攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

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続編

もっともっとぎゅっとして。じゃなきゃ頑張れない。

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 布団の中で胎児の体勢をした私はうぐうぐと呻き声のような声を出して泣いていた。 

「……あやめ、出てこい」
「…や、化粧してないもん…」
「すっぴんとか寝間着姿とか今更だろうが。裸を見せ合った仲なのに」
「!? も、もう! 先輩そういう事いきなり言わないでくださいよ!!」

 先輩の発言で私の涙が一瞬止まった。カッと全身熱を持ったかのように体が熱くなる。
 先輩のエッチ! 馬鹿!

 渋々私は布団からちょっとだけ顔を出した。今絶対に顔が赤い自信がある。髪とかもうボサボサで、パジャマなんてしゃべる黄色いスポンジのプリントトレーナーだし。
 
 私の乙女らしい恥じらいを理解してくれないのか先輩は力任せに私の布団をバッサァと剥ぎ取ってしまった。
 途端に先程まで熱を持っていた体が外気で冷まされた気がするが、私はそれどころじゃない。
 なんて事をするのこの彼氏様! 

「ほら」
「………」

 先輩は私のベッドの端に座ると、私に向けて腕を広げてきた。
 私はギュッと唇を噛み締めたが、すぐに彼の胸に飛び込んだ。
 それからは支離滅裂に今まであったことを訴えた。

 勉強が伸び悩んでること。
 成績が下がってしまったから睡眠時間削って勉強してるのに全然うまく行かないこと。
 寝ようとしても成績や受験のことでいっぱいになって眠れないこと。
 志望大学を受験できないかもしれないこと。

 説明がメチャクチャだったと思うけど先輩は私の話を止めることなく、一から全部聞いてくれた。
 途中また泣き出してしまった私の頭を撫で、相槌を打ってくれる。

 私が粗方話し終えると先輩は私のおでこにキスしてきた。それは顔中のあちこちに降ってきた。
 だけどそれだけじゃ足りなくて、私は先輩の頬を両手で撫でると自分から彼の唇に吸い付いた。
 もっともっとと尽きることのない欲が湧いてきて何度も唇を重ねていたが、先輩は私の肩を掴んでそっと引き離してきた。

「…先輩?」
「…これ以上は、ちょっとまずい」
「…先輩の意地悪」

 キスくらい良いじゃないか。ずーっと会えなくて全然イチャイチャできなかったんだから。
 私は不満そうに唇を尖らせたのだが、先輩はそれ以上はしてくれなかった。
 
 私はあの夢…乙女ゲームのことを思い出して不安になっていた。だからその不安を払拭したかったのだが…
 
「…下におばさんがいるだろう。流石に駄目だろうが」
「…別に最後まではしなくても良いんですけど」
「…お前、それ本気で言っているのか?」

 先輩がムッスリと不満そうに顔をしかめたが、私はそれに構わず彼の胸に抱きついた。

「だから……」
「…嘘です。本当は私だってもっとイチャイチャしたいです…すいません私が受験生なばかりに…」
「……馬鹿。そんな事わかってる。…その代わり、二次試験が終わったら覚えてろよ」
「……先輩まで宣戦布告するのやめてください」

 大丈夫。乙女ゲームは終わった。
 先輩は私の彼氏。乙女ゲームの攻略対象ではない。
 私もモブじゃない。私は田端あやめで、橘亮介のれっきとした彼女だ。

 先輩の胸にグリグリと顔を押し付けて思う存分先輩を充電した。先輩好き好き大好き!!
 生殺し状態な先輩には申し訳ないが大目に見てくれ。

 久々にちゃんと眠って、先輩を充電したからか私は少し冷静になれた。
 先輩にはちゃんと睡眠をとって勉強をすること。息抜きや休息をしないと脳が疲れて記憶してくれないからちゃんと休むこと。自分を追い詰めるんじゃないと言い聞かせられた。
 それと教師というのは受験生を脅すものだからあまり深く考えるなとも言われた。
 

 父さんは「悩んでるところでプレッシャーを与えて悪かった」と謝ってくれた。
 母さんとも少し話し合いをした。エナジードリンクは体に良くないので、朝たまに飲む程度で抑えてくれと言われてしまった。確かにこれで不眠になった可能性もあるし、カフェインとりすぎでちょっと体もおかしかったから摂り過ぎも良くないよね。
 和真には…勝手に部屋に入れるなと苦情を言いたくなったけど、色々心配をかけてしまったので、とりあえず謝っておいた。

 それと先輩が一緒に勉強してくれるって言ってくれた。
 先輩は来月の21日から後期試験だからっ試験前まで私を助けてくれるって。
 始めは迷惑になるだろうからと私は遠慮していたが、少しでも会う時間を作りたいからと先輩に言われてしまっては無言で抱きつくしかないだろう。
 もー先輩優しい! 好きなんですけど!!

 だから私の負担にならないように、家に通いできてくれるそうだ。
 私はもう祖父母の家には行かないし、年末年始も家で勉強しているつもり。今回も母さんが残るらしいから家に一人じゃないんだけどね。その約束してから、先輩はうちに来ては一緒に勉強しつつ、私が困っていたら根気よく勉強を教えてくれた。
 
 年末年始の休みがあったので実質ゼミを休んだのは26・27日の2日だけだが、年が明けてからゼミに行くのがとても怖くなった。きっと皆自分よりも先へと進んでいることであろう。

 ……ここで焦っても仕方がない。
 自分に大丈夫、大丈夫と言い聞かせて今自分に出来ることを、無理しない程度で頑張るだけだ。
 もうすぐで日付が変わるであろう時間だが、私はキリの良いところまでテキストを問いてしまおうと勉強していた。

【♪…】
 問題とにらめっこしているとスマホが鳴りだして、私はビクリと肩を揺らした。
 画面には先輩の名前が表示されている。
 どうしたのだろうかと思って電話に出ると、先輩は開口一番にこう言った。

『明けましておめでとう』
 
 その言葉を聞いて私は部屋に飾っているアナログ時計を見上げた。いつの間にか12時を迎えていたようだ。

「…新年あけましておめでとうございます。去年と逆ですね。今年は先輩に先越されました」
『そうだな……お前のことだろうから根詰めてるんだろうが、程々にしてもう寝ろよ』
「はーい。おやすみなさい先輩」
『おやすみ』


 先輩にお休みの挨拶をして電話を切ると、開いていたテキストを閉じて、私は寝る準備を始めた。

 大丈夫だ。
 私は一人で頑張ってるんじゃない。
 
 そう自分に言い聞かせながら布団に潜り込むと、すぐに私の意識は深くへと沈み込んだ。

 私の初夢は、大学のキャンパスで先輩と肩を並べて歩いている夢だった。
 私は私服で大人っぽい服装をしていて、先輩は今よりもっと大人で更にかっこよくなっていた。

 学部も学年も違うから途中で別れることになるけど、後で学食で落ち合う約束をして別れると、私は自分の専攻している講義を受けに行くの。
 教授によっては黒板の文字が難解なんだけど、そのうち私は解読できるようになるんだ。
 大学で知り合った仲間と意見交換したり、実験したり…高校では知り得なかった知識や経験を学ぶのだ。


 叶えばいいな。
 そして願わくば、その先でも亮介先輩が私の隣で笑っていますように。
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