166 / 312
続編
先輩との初詣デート。とある方々との遭遇。
しおりを挟む「うわぁすごい行列」
「昨日よりは減っているとは思ったけど…やっぱり人が多いな」
1月2日の今日、私は先輩と神社に来ていた。
受験勉強の息抜きも兼ねて、先輩が初詣に誘ってくれたのである。
だけど毎年目にする参拝客の行列を見て私はウッとなった。皆考えることは同じってことか。
「取り敢えず並ぶか」
「はい…」
行列に並ぶのはしんどかったけど隣に先輩がいるし、お喋りしていたら待っている時間が短く感じた。それが錯覚なのはわかってるんだけどね。
ようやく自分たちの番になった時、私はここぞとばかりに千円札を財布から取り出す。
ちょっとだけ躊躇ったけど今年は奮発だ。
壱万円じゃないのかというツッコミは受け付けない。千円でも大金なのに壱万円なんて賽銭できるわけ無いでしょ。
千円札を賽銭箱に投げると、私は念を込めて大学合格を祈った。大事なのは自分の実力と運なんだけど、こういう時は神に縋りたくなるのだよ。
長々と祈っていたのだが、先輩に後ろの人が待ってるからと促されてしまったので仕方なくお祈りを終えた。
その後社務所に行っておみくじを引いたのだが、私は吉だった。可もなく不可もなくである。でもまあこんな時期に凶を引いたりしなくてよかったよ。ちなみに先輩は中吉だ。
おみくじには特にめぼしいことも書いていないので、そのおみくじを神社の木に括り付けておいた。
「…亮介」
「! 父さんも来てたのか」
「あ…明けましておめでとうございます」
おお、こんなところで再会か橘父。ここが家から一番近いもんね。
私は橘父に向けて頭を軽く下げると新年の挨拶をした。
先輩は大晦日と元旦に実家へ帰ったそうだが…最近お父さんとはどうなのだろう。先輩こういう事あまり話さないからなぁ。だからこっちも聞きにくくて。
「……君は確か…あやめさんか。明けましておめでとう…髪を黒くしたのだな」
「根本が目立ってきましたし、もうすぐ受験なので」
「…先日も思ったのだが君は少々化粧が濃いんじゃないかな」
「……すいません。化粧をしないと人様にお見せ出来るような顔じゃないので…」
この人…先輩とやっぱり親子だな。同じこと言ってるよ!
今でこそ先輩は私の化粧に口出ししないけど、たまにすっぴんを見られると顔面にめっちゃキスされる。想定するにあまり化粧は好きじゃないらしい。
……それを狙ってうちで勉強する時、わざとすっぴんでいることもなくはない。
「…造形は悪くないと思うが…化粧なんて肌に悪影響なだけじゃないのか…」
「女性ならいつか通る道ですよ…スキンケアはちゃんとしてますんで…」
これが橘兄なら適当にあしらえるのに、お父様だとそんな事できないわぁ。
橘父は私の顔をマジマジ眺めていたが、諦めたようにため息を吐いた。
「…入試はいつなんだ?」
「え。あ、一次が今月の15と16で、二次は来月下旬に…」
「そうか。…この時期インフルエンザや風邪が蔓延しているから多少苦しくてもマスクを装着していたほうが良いぞ」
「あ、どうも…」
なんか体調の心配された。
そうね。感染症は怖いよね。帰ったらうがい手洗いちゃんとします。
「じゃあな。…亮介も体調崩すんじゃないぞ」
「あぁ…」
橘父は先輩にそう声をかけると神社の境内に歩いて向かっていた。初詣に一人で来たのだろうか。
先輩は緊張していた体を弛緩するように大きく息を吐きだしていた。
父親を前に緊張していたのか。
…親子間のギクシャクはそう簡単に解消はしないか。
お父さんの背中を見送ってぼんやりとしている先輩の手を掴んで社務所のお守り売り場を指差した。
「先輩、お守り見に行ってもいいですか? 私、学業のお守りが欲しいんですよ!」
気休めにしかならないと思うが、お守りを買っておこうと思っていたんだよ。
学業守の中から一つお守りを手に取ると先輩に「それがいいのか?」と尋ねられた。
お守りだから可愛いのがないんだよね。目についた青紫色のお守りをたまたま手に取っただけなんだけどこれも学業のお守りだから別にこれでも良いか。
「そうですね、これにしようかな」
「じゃあ買ってやる。去年俺もお前に買ってもらったからな」
「いいんですか? ありがとうございます!」
去年の修学旅行でのお土産のお守りのお返しで先輩がお守りを買ってくれた。
…これは…来年になっても神社に返納できないかもしれないな…
取り敢えずこの人混みの中で買ってもらったお守りを失くさないように鞄の中にしっかり収めておいた。
お目当てのものは入手できたので、私達は人混みではぐれないようにしっかり手を繋ぎ、神社の境内に繋がる道に並ぶ屋台を冷やかしながら歩いた。
朝早くに出かけたから小腹がすいたな。先輩にお腹空いていないか尋ねると、先輩もお腹すいたそうだから朝ごはんがてら何か食べようかという話になった。
お正月といえば海外でも有名なサイレントキラーお餅が屋台に出回る。
家でも母さんがお雑煮を作ってくれたけど、折角だからここでもお餅が食べたい。メジャーなお汁粉にお団子、揚げ餅に磯辺焼き、あっちにはモッフルがある。
何にしよう。
先輩は餅ではなくて肉まんと温かい汁物を買っていた。餅は昨日たくさん食べたからいいんだって。
私は磯辺焼きともちポテトを選んだ。
空いていた席に座ってふたりで朝ごはんを食べていると、キョロキョロと何かを探している英恵さんの姿を見つけた。
……あれ、もしかして橘父と一緒に来てたのかな。だけど一人でいるみたいだ。
先輩もお母さんの英恵さんがいることに気がついて、座っていた椅子から腰を浮かせると彼女に声を掛けた。
「母さん? 父さんとはぐれたのか?」
「亮介、それにあやめさん」
「どうもお久しぶりです。新年明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう」
私も席を立って英恵さんに挨拶したのだが、彼女の手元が気になってそっちに目が行った。
英恵さんの両手には沢山、屋台で買ったでのあろう食べ物があった。
それ一人で全部食べるつもりなのだろうか。
「屋台で買い物をしてたから、お父さん一人で先に行っちゃって…亮介、お父さん見なかった?」
「20分前くらいに境内近くで会ったが…」
「…もう…いつも一人で勝手に行くんだから…」
英恵さんは諦め半分の溜息を吐いていた。
分かる。うちの父さんも買い物に行った時、一人でマイペースにスタスタ行くから荷物持ちにもなりゃしないと母さんが愚痴っていたもの。なのに高いお菓子とかおつまみを勝手にカゴに入れようとするから一緒に買い物に行きたくないと言っていた。
橘父をずっと探していたらしいが、この混雑で電話も繋がりにくいそうで。
このまま探しても非効率だから、ここで座って待っていないかと提案した。
「…母さん…買いすぎじゃないのか」
「こ、これは…恵介達にお土産を」
「それでも買い過ぎだろう…母さん、甘いものを摂るのは良いけど限度があるだろう?」
英恵さんの甘い物好きを知ってしまった先輩は英恵さんが購入した甘味の数々を見てため息を吐いていた。
彼女の手にはお汁粉、提げられたビニール袋にはカステラ焼き、たいやき、団子、サーターアンダギー、甘栗、いちご飴など沢山のおやつ系屋台名物が入っていた。
どんだけ食べるつもりなの英恵さん……
「いやだからお土産…」
「隠さなくてもいい。もう知ってるから」
英恵さんの食い意地を知ってしまった先輩は少しだけ、英恵さんとの距離が埋まっている気がする。親近感でも湧いたのかな。
しかし今の今までお母さんの甘い物好きに気づかなかったのはすごいな。英恵さん、隠していたのだろうか。
「屋台に行く機会ってたまにしかないから買い過ぎちゃうの分かります。カステラ焼きとか美味しいですよね」
私は英恵さんをフォローしようとしたのだが、先輩は手厳しかった。
私のフォローを難なく流してしまった。
「健康診断で引っかかったの知ってるんだぞ。ばぁちゃんが心配してたんだからな」
「大丈夫よ。お薬飲んでるから…」
「薬に頼るのは良くない」
「まぁまぁ先輩…」
「病気になってからじゃ遅い」
宥めようとする私まで睨まれてしまった。サーセン。
あららあんなにギクシャクしていたはずのお母さんに説教できるくらいになったのね。
息子に説教されている英恵さんは気の毒だけど、先輩とのギクシャクが少し解消されたのを知って私は嬉しくなった。
うーん、でも糖分とり過ぎは良くないよね。私もカフェインとり過ぎで体おかしくなったし、何事も程々が大事だ。
バレンタインに先輩にあげるついでに、英恵さんにもおすそ分けしようと思ってたけどやめておいたほうが良いかな。
「じゃあ…バレンタインのお菓子も渡さないほうが英恵さんのためですかね」
「えっ」
「…あやめは受験前なんだから今年は用意しなくてもいいが…」
「いえいえ、なにか作っていると頭の中整理できるんで気分転換になるんですよ私。ずっと机に向かっているとまた情緒不安定になりそうなんで息抜きも兼ねてるんで」
「…そうか?」
お菓子作りに丸一日潰れるわけじゃないし、心配しないで欲しい。
頭がいっぱいな時に掃除とか料理してると冷静になるんだよ。全く無理はしてないから。
「今年はフォンダンショコラに挑戦します! 大丈夫ですよ今年もビターチョコレート使用しますんで」
「楽しみにしてる。…だが本当にきつかったら無理しなくていいから」
「大丈夫ですって」
こないだのような情緒不安定にならないように息抜きも必要なの。自分を追い詰めない手段だ。
目前に入試が迫っているが、私はバレンタインが待ち遠しくて仕方がなかった。
「あの…」
「母さんは兄さんや父さんの分まで食べてしまうだろう。だから駄目だ」
「そんな…」
英恵さんが目に見えてショックを受けている。
ちょっと可哀想だけど仕方ないな。
その後先輩が英恵さんに甘いもの摂りすぎるの良くないとくどくど説教しているのをしばらく眺め、英恵さんがすっごい凹んでいるところで橘父が再登場した。
橘父は凹んでいる英恵さんを見て訝しげにしていたが、彼女の荷物を見てなにか察したようだ。
「…亮介、無駄だぞ。英恵は何を言っても聞かない。結婚する前からそうだったから」
橘父は諦めきった様子で息子にそう告げていた。
先輩はお父さんのその投げやりな態度に少し苛ついたようで橘父を軽く睨みつけていた。
「父さんは母さんが病気になってもいいのか」
「…よくはないが、聞かないんだから仕方がないだろうが」
ほんの少しの変化だったけど、息子の反論に対して橘父は驚いた顔をしていた。
……目の前で親子喧嘩の気配がするな。
…なんだよ。なんだかんだ言って喧嘩できるほど仲いいんじゃないかこの親子。
私の前ではしょんぼりしながらカステラ焼きをもぐもぐしている英恵さんがいる。
…言ってる傍から甘い物食べてますけど放っておいていいの?
私は新年早々彼氏とその父親の討論【母親の甘味多量摂取問題】を眺めることとなったのである。
20
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる