攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

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番外編

先輩は私のものなの! 抱っこして甘えさせてくれなきゃヤダ!

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「あやめ、まだ怒っているのか。怪我人だったんだから仕方ないだろ」
「……」

 あれから私は先輩と口を利かなかった。
 『なぜ待っていなかったのか』と小言を頂いたし、『仕方ないだろう、子どもみたいに不貞腐れるな』とも言われたけど、全て華麗に無視して差し上げた。
 それには先輩も不機嫌になったけど、旅館に戻って夕飯の時間になっても私が口聞かない、目を合わせないものだからとうとう困り果てたらしい。

 フン、もっと困ればいいんだ。
 私は怒っているんだ。それをもっとちゃんと理解しろ。
 美味しいお夕飯を頂いた後、私は無言で大浴場に向かって大きなお風呂でのんびり過ごさせていただいた。
 長い長いお風呂タイムを終えて部屋に戻ってくると、部屋の真ん中には布団が並んで敷かれていた。私は迷わずにそれを引き離した。窓際なので少し冷えるが仕方がない。布団に入ってしまえば暖かいだろう。
 そのまま布団に潜り込んで寝る体制を整えると、先輩がため息をつく音が聞こえてきた。
 知らないもん。私は悪くないもんね。何も聞こえないふりをして私は背中を向けて目を閉じた。

「…あやめ。いい加減に機嫌を直してくれないか。俺達は喧嘩するために旅行に来たんじゃないだろう?」
「……」

 先輩は困り果てた声を出していた。
 私が頑なに無視するものだから、気持ちがしぼんだようだ。情けない声である。
 ……だが、先輩は私が何に腹を立てているのか理解していない。

「…じゃあ帰りましょうか。今なら夜行バス間に合いますよ」

 私はムクリと起き上がると布団から這い出て、自分の旅行カバンに手をかけた。
 私だってこんな旅行嫌だよ。
 お人好し先輩の馬鹿。他の女の子抱っこして…しかもあの女の怪我は多分嘘だろう。

「待て、そんなこと言ってないだろ」

 かばんに荷物を詰め始めた私の肩を掴んで止めようとする先輩。
 大好きな先輩なのに。優しくて頼りがいのある先輩のことを好きになったのに、それが今は憎らしい。

「私と旅行に来たのに! 他の女の子優先した! あの人絶対に怪我してませんから。ただの口実に決まってます! 先輩はモテるんです、狙われてる自覚してください!」
 
 私は怒りに任せて先輩の胸を拳で叩いた。
 痛いと呟いて私の手を止めようとする先輩の拘束から逃れながら、某太鼓の達人みたいに私は連打した。10コンボだドン!

「馬鹿ーッ! 先輩は私のなの、他の女の子抱っこしちゃいけないんです! 抱っこしていいのは私だけなんです!!」
「わかった。痛いから。ごめんって」

 嫉妬心がブワッと溢れてきて涙まで出てきてしまった。先輩が着用している民宿の浴衣をギュウ、と握ると私は嗚咽を漏らした。
 ふわっと身体が浮いたかと思えば、私は先輩に抱き上げられていた。乗せられたのは安定感のある先輩の太ももだ。対面式抱っこさせられた。
 私を抱っこした先輩は指で私の目元を拭うと、そこに吸い付くようにキスを落としてきた。

「あの人は直ぐ側を通っていたスキー場のパトロール隊の人に引き渡したよ」
「え…」
「流石に俺でも見ず知らずの女性の部屋まで行けないぞ。他人の怪我まで面倒見きれないしな。その点パトロール隊のほうがプロだ。…なんだけど怪我人だと伝えて引き渡そうとしたら、彼女は急に元気になってどこかに行ってしまった」

 なんだったんだろうな。歩けないと言っていたのにと先輩は首を傾げていた。
 先輩は彼女を送り届けた。
 だけどそれはスキー場関係者に救護を任せるために運んだだけ。
 それを聞いた私はホッとした。
 お人好し先輩のことだからあの女に騙されたんじゃないかって思っていたけど、先輩は冷静に対処してたのかって。
 先輩はお人好しだもん。あそこで見捨てる真似はできない人だ。時々そこが憎らしくなるけど惚れた弱みだ。

 ていうかやっぱりあの女、怪我したって嘘だったんじゃないか! 救護された時に怪我が嘘だとバレると思って逃げたんじゃないか!

 ……あぁ。やっぱり。
 私が先輩を守らねば…! 危なっかしい子羊ちゃんな先輩は私が守る! 私が守らなきゃ肉食女子に頭からぺろりと食べられてしまうじゃないか!!
 先輩は人のこと危なっかしいと言うくせにそういう自分が狙われているじゃないか。自覚を持つべきだ!

「…機嫌直ったか?」

 ちゅっちゅと私の顔にキスを落としてくる先輩。私は先輩の身体に腕と足を絡めるとひしっとしがみついた。気分はまるで親コアラに抱きつく子コアラのよう。

「優しい先輩が好きだけど…やです。他の女の子に優しくしないで…」
「…俺にはあやめだけだ。あの人に優しくしたつもりはないぞ? 人として当然のことをしただけ。ほら、そんな顔しても可愛いだけだ」

 むくれる私の頬の空気を抜くように指でつついてくる先輩。私はぷいっとそっぽ向いたけど、顎をくいっと引いてもとに戻された。
 そっと唇を重ねてきた先輩の唇は少しカサついていた。スキーをしていて乾燥してしまったのだろうか。日差しが結構強かったからかな。明日滑る前にリップ塗ってあげなきゃ…。
 私もお返しにたくさんキスをし返した。

「……もっとナデナデしてください。たくさん甘やかしてください……」

 私のワガママに先輩は「それ、俺が喜ぶだけじゃないか」と笑っていた。
 幼子をなだめるように私の頭をナデナデしていた先輩であったが、その手はだんだん怪しい動きに変わってきた。不埒な手は身体をまさぐっている。

「……明日も滑りたいから加減して下さい」

 私がそう釘を刺すと、先輩は私の浴衣の合わせ目へ手を差し入れながら「善処する」とあまり安心できない返事をしてきたのである。


■□■


 翌日、私達は早朝から滑っていた。
 まだまだ人が少なく、夜の内に降り積もった雪はまだ人に踏み荒らされていない。
 一旦スキーを中断して、スキー道から離れた場所で私と先輩は子どもに戻ったように雪だるま作りをした。自分たちの住んでいるところではここまで雪が積もらないので新鮮だったのだ。
 大きな雪だるまを作り、雪の下に埋まっていた大きな石で顔を作ると私と先輩は記念撮影をしようとした。
 だけど思いの外雪だるまが大きくてどうしてもフレームアウトする。何度か試したが、どちらかが見切れちゃうんだよね。

 それを見かねたスキー場関係者の人が撮影してくれると言うので、お言葉に甘えて撮ってもらうことにした。

「撮りますよぉー」

 パシャリパシャリとシャッター音が鳴り響く。
 撮影者の腕がいいのか、とてもいい写真を残せた。私も先輩も寒さで鼻を真っ赤にさせていたが、それも記念だ。
 先輩にも後で送ってあげよう。

 スマホをマジックテープ付きの胸ポケットにしまって顔を上げると、こちらを見ている集団の視線にあっと気がついた。
 私は相手を警戒しながら、がばっと先輩の腕に抱きついた。私達の仲の良さを見せびらかすのだ…!

「どうした、転んだか?」

 急に腕に抱きついてきた私のことを、先輩は滑ったと勘違いしているが違うぞ。これは牽制だ。
 私と先輩はラブラブで間に入れないくらい仲良しだとあの肉食系女子に思い知らせる必要があるのだ…! ていうかあの女フッツーにスキースタイルじゃないか! 滑れるんじゃないか! この嘘つきが!!

「頭に雪が降り積もってる」

 パサパサと私のニット帽に乗った雪を先輩が払う。…この様子じゃあの視線に気づいていないな。もしかしてアレか? イケメン故に視線に慣れてしまって鈍くなっているのか?

「…先輩、私が先輩を守りますからね!」
「……?」

 意気込んだ私の言葉に先輩は困惑した顔をしていた。

 その後私達は終始バカップルを隠さず楽しくスキーをして過ごした。あの肉食系女子が間に入れないように。

 

 先輩に転送した雪だるまを囲んだふたりの写真。
 先輩が友人の湊さんたちに見せたいから、顔をスタンプで隠してSNSにあげてもいいかと尋ねてきたので快諾した。
 ネットは怖いもんね。顔を隠すのが無難だ。先輩を狙う輩がどこから湧いてくるか想定できないもんね。

 あとで先輩のアカウントを覗きに行くと、先輩のお友達から「いいなぁ、雪だるま作りたい」「このリア充め…」といろんなリプライが上がっていた。私はそれを見てニヤニヤしていたのだが……ちょっとだけ気になる一文を見つけた。

 先輩の友達の中では見たことのないアカウントにアイコン……
 そこにはこう書かれていた。

【Tachibanaちゃん、隣の男は彼氏?^_^;】

 私はそれを二度見した。
 ……彼氏? 何のことを言っているんだ。ここに映っているのは私と先輩と雪だるまだけ。一緒に写っているピンクのスキーウェア姿の私が男に見えるのか……えっ彼氏? 彼氏に彼氏? どういうことなの。顔を完全に隠しているからそう見えるっていうのか? 先輩よりも20cm以上背の低い私が、男に見えるのか……
 私は少々混乱した。
 …先輩あてのリプライだよね、これ……

「あやめ、風呂に行けるか?」
「あっはい!」

 私が眉をひそめて固まっていた時間はわずかだった。先輩の声にハッとした私はそのままアプリを落としてスマホをかばんに収めた。
 ここのお風呂めっちゃ気持ちいいんだ。今日もたっぷり満喫しようとお風呂セットを持って先輩と一緒に浴室に向かったのである。

 ちょっとだけ喧嘩しちゃったけど、仲直りできたし、スキーも民宿も楽しくてたくさん満喫できた。お料理も家庭的で美味しかったし、お風呂が最高。この辺の民宿は温泉の源泉を引いてるんだって。協定の関係でホテルの方は引いてないらしい。…ちょっと得した気分になったよ。


 2人きりでここまで遠出するのは初めてだったのでいい思い出になった。
 今度はどこに行こうか。先輩とならきっとどこでも楽しいはずだ。

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