リナリアの幻想〜動物の心はわかるけど、君の心はわからない〜

スズキアカネ

文字の大きさ
64 / 137
乱れる乙女心

あなたの色したガラスペン

しおりを挟む
 光に反射してきらりと輝くそれを見て真っ先に思い出したのは、彼のこと。
 懐かしいモナートの海の色をした彼の瞳の色と同じだったから。
 
「いかがでしょう。変わった文房具が好きな人にはたまらない一品だと思います」

 その日ブルーム商会に訪れたのは国から国へと商品を売り歩く流れの商人だった。今日は飛び込みで営業にやって来たらしい。
 お母さんに頼まれてお茶を持っていくと、商談スペースでお父さんと商人さんが商品を囲んで話をしていた。テーブルの上にはガラスで出来た細長い棒状のものが沢山並んでおり、色とりどりのそれは遠くから見たら宝石のようにも見えた。

「ガラスで出来たペンか。見事なものだな」

 お父さんが商品を手にとって光にかざして観察している。
 文房具か。それならなにもうちへ営業に来なくても、直接文具屋さんに営業に行った方がいいんじゃないのかな。うちに卸すと仲介料で結局お客さんが手に取る際には金額が膨らんじゃうと思う。

「東の国の職人が作ったものです。一本一本心を込めて作られております」
「そこそこ値が張るな」
「はい、この商品は作るのが難しいからこそ、希少性を持たせたいのです」

 あ、なるほど。沢山の人が使うのではなく、限られた人が使えるようにしたいのね。それで価値が上がれば、作った職人さんや商人に沢山お金が入るから。単純に作るのが難しくて量産が出来ないからかもしれないけど。文具屋だと門前払いされるからうちに来たのかな。
 希望販売価格的には高級品として王侯貴族向けのお店に出す形になるのだろうか。それとも知る人ぞ知るこだわりの文房具を取り扱ったお店とか?

「お茶置いておきますね」

 彼らの商談の邪魔にならないように小さく声をかけてテーブル隅の方にそっとお茶を置いた。

「リナリア、学校で使えそうなものはあるか?」

 そう言ってお父さんが机の上にずらっと並んだ珍しい文具類を見せてきた。
 琥珀の中に花が入った文鎮、毛筆という道具、変わった素材の封筒と便箋、鮮やかな絵が描かれた小物入れなどなど……どれも大陸内ではなかなかお目にかかれないものばかりだ。
 見せられたどれも素敵なものばかりだったけど、その中でも輸入物の珍しいペンに私は惹かれた。

「……そのペン、群青色のものと、碧色のものが欲しい」

 彼の瞳に似たガラスペン。海の底のようなルーカスの色。
 ぜひともこれは彼に贈らなくてはいけない。

「色違いで2本買うのか?」
「ひとつはルーカスにプレゼントするの。このペンは彼の色だから」

 もちろん自分でお金は出すからと私が言うと、お父さんはなんだかむっとした表情を浮かべていた。

「学校で魔力暴走を起こしたときに彼が私を止めようとして……大怪我をさせてしまったの。そのお詫びに何かプレゼントしようと思っていたから…」

 前回の長期休暇に起きた事件以降しばらく私は魔力制御が出来なかった。そのせいでルーカスに怪我をさせてしまったのだと説明すると、お父さんは黙り込んでいた。顔は不満そのものだったけど。
 お父さんは妙にルーカスを警戒しているけど……彼が本当にいい人なことを理解してほしい。私の好きな人をお父さんにも好きになってほしいな。

 このガラスペンをルーカスに早くプレゼントしたくてたまらなかった。
 いっそ配達してもらおうかと思ったけど、直接渡して彼の反応が見たかったのでその衝動を我慢した。
 渡したら喜んでくれるだろうか? 彼の喜ぶ顔を想像したら会いたくなって仕方なかった。


◇◆◇


 新学期を迎えて学校で彼と再会すると、私は再会の挨拶もそこそこに早速贈り物をした。
 ルーカスは「いいと言ったのに」と遠慮しながらも受け取ってくれた。突っ返されなくて良かった。

 包装された箱を開けて中身を確認する彼に私は口頭で商品説明をしてあげる。

「東の国から輸入しているペンだそうよ。ブルーム商会に営業に来た商人が紹介してくれたの。使い方は羽ペンと一緒だけど、丁寧に扱えば半永久的に使えるわ。素材がガラスだから割れないように扱ってね」

 箱の中身がお目見えすると、ルーカスはそれを見下ろしてしばし見惚れているようだった。

「ほら、この色見て、あなたの瞳の色に似てると思って即決したのよ。こっちは私の瞳の色よ。綺麗でしよ」

 自分用に購入したガラスペンを自分の顔の横に持ってきて、瞳の色と並べて見せる。色違いだけど、お揃いを持てることがうれしくて私ははしゃいでいた。

 私が浮かれているのが不思議なのか、ルーカスは私の瞳とガラスペンを見比べていた。

「──僕は、そっちのほうがいいな」

 まさかの交換希望に私は拍子抜けした。

「碧色がいいの? ……別にいいけど」

 群青色も綺麗だと思うんだけどなぁ……私の見立ては間違っていたのだろうか。
 まだ未使用だったので、そのままペンを交換した。
 贈り物だからね、本人が気に入る方をあげた方がいいだろう。

 碧色のガラスペンを受け取ったルーカスはそれをまじまじと観察して、ふっと柔らかく笑っていた。

 それが甘く優しい笑顔だったもので、直視した私の心臓はきゅんとときめいた。

 あぁ、羨ましい。そんな甘い微笑みを向けられるガラスペンが羨ましい。自分がガラスペンに嫉妬する日が来るなんて。
 私はしばし、ルーカスに見惚れていたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

猫になった悪女 ~元夫が溺愛してくるなんて想定外~

黒猫子猫
恋愛
ディアナは欲深く、夫にも結婚を強いた悪女として知られた女王だ。当然のように人々から嫌われ、夫婦仲は悪く、病に倒れた時も誰も哀しまなかった。ディアナは、それで良かった。余命宣告を受け、自分の幸せを追い求める事などとうに止めた。祖国のためにできる事は全てやった。思うままに生きたから、人生をやり直せると言われても、人間などまっぴらごめんだ。 そして、《猫》になった。日向でのんびりと寝ている姿が羨ましかったからだ。いざ、自堕落な生活をしようと思ったら、元夫に拾われてしまった。しかも、自分が死んで、解放されたはずの彼の様子が妙だ。 あなた、隙あらば撫でようとするの、止めてくれる? 私達は白い結婚だったでしょう。 あなた、再婚する気がないの? 「お前を愛したりしない」って嬉しい事を言ってくれたのは誰よ! 猫になった孤高の女王×妻を失って初めて色々気づいてしまった王配の恋のお話。 ※全30話です。

お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?

夕立悠理
恋愛
もうすぐ高校一年生になる朱里には、大好きな人がいる。義兄の小鳥遊優(たかなしゆう)だ。優くん、優くん、と呼んで、いつも後ろをついて回っていた。  けれど、楽しみにしていた高校に入学する日、思い出す。ここは、前世ではまっていた少女漫画の世界だと。ヒーローは、もちろん、かっこよくて、スポーツ万能な優。ヒロインは、朱里と同じく新入生だ。朱里は、二人の仲を邪魔する悪役だった。  思い出したのをきっかけに、朱里は優を好きでいるのをやめた。優くん呼びは、封印し、お兄ちゃんに。中学では一緒だった登下校も別々だ。だって、だって、愛しの「お兄ちゃん」は、ヒロイン様のものだから。  ──それなのに。お兄ちゃん、ちょっと、距離近くない……? ※お兄ちゃんは、彼氏様!!……だよね? は二人がいちゃついてるだけです。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

Catch hold of your Love

天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。 決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。 当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。 なぜだ!? あの美しいオジョーサマは、どーするの!? ※2016年01月08日 完結済。

処理中です...