リナリアの幻想〜動物の心はわかるけど、君の心はわからない〜

スズキアカネ

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この恋に気づいて

いってらっしゃいとはじめまして

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 私が魔法魔術学校に入学する日がやってきた。
 しかし私にはそれを知らせるような親しい友人はおらず、顔見知りの動物たちに「王都の全寮制学校に通うことになったからここを離れる」と知らせただけだった。

 ただ、隣近所で勝手に噂が流れて遠巻きに見てはひそひそされたりした。
 口さがない人から『貴族との隠し子なんじゃ』とまぁ好き勝手に言われたが、私はお母さん似とはいえ、ちゃんとお父さんに似ている部分もあるのでそれは心配してない。私とお父さんは耳の形とか足の形とか目立たない部分が似てるんだよね。
 むしろ隠し子とか失礼だろう。市井から突然魔力持ちが出現することは普通にあるんだからそんなゲスい勘ぐりしないでほしい。

 魔力自体が珍しいのは否めないけど、いちいち人様の家をめちゃくちゃにしそうな噂とか立てないでほしい。お父さんが変な噂にのせられなくてよかったよ。

「無理はしないでね、風邪を引かないように」
「動物だけじゃなくて、クラスメイトとも仲良くするんだぞ」

 友達がいなかった私を心配していたお父さんから言われた言葉に苦笑いしてしまった。だけどそれは多分大丈夫。魔法魔術学校は私と同じ能力を持った人たちが集っているのだもの。気味悪がって遠巻きにされることもないだろう。
 私は両親の言葉に頷いて返した。

 希望者は学校まで乗合馬車で連れて行ってもらえる。馭者は魔術師で、生徒の護衛も兼ねているそうだ。何十年か前に強盗が現れて魔力持ちの子どもたちを誘拐したって事件が起きてからは、戦闘能力に秀でた職員を送迎につかせるようになったとかなんとか。
 私は馬車の座席に乗り込んだ。見た目と違って馬車の中は広い。これも魔法で広くしているんだろうか。

 カツンカツンと窓を硬いものが叩いてきた。
 何だろうと視線を向けるとそこには鳥の姿。

『外見て』

 鳥の指示に従って馬車の外を見ると、馬車の外に見慣れた動物たちが集まってきていた。母犬と周りをチョロチョロする子犬たち、たまに醜聞話を仕入れてくるおじいさん猫、羽根を傷めたけど再び飛べるようになった鳥たちが宙を舞っている。他にも見知った動物たちが勢揃いしていた。

「みんな、お見送りに来てくれたの?」
『元気でね』
『またね』
『いってらっしゃいリナリア』

 その温かい言葉に私は笑顔になった。彼らはいってらっしゃいを言うためにここに集ったようだ。

「みんなも身体には気をつけて。いってきます」

 私は手を振って見送りに来てくれた両親と動物たちにしばしの別れを告げた。
 馬車は動き出し、途中で停車して誰かを乗せた。同じ10代の少年少女たちが乗り込んで来る。この人たちみんな魔力持ちなんだ。
 そう思うとドキドキして緊張して私は固まってしまった。動物となら饒舌になるけど、同年代の人間の友達がいなかった私はここに来て人見知りを発動させていたのだ。

「ねぇ、あなたも新入生?」
「へっ…あっはい…」

 途中で立ち寄った町で乗り込んできた女の子に話しかけられた私は裏返った声を漏らしてしまった。
 胡桃色の髪にオリーブ色の瞳を持った彼女は私の隣にストンと腰をかける。彼女が笑うと人懐っこい小動物みたいで可愛い。

「私はイルゼ・ヘルマンっていうの。私はおじいちゃんが市井出身の魔術師だったんだけど、孫の私も魔力に目覚めたみたいなんだ! あなたは?」
「わ、私は近い血縁者誰にも魔力持ちはいないみたい……えっと、リナリア・ブルーム…」

 動物とならペラペラおしゃべりできるのに、同年代の女子の前ではうまく喋れない…いつもは一方的に嘘つきと言われるか無視されるかだったので自然と身構えてしまうというか。

「そうなんだ、ねぇねぇリナリアはどこに住んでいたの?」
「モナートだよ。港町なの」
「へぇ、私はね……」

 ヘルマンさんは人見知りしない性格のようで、私を質問攻めにする。その口は止まらず、私は圧倒されながら彼女の問いに返事を返した。

「リナリアって美人だよね、町でモテてたんじゃないの?」
「いや、そんなことは…むしろ魔力持ちだったから不気味がられてたし」
「そうなの?」
「…私、動物と話せるんだけどそれが不気味だったみたいで、嘘つきって言われて仲間はずれにされてて…友達がいなかったんだ」

 言った後に私何言ってんだろうと我に返った。隣にいたヘルマンさんが静かになったのでドン引きされているのだろうかと横を見ると、彼女は怖い顔していた。

「はぁぁ!? なにそれ!」

 突然大声を出されたものだから私はピシリと固まった。同乗の生徒たちも目を丸くしてこちらに注目している。

「術なしで動物と話せるってすごいことじゃない! あなたの故郷の同級生たちはひどいわ!」
「……聞こえない人たち…うぅん、魔力がない人たちだったから仕方ないって諦めているから大丈夫。代わりに怒ってくれてありがとう」

 まさか自分のことのように怒るとは思わず驚いてしまった。
 だけど嬉しかった。同じ能力持ちだから、私のことを理解してくれる。友達は動物たちがいたらそれだけでいいと思っていたけど、同じ人間の理解者がいてほしいと心の奥底でずっと考えていたのかもしれない。
 多分この子は素直で優しい子なんだろうなぁ。

「…ヘルマンさんは町で私みたいに言われたことある?」
「やだ他人行儀! イルゼって呼んでよ!」

 ベシンと腕を叩かれた。
 ヘルマンさんことイルゼはおじいちゃんが魔術師だったため理解者はいたけど、2つ上のお姉さんからは邪険にされているんだって。兄弟の中で唯一魔力に目覚めたイルゼを嫌厭しているとか。

「多分嫉妬ね。…仕方のないことなんだろうけど、難しいよね」

 物を壊してはイルゼがやったと両親に訴えたり、幼馴染にホラを吹いて孤立させたりされたらしい。
 仕方ないで済むのだろうかそれは。

 イルゼも黙ってやられるわけではなく、壊れたものを魔法で直してみせたり、危害を加えるような意地悪する子には魔法で対抗したのでなんとかなってるのだという。
 魔法魔術学校に進学することになったので、長期休暇の間はおじいちゃんの家に転がり込むつもりだからもう大丈夫だと言う彼女は強い。私も見習わなくてはと感心した。


◆◇◆


 その場所は秘密にされているというシュバルツ王立魔法魔術学校。魔力持ちの子どもを保護するための目くらましの術がかけられて隠匿されているのだという。もちろん学校の周りには強固な結界が張られていて簡単には侵入できない仕様となっている。

 ドキドキしながらくぐったシュバルツ王立魔法魔術学校の門。
 今日からどんな毎日が始まるのだろうと期待と不安を抱きつつ望んだ入学式の日。私は新入生たちが集められた講堂をぐるりと見渡す。

 私が並ぶのは市井からやってきた魔術師の卵たちの列。それとは区分けされた場所にいたのはいわゆるお貴族様たちの姿。入学生だから同い年のはずなんだけど、お貴族様たちはみんな澄ました顔をして大人っぽく見えた。
 学ぶ場所は別なので、関わることはないと聞いているが…普段あまり見れないからチラチラ見ていると、どこぞの貴族様に睨まれちゃったのでさっと視線をそらした。

 入学式は粛々と進められ、抑揚のない学園長の長い長いお話に眠気を催していると、やっと終わったらしい。

『新入生代表挨拶、ルーカス・フロレンツ・クライネルト』

 新入生挨拶には昔ながらのいいところの子息子女が出るのがお決まりらしい。中等学校や大学校では入学試験で成績優秀だった人が指名されるけど、魔法魔術学校は学力試験自体がないもんね。魔力という才能のみで入れる学校とも言える。

『新緑の萌える春のうららかな今日、僕たちは歴史の長いシュバルツ王立魔法魔術学校の生徒として入学することとなりました…』

 入学生代表挨拶で壇上に立った彼の姿は異彩を放っていた。
 ダークブロンドの髪に海の底のような瞳。きれいな鼻筋に珊瑚色の唇、ぱっちり大きな瞳を持つ甘めの顔立ちは一見すると女の子にも見えた。壇上で堂々と話す彼と私は距離があったのに、彼の放つ只者じゃない雰囲気に飲まれて目を奪われた。

 王侯貴族の新入生らは揃って洗練されているが、彼はひときわ美形である。
 都会ってすごい。あんな美少年初めてみた。男臭い男ばかりが行き交う港町で育った私には色々と衝撃だった。

 どこからどう見ても育ちのいい坊っちゃんだったので、彼は王侯貴族たちが集まる特別塔の生徒なのだろうと思っていたのだが、彼は私と同じ一般塔で同じクラスだった。
 近くで見る彼はやはり美しく、平民の集う教室内でやけに目立っていた。なんでこの人ここにいるんだろうとみんなも遠巻きにしているではないか。私と同じく成長段階の体は小柄。私のほうが背が高いかもしれない。だけど彼は姿勢がよく、堂々とした立ち振舞いをするので大きく見えた。

「り、リナリア・ブルームです。モナートからやってきました…」

 ここに居るのは皆私と同じ魔力持ち。だけど長年仲間はずれにされてきた私は関心を持たれて注目されるのに恐怖を抱いてまともな自己紹介が出来なかった。
 私の顔が真っ赤だと知らない男子が小馬鹿にして笑う。港町で悪口を言われていたことを思い出してあまり気分は良くなかった。
 不安と期待が入り混じった学校生活は始まったばかりなのに不安の度合いが増えた気がする。
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