攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

文字の大きさ
162 / 312
続編

乙女ゲームの橘亮介ルート【ヒロイン視点】

しおりを挟む


 ──体育祭逆転のチャンスなのに私はここぞという時に転けてしまった。
 もうやだな。なんで私こんなにドジなんだろう。

【大丈夫か?】
【あっ橘先輩!】

 ──同じ1000メートルリレー出場者の橘先輩が私の元へ駆けつけてくれた。彼はしゃがんで私の足を診てくれていたが、私が痛みに呻いたのを見るなり、私をお姫様抱っこした。

【きゃあ!】
【救護所に行くだけだから暴れるなよ】
【わ、私歩けます!】
【いいから大人しくしていろ】

 ──軽々と私を抱っこして先輩が救護所まで連れて行ってくれた。
 保健室の先生に手当をしてもらっている間に1000メートルリレーは終わってしまっていた。私は棄権という扱いで、代走者が走ってくれたけど結局私達は逆転は出来ずに体育祭は最下位で終わってしまった。
 同じブロックの生徒達からのブーイングを物ともせず、橘先輩は堂々としていた。私のせいなのに気にした素振りもなく、ただ前を見据えている。
 彼にお礼を言わなければと思った私は足を引きずりながら彼にお礼を言いにいった。

【あのっ橘先輩! …ありがとうございました】
【気にするな。足、早く治るといいな】

 ──彼の微笑みに私の心臓が大きく跳ねた気がした。





 ──私は急いでいた。お母さんが作ってくれたお弁当を忘れてしまったので売店に走って向かっていたのだが、お昼の売店は戦場だ。急がないと食べ物類は売り切れてしまう。
 売店のことを考えて急いでいたから角の向こうから人が来てるなんて確認せずに走っていた。

ドンッ
【! きゃあ!】
【!?】

 ──廊下の曲がり角で誰かとぶつかってしまった私は、前のめりに倒れ込んでしまった。咄嗟に私を庇おうとした目の前の人物を巻き込んで。
 地面に倒れ込む前に私を庇った人が下敷きになってくれたので体は痛くなかった。
 だけど唇にふにゅっとした感触を感じて私は衝撃に備えて閉じていた目を開いた。
 目の前に人の目があって、相手と目がバッチリ合った。

【!? きゃあ! すみません私ったら!】
【…いや、こちらこそ不注意だった…すまん…】

 ──相手は橘先輩だった。事故ではあるが私は彼とキスをしてしまったのだ。
 いけない、私なんてことをしてしまったの!?
 平謝りする私に橘先輩はオロオロとしながら許してくれた。
 なんて優しい人なんだろう。この間もそうだったけど先輩は人に優しい人だな。

 ──初めてのキスがこんな事故キスだったのはショックだったけど、相手が橘先輩だったからそんなに悲しくはなかった。





 ──二学期になって、新学期早々文化祭のクラスの出し物についての話し合いがされた。
 うちのクラスではお化け屋敷をすることになっている。何のコスプレをしようかな。
 ワクワクしながら文化祭のことを考えていたのが災いしたのか、私は階段から足を踏み外してしまった。

【きゃっ…】

 ──結構高い位置からの落下だった。手摺《てす》りに掴まろうにも私の体は既に宙に投げ出されている。
 踊り場に叩きつけられるのを覚悟して目をつぶった私だったが、数秒後私の体はたくましい腕に抱きとめられた。

ドサッ 
【……全く、お前はドジだな】
【橘先輩!】 

 ──私を受け止めてくれたのは橘先輩だった。彼は私を呆れた目で見下ろしてくる。
 ドジなのは否めないけど、わざとではない。
 …自分のドジさ加減に嫌気が差してきた。

【すいません…ありがとうございます】
【ちゃんと前と足元を見て歩け】
【はい…】
 
 ──先輩に注意されながらも、私の胸がドキドキしてその心臓の音が先輩にバレているんじゃないかとヒヤヒヤした。





 ──お化け屋敷のコスプレをした私はその格好のまま宣伝用チラシを配って回っていた。
 すると何故か不良に絡まれてしまった。

【君可愛いねぇ~】
【一緒に回らない?】
【や、やめてください!】

 ──相手は下卑た目で私を見下ろしてくる。それが気持ち悪くて、私の腕を掴む相手の手を振り払おうとしたが中々外れない。
 誰かに助けを求めるにも人がいない所まで来てしまったらしく、私は追い詰められていた。

【おい、なにしているんだ】
【あ゛ぁ?】
【先輩!】

 ──そこに現れたのは橘先輩だった。
 彼は不良と顔見知りらしく、簡単にあしらってしまった。
 その見事なあしらい方に私は彼に尊敬の眼差しを送った。だけど彼は私をまた呆れた目で見下ろしてきた。

【そんな格好で人気のない場所に行くからこうなるんだぞ】
【う…すみません…】
【ほら、こっちだ】

 ──先輩は私の手を引いて文化祭開催中のエリアへと誘導してくれた。一人で歩いている私を哀れんだのか、その後一緒に文化祭を見て回ってくれた。
 とても楽しくて、先輩ともっと仲良くなれた気がする。





ドタン!

 ──球技大会のバスケットボールに出場した私。
 だけど私はドジだ。ここでもそのドジさを全開にしてしまっていた。

【…大丈夫か? 立てるか?】
【あ、足が…】
【捻挫したか。待て、動かすな】

 ──『キャーッ』とどこからか女の子の悲鳴が耳に入ってきた。
 だけど私はそれどころじゃなく、またもや橘先輩にお姫様抱っこをされていたのだ。
 今の私には橘先輩しか見えていなかった。
 胸がキュンとして、彼のことを考えると切なくて苦しい。


 ──私は、橘先輩に恋をしていた。





【先輩! これ受け取ってください!】
【…ありがとう】

 ──バレンタイン時期。
 先輩はもう既に沢山のチョコレートを大勢の女の子から受け取っていたが、私の差し出したチョコレートを受け取ってくれた。
 もうすぐ卒業してしまう先輩。
 卒業したら会えなくなってしまう。
 私は、急に寂しくなってしまって彼を見上げると、先輩は首を傾げていた。

【先輩、受験本番までもうすぐですけど、焦らずに頑張ってくださいね!】
【あぁ頑張るよ】

 ──卒業前にこの想いを告げよう。悔いを残さないように。
 だけど今は彼の邪魔になるから伝えない。
 
【あの、卒業式の時にお話があるのでお時間を少し頂けませんか?】

 ──先輩にそうお願いしたら彼は快諾してくれた。
 




 ──卒業式を終え、卒業生である三年生が去ってしまった三年の教室はガランとしていて静寂に満ちていた。
 それが寂しく感じたが、私は目の前にいる橘先輩に勇気を出してこの想いを告白した。

【私っ橘先輩が好きです!】

 ──心臓がドキドキして仕方なかった。
 目の前の先輩を見るのが怖くて俯いたまま告白してしまったのが悔やまれるが、想いを伝えることが出来て本当に良かった。
 先輩の返事を待つ時間が妙に長く感じた。

【…俺もだ。本橋】
【…! 先輩…】

 ──先輩も私と同じ気持ちでいてくれた。
 嬉しくて私の涙が止まらない。
 先輩に抱き寄せられ、彼と見つめ合うとどちらともなく顔を近づけて2回目のキスを交わした……



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

処理中です...