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番外編
前向きに受け止められない想いなら、それはただの執着なだけである。
しおりを挟む【よかったら橘先輩と一緒にうちの文化祭に遊びに来てね!】
秋の雰囲気が深まった某日、花恋ちゃんからお誘いを受けた私はウキウキしながらやってきた。そう、花恋ちゃんの通う大学の文化祭へ!
「相変わらず人がすごいな」
「ここの大学、学生数が県内で一番多いらしいですもんね」
「取り扱う学部が桁違いに多いからな。そこは私立所以だろう」
花恋ちゃんの通う大学は私立で、学部は違うが橘兄の母校でもある。そのため弟の亮介先輩はこの私大へ何度か足を運んだことがあるそうだ。先輩の大学受験の際、滑り止めでもいいから受験したらどうかと橘兄に言われたけど、結局国立一本に縛って受験したと言っていた。
……そこら辺、高校受験の時に体調不良で私立不合格になってしまったから、私立がトラウマにでもなってるのかな…と心配していたけど、実際は先輩のお父様が国立大卒だそうで、それにならったのだと教えてもらった。
先輩は部活の試合の関係でこっちの剣道サークルの人と交流があるとかで構内の地理に詳しかった。案内図を見ずに目的地まで先導してくれるので助かった。
大学祭の空気でいっぱいな私大内は入場口となる正門に入る前から沢山の学生で賑わっていた。ピンクのうさぎの着ぐるみを着た人から大学祭のパンフを手渡され、二つ折りのそれを開いて見てみる。
「本橋はどこのサークルだった?」
「イベント系のサークルですよ、ここです。…花恋ちゃん、蓮司兄ちゃんにお近づきになりたくてそこに入ったらしいので」
誰もが振り返るほどの美女・花恋ちゃんではあるが、本人の気質は穏やかでおとなしい。そのためどちらかと言えばインドア系のサークルを好みそうだが、気になる人に接近するためサークルはアウトドア系に所属していた。
彼女も大学生活をそこそこ楽しんでいるようである。
花恋ちゃんとは大学の記念樹前で待ち合わせだ。そこまで彼女が迎えに来てくれるのだという。さっきメッセージで到着したと連絡したばかりなので、ちょっと時間がかかるかな。
「待ち合わせの記念樹ってあれですかね」
「多分そうだな」
それにしても人が多い。私のように招待されてやってきた外部の人も多いのだろう。ちょっと気を抜くと人と肩がぶつかりそう…
──ドンッ
「うぉっ!?」
前から来る人には気をつけていたけど、後ろからは盲点だった。
背後からぶつかってこられた私は前のめりに倒れかけたが、隣にいた先輩が伸ばした腕に支えられて転倒を避けられた。
「大丈夫か、あやめ」
「は、はいすみません…」
もう、後ろからどついてきたのはどこのどいつだ。その顔を拝んでやろうとキッと背後をにらみつけるとそこにはやけに顔が整った男の姿があった。その男は友人を連れており、私の顔を見るなり表情を険しくさせていた。
「帰れ!」
犬や猫を追い払うかのようにシッと手で振り払われた私は怒ってもいいと思う。
突然ぶつかって来たのはそっちで、私は被害者なのに出会い頭に侮辱された気がする。
私は悔しさのあまりウゥゥ…と唸って相手を睨みつけた。もともと苦手だったけど、会う度に苦手度が増していく……なんで私、この人とのエンカウント率が高いんだろう。
すっと前に回ってきたたくましい腕が私の身体を包み込んだ。
「……間、大学生にもなって大人げないぞ」
亮介先輩が私を守るようにして間に割って入った。
すると大人気ないことに定評がある間先輩は煩わしそうに顔を思いっきりしかめてきた。
「お前はこの女の悪行を知らないからそんなこと言えるんだ! 何度何度俺がこの女によって花恋への告白を邪魔されたことか!」
玉砕した告白を私が悪いみたいな言い方して…そもそも前提が間違ってる。私が現れる前から振られていたじゃないの。
「私のせいじゃありませんよ! 忘れたんですか? 私が出てくる前から花恋ちゃんはごめんなさいしてたでしょ!?」
腹が立ったので言い返すと、間先輩の顔が鬼のように真っ赤に染まった。
「気持ちはわかるがやめてやれ」
「むっ」
先輩が手のひらで私の口を塞いできた。言ってしまったあとに口を塞がれてもあんまし意味がない気がするけど。
失恋の傷をほじくり返したのは悪かったけど、あっちも人の事悪人みたいに言ってきたからお互い様だと思うの! 振られたことと私が乱入したのは話が別だし、花恋ちゃんは彼氏がいるんだからそれを認めたらいいのにいつまでも現実から目を背けて…
「あやめのタイミングが悪かったのは事実だろうが、お前が本橋に振られたのは真実だろう。断る方も神経使うのにお前は何度本橋に振らせた? 本橋に気を遣わせるな。いい加減認めろ」
先輩が私が思っていることを代弁してくれたので、私はこくこくと頷いて賛同する。
まぁこれで納得してくれるならここまで執念深く根に持つ人間じゃないんだけどね。そうじゃないのがこの間という男である。
「橘…! お前のそのすかした態度が腹立つ! 正論言ってやったみたいな面すんな!」
「間違ったことは何一つ言ってないだろう」
「お前そういうとこだぞ!!」
高校時代から反りが合わなかった二人だが、成人してもやっぱり反りが合わない。彼らが肩を組んで笑顔になってる姿なんか想像できないけどね。
「…克也、いい加減行きましょう」
間先輩の斜め後ろで呆れた様子で傍観していたのはお久しぶりの伊達先輩だ。彼は高校在学中に花恋ちゃんに惚れて、婚約者を蔑ろにした。それに危機感を抱いた伊達家から再教育を施されたのだという。それで自分の立場を思い出して花恋ちゃんへの恋を諦めて大人しくなったそうだが、私はまだまだ此奴を信用していない。
ひと目引く繊細な美貌が女性たちの視線を集めているのは相変わらず。お高く留まっているのも変わらない。
──そして私を塵芥のように見ているのも相変わらずである。
「雅ちゃんを不幸にさせたら許しませんよ!」
「……君に言われる筋合いはありません」
私の推しであり女神でもある雅ちゃんの相手として認めたくない。が、家同士の婚約に口出しできる立場じゃない私は、念押しするくらいしかできない。それを不快に感じたのか、伊達先輩から冷たく睨まれた。私も負けじと睨み返す。
「あやめちゃーん!」
そこに飛び込んできたのは花恋ちゃんの明るい声だ。「本橋さんだ」「うわ、めっちゃ可愛い」と周りの男子学生が浮足立つのがわかった。さすが花恋ちゃん。ここでもヒロインパワーは健在なんだな。
「橘先輩もようこそ、あやめちゃん、道に迷わなかった?」
「うん大丈夫」
「ふふ、あやめちゃんがうちの大学にいるのって変な感じ! 高校時代思い出すね!」
キラキラと混じりけのない純度100%の笑顔をぶつけられた私はその眩しさにクラリとした。
「か、花恋…」
花恋ちゃんの背後で半泣きになりかけてる間先輩がいた。花恋ちゃんの耳にはその声が届いていないのだろう。ヒロイン力は難聴力ってか。
はしゃいでいる花恋ちゃんは私の手を引っ張ると「こっちこっち!」とどこかへ誘導した。なんかこれ小学生時代の鬼ごっこ思い出すね。
「克也、いい加減に引きずるのはやめませんか? 今の貴方はさすがに見苦しい」
友人の姿が哀れに映ったのだろう。伊達先輩が気遣わしげに間先輩の肩を叩いていた。しかし今は友人の窘める声さえ雑音に聞こえるほど被害者意識のある間先輩は、彼の手を乱暴に振り払っていた。
「うるせぇ、お前までそんなこと言うのか!? 高校時代はお前も花恋に色目使ってたくせに!」
「…過去は過去のことです。あれから何年経過したと思っているのですか」
間先輩がギャンギャン騒いで、伊達先輩が宥める。そのお陰で彼らは注目を浴びていたが、それすら花恋ちゃんは聞こえてないみたい。
「あのね、うちのサークルではピザ販売してるの。石窯から作っててね、蓮司さんはピザを焼く人なの。その姿がものすごくかっこよくて!」
なぜなら彼女はおしゃべりに夢中だったからだ。私は間先輩と花恋ちゃん、どっちに意識を向けたらいいのかわからなくて混乱していたが、花恋ちゃんはどこ吹く風。ここで、鈍感スキルを発動させるとはさすが乙女ゲーム元ヒロインである。
彼女のサークルはピザ屋さんらしい。焼きたてをその場で提供してくれるのだという。蓮司兄ちゃんはイタリアン料理店でバイトしてた経験があるからな、それは楽しみだ。
「イベント広場では男装女装コンテストもあるんだよ! そういえば橘先輩、高校時代女装カフェしてましたよね」
花恋ちゃんとしては水を向けたつもりなのだろうが、先輩としては思い出したくない過去なのだろう。頷きたくないような複雑な顔をしていた。
「私、メイドさんな先輩との写真大切にとってありますよ?」
私が笑顔で教えてあげると、先輩は渋い顔をしていたのである。
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