299 / 312
番外編
わんわん物語の主人公になったけど、ヒロインって何したらいいの?【ふぁいぶ】
しおりを挟む「コロは素顔のままで良かったんじゃないか? マスクいらないだろ」
「あやめさんなんて可愛らしいの! あぁマロンちゃんを連れて来られたら良かったのに!」
引き合わせてはいけない2人を会わせてしまった気がする。私の仮装を褒め称え、先程から両者のスマホが火を吹く勢いでカシャカシャし続けている。マスクをしているはずなのにフラッシュが眩しい。
私の高校で文化祭が行われる、という情報をどこかで仕入れてきた陽子さんは私のクラスに遊びに来てくれた。そこでバッティングしたのが保健室の眞田先生である。
両者から可愛いと褒められたが、私のクラスの出し物はお化け屋敷であり、私は三つ頭のケルベロスに仮装している。犬耳を付けたのではなく、リアルな犬マスクを付け、首の周りに二頭の犬の作り物をくっつけている。
どこからどう見ても恐怖のケルベロス(柴犬ベース)なのに、可愛いって……眞田先生に至ってはとても失礼な発言をしている。
誰が素顔が柴犬か。
顔はでてないから写真とってもいいけどさ。誰かわかんないでしょ。その後、2人とツーショット…いや、作り物の犬合わせて4ショット? を撮らされた。
2人は犬好きという共通点を見出し、何やら話が盛り上がってそのままお化け屋敷を後にしていた。……全然怖がってくれなかった。お化け屋敷なのに。ケルベロス、力作なのに。
悔しかったので気合いを入れて、次にやって来た客を脅かした。
「がおぉぉお!!」
「ぎぇえええっ!」
そしたら、ものすごい雄叫びを上げて驚かれた。その悲鳴に私まで驚く。
「大丈夫ですか、克也」
驚きすぎて尻餅をついたその人物を連れのひとりが手を貸そうとしている。おや。今日までの生徒会長と副会長じゃないか。
「君、驚かしすぎですよ」
「いや、ここお化け屋敷なんで…」
副会長に注意された。
まさかのクレームである。怖いもの苦手ならお化け屋敷に入ってこないで欲しい。私はマスクの中でムッとした。
うちの学校の生徒会は顔で選んだのかってくらい顔がいい人が揃っている。だが人望とか人気で選ばれたわけじゃなく、前任者の推薦で選ばれた人たちである。
「間先輩! 大丈夫ですか!?」
「か、花恋っ」
「あぁ花恋…とても可愛らしい格好ですね」
うちのクラスの出し物はお化け屋敷なので、クラスメイト全員仮装している。本橋さんはブラッディナースで、とてもセクシーな格好をして男子たちの目を楽しませている。結構大胆だよね、本橋さん。
生徒副会長に褒められた本橋さんは笑顔でお礼を言っている。
まただ。本橋さんは特定の目立つ男子と絡んでいる。半年前に編入してそれから徐々に親しくなったにしては妙に距離が近い……
いや、違うな。
相手が本橋さんに好意を抱いているのか…? …確かに本橋さんは美人だ。校内一の美女と言っても過言ではない。そんな彼女に言い寄る男がいるのは当然のことである。
ただ…噂によると、この生徒会長、副会長ともにお金持ちの息子で各々婚約者がいるということなのだが…。そこのところはどうなのだろうか。流石に不誠実だよね。
「うちのクラスにもぜひ遊びに来てくださいね。花恋なら歓迎しますよ」
「伊達先輩のクラスは確かカジノでしたよね、後で遊びに行きますね!」
カジノって。
高校生がカジノとかしていいんですか?
「あの、次のお客さんが詰まってるので、前に進んでもらっていいですかー?」
誘導役の生徒に注意されると、彼らは少し顔をしかめていたが、本橋さんの前では取り繕って「じゃあまた後で」と別れを告げていた。
片隅で静かに突っ立っていた私を見た生徒会長がまた「ギャッ」とビビっていたが、今度は脅かしてないぞ、ただそこに存在して、息をしていただけだ。
■□■
文化祭で賑わう校内でチラシを配りながら私は自由時間を満喫していた。広告になるから仮装は解かずに移動しろとうちのクラスのメガネ委員長に厳命されたので、ケルベロス形態でその辺を移動していると、どこからともなくカメラのフラッシュを浴びる。
なにか勘違いしているのか、私に絡んで度胸試しをしようとする輩もいた。悪乗りした男子からヘッドロックをかまされそうになる。
…こっちが反撃しないとでも思っているのかもしれないが、私は華麗に避けてやる。
「こら、悪ふざけはやめろ」
私が戦闘態勢に入ると、そこに割って入る姿が。ひらりと優雅に広がる濃い色のロングスカートとエプロンドレスが揺れる。
「見てわからないか、仮装しているのは女子だぞ。男なのに女に手をあげようとするなんて恥ずかしくないのか」
誰かと思えば橘先輩じゃないですか。……メイド服で女装しているが。
橘先輩の圧倒的女子力(笑)にKOされた男子生徒はこわばった顔で後ずさっていた。どこのクラスか知らんが、お前の顔覚えたからな。絶対許さん。
「橘先輩」
「田端、何も言うな、言うんじゃない」
ちょうど彼のクラスの前だったらしい。私が絡まれているのを見兼ねて接客を抜けて助けてくれたらしい。
ものすごく目立っている女装メイド。彼のクラス前に飾られている看板には逆転メイド喫茶の文字。あぁ、そういう…
「…可愛いですよ」
「心にもないことを言うな」
本人の心が男のままなので、全然女に見えないけど。オネェタレントみたいにノリノリになったら笑えるんだけど、今の彼の前で笑ったら怒られそうである。
もう行け、と促されたので、私はチラチラ振り返りながら移動した。橘先輩は妙に疲れているように見えた。女装で精神的に疲れているのか、文化祭の仕事で疲れているのか…どっちだ。
しかし、今日は在校生のみの文化祭だから安心していたが、悪乗りするやつもいるなぁ。明日は更に危険かもしれない。チラシ配りは客になりそうな人に当たったほうが良さそうだな。
パシャリ、とシャッター音が鳴り響く。私は振り返ると、スマホを掲げた生徒にチラシを押し付けた。見世物になるのはいいが、お化け屋敷に来い。
ジリジリと近づいて圧をかけていると、相手が「ヒェ…」とか細い悲鳴を漏らしていた。
■□■
お花を摘みたくてトイレにいくと、女子トイレは大渋滞を起こしていた。仕方がないので、少し離れた別校舎トイレに向かった。用を済ませたら文化祭で盛り上がっている場所に戻って、どっかのお店で軽くなにか食べよう、そう思っていた。
「──…」
だが、何処からか人の話し声が聞こえた私はその声に引き寄せられるように歩を進めた。
関係者以外立ち入り禁止区域の人気のない木々が茂った裏庭にちょっと柄の宜しくない男子生徒らがたむろっていた。
大方サボりなのだろう。
うわ、見つかると面倒くさそうだしさっさと立ち去ろ…
音を立てないようにそぉっと足を踏み出したのだが、ある名前を聞いて私は足を止めた。
「最近付き合い悪いじゃねーか、和真」
私は弟の名前を耳にしてまさかと思いつつ、男子達のやり取りをこそっと覗く。
……そこには案の定、弟・和真の姿があった。反抗的な態度は少しずつ収まってきてここ数日は夜遊びを控えるようになったのだが……
「…すいません。ちょっともう付き合えなくて」
「おいおい何言ってんだよ! お前がいたほうが女が寄ってくるんだよ。お前がいねーと困るの。そんな冷てぇ事言うなって」
「いやマジで無理なんで」
「…は?」
和真の拒否に相手の態度が一変。
ぐわっしと和真の胸ぐらを掴んだのはリーダー格の男だ。……あれが、橘先輩が言っていた悪いオトモダチか。
「ぅっ…」
苦しそうに呻く和真にその男が凄む。
和真にぬっと顔を近づけ、優しい声を出す。やっていることが暴力的なので余計に怖い。
私はいきなりの修羅場に体が固まってしまった。弟の危機なのに呆然と眺めてしまっていた。
「お前、ちょっと甘い顔してやったら生意気言いやがって。…調子のんなよ? 今なら許してやる。考え直せ」
「……」
和真は怯みそうな表情をしていたが、震える口ではっきり言った。
「…無理っす…」
その言葉にタカギの顔は無表情に変わり、空いた手で和真の鳩尾に拳を叩き込んだ。
ドッと殴打音が大きく響いた気がする。
「ぐっ…!」
衝撃に目を大きく見開き、和真はそのまま地面にどさりと伏した。
周りで見ているだけだった男たちがゆらゆらと和真のもとに近づくのを見て、私はようやく体のこわばりが解けた。その間にも和真は蹴りを喰らって袋叩きに遭っている。
──和真がリンチされている…!
目の前の光景に頭にカッと血がのぼった。私の弟に、何をするんだ…!
「くぉら、うちの弟に何しとんのかー!」
勢いよく怒鳴りつけると、窓枠を踏みしめ、そこから高々とジャンプしてみせる。
和真を袋叩きにしていた男たちは闖入者に唖然とした顔をしていたが、それが三つ頭のケルベロスだと気づくなり、震え上がった。
私がリーダー格の男にタックルを仕掛けようと突進すると、奴は悲鳴を上げる。
「バケモンだー!」
散り散りになって逃げていく小悪党ども。不良が聞いて呆れる。
悪ぶってるくせに小物だな。
私は鼻を鳴らすと、土に汚れた弟を助け出した。
「大丈夫!?」
「ねぇちゃ…」
「待っててね! 先生呼ぶから!」
私は中庭を突っ切って、反対側の校舎に向かうと、保健室の扉をドンドン叩いた。保健室に駐在していた眞田先生が怪訝な顔をして出てきたので、彼の腕を掴んで和真のいる場所に誘導する。
私が運べたらいいけど、今じゃ和真は私よりも大きい。流石に運ぼうとしたら共倒れしそうだったので、先生の力が必要なのだ。
「こりゃ酷いな、なにがあったんだ」
「弟が悪い友達との付き合いをやめると宣言したら不良達に袋叩きにされてました」
先生は何があったか聞きながらも適切に冷静に処置してくれた。怪我が怪我なので、見えない部分が折れている可能性がある。電話して母さんを呼ぶと和真を病院に連れて行ってもらった。
その日の夜、和真は怪我が原因の発熱を起こして辛そうだった。
それを見ながら私は思った。
あの不良、一発くらい殴っておけばよかったな、って。
0
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる