161 / 312
続編
受験目前。だが私の不調は継続中。
しおりを挟む高校最後の期末試験前。
私はいつになく気合を入れて勉強をしていた。先輩との連絡を控えて、家でも学校でも電車の中でもずっと勉強した。睡眠時間をゴリゴリ削って、スランプ脱却のために新しく購入したテキストで勉強した。
眠気に負けて落ちてきそうになる瞼にメンソレータ○のリップクリームを塗って「目がぁ、目がぁ」と深夜に騒いだ事もある。
頑張ったのだ。努力すればその分結果がついてくると知っていたから。いつもそうだった。勉強した分だけ点数が取れたのだ。
もっと頑張らなきゃ、共通テストは目前だ。何よりも自分のためだ。自分の未来のために頑張るんだ。
自分にそう発破をかけて私はテスト勉強に勤しんだ。
「………」
「…田端、お前どうした? …このままじゃやばいぞ」
期末試験を終え、テスト返却がされた。
私は睡眠時間を削って連日勉強に没頭していたのだが、担任に渡されたテスト結果を見て呆然としていた。
あんなに頑張ったのに、点数が大幅に落ちていたからだ。
なんで?
先輩に会うのも我慢して、連絡もしないで必死に勉強したのにどうして下がるの?
…あんなに頑張ったのに…
心臓がバクバクしていて、担任の声が耳に入ってこない。
私は国立一本で絞っていた。私立を受ける気はないし、他の国公立だとひとり暮らしをしないといけなくなるので除外だ。
…どうしよう、私…大学に進学できないかもしれない。
当たり前の事ながら、期末テスト結果を両親に見せると結果がよろしくないことを指摘された。
そりゃそうだ。受験間近だと言うのにガクッと点数を落としているのだ。怒られて当然のことである。
「受験生のくせに彼氏なんて作るからこんなことになるんだ! 大事な時期なのに色恋に浮かれてるのが悪い!」
「お父さん! それは言い過ぎよ!」
父さんの説教を黙って聞いていた私だったが、その言葉にカッとなった。
「先輩は悪くない! 私が受験生だからって気を遣ってくれてるの! ずっと会ってないんだよ! 連絡だって必要最小限なの!」
私が大声でそう言い返すと両親は目を丸くして固まっていた。
だけど私の口は止まらず、同時に目から涙が溢れてきた。先輩は悪くない。先輩は私の受験勉強に協力してくれているのに…私はそれに応えられなかったのだ。
「私が馬鹿だから成績が落ちたの! …先輩に会うの我慢して勉強しているのに…ずっと勉強しているのに出来ないんだよ! 私が馬鹿だから悪いんだよ!」
頑張っているのに、いっぱい我慢して頑張っているのに駄目なんだよ。
私が悪いのにどうして父さんは彼氏のせいにするんだ!
「あ、あやめ…」
「先輩を悪く言わないでよ! …勉強してくる」
こぼれた涙をぐいっと拭うと、私はリビングから立ち去り、自室に籠もった。
泣いている暇はない。もっと勉強しないと。本番であんな点数をとったらもうおしまいなんだから。
涙で滲む目を擦りながら私は勉強した。
睡眠時間は3時間確保で、学校でも電車でも時間が空けば勉強した。大体の友人たちも同じ受験生だから他人に構う暇もなく、三年のクラスは自然とみんながピリピリし始めたので誰も何も言ってこない。
私は皆に追いていかれまいと必死に勉強した。
段々コーヒーが効かなくなってきた私は、貯金をおろしてエナジードリンクを大量にまとめ買いした。カフェインに頼らなければ勉強ができないから。
体に悪いとかそんなこと言っていられない。それに縋らないとどうしようもなくなっていた。
私は追い詰められていたのだ。
「…あやめ。この大量の空き缶…どうしたの?」
「エナジードリンクだけど? 勉強の時飲むと頭がシャキッとするんだ」
「…あやめ、昨日は何時間眠ったの? …和真が夜中トイレで起きた時も勉強してたって言ってたけど」
「だって成績が下がったんだから勉強しないといけないでしょ? じゃ行ってきます」
「あやめ! 待ちなさいっ」
母さんの止める言葉を無視して私はだるい体を引きずって出かけていった。頭がボウッとして働かない。
「…頑張らなきゃ」
受験のプレッシャーで私は不眠気味だった。
少しくらい休まないといけないとはわかっているのだが、布団に入ってもまんじりともせず。
目を瞑ると受験のことで頭が一杯になり、結局朝まで寝付けなかったりして。何もしていないと不安になって仕方がないのだ。
そのせいなのか食欲もなくなって最近痩せた。目標体重に到達できてラッキーとは思ったけども、健康的な痩せ方ではない。その所為か自分の顔色はよろしくない。それを隠すためのメイクが厚くなってしまったのが難点だ。
冬休みに入ると私はゼミで冬期講習を受け始めた。夏休みと同じゼミを利用しているのだが、受験生皆が本気モードとなっており、あのいじめっ子蛯原も私に喧嘩を売ってくる様子がない。
そうだ、もう試験まで日がない。
皆頑張っているのだ。私も油断せずに頑張らないと。
それに今日は久々に先輩に会えるのだ。
ここが終わったら先輩の家で息抜きのクリスマスパーティをするんだ。今年は料理が作れなかったけど、来年になったら色々手作りしたい。来年も先輩と笑い合っていたいから。
そのために悔いのない結果を残さないと。
大丈夫。私はまだ頑張れる。
■□■
「…あやめ、お前…ちゃんと眠っているのか?」
「えへへ…ちょっと睡眠不足気味ですけど、大丈夫です!」
「…ひどい顔色をしている。それになんだか痩せたような…」
「受験生ってそんなものですよ! 去年の先輩もお疲れ気味だったじゃないですか。 ほらほら先輩今日は息抜きなんですから! 食べましょ?」
今年はお店で予約したふたり用のケーキとスーパーで販売されていたクリスマス用フライドチキン、ポテトなど出来合いものでクリスマスを祝う。
先輩のことだから正直に話したら私を家に帰そうとするに違いない。それは嫌だ。久々に会えたのだ。先輩と一緒にいたい。
ケーキにロウソクを挿している私をじっと見つめて先輩は眉間にシワを寄せていた。私はそれに気づかないふりをしてロウソクに火を灯そうとしたのだが、ライターがどこかに行ってしまっていた。
もしかしたら台所にあるのかもしれない。ちょっと見てこようと立ち上がった。
だけど立ち上がった瞬間、めまいでも起こしたのか、クラっと目が回って私の体は大きくグラつく。私は前のめりに倒れそうになった。
先輩が即座に気づいて私の体を受け止めてくれたので、幸い床に倒れ込むことはなかった。
だけど、私の体をキャッチした先輩が息を呑んだのが聞こえてしまった。
「…あやめ、お前何キロ痩せた?」
「やだ先輩、そんな質問しないで下さいよ」
「…根詰めすぎなんじゃないのか? …顔が真っ青だし、目がひどく充血してる…それに体が冷えてるぞ…体調が悪いんだろう?」
「大丈夫ですって!」
その問いにギクッとしたけど、ヘラヘラ笑って誤魔化すと私は先輩の腕から離れようとしたが先輩は解放してくれない。
「…送ってやるから今日のところは勉強は休んで、家でゆっくり寝ていろ」
「……やだ、どうしてそんな事言うの? 久々に会えたのに。私は先輩と一緒にいたいのに」
折角のクリスマスなのに先輩は私に帰れという。
それが私の体を思っての発言だっていうのは頭の隅ではわかっていた。
だけど本当に久々に会えたのだ。私は今日という日を待ち望んでいたのだ。それなのに帰れって…それはないだろう。
私は駄々をこねる子供のように首をぶんぶん横に振って拒否する。先輩の胸に抱きついて「まだ帰らない!」と叫んだ。
そんな私の背中を先輩の大きな手が宥めるように撫でてきた。
「あやめ。お前は受験生だろう。優先すべきはなにかわかっているだろう?」
「やだ! 折角のクリスマスなのに、そんな事言わないでよ…」
先輩が眉間にシワを寄せて私を見下ろしてきた。こんなに訴えているのに彼は私の気持ちを理解してくれない。
それが悲しくてじわじわと涙が滲んできた。先輩の顔が歪んで見える。
「受験が終わるまでの辛抱だ。分かるだろう? あと2ヶ月じゃないか」
「…やだ、やだもん。明日からまた頑張るから、お願い先輩…」
ここで帰されても私はきっと眠れない。むしろストレスになって余計に駄目になってしまうに違いない。まだ先輩と一緒にいたいの。
本格的にこぼれ始めた涙をグシグシ手で拭いながら私は懇願する。
だが先輩は眉を顰めるだけで、私の望みを聞き入れてくれなかった。
「駄目だ。ほら帰る準備を」
「……だって、だって仕方ないじゃないですか! 私は和真と違って頭が悪いんです! 努力しないと何も出来ないんですもん!」
「……あやめ?」
息抜きくらいさせてくれてもいいじゃないの。私は十分頑張っているんだ。
なのにどうしてわかってくれないんだよ。
今日会えるから頑張れたのに、ずっと我慢できたのに。どうしてそんな事を言うのさ。
グラリ、とまためまいがした。
先輩の顔がぶれて見える。身体がさっきからずっとズシリと重くて、座っているのもしんどい…
なんてクリスマスなんだ。先輩とイチャイチャしたかったのに。
「頑張ってるのに…点数下がるし、全然、勉強……もう、やだ……」
その言葉を最後に私の意識はブラックアウトした。
20
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる