167 / 312
続編
小話・ 幼き頃の先輩、そして私と彼のお母さん。
しおりを挟む
夏休み前、あやめが英恵と二人で会った時の補足話。
ーーーーーーーーーーーーーー
『…亮介、仕方がないだろ、お父さんは仕事なんだ』
『…だって…』
『お前はお父さんみたいになりたいんだろう? なら頑張れって応援しないと』
『…絶対に行くって言ってたのに……』
幼い弟を宥めるのは幾分か年上のお兄ちゃん。彼は押入れに立てこもっていじける弟をとりあえず外に出そうと説得しているが、弟の方は完全にへそを曲げている状態だ。
これは絶対に出てこないパターンかもと諦めかけたお兄ちゃんの肩を叩く人物が一人。彼は押入れに近づくと、そっと声を掛けた。
『なら亮介、じいちゃんと行くか? ずっと行きたがっていたもんな。写真をたくさん撮って、お父さんに見せびらかしてやろう』
『でもじいちゃんは、町内会の人と約束があるって…』
『なーに、お隣の佐々さんなら、予定がズレても許してくれるさ。そうと決まれば早く出てきなさい』
祖父の言葉に従って、のそのそと押し入れから出てきた少年。先程まで泣いていたのか彼の目は赤く充血している。だが大好きな祖父がそう言うのであればと彼は出かける準備を始めた。
☆☆☆
「…それで、恐竜博で撮影したのがこれなの」
「亮介少年…かわいい…」
お祖父さんと手を繋いで、無邪気に笑う亮介少年(小1)の腕には恐竜・トリケラトプスのフィギュアが抱えられていた。
彼氏のお母様と一対一でお話をしている時に、彼の昔のアルバムを見せてくれないかとお願いしたら快く見せてくれた。英恵さんの説明付きで写真を眺めていたが…どれもかわいい……しかし、馬鹿やっている写真が一枚もないのが解せない。
誰だって一枚くらいは黒歴史写真があると思っていたのに…
「…昔から、あの子達には我慢ばかりさせて…本当に私は駄目な母親だわ」
「え…」
私がじっくり写真を見ていると、英恵さんがボソリと何かを呟いた。
「……私ね、自分の両親も検察官だったのよ」
「あ、そうだったんですか」
「だから…私も同じ道を歩むというのは昔から決まっていて、決まったレールの上を親の言うとおりに歩いていたの。それが当然だと思っていたわ。…仕事の関係で予定がなくなるも当たり前だと思って育っていたから……私が世間一般の親と感覚がずれている意識はあるの」
「………」
どうしたの英恵さん。急に。写真見てたら思い出しちゃったのか? 結構暗い話だったりしますか? それ私に話しても問題ない話ですか?
私は内心少し焦っていたが、口を挟める空気じゃなかったので、彼女のボヤキのような話を黙って聞いていた。
「恵介が物分りが良すぎる子だったから甘えていたけど……亮介は必死に訴えていたのにね。……あの子が、私達によそよそしくなった時ようやく…私は親には向かない人間なんだわって気づいたわ」
「いやぁ…そんな事は」
「いいのよ…そんな親に、彼女のことを紹介したいだなんて思わないわよね……」
ずーん、と英恵さんは凹んでしまった。
私はなんて返せば良いんだろうか。そんな事ないですよとか言っても、私の言葉だと軽すぎるだろうし…
「多分、まだ付き合って日が浅いからだと思いますよ! だってまだ半年にも満たないですもん!」
「…でも、あなたのご両親とは亮介、もう挨拶しているんでしょう?」
ギクッとした。
そ、それはそうなんだけど、先輩の要望だったしなぁ。私はまだ挨拶しなくていいって言われてたし。
「…私も親御さんに紹介してもらえないのは何でかなって不安に思ってましたけど…亮介さんきっとお仕事の邪魔をしたくなかったんじゃないですかね!」
「……そうかしら…」
「家族のカタチなんて色々なんですから! 普通なんてないんですよ。どんなことがあったにしても、亮介さんはすごく素敵な人に成長したんですから大丈夫!」
無理やりそう結論づけた感が否めないけど、結果そうでしょ。
大丈夫。先輩は小さな子供じゃないんだから。英恵さんが思うよりも先輩は強くなっているはずですよ。
「……ありがとう」
英恵さんにお礼を言われた。だけど別にお礼を言われるようなことは言えてない気がする。…根本的な解決には至っていないし。
…きっと英恵さんも悩んできたのだろう。…私の拙い言葉でちょっとでも気が楽になっていたら良いんだけど。
私は苦笑いを返すと、写真に目を落とした。
英恵さんがまた写真の説明をしてくれたので、私はそれを聞きながら、幼い先輩の写真を堪能したのである。
…隅から隅までアルバムの写真を見たけども、先輩の恥ずかしい写真なんて見当たらなかった。
橘兄弟の泣き叫んでいる写真とかないのかな…と邪な気持ちで見てたのに……残念だ。
ーーーーーーーーーーーーーー
『…亮介、仕方がないだろ、お父さんは仕事なんだ』
『…だって…』
『お前はお父さんみたいになりたいんだろう? なら頑張れって応援しないと』
『…絶対に行くって言ってたのに……』
幼い弟を宥めるのは幾分か年上のお兄ちゃん。彼は押入れに立てこもっていじける弟をとりあえず外に出そうと説得しているが、弟の方は完全にへそを曲げている状態だ。
これは絶対に出てこないパターンかもと諦めかけたお兄ちゃんの肩を叩く人物が一人。彼は押入れに近づくと、そっと声を掛けた。
『なら亮介、じいちゃんと行くか? ずっと行きたがっていたもんな。写真をたくさん撮って、お父さんに見せびらかしてやろう』
『でもじいちゃんは、町内会の人と約束があるって…』
『なーに、お隣の佐々さんなら、予定がズレても許してくれるさ。そうと決まれば早く出てきなさい』
祖父の言葉に従って、のそのそと押し入れから出てきた少年。先程まで泣いていたのか彼の目は赤く充血している。だが大好きな祖父がそう言うのであればと彼は出かける準備を始めた。
☆☆☆
「…それで、恐竜博で撮影したのがこれなの」
「亮介少年…かわいい…」
お祖父さんと手を繋いで、無邪気に笑う亮介少年(小1)の腕には恐竜・トリケラトプスのフィギュアが抱えられていた。
彼氏のお母様と一対一でお話をしている時に、彼の昔のアルバムを見せてくれないかとお願いしたら快く見せてくれた。英恵さんの説明付きで写真を眺めていたが…どれもかわいい……しかし、馬鹿やっている写真が一枚もないのが解せない。
誰だって一枚くらいは黒歴史写真があると思っていたのに…
「…昔から、あの子達には我慢ばかりさせて…本当に私は駄目な母親だわ」
「え…」
私がじっくり写真を見ていると、英恵さんがボソリと何かを呟いた。
「……私ね、自分の両親も検察官だったのよ」
「あ、そうだったんですか」
「だから…私も同じ道を歩むというのは昔から決まっていて、決まったレールの上を親の言うとおりに歩いていたの。それが当然だと思っていたわ。…仕事の関係で予定がなくなるも当たり前だと思って育っていたから……私が世間一般の親と感覚がずれている意識はあるの」
「………」
どうしたの英恵さん。急に。写真見てたら思い出しちゃったのか? 結構暗い話だったりしますか? それ私に話しても問題ない話ですか?
私は内心少し焦っていたが、口を挟める空気じゃなかったので、彼女のボヤキのような話を黙って聞いていた。
「恵介が物分りが良すぎる子だったから甘えていたけど……亮介は必死に訴えていたのにね。……あの子が、私達によそよそしくなった時ようやく…私は親には向かない人間なんだわって気づいたわ」
「いやぁ…そんな事は」
「いいのよ…そんな親に、彼女のことを紹介したいだなんて思わないわよね……」
ずーん、と英恵さんは凹んでしまった。
私はなんて返せば良いんだろうか。そんな事ないですよとか言っても、私の言葉だと軽すぎるだろうし…
「多分、まだ付き合って日が浅いからだと思いますよ! だってまだ半年にも満たないですもん!」
「…でも、あなたのご両親とは亮介、もう挨拶しているんでしょう?」
ギクッとした。
そ、それはそうなんだけど、先輩の要望だったしなぁ。私はまだ挨拶しなくていいって言われてたし。
「…私も親御さんに紹介してもらえないのは何でかなって不安に思ってましたけど…亮介さんきっとお仕事の邪魔をしたくなかったんじゃないですかね!」
「……そうかしら…」
「家族のカタチなんて色々なんですから! 普通なんてないんですよ。どんなことがあったにしても、亮介さんはすごく素敵な人に成長したんですから大丈夫!」
無理やりそう結論づけた感が否めないけど、結果そうでしょ。
大丈夫。先輩は小さな子供じゃないんだから。英恵さんが思うよりも先輩は強くなっているはずですよ。
「……ありがとう」
英恵さんにお礼を言われた。だけど別にお礼を言われるようなことは言えてない気がする。…根本的な解決には至っていないし。
…きっと英恵さんも悩んできたのだろう。…私の拙い言葉でちょっとでも気が楽になっていたら良いんだけど。
私は苦笑いを返すと、写真に目を落とした。
英恵さんがまた写真の説明をしてくれたので、私はそれを聞きながら、幼い先輩の写真を堪能したのである。
…隅から隅までアルバムの写真を見たけども、先輩の恥ずかしい写真なんて見当たらなかった。
橘兄弟の泣き叫んでいる写真とかないのかな…と邪な気持ちで見てたのに……残念だ。
10
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる