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番外編
橘家クリスマス計画! 私はあなたのサンタです。【後編】
しおりを挟む橘父にじろり、と睨まれたのでちょっと怯みそうになったが、これまでの英恵さんの甘い物好き問題を第三者目線で見てきて、感じたことがあるのだ。
この機会なので私が考えついた意見をぶつけてみることにした。
「甘やかしているつもりはありませんけど…だって何でもかんでも禁止したら、逆に食べたくなってしまうってものですよ。厳しく規制して陰で大量摂取されるより、適量を食べているのを把握できたほうが安心でしょう?」
大体、人に言われて止めているならとっくの昔にやめているというものである。
それならリハビリも兼ねて制限を掛けながらも、本人の好物を食べさせてあげるほうが、お互い幸せじゃないか。
今、甘い物禁止! と英恵さんに命令しても、きっと英恵さんはすごいストレスを感じて…リバウンドする気がするし。
こっちも砂糖控えめでどこまでお菓子を美味しく出来るか、研究のしがいがあるってものである。
「…もしもお父様が英恵さんに甘いものを厳しく禁じると言うならば…お父様も嗜好品をやめる覚悟じゃないと英恵さんはついて行けないと思いますよ…?」
私はじっと、橘父の手元のグラスに視線を移した。
うちの父もお酒が好きだけど、健康診断にて異常が判明したので今は禁酒している。当初はしんどそうだったが、最近は体の調子が良いと元気になっている。
「…適量は守っている」
「私の父もそう言って、健康診断に引っかかったんですよ…ほら、好きなものを簡単に止めようなんて考えつかないでしょう?」
好きなものを止めるというのは大変なのだという例え話だけど、おわかりいただけたであろうか。
何故か橘父は小難しい顔をして黙りこくってしまった。
…私は橘父を黙らせるために話を始めたのではない。問題は英恵さんだ。
「英恵さんも…心配しているご家族のために、程々の量を学びましょうね? 病気は怖いんです……本当に病気になってしまったら、何が何でも甘いものは食べさせませんからね? 甘味の暴食を止めないというのならその覚悟をしておいてください」
病気は怖いんだよということを理解してほしかったのだが、何故か英恵さんは顔を青ざめさせて、コクリと深く頷いていた。
楽しい楽しいクリスマスのはずなのに、橘夫妻がズーンと暗くなってしまった。私はただ、甘いものの食べ過ぎは良くないこと、しかし厳しく規制するのは良くない結果を招くよと言いたかっただけなのだけど…
でもその直後、蚊帳の外だったお祖父さんお祖母さん橘兄にグッジョブ的なお言葉を頂いたのであった。
☆★☆
「亮介」
ちょうどいい時間になったので、今度こそお暇をしようとした私が帰り支度をしていると、私を家まで送ろうとしていた亮介先輩を橘父が呼び止めた。
さっきまでずっと考え事していたのにやっと復活したのか。
「…人様の娘さんだ。大切にするんだぞ」
「…あぁ、わかった」
……?
急にどうした橘父。
先輩は少しびっくりしている様子だったけど、その言葉を重く受け止めた様子でうなずいていた。
「あの、大丈夫ですよ。亮介さんは私を大切にしてくれます。…仲良しだから心配しなくても大丈夫ですよ!」
何故何が何でもシリアスにしたがるんだ橘家よ! クリスマスくらい楽しくしようぜ!
何やら重い空気になり始めたので、私は慌ててフォローした。すると…私は信じられないものを見てしまったのだ。
「…あやめさん」
「はいっ」
橘父に名を呼ばれた私は声を裏返らせてしまった。変に思われていないかな。…情けない姿ばかり晒している気がする。
「…また遊びに来なさい…今日はありがとう」
「…はい…どういたしまして」
なんと、橘父が薄く微笑んだのだ。その上お礼を言われた。
私はそれに強い衝撃を受けて、目をカッと見開いて固まってしまった。
なのでその後どうやって橘家をお暇したのか記憶がなかった。また失態を犯していないか、先輩に聞いたけど特に何もしでかしていないようだった。
「…楽しんでもらうためにセッティングしたんですけど、なんだか微妙な空気になりました。すみません」
「いや、母さんにはあの言葉がかなり響いたようだったから逆に良かった。…あやめの料理にすっかり母さんは胃袋を掴まれたな」
もうすぐ今年が終わるという実感がわかないまま、クリスマスという日が終わりに向かっていた。住宅が集中しているこの通りでは、クリスマスイルミネーションのライトを設置している家が所々あって、夜なのに明るい。
家までの道を先輩の腕に抱きつきながら歩いて帰る。寒いけど、先輩とくっついていられるから全然平気。
「…父さんもあやめのことをすっかり気に入ったようだし」
「えっ!? 私…失態しか起こしてない気がしますけど…」
フライングメリークリスマスをしたし、初対面はゾンビメイド(ギャル風味)だったし…どこに気に入る要素があったというの…?
私が困惑していることに気づいていないのか、フッと先輩がすぐ隣で笑った気配がした。
「…あんなに両親と話したのは久々だよ。それに家族揃って和やかに過ごしたのも…本当に久々だ」
柔らかい表情で微笑む先輩。クリスマスディナー前は緊張していたのに表情が随分和らいでいる。
「…先輩が楽しかったなら成功ですね」
「…お前のお陰だ。ありがとう」
先輩が嬉しいなら私も嬉しい。私もつられて笑顔になった。好きな人には笑顔でいてほしいもの。
それに先輩の家族はすれ違いがあるものの、皆素敵な人だと思うんだ。これから一緒に過ごす時間をちょっとずつ作っていけば、失っていた時間は取り戻せるはずだ。
「…先輩?」
ぴたりと先輩が道の途中で立ち止まった。私もつられて足を止める。もしかして実家に忘れ物でもしたのだろうか?
先輩を見上げると、先輩は私をじっと真剣な眼差しで見つめていた。
皮膚の厚い大きな手が私の頬を撫でた。それは先輩がキスをする合図だ。私は先輩に早くキスをしてもらおうとつま先立ちした。
目を閉じるとすぐにカサついた唇の感触が伝わってきた。この時期になると先輩の口にリップを塗ってあげているけど、それでも外で働いていると乾燥しちゃうよね。
ガソリンスタンドでバイトするようになって、先輩の手は手荒れするようになった。だからよく効くというハンドクリームをあげたけど、それでもカサついている気がする。手袋をした自分の手で、先輩の手を労るように撫でてあげる。するとまた唇にキスが落とされた。
至近距離にある先輩の瞳をじっと見つめながら尋ねる。
「…先輩、ハンドクリームは塗ってますか?」
「…塗ってるけど、水を扱うとすぐに落ちる」
「仕方ないなぁ。なら私が塗り直してあげますよ。…早く帰りましょ?」
ここじゃ寒い。先輩の手に早くハンドクリームを塗らないと。
「…それに、先輩の唇カサカサしてて…痛いんですもん。リップも塗ってあげますね」
本当は今日はまっすぐ家に帰る予定だったけど予定変更だ。
母さんにお願いすれば、お泊りを許してくれるはず。先輩はかなり信用されているからね。折角のクリスマスなんだ。去年のクリスマスがぼろぼろだった分、今年はその分ラブラブさせて欲しい。
早く帰ろうって声を掛けたのに、先輩はまた私にキスをしてきた。乾燥してる唇が痛いって言ってるのに。
だけどキスをしていたらそんな事どうでも良くなって、私は先輩の首に抱きついてキスを求めていた。
明日の予報は曇り時々雪。道理で今夜はよく冷えるわけだ。外は凍えるくらい寒いのに、先輩のキスで私の身体が熱くて仕方なかった。
しかし、いつまでもここでいちゃついていたら通行人に見つかるかもしれない。名残惜しいが、先輩とのキスを中断した。
「…行くか」
「…はい」
先輩に手を取られ、私達は今歩いていた道を方向転換する。そのまま先輩の一人暮らしの部屋のある方向へと足を向けたのだった。
先輩のお家に着いたら、先輩の手にハンドクリームを塗ってあげて…お返しに沢山キスしてもらうんだ。
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