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番外編
私のバイトは食べ物を提供するのが仕事! パパ活は取り扱っておりません!【前編】
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あやめ大学1年の5~6月あたりのお話。
ーーーーーーーーーーーーーー
「君のスマイルを買い占めたいな」
「…お店が違いますね。そのお店は隣駅にございますので、そちらへお願いいたします」
カウンターのメニュー表の上に軽く置いていた左手を握られた私はバッと振り払って、お客様は金づる、お客様は金づると心の中で念じながら営業スマイルを相手に向けた。
大学に入学してから、長期休暇以外もファーストフード店のアルバイトを始めた。大学へ行く前の午前中だったり、講義が入ってない時間とか。学業に支障がない程度に調整してバイトしている。
居酒屋とかの方が時給が良いので親にお伺いを立ててみたけど…やっぱり時間が遅くなることやお酒を扱っているから危ない・駄目と言われてしまった。
それはそうと、冒頭でクッサイセリフを吐いたのは、店の常連のおっさんである。名前は知らない。その発言が冗談なのか本気なのか判断つかないので流しているが、いい加減鬱陶しい。
私でもわかる。これはナンパであると。
「つれないなぁ、そうだ田端ちゃん、今日何時に上がりなの? 車で送るよ?」
「あ、そういうの結構です~私彼氏がいるんで~」
下心隠す気ねーなこのおっさん。私くらいの子供が居てもおかしくない年なのに恥ずかしくないのだろうか。
「彼氏いるの? いくつ?」
「彼氏は私のひとつ上で9月にハタチになります」
「まだまだガキじゃーん。田端ちゃんにはもっと大人な男がいいと思うな~? ほらー俺みたいな~」
「あはは、いいえ結構です~」
私の彼氏はとってもとっても素敵な人だからご心配には及びません…てか彼氏居なくともあんただけはない。
「えーいいじゃーん、ご飯奢るよ~? 彼氏に内緒で行っちゃおうよ~。田端ちゃんが望むならその先も…」
「お断りします」
きもい。の一言である。
キャバクラとかそういうお店に行けよ。
「なんならお小遣いもあげちゃうし~、ほら、こんなバイトしなくてもお金がゲットできちゃうんだよ~?」
ニヤニヤといやらしい笑顔でパパ活話を持ちかけられたが、全く心揺れない。
私の返事は否。それだけだ。
そこまでしてお金を手に入れたいとは思わない。お金が必要ならファーストフード店のバイトのシフトを増やすし、他にもバイトがあるからそっちでお金を稼ぐ。
そもそも私は亮介先輩じゃないと嫌なのだ。断固拒否である。
「いりません!」
営業スマイルできっぱり拒否を示すも、おっさんは引かない。何かを購入するわけでもない。カウンターの前に居座っていてとても邪魔である。営業妨害で訴えられたらいいのに。
…お客さん来ないかな。
そう願った私の願いが天に届いたのか、店の自動ドアが開く音が聞こえた。
「いらっしゃいませ!」
いつもの私と比較して1.5倍位テンションの高い挨拶だったかもしれない。
何故ならそこに居たのは高校の時の友人・沢渡君だったからだ。
「アヤちゃーん!」
無事大学生となった彼は、あの頃と変わらないチャラ男風味のイケイケファッションでご来店した。そしてその彼の隣にはセーラー服姿のギャル系JKがいた。
「…その子は?」
「俺の従妹だよ~」
「どもどもーはじめまして~沢渡莉音でーっす!」
あぁ、なるほど。ノリが似ている。
ギャルギャルしい2人の登場におっさんは怯んだ。いいぞ、沢渡君もっとやれ。
2人はおっさんを押しのけるようにしてカウンター前に立つと、メニュー表を見比べ始めた。
「あたしミートパイとアイスココアにしようかなー」
「莉音、さっきラーメン食べてなかったっけ?」
「ヤダなぁ颯君、これはおやつ」
「替え玉2回して、もう食べれないって言ってなかった?」
カウンターでワチャワチャし始めた彼ら。
そうだよ、このお店は食べ物を提供するお店。それを購入するお客様を応対するのが私の仕事なのに、あのおっさんは邪魔ばっかりして…客でもなんでもない!
「俺は巨峰&北海道バニラソフトにするー」
「あっあたしもあたしも!」
「かしこまりました」
お客様から注文を受けた私がレジ打ちして、提供の準備をしていると、後ろでガーッっと自動ドアが開閉する音が聞こえてきた。
迷惑なナンパおっさんはやっと退散してくれたらしい。
「…いなくなったね。アヤちゃん大丈夫だった?」
「助かった。しつこくて困ってたんだ」
「いかにもなおっさんでしたね~。あたしも街ナカでたまに声かかるんスけど、ギャル=パパ活と紐つけるのは止めてほしいっす」
2人はひと目で、私がナンパされて困っていると見抜いたみたいだ。いいタイミングで遊びに来てくれてありがとう沢渡君。
「これはサービスね。私が代金払っておくよ」
「えっいいの?」
「本当に困ってたからお礼だよ。ありがとね」
今日はなんとか助かったけど、問題は次のシフトの時なんだよな。
他の時間に入っているバイトさんはあのおっさんのことを知らないみたい。多分店の中を確認して、私がいたら入ってきているんだと思う。
…私はそんなにチョロく見えるのであろうか。
私のおごりで2人に商品を提供すると、私は一息ため息を吐いた。常連客に名前を覚えられて、ちょっとお話することはよくあるけど…あのナンパおっさんは…大分タチが悪い。
☆★☆
「あやっぺさん! 連絡ください! 待ってますねー♪」
「あ、あやっぺ…」
そんなカナッペみたいなあだ名…まぁいいか。
沢渡君の従妹・莉音ちゃんにアプリIDを書いたメモを渡された。私がバイト中だったのであまり話をできなかったから、もっとお話がしたいと言われたのだ。
ミートパイとソフトクリームをおごったから懐かれたのであろうか。
あれから1時間位経過した。2人はお店を退店する前に私に声を掛けに来てくれたんだけど、時刻は夕方の17時前。私ももうそろそろ上がりの時間だ。
…あのおっさんが外で張り込んでたりしてたらどうしようかな。
考え事をしていると自動ドアが開く音がしたので、反射的にそちらに顔を向けて「いらっしゃいませ」と挨拶をした。
するとそこに居たのは亮介先輩であった。どうしたんだろう。夕飯をファーストフードで済ませるつもりなのかな?
私は先輩に話しかけようと口を開いたのだが、私よりも先に先輩へ声を掛けたのはまさかの沢渡君であった。
「橘パイセンこんちゃーっす! パイセンやばいっすよ! アヤちゃんにパパ活持ちかけるスケベなおっさんがいました!」
「ちょっと沢渡君?!」
挨拶もテキトーに、沢渡君は一気に用件を亮介先輩に伝えた。
ちょっと、何勝手に告げ口してんの。そもそも大袈裟だよ。確かにあのおっさんは迷惑だけども、話を大きくしないでおくれよ。
「いやいやきっぱり断ったんで大丈夫ですよ!」
「でもアヤちゃん困ってたじゃん! あのおっさんしつこいと思うな! 絶対また来るよ!」
そうだろうね。
だけど向こうがお客ということでこっちも困ってんだよ。店長や社員には相談しているから、おっさんを見つけ次第離脱を促してくれるけど、出来るのはそれまで。
今日はちょっと頼りない社員しか居なくて…面倒事を嫌って助けてくれなかったし…
「…あやめ…それはいつからだ?」
あーぁ、ほら…彼氏様の雰囲気が不穏になってきちゃったじゃないの…沢渡君、どうしてくれるの…
「…3月からです…」
「…2ヶ月以上黙っていたのか」
「黙っていたと言うか、なんとか出来てたんです。最近悪化したので…今までは簡単にあしらえたんですよ?」
だから怒らないでおくれ。私は何も悪いことはしていないのよ。
私は縋るような視線で慈悲を乞うた。
「…バイトが終わるのを待っているから。その後話をしよう」
「…はい……」
私の彼氏様は説教モードにスイッチが切り替わったらしい。
いい仕事をしたと言わんばかりの爽やかな笑顔で帰っていく沢渡君に恨みがましい視線を送っていたら、そのタイミングで上がりの時刻になってしまった。
「…言い訳は後で聞くとして、今まであったことを全て順を追って話せ」
「せんぱーい、そんな取り調べみたいな…」
「…あやめ」
先輩からお怒りの視線を受けた私はピャッと跳び上がった。
黙秘は認めてくれないんですか、そうですか。
始めはただの客だったこと。
よく通ってくるようになって、話しかけられるようになったこと。
自分のシフトに合わせてやって来ること。
日中に来ているから仕事をしていないのかと思ったけど、自分の仕事の自慢してくること、たまにハイブランドを見せびらかして武勇伝を語ってくること。
そして今日になってデートやパパ活を誘われたことを包み隠さず話していたのだが、目の前の彼氏様の顔はどんどん恐ろしくなっていく。正直に話しているのに。
どっちにせよ怒られる運命なのか…
ちなみに今話しているのは私のバイト先である。私のバイトが終わるなり、飲み物を購入して店内で待っていた彼氏様の尋問が始まったのだ。
腕組んで座っている姿が橘父にそっくりですよ先輩…
「…職場の人間には?」
「話してます。…店長は庇ってくれますよ。…今日の社員さんは面倒事が嫌いなタイプだったので…庇ってくれませんでしたけど」
バイト先で悪口みたいな事を聞かれたくないので最後の話は小さな声で話す。
「…今、その社員は?」
「さっき帰りました。今いるのは別の社員さんです」
「…そうか。なら次の出勤の時にでも信頼できる社員に報告しておけ。それと暫くの間、夜遅い時間帯のシフトに入った日は家まで送ってやるから、夜道でひとりにならないようにしろ」
「えぇ? 大丈夫ですよぉ」
この辺は人通りが多いし、店の前で堂々と攫うような真似はしないだろう。
笑い飛ばしたのだが、先輩の目はマジであった。
「笑い事じゃないんだ。俺は本気で言っている」
「…さーせん…」
そういうわけでほとぼりが冷めるまでの間、私が夜のシフトに入る日は先輩が帰りに迎えに来てくれることになったのだ。
先輩が私の両親にまでこの事を報告してしまったので、バイトを辞めさせられる危機にも発展したが、なんとか続けさせてもらえている。…勘弁してよ。
次のシフトの時に事務所にいた店長に詳しく報告すると、重く受け止めてくれたようで、シフト編成の時に必ず店長がいる日に入れてもらえるようになった。
見て見ぬ振りしていた社員は再教育ということで、ビシバシ再研修を受けさせられていた。この人がいずれお店を任されて店長になると考えたらちょっと怖い。今年の新入社員でも社員は社員なんだからもっとしっかりして欲しい…
店長からは、あまりにもおっさんの行動がひどいようだったら、裏方の調理の仕事と代わってもらえばいいと言われたので、私はすっかり安心しきっていた。
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「君のスマイルを買い占めたいな」
「…お店が違いますね。そのお店は隣駅にございますので、そちらへお願いいたします」
カウンターのメニュー表の上に軽く置いていた左手を握られた私はバッと振り払って、お客様は金づる、お客様は金づると心の中で念じながら営業スマイルを相手に向けた。
大学に入学してから、長期休暇以外もファーストフード店のアルバイトを始めた。大学へ行く前の午前中だったり、講義が入ってない時間とか。学業に支障がない程度に調整してバイトしている。
居酒屋とかの方が時給が良いので親にお伺いを立ててみたけど…やっぱり時間が遅くなることやお酒を扱っているから危ない・駄目と言われてしまった。
それはそうと、冒頭でクッサイセリフを吐いたのは、店の常連のおっさんである。名前は知らない。その発言が冗談なのか本気なのか判断つかないので流しているが、いい加減鬱陶しい。
私でもわかる。これはナンパであると。
「つれないなぁ、そうだ田端ちゃん、今日何時に上がりなの? 車で送るよ?」
「あ、そういうの結構です~私彼氏がいるんで~」
下心隠す気ねーなこのおっさん。私くらいの子供が居てもおかしくない年なのに恥ずかしくないのだろうか。
「彼氏いるの? いくつ?」
「彼氏は私のひとつ上で9月にハタチになります」
「まだまだガキじゃーん。田端ちゃんにはもっと大人な男がいいと思うな~? ほらー俺みたいな~」
「あはは、いいえ結構です~」
私の彼氏はとってもとっても素敵な人だからご心配には及びません…てか彼氏居なくともあんただけはない。
「えーいいじゃーん、ご飯奢るよ~? 彼氏に内緒で行っちゃおうよ~。田端ちゃんが望むならその先も…」
「お断りします」
きもい。の一言である。
キャバクラとかそういうお店に行けよ。
「なんならお小遣いもあげちゃうし~、ほら、こんなバイトしなくてもお金がゲットできちゃうんだよ~?」
ニヤニヤといやらしい笑顔でパパ活話を持ちかけられたが、全く心揺れない。
私の返事は否。それだけだ。
そこまでしてお金を手に入れたいとは思わない。お金が必要ならファーストフード店のバイトのシフトを増やすし、他にもバイトがあるからそっちでお金を稼ぐ。
そもそも私は亮介先輩じゃないと嫌なのだ。断固拒否である。
「いりません!」
営業スマイルできっぱり拒否を示すも、おっさんは引かない。何かを購入するわけでもない。カウンターの前に居座っていてとても邪魔である。営業妨害で訴えられたらいいのに。
…お客さん来ないかな。
そう願った私の願いが天に届いたのか、店の自動ドアが開く音が聞こえた。
「いらっしゃいませ!」
いつもの私と比較して1.5倍位テンションの高い挨拶だったかもしれない。
何故ならそこに居たのは高校の時の友人・沢渡君だったからだ。
「アヤちゃーん!」
無事大学生となった彼は、あの頃と変わらないチャラ男風味のイケイケファッションでご来店した。そしてその彼の隣にはセーラー服姿のギャル系JKがいた。
「…その子は?」
「俺の従妹だよ~」
「どもどもーはじめまして~沢渡莉音でーっす!」
あぁ、なるほど。ノリが似ている。
ギャルギャルしい2人の登場におっさんは怯んだ。いいぞ、沢渡君もっとやれ。
2人はおっさんを押しのけるようにしてカウンター前に立つと、メニュー表を見比べ始めた。
「あたしミートパイとアイスココアにしようかなー」
「莉音、さっきラーメン食べてなかったっけ?」
「ヤダなぁ颯君、これはおやつ」
「替え玉2回して、もう食べれないって言ってなかった?」
カウンターでワチャワチャし始めた彼ら。
そうだよ、このお店は食べ物を提供するお店。それを購入するお客様を応対するのが私の仕事なのに、あのおっさんは邪魔ばっかりして…客でもなんでもない!
「俺は巨峰&北海道バニラソフトにするー」
「あっあたしもあたしも!」
「かしこまりました」
お客様から注文を受けた私がレジ打ちして、提供の準備をしていると、後ろでガーッっと自動ドアが開閉する音が聞こえてきた。
迷惑なナンパおっさんはやっと退散してくれたらしい。
「…いなくなったね。アヤちゃん大丈夫だった?」
「助かった。しつこくて困ってたんだ」
「いかにもなおっさんでしたね~。あたしも街ナカでたまに声かかるんスけど、ギャル=パパ活と紐つけるのは止めてほしいっす」
2人はひと目で、私がナンパされて困っていると見抜いたみたいだ。いいタイミングで遊びに来てくれてありがとう沢渡君。
「これはサービスね。私が代金払っておくよ」
「えっいいの?」
「本当に困ってたからお礼だよ。ありがとね」
今日はなんとか助かったけど、問題は次のシフトの時なんだよな。
他の時間に入っているバイトさんはあのおっさんのことを知らないみたい。多分店の中を確認して、私がいたら入ってきているんだと思う。
…私はそんなにチョロく見えるのであろうか。
私のおごりで2人に商品を提供すると、私は一息ため息を吐いた。常連客に名前を覚えられて、ちょっとお話することはよくあるけど…あのナンパおっさんは…大分タチが悪い。
☆★☆
「あやっぺさん! 連絡ください! 待ってますねー♪」
「あ、あやっぺ…」
そんなカナッペみたいなあだ名…まぁいいか。
沢渡君の従妹・莉音ちゃんにアプリIDを書いたメモを渡された。私がバイト中だったのであまり話をできなかったから、もっとお話がしたいと言われたのだ。
ミートパイとソフトクリームをおごったから懐かれたのであろうか。
あれから1時間位経過した。2人はお店を退店する前に私に声を掛けに来てくれたんだけど、時刻は夕方の17時前。私ももうそろそろ上がりの時間だ。
…あのおっさんが外で張り込んでたりしてたらどうしようかな。
考え事をしていると自動ドアが開く音がしたので、反射的にそちらに顔を向けて「いらっしゃいませ」と挨拶をした。
するとそこに居たのは亮介先輩であった。どうしたんだろう。夕飯をファーストフードで済ませるつもりなのかな?
私は先輩に話しかけようと口を開いたのだが、私よりも先に先輩へ声を掛けたのはまさかの沢渡君であった。
「橘パイセンこんちゃーっす! パイセンやばいっすよ! アヤちゃんにパパ活持ちかけるスケベなおっさんがいました!」
「ちょっと沢渡君?!」
挨拶もテキトーに、沢渡君は一気に用件を亮介先輩に伝えた。
ちょっと、何勝手に告げ口してんの。そもそも大袈裟だよ。確かにあのおっさんは迷惑だけども、話を大きくしないでおくれよ。
「いやいやきっぱり断ったんで大丈夫ですよ!」
「でもアヤちゃん困ってたじゃん! あのおっさんしつこいと思うな! 絶対また来るよ!」
そうだろうね。
だけど向こうがお客ということでこっちも困ってんだよ。店長や社員には相談しているから、おっさんを見つけ次第離脱を促してくれるけど、出来るのはそれまで。
今日はちょっと頼りない社員しか居なくて…面倒事を嫌って助けてくれなかったし…
「…あやめ…それはいつからだ?」
あーぁ、ほら…彼氏様の雰囲気が不穏になってきちゃったじゃないの…沢渡君、どうしてくれるの…
「…3月からです…」
「…2ヶ月以上黙っていたのか」
「黙っていたと言うか、なんとか出来てたんです。最近悪化したので…今までは簡単にあしらえたんですよ?」
だから怒らないでおくれ。私は何も悪いことはしていないのよ。
私は縋るような視線で慈悲を乞うた。
「…バイトが終わるのを待っているから。その後話をしよう」
「…はい……」
私の彼氏様は説教モードにスイッチが切り替わったらしい。
いい仕事をしたと言わんばかりの爽やかな笑顔で帰っていく沢渡君に恨みがましい視線を送っていたら、そのタイミングで上がりの時刻になってしまった。
「…言い訳は後で聞くとして、今まであったことを全て順を追って話せ」
「せんぱーい、そんな取り調べみたいな…」
「…あやめ」
先輩からお怒りの視線を受けた私はピャッと跳び上がった。
黙秘は認めてくれないんですか、そうですか。
始めはただの客だったこと。
よく通ってくるようになって、話しかけられるようになったこと。
自分のシフトに合わせてやって来ること。
日中に来ているから仕事をしていないのかと思ったけど、自分の仕事の自慢してくること、たまにハイブランドを見せびらかして武勇伝を語ってくること。
そして今日になってデートやパパ活を誘われたことを包み隠さず話していたのだが、目の前の彼氏様の顔はどんどん恐ろしくなっていく。正直に話しているのに。
どっちにせよ怒られる運命なのか…
ちなみに今話しているのは私のバイト先である。私のバイトが終わるなり、飲み物を購入して店内で待っていた彼氏様の尋問が始まったのだ。
腕組んで座っている姿が橘父にそっくりですよ先輩…
「…職場の人間には?」
「話してます。…店長は庇ってくれますよ。…今日の社員さんは面倒事が嫌いなタイプだったので…庇ってくれませんでしたけど」
バイト先で悪口みたいな事を聞かれたくないので最後の話は小さな声で話す。
「…今、その社員は?」
「さっき帰りました。今いるのは別の社員さんです」
「…そうか。なら次の出勤の時にでも信頼できる社員に報告しておけ。それと暫くの間、夜遅い時間帯のシフトに入った日は家まで送ってやるから、夜道でひとりにならないようにしろ」
「えぇ? 大丈夫ですよぉ」
この辺は人通りが多いし、店の前で堂々と攫うような真似はしないだろう。
笑い飛ばしたのだが、先輩の目はマジであった。
「笑い事じゃないんだ。俺は本気で言っている」
「…さーせん…」
そういうわけでほとぼりが冷めるまでの間、私が夜のシフトに入る日は先輩が帰りに迎えに来てくれることになったのだ。
先輩が私の両親にまでこの事を報告してしまったので、バイトを辞めさせられる危機にも発展したが、なんとか続けさせてもらえている。…勘弁してよ。
次のシフトの時に事務所にいた店長に詳しく報告すると、重く受け止めてくれたようで、シフト編成の時に必ず店長がいる日に入れてもらえるようになった。
見て見ぬ振りしていた社員は再教育ということで、ビシバシ再研修を受けさせられていた。この人がいずれお店を任されて店長になると考えたらちょっと怖い。今年の新入社員でも社員は社員なんだからもっとしっかりして欲しい…
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