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番外編
わんわん物語の主人公になったけど、ヒロインって何したらいいの?【わん】
しおりを挟む私の名前は田端あやめ。
そして前世の名前を綾という。
私は前世の記憶を覚えている。震災に巻き込まれて息絶え、あの世へ愛犬とともに旅立っていった時で途切れていた。
家族同然の大切なあの子。
あの子は、どこに行ったのだろう。探しているけれど見つからない。
私はこの世界でわんわん物語のヒロインとして、共に死んだ相棒柴犬・虹の姿を探している。姿形が変わってもきっと虹を探し出してみせる…!
私が物語のヒロインだとわかったのは、小学生の頃。
当時私はご近所で飼われていたシベリアンハスキー・アスターの病気介護のお手伝いをしていた。彼の最期を看取った瞬間、私の脳裏に蘇ったのは前世の記憶、そして前世でプレイしていたわんわん物語の存在だ。
それを自覚したと同時に、地震で自分が死んだ事までリアルに思い出してしまい、しばらく知恵熱で寝込んでしまったのだ。
今の私は田端あやめなのだけど、“綾”でもあって、前世にも大切な家族と友人がいた。
あの時、私の部屋の外で“お父さん”と“お母さん”が半狂乱になって扉を叩いていた。そして私は倒れてきた家財屋根に押しつぶされて、愛犬・虹とともに息絶えた。
大切な人たちとの急な別れ、色んな思い出や感情が濁流のように流れ込み、あやめとしての人格と綾としての人格が混じり合い、私はしばらく記憶の混濁を起こした。
ようやく精神的に落ち着いた頃、私は学校帰り・休みの日になると散策するようになった。色んな所へ足を運んだ。街なかだったり、学校周辺だったり、河川敷だったり、山の麓だったり。それは全て大切なあの子に会うために。
ある日山奥にある旧工場の廃墟の中で出会ったのは人間を憎む目をした野良犬だった。
愛犬の虹かと一瞬期待したが、そんなうまい話はない。関係のないわんちゃんであった。しかしこのまま放置しているわけにも行くまい。
私はリュックサックに詰めていたわんちゃん用のオヤツとお水を使ってその犬にジワジワと近づいた。
野良犬は古い首輪をしていた。……昔は飼われていた犬だろう。人間に捨てられて、ぼろぼろになって、それでも山の中でたくましく生きてきたのだろう。そういえば、あの子もそうだった。出会った頃あの子はまだ子犬だったが、周りに母犬も兄弟もいない環境で一匹で生きていたのだ。
空腹だった野良犬は警戒を解かなかったが、オヤツを口にすると盗られないようにがっつきはじめた。痩せた身体、皮膚疾患を起こしたその痛々しい身体を見て私は心が痛む。
反対されることを承知の上で、私は決めた。持ってきていたブランケットにその子を包むと、暴れるのを力で抑えて徒歩で帰宅した。
そして私の帰りが遅いのを心配して玄関で待っていた母さんに泣きながらお願いしたのだ。
「私、わんちゃんを助ける活動がしたい」
私の使命がなんなのなのか、虹が示してくれた気がしたのだ。
■□■
私は学校生活の合間に、保護犬活動をしている。
これはわんわん物語ヒロインとしての自負ではなく、私の使命だ。
幸い、私には犬に好かれるチート能力が授かっているようなので、人を憎む、人嫌いのわんちゃんとぶち当たったとしても、真摯に向き合えばわんちゃんは心を開いてくれる。
私だけで世の中のわんちゃん全員救えるとは思っていない。だけど一部のわんちゃんだけでも救えたらと私は願っていた。
最初は難色を示していた両親も私の本気を知ったら背中を押してくれた。
初期投資は父さんにしてもらったが、今では保護犬活動動画の広告費、ホームページのアフィリエイト、厚意の寄付金で活動資金を賄っている。
ご近所の犬友さんが活動に協賛してくれて、色々とお裾分けしてくれることもあるし、引き取る頭数は始めから上限を設けている。わんちゃんは可愛いし、家族も一緒に面倒を見てくれるので大変じゃない。
私のもとで保護されたわんちゃんたちには一番この子を大切にしてくれるであろう里親さんに引き取ってもらっている。
それは私のヒロイン力が試されるときである。わんちゃんとの相性はどうか、飼い主としての素養があるか、虐待や飼育放棄をしないか…など。
飼った経験がある人なら少しは安心だけど、虐待も同然の躾をする人はいるし、子どもが生まれたからと言って平気でペットを捨てる夫婦もいる。
逆に子どもと一緒に兄弟として仲良く暮らせるようにうまいこと躾ができるご家庭もあれば、一人暮らしでもわんこを大切なパートナーとして大事に飼われるお宅もあるのだ。
だから私は見極めなくてはならない。全てはわんちゃんの幸せのために。
一度は保護したわんこたちだ。最後の仕事はその子達の永遠の住処を見つけてあげること。
絶対に、絶対に幸せになってもらわねばならんのだ。
「幸せになるんだよ」
私のもとで保護して、里親さんのもとに引き取られたわんちゃんたちは皆いい子だった。色んな性格の子がいたが、みんなみんな優しい子だった。時折里親さんからくる便りでは元気そうな様子が報告される。私はそのたびに嬉しく思うのだ。
別れは辛いけど、私はわんちゃんのために尽くせてよかったと思っている。
「そこの犬捕まえてー!」
保護ワンコたちと日課のお散歩に行っていると、どこからかわんちゃんが突撃してきた。そのトイプードルちゃんはしっぽふりふりしながら私の足にしがみついている。
おや、私が捕まってしまったぞ。
「はぁ、はぁ、すみません。お散歩ひも落した隙に逃げちゃって」
「あぁ、よくありますよね。こうしてもう一本を腰に命綱みたいにつけるのおすすめですよ」
トイプーちゃんは私から離れ難そうにしていたが、飼い主さんに抱っこされて連れて行かれようとしていた。しかし、やだいやだいと駄々こねて抵抗している様子である。
「…姉ちゃん、また犬たらしてんの?」
「あ、和真。遅かったね」
トイプーちゃんとひと悶着起こしていると、弟と遭遇した。休日スタイルの彼は友達と遊んできた帰りだったようだ。今年受験生なのに余裕すぎる。
保護犬たちは和真のもとに近づいてナデナデを所望している。和真は慣れた手つきで1頭ずつ撫でていた。
「歩けば犬に当たる。さすが犬使いのあやめと呼ばれるだけあるよな」
私の持っていた散歩紐片方を手に取ると、和真は生意気に笑った。
…不思議なことなのだが、わんわん物語のヒロインは、前世の私と同じく一人っ子だった。なのになぜか、今世では兄弟がいる。父似の私と母似の弟。ぶっちゃけ似ていない。その事をからかわれることもあったが……その度に何かが引っかかった。
私は前世のことすべてを覚えていないのかもしれないと。
■□■
弟が同じ高校に入学して数ヶ月が経過した。
私はいつもと変わらない生活を送っていたのだが、何故か急に和真がグレた。反抗的な態度を取るようになり、服装も乱れ、素行が悪くなってしまったのだ。
その対応に両親が四苦八苦しているそばで私も弟に「なにかあったの?」と声を掛けてみたが無視された。
しかし、彼は保護犬達にはやさしい。
家族のいない場所で犬と遊んであげてる姿を見かける。それを見て、なんとなく彼はガス抜きでグレてるのかな? 放置しても大丈夫かな? と思っていた。
「君ーきゃわいいねー」
「わふ」
保護犬と散歩していると、散歩途中の他所のわんちゃんに挨拶された。遭遇したら彼らを撫でまくるのが私の日課だ。
健康チェックしながら、顔見知りの飼い主さんと情報交換するのだ。意外と私が見落としている情報をゲットできるので、見くびれない。
隣町のペットショップでオーストラリア産のドッグフードが割引だと? お母さんに車出してもらおう。カンガルーとかバッファローのお肉使ってるフードだと食いつきがいいんだよねぇ。
何が違うんだろう。私も試しに食べてみようか。
「ヴゥゥ…ギャウッ、ガウ!」
「ワンッワンッ」
「!?」
少しばかりおしゃべりに夢中になっていた私はハッとした。散歩中の保護犬2頭が電信柱に向かって吠え始めたのだ。
なんだ、どうした。他の犬のマーキングの匂いに警戒でも…
「きゃあ!」
電信柱の裏から黒い影が飛び出してきたと思ったら、テテテ…と小走りで逃げ去っていった。その後姿は私の通う高校の制服と同じものだ。
黒髪ロングの小柄な女の子……同じ高校なら顔見知りのはずなのに、この辺では見かけない子だったな。この町内で同じ高校なのは幼馴染と弟と…。他にも何人かいるけど、知ってる限りでは私以外全員男だもんなぁ。
電信柱の裏で何してたんだろあの子。
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