攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

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続編

寂しいのは私だけじゃないんだ。私はひとりじゃない。

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 …違う。
 先輩への告白は三年の教室じゃなくて風紀室だったし、セリフはもっと多かった。
 それにキスもそんな軽いのを一回とかじゃなくて、酸欠状態になりながら何度もされた。私は告白を言い逃げしようとしたから先輩に捕獲された上で強く抱きしめられた。
 見送るために手を繋いで一緒に校門まで向かったし、大久保先輩に冷やかされた。その時に先輩のお祖父さんとも再会した。
 私の記憶とは違うのだ。



 あぁそうか。これは乙女ゲームのハッピーエンドルートのシナリオか。
 …そうだ私はモブだったのだ。そもそも先輩は手の届かない存在。
 先輩にはヒロインである花恋ちゃんが……

 “私”が知っている乙女ゲームの橘亮介ルートでヒロインの本橋花恋が彼とキスをしているのを、私は見ているしか出来なかった。
 だって体が動かないし声も出ない。藻掻いているのに、やめてと叫んでいるのに私の声はふたりに届かないのだ。
 こんなにも胸が張り裂けそうな位苦しいのに、ふたりは私に構わずにキスをしている。

 やめて花恋ちゃん。いくら友達でもそれは許せないよ。
 ……やめて、先輩。
 私以外の女の子とそれ以上キスしないで!
 

☆★☆


「……いやっ!!」

 目が覚めるとそこは私の部屋の天井があった。
 …走ったわけでもないのに私は息を荒げていた。

 今のが夢だとわかった私だったが、ここが夢で先程の夢が現実だったんじゃないかと考えてゾクッと震えた。
 私にとっての悪夢を見てしまって全身に嫌な汗をかいてしまった体がベタベタしてとても不快だ。
 久々に熟睡できた気がする。だけど私の体は怠重だるおもくて、起き上がるのに一苦労だった。…それに全く疲れが取れた気がしない。

 ……私、クリスマスを先輩と祝っていたはずなのにどうしてここにいるんだろうか。今は何時? どのくらい眠っていたんだろうか。
 ベッドから這い出るようにして、勉強机に置かれた私の鞄を漁るとスマートフォンを取り出す。
 だけど充電切れで液晶は真っ暗なまま。
 仕方なく充電コンセントに繋いで電源を入れると、液晶に表示された数字を見て目を見開く。

「…27日?」 

 25日のクリスマスの夜までの記憶はあった。
 それから2日も経過していたという。
 今の時刻は朝方5時過ぎ。1日半近く寝ていたということになる。

「…昨日のゼミ、どうしよう休んじゃった。勉強が、勉強が遅れちゃう…」

 私の心臓がバクバクと大きく鼓動した。体中から冷や汗が吹き出し、プチパニックを起こし始めていた。
 こんな呑気に寝ている暇なんてないのに、なんで私は…

「…勉強、勉強しなきゃ……」

 机に向かおうと勉強机の椅子を引いたのだが、それと同時に私の部屋のドアが開けられた。

「…ちょっ姉ちゃん!? 何してんだよ! まだ寝てろよ!」

 開けたのは隣の部屋にいたであろう弟の和真だ。
 和真はこれから早朝錬に行く予定だったのか、既に私服に着替えていた。弟はズカズカと私の部屋に入ってくると、勉強机の前に立つ私の腕を引いてベッドに引き戻そうとした。

「は、離して! 私は勉強しなきゃいけないの!」
「馬鹿! 姉ちゃん過労で倒れたんだぞ!? 今勉強したら余計に悪化するだけだって!」
「うるさい!」
「ベッドに拘束されてもいいのか!?」
「やれるもんならやってみろ!」

 勉強しなきゃって焦りはもちろんある。
 だけどその他にも、寝たらまたさっきの夢の続きを見てしまいそうで怖かった。寝るのが怖かったのだ。

 私達が騒いでいるのを聞きつけた両親が部屋に入ってきて、私は無理やりベッドに寝かされる羽目になった。
 起きて勉強できないように大学受験に関わるテキスト類を持ち去られてしまい、私は何も出来なかった。
 スマホや大量に買い置きしていたはずのエナジードリンクまで何処かへと撤去されてしまって、もう何も出来ない。

 それからしばらくしたら外が明るくなり始めた。カーテンから外の光が漏れる中、私は何もせずにぼんやりと天井を見上げるという無駄な時間を過ごしていた。

 意味がわからない。
 成績が落ちたことを怒っていたくせになんで勉強をさせないんだ。
 私は間違ったことをしているわけじゃないのに何故止めるんだ。

 冬休みに入る前に担任から二次試験の時もしものことを考えて志望している国立大よりも偏差値の低い大学への志願も考えておくようにと言われていた。
 だけどそうなれば一人暮らしが必要になる国公立大学になるか私立大学への進学になってしまう。
 だからといって興味がない学部への進学はしたくない。

 どうしたら良いんだ。今までは大丈夫だったのに。どうしてこういう大事な時期に私はポンコツになってしまったんだ。
 こんな時どうしたら良いんだ。努力しても報われない。焦りだけが先回りして私はもう身動きが取れなくなっていた。

 家族にも彼氏にも迷惑をかけて心配させて、自分で自分が情けなく感じた。

 ……私は布団に包まって、声を押し殺して泣いていた。





 いつの間にか私は眠っていたらしい。夢も見ないで熟睡していた私は、部屋のドアをノックする音で目が覚めた。

「…なに」
「あやめ? 亮介君がお見舞いに来てるけどあげてもいい?」

 ……先輩?
 私は寝起きの頭でぼんやりしていた。
 だけど今の寝起き&すっぴん姿を思い出して一気に目が覚めた。

「駄目! 今は会いたくないから断って!」
「……心配して来てくれてるのよ?」
「そ、それでも駄目! とにかく会わないから!」

 クリスマスの日に私は先輩に対して駄々をこねて八つ当たりをしてしまった。その事はいずれ謝らないといけないとはわかっているが、今のこの自分のひどい姿で会うなんてとてもとても。
 母さんに面会謝絶を告げると私は布団に包まってミノムシ状態になった。

 …先輩、私にがっかりしたんじゃないだろうか…
 いっつも私は先輩に迷惑かけて、すっかり甘えきってしまっている…

 うーうー唸りながらベッドの上をゴロゴロしていると、ドアがガチャリと開く音が聞こえてきた。
 母さんが開けたのだろうか。

「……母さん勝手に入ってこないでよ」

 一人にして欲しい。ちゃんと寝てるから放っておいてくれないか。
 ミノムシな私は布団から顔だけ出してから母にそう言おうとしたのだが、顔を出したところで対面した相手を見て、速攻顔を引っ込めた。

「…あやめ」
「なななななんでここにいるんですか!? 会いたくないと言ったはずですけど!?」

 まさかの先輩の来訪に私は焦った。
 拒否したはずなのになんで部屋に入ってきたんだ!
 待ってくれ。私のひどい姿を見ないでくれ!

「お前の弟が通してくれたんだ」
「はぁー!?」

 まさかの弟の裏切りを受け、私は布団を払い除けてベッドを飛び下りると部屋を飛び出した。
 そして隣の部屋を鬼ノックする。

「和真ー! コラ出てこいやー!!」
「…あやめ。田端は出かけていったぞ」
「…もーっ!!」

 この感情をどこにぶつけたら良いのか。
 私は廊下で膝から崩れ落ちた。
 弟よ、帰ったら覚えておけ。

 そんな私をひょいと抱き上げて、ベッドに戻す先輩。彼氏と言うよりもお母さんさんみたいなんだけど。
 私は少しだけ冷静になって、再びミノムシに退化した。
 先輩は布団の上から私の頭のある辺りを撫でてくれた。私が布団に包まっているから先輩の表情を確認できないけど多分苦笑いしてるはず。

「…取り乱してすいませんでした」
「この間よりも少し顔色がマシになったな。…良かった」
「…すいません。八つ当たりしてしまって…それに迷惑かけてすいませんでした…」
「気にするな。…誰だってそんな時はある」

 先輩は私を説教することはなかった。私がノイローゼ気味だってわかったからだろうか。

「……先輩は…去年追い詰められたりしましたか?」
「受験でか? うーん…どっちかといえば高校受験のときのほうが追い詰められたかな。大学受験は前々から準備していたし、心構えができていたと言うか」
「…そうですか」

 前の経験を活かしたということだろうか。
 私の高校受験はここまでは行かなかった。そりゃあめっちゃ勉強したけど、ここまで追い詰められることはなかった。
 
「…先輩、折角時間空けてくれたのにごめんなさい…クリスマスだったのに…」
 
 目頭がじわっと熱くなった。折角のクリスマスおうちデートだったのに。
 私はそれ以上喋れなくて嗚咽を漏らしてしまった。
 本当に自分が情けない。

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