼氏様は到着していた。
「あやめ」
「先輩!!」
亮介先輩の姿を見つけた私は彼の元へと小走りで駆け寄った。先輩に会えてニコニコ笑う私の頭を先輩が撫でてくれる。
もっと撫でて! 先輩好き!
私が先輩と二人の世界を作っていると、山ぴょんがそこに近づいてきた。
「お久しぶりです橘先輩」
「山浦、元気そうだな」
「……俺も先輩くらいマメだったらあんなことにはならなかったんスかね」
「…え?」
「…山ぴょん?」
山ぴょんが亮介先輩に声を掛けたかと思えば、何やら意味深な発言をした。マメだったらって…何いきなりどうしたの。
だけど私達の問いかけに答えることはなく、山ぴょんは挨拶するとさっさと帰っていってしまった。
「……どういう意味だ? あいつどうしたんだ?」
「…んー…もしかしたら去年の文化祭前の事件のことを言ってるんですかね…」
「……事件?」
「…山ぴょんの元カノが嫉妬しまくって…えっと、まぁ…ちょっとした事件が起きたんですよね。それに山ぴょんがキレて、別れちゃったんです……」
ヤバイヤバイ。
去年の今頃、先輩から左腕の怪我のことを指摘された時、出し物準備中に怪我したと誤魔化したんだった。説明すると大事になりそうだったから面倒で。
あの事件の詳細は去年の二年生の一部だけに広まっただけですぐに噂は収まったはずだから先輩は知らない。
言ったら多分一年前のことであろうと説教をされるに決まっているから誤魔化す。
ちゃんとあの事は反省してるから大丈夫!
「……お前、何か隠してるな?」
「とんでもない! 私の目を見てください! これが嘘をついているような目に見えますか?」
「………」
「信じてくださいよ!」
亮介先輩の瞳は疑いに満ちていた。
私は彼女なのに、先輩にはイマイチ信用してもらえていない。
今までの行いが悪かったというの?
「……おばさんに聞くか」
「なにっ!?」
「……やっぱり何か隠してるな」
「ハッ!」
ひっかけたな!? 卑怯だぞ先輩!
私は頑張って口を閉ざした。自分の家の前でも母さんに会わせないようにディフェンスしていたが、結局母さんの証言によって事件の顛末がバレて……
「一年前のことだし、もう時効でしょ? ねっ? もう示談した話なんで」
「…………」
母さんからあの事件のこと…怪我の本当の原因を聞いてしまった先輩は、私を無感動に見下ろしていた。
■□■
『田端、その怪我どうした?』
『あーえーと…準備中にドジしてしまって。でも筋を痛めだだけなので大丈夫ですよ』
『……力仕事でもしたのか? 準備はクラスメイトに任せて安静にしていたほうがいいんじゃ…』
『まぁまぁまぁ。私の不注意なんで。ところで橘先輩のクラスの準備の方はどうです? メイド服はどんなデザインなんです?』
『……聞くな』
■□■
「…と言ってたよな? お前」
「いやー、あの時私達そんなに親しくなかったじゃないですかー。大事にしたくなくて」
「…お前は一年前とちっとも進歩してないな」
「失礼な! そんな事ないですよ!」
異議あり!! 一年前よりも気をつけるようにしてるよ!
私だって自分の無鉄砲さを自覚して、行動には気をつけるようにはしてるんだ。私は褒めて伸びるタイプなの! そんな事言われると傷つく!
私が先輩にそう訴えていると、私達がいるリビングの向こうのキッチンで夕飯の支度をしていた母さんがひょっこり口を出してきた。
「何言ってるの。あやめは小さい頃から全然変わらないわよ。昔っからお転婆でどれだけ心配をさせられたか……亮介君、もっときつく言ってあげて? この子は何度注意しても危険なことに首突っ込むんだから」
「ちょっ!?」
「そうだ亮介君は辛いの大丈夫よね? カレー食べていってね」
「いつもありがとうございます」
いつものように夕飯のお誘いをしていた母さんと亮介先輩はにこやかにやり取りしていた。…なんだけど、私の方に顔を戻した先輩は再び無表情になった。
怒りすぎると先輩無表情なるよね。逆に怖いからいっそ怒った顔になってくれ。
私は今から始まるであろう説教を前に、反射的に身を竦ませた。
その日私は一年前の過去の出来事に関して、母さん公認の上で家のリビングで先輩にじっくり説教されてしまったのであった。
一年前のことじゃないの…反省してるってば…
あの時は花恋ちゃんが階段から落ちてきてビックリしちゃって、ついつい後先考えずにキャッチしちゃったんだよう…見捨てられるわけ無いでしょ!
反論したら、「見捨てろなんて言っていない。だけど運が悪かったらどうなってたか分かるか?」と返され、ぐうの音も出なかった。
今無事だから良いじゃないの。過去のことなんてもうどうでも良いじゃないの。大切なのは今でしょ!
先輩の説教は更に長くなった。
「……仮装大会?」
「後夜祭で開催するんだって! 一緒に出場しない!?」
「…出場ったって……」
沢渡君がそう言って私に見せてきたのは、文化祭後の後夜祭で行われる生徒会の出し物のお知らせだった。今回はビンゴゲームと仮装大会があるそうだ。どちらも豪華賞品が用意されてるそうな。
その仮装大会に一緒に出場しようと誘われたのだ。
……文化祭の準備だけでも忙しいのに、それとは別に準備するのは大変じゃないの?
「豪華賞品がもらえるんだよ!? それに高校最後の文化祭じゃない! 楽しまなきゃ!!」
「そうなんだけどさー……」
中間テストの結果があまりよろしくなかった彼は担任に「お願いだから勉強しよう? な? お前はやればできる子だから」と肩を掴んでお願いされていた。
……沢渡君、君は仮装大会どころじゃないと思うんだ。
「アヤちゃーん…おねがぁい…」
「……なら、それに出場したらちゃんと受験勉強に取り組む?」
「うんっ! 俺頑張るよ!」
沢渡君の泣き落としに負けた私は、仮装大会にペアで出場することになったのである。
…豪華賞品ってなんだろうか。食券だったら嬉しいな。
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各クラスが何を出し物にするのかは、文化祭前の実行委員の会議で把握してるんだけど…うちの隣のB組はどうやら体育館で劇をするそうだ。
ていうかあの下半身節操なし久松が「観に来てねー」と女子にだけチラシを配っていたから。
題目はアラジ○だそうだ。もちろん主役は下半身節操なしである。
「本当は花恋にジャス○ン姫を演じてほしいんだけどクラスが違うから仕方がないよねー」
「そんな事言わないの。クラスメイトとの大切な思い出になるんだから。頑張ってね、久松君」
花恋ちゃんの手をニギニギしながら、久松は本来の姫役に失礼になりそうなことを言っていた。なんて失礼なやつなんだ。花恋ちゃんがそれを軽く窘めていた。
興味を失くして奴から視線をそらすと、下半身節操なしに貰ったチラシを眺める。
ア○ジン……ミュージカルなんだろうか。それともただの劇?
……時間があれば観に行ってもいいけど長時間拘束されるのはなぁ…
二日目の一般公開では亮介先輩と見て回る約束をしているし、一日目はシフトが同じになった花恋ちゃんと回る予定だ。
他の出し物も見たいから、劇だけに時間は割けないんだよね。
「あっそうだアヤメちゃん! 仮装大会のエントリーありがとうね!」
「…どういたしまして」
久松は花恋ちゃんの手をしっかり握ったまま私に話しかけてきた。
……仮装大会のエントリー者のこと把握しているってことは、一応生徒会の仕事はしてんだね。てっきり生徒会長に全フリしてるのかと思ってた。
「あやめちゃん仮装大会に出場するの? なにするの?」
「当日のお楽しみ」
花恋ちゃんがキラキラした目で私に質問してきたが、そんな期待されるようなものには仮装しないよ。
ただネタバレしたらつまらないから後夜祭まで教えない。一番用意しやすいからあれにしたんだけどね。
「楽しみだなー…ふふふ、冥土喫茶も楽しみだね!」
「そうだね。ゾンビメイクとびっきり怖くしないと」
「えーゾンビー? 花恋ゾンビなら俺食べられても良いかもー」
「やだ久松君たら。食べたりしないよ~」
多分久松と花恋ちゃんの【食べる】の認識には差があると思う。だが私は何も突っ込んでやらないからな。久松お前本当にブレないな。
そう言えばこの間、亮介先輩に私のクラスの出し物を教えたのだが、去年の女装メイドのトラウマをまだ引きずっているのか、とっても渋い顔を返された。
ちゃんと女子がメイドで、男子は執事ですよと説明したけど、メイドの意味が冥土だっていうことは言っていない。「メイド喫茶をする」と言っただけなので、きっと彼は世間一般のメイド喫茶を想像しているだろう。
当日驚かせてやるんだ……去年先輩私のクラスのお化け屋敷に来なかったから、その分おもてなしをしてやるのさ…!
でも亮介先輩はホラー平気そうなんだよね。
去年の後夜祭の時、暗闇の中の血まみれティフ○ニー(私)を見ても全然ビビってなかったし。間先輩は飛び跳ねて驚いてくれたのに…。
今年もうちのクラスでは和洋折衷がテーマなので、ゾンビメイド・ゾンビ執事の他に、鬼装束、和風亡者、その他諸々のモンスターコスも取り揃えている。
林道さんは和服メイドの猫娘になるらしいよ。怖がらせるのがコンセプトなのに、萌えさせるつもりかあの人は。
私はメイド服でガッツリゾンビメイクするつもりだけどね。
今回の文化祭で私は裏方の調理を希望した。
接客も嫌いじゃないけど、作る方を担当したかったのだ。だから先輩が来た時は表にいる人に声を掛けてくれって言ってある。そしたら私も先輩をおもてなしできるからね。
「血みどろオムハヤシ…うーん、ボルシチのほうが良いかな?」
「ボルシチは好みが分かれるじゃん。ミネストローネにしたら?」
私は今、裏方担当とメニュー会議をしていた。
そしてそこには山ぴょんの姿もあった。こいつ容姿が優れてんだから表で接客してれば良いものを。
「あまり不謹慎だとクレーム来るし、難しいなぁ…」
私達の店のことでクラスで色々話し合ったのだが、お客さんを出迎えた際に「ご臨終です」「ご愁傷様です」というのはやっぱり文化祭の雰囲気にそぐわないので、その辺りは普通のメイド喫茶と同じような挨拶にしようという事になった。
ただ、死後の世界という設定だからちょいちょい不気味な所がある感じ。
「ねぇねぇ二日目にさ…私、してみたいことがあるんだよね!」
「なんだよ」
「バケツプリンチャレンジ…! 一度やってみたかったんだよね~」
「へぇ、いいじゃん。プリンなら来た客に振る舞えるしな」
山ぴょんがはじめに賛成を示してくれたのに続いて他の調理担当も賛成してくれた。プリンなら予算内で収められそうだしね。
メニューを決め、段取りを大方決めた後は試作品を作ってクラスメイトたちの意見を聞く。
準備の時ってワクワクするよね。お客さんがどんな反応するか考えるのも楽しい。最後の文化祭だから更に力も入るし。
準備に力が入りすぎて、私達のクラスは大分遅くまで学校に残っていた。担任がそろそろ帰りなさいと言いに来たのでクラスメイト達が渋々帰っていく。
いい所だったのを止められると不完全燃焼みたいな感じで嫌だよね。
「あやめ一緒に帰ろうぜ」
「あ、ごめん。今から先輩が迎えに来てくれるから」
「橘先輩が? …先輩もマメだな」
「ふふん、私は大切にされてるからね!」
「そのドヤ顔やめろ」
山ぴょんが気を遣って一緒に帰ろうと誘ってきたが、私は他の殿方と二人きりで帰宅はせんぞ。先輩が妬いちゃうからね。
幼馴染相手にノロケてやったら山ぴょんは当てられたようにうへぇと顔を歪めていた。
足早に正門に向かっていくと、すでに私の彼氏様は到着していた。
「あやめ」
「先輩!!」
亮介先輩の姿を見つけた私は彼の元へと小走りで駆け寄った。先輩に会えてニコニコ笑う私の頭を先輩が撫でてくれる。
もっと撫でて! 先輩好き!
私が先輩と二人の世界を作っていると、山ぴょんがそこに近づいてきた。
「お久しぶりです橘先輩」
「山浦、元気そうだな」
「……俺も先輩くらいマメだったらあんなことにはならなかったんスかね」
「…え?」
「…山ぴょん?」
山ぴょんが亮介先輩に声を掛けたかと思えば、何やら意味深な発言をした。マメだったらって…何いきなりどうしたの。
だけど私達の問いかけに答えることはなく、山ぴょんは挨拶するとさっさと帰っていってしまった。
「……どういう意味だ? あいつどうしたんだ?」
「…んー…もしかしたら去年の文化祭前の事件のことを言ってるんですかね…」
「……事件?」
「…山ぴょんの元カノが嫉妬しまくって…えっと、まぁ…ちょっとした事件が起きたんですよね。それに山ぴょんがキレて、別れちゃったんです……」
ヤバイヤバイ。
去年の今頃、先輩から左腕の怪我のことを指摘された時、出し物準備中に怪我したと誤魔化したんだった。説明すると大事になりそうだったから面倒で。
あの事件の詳細は去年の二年生の一部だけに広まっただけですぐに噂は収まったはずだから先輩は知らない。
言ったら多分一年前のことであろうと説教をされるに決まっているから誤魔化す。
ちゃんとあの事は反省してるから大丈夫!
「……お前、何か隠してるな?」
「とんでもない! 私の目を見てください! これが嘘をついているような目に見えますか?」
「………」
「信じてくださいよ!」
亮介先輩の瞳は疑いに満ちていた。
私は彼女なのに、先輩にはイマイチ信用してもらえていない。
今までの行いが悪かったというの?
「……おばさんに聞くか」
「なにっ!?」
「……やっぱり何か隠してるな」
「ハッ!」
ひっかけたな!? 卑怯だぞ先輩!
私は頑張って口を閉ざした。自分の家の前でも母さんに会わせないようにディフェンスしていたが、結局母さんの証言によって事件の顛末がバレて……
「一年前のことだし、もう時効でしょ? ねっ? もう示談した話なんで」
「…………」
母さんからあの事件のこと…怪我の本当の原因を聞いてしまった先輩は、私を無感動に見下ろしていた。
■□■
『田端、その怪我どうした?』
『あーえーと…準備中にドジしてしまって。でも筋を痛めだだけなので大丈夫ですよ』
『……力仕事でもしたのか? 準備はクラスメイトに任せて安静にしていたほうがいいんじゃ…』
『まぁまぁまぁ。私の不注意なんで。ところで橘先輩のクラスの準備の方はどうです? メイド服はどんなデザインなんです?』
『……聞くな』
■□■
「…と言ってたよな? お前」
「いやー、あの時私達そんなに親しくなかったじゃないですかー。大事にしたくなくて」
「…お前は一年前とちっとも進歩してないな」
「失礼な! そんな事ないですよ!」
異議あり!! 一年前よりも気をつけるようにしてるよ!
私だって自分の無鉄砲さを自覚して、行動には気をつけるようにはしてるんだ。私は褒めて伸びるタイプなの! そんな事言われると傷つく!
私が先輩にそう訴えていると、私達がいるリビングの向こうのキッチンで夕飯の支度をしていた母さんがひょっこり口を出してきた。
「何言ってるの。あやめは小さい頃から全然変わらないわよ。昔っからお転婆でどれだけ心配をさせられたか……亮介君、もっときつく言ってあげて? この子は何度注意しても危険なことに首突っ込むんだから」
「ちょっ!?」
「そうだ亮介君は辛いの大丈夫よね? カレー食べていってね」
「いつもありがとうございます」
いつものように夕飯のお誘いをしていた母さんと亮介先輩はにこやかにやり取りしていた。…なんだけど、私の方に顔を戻した先輩は再び無表情になった。
怒りすぎると先輩無表情なるよね。逆に怖いからいっそ怒った顔になってくれ。
私は今から始まるであろう説教を前に、反射的に身を竦ませた。
その日私は一年前の過去の出来事に関して、母さん公認の上で家のリビングで先輩にじっくり説教されてしまったのであった。
一年前のことじゃないの…反省してるってば…
あの時は花恋ちゃんが階段から落ちてきてビックリしちゃって、ついつい後先考えずにキャッチしちゃったんだよう…見捨てられるわけ無いでしょ!
反論したら、「見捨てろなんて言っていない。だけど運が悪かったらどうなってたか分かるか?」と返され、ぐうの音も出なかった。
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