13 / 24
結婚式の後 ①
しおりを挟むあっという間に3日間は過ぎていった。その間フランツとすれ違うことはあれど挨拶をする程度で、互いに話すことはなかった。かと言って、世間話を持ちかけられても隠居生活を送っていると言っても過言ではなかったエリィは世俗に疎いため、ろくな返しが出来るとは思えない。ある意味ではありがたいことだと考えていた。
そして本日、エリィはフランツと結婚式を挙げた。結婚は新郎新婦共真っ白な服装で行われ、女性は白いドレス、男性は白いジャケットにベスト、トラウザーという様式だ。2人もその形式にのっとり、純白の衣に身を包んだ。
エリィの着ているドレスは細部まで細かく織られており、レースやフリルがふんだんにあしらわれているものだった。彼女の人形のように繊細で美しい外見と相まって、まるで天女のようだと参列者の間では話題になっている。だが本人はそんなことはいざ知らず、心の中で「こんな堅苦しい服、早く脱いでしまいたい」と思っていた。それは、フランツがエリィのドレス姿を見るな否や言った一言のせいでとある。
「馬子にも衣装だな」
結婚相手を目の前にしていうことではないだろう。せめてお世辞でも「可愛らしい」「とてもよく似合っているよ」など一言いえないのだろうか。紳士として、貴族としてどうなのだと口を尖らせるエリィだった。
傲慢な笑みを浮かべながら感想を述べるフランツはその中性的な外見と相まって純白の正装が嫌味なほどに似合っていた。悔しさと同時に心臓を高鳴らせてしまったので、それはエリィの心の中に留めておくことにした。
結婚式の中で誓文書にサインをすることにより、夫婦は誕生する。それはこの国の昔からの文化であった。エリィも通例通りサインを捧げ、こうして2人は夫婦となった。
たった一枚の紙によって関係が変わってしまうことに不思議な気持ちを覚える。家族というものは、はたしてそんなにも軽いものなのだろうか。契約的な結婚だったにしても、お互いのことをほとんど知らぬまま契りを交わしてしまった。これでもう戻ることはできないのだ。エリィは一抹の不安を覚えたが、呪いを解くためならばなんでもすると覚悟を決めたのだ。もう突き進むほか道はない。
そうして結婚式は無事、終わりを告げた。のであるが……。
「結婚式を行うとは聞いていましたけど、結婚披露宴を行うだなんて聞いていませんでした」
エリィは不機嫌な口調で異議を唱えた。結婚を無事に終え、さあ帰ろうと共に馬車へと取り込もうとする寸前に言われたことだった。
当日になって知った新事実に驚きを覚える。結婚披露宴は行わない貴族もいるため、今回もそうだと思い込んでいたのだが。ただでさえ貴族連中に注目される中、一切の不備のないよう慎重に行動していたため疲労の蓄積量はいつも以上であった。心も体も疲れ切っている上で、さらに披露宴までやると聞かされて怒り心頭になるのも無理はない。
「他貴族との交流は大切にしなければならない。お前もそんなことは分かってるだろう」
「……えぇ、分かっています。けど!」
エリィは披露宴を行うことに対して異議を唱えているのではない。前もって知らせてくれなかったことに怒りを覚えていたのだ。事前に知ってさえいれば心構えも違ったであろうし、結婚式でもうまく手を抜いて披露宴まで気力を残しておくことができただろう。そんなことはいざ知らず、フランツは呆れたように言った。
「お前は俺の隣で大人しくしていればいい。以前言っただろう? お飾りの妻として隣にいてくれればいいと。そうすれば公爵家とのつながりを誇示できるんだ。俺はその間にも解呪してやってるのだから、一石二鳥だろ」
フランツの言い分は最もだといえるが、言い方というものがあるだろう。だが、ここでこちらが折れなければ無意味な口論が続く。そう考えたエリィは仕方なしにため息をついた。
「そうですね。わかりました」
承諾したエリィに満足したのか、フランツは高らかな微笑みを浮かべながら目の前にある馬車に乗り込む。このまま屋敷へと向かうらしい。
結婚披露宴は、子爵邸の離れにあるホールにて行われるらしい。
子爵とは言えどレヴィアン家は国王の覚えもめでたく、栄えている。金銭面も伯爵家や侯爵家よりも裕福と言っても過言ではなく、下手をすればプロマイア公爵家よりも財を持っているかもしれないのだ。それはひとえにフランツの父であるレヴィアン子爵が仕事上手であり、ここ最近レヴィアン子爵家は伯爵の位を賜るのではないかと密かに噂されているとのことだった。これはすべてお喋り好きなイリーナからの情報だ。
エリィは自身の仕度もしなければと、憂鬱な気分で屋敷への馬車へと乗り込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
愛人契約は双方にメリットを
しがついつか
恋愛
親の勝手により愛する者と引き裂かれ、政略結婚を強いられる者達。
不本意なことに婚約者となった男には結婚を約束した恋人がいた。
そんな彼にロラは提案した。
「私を書類上の妻として迎え入れ、彼女を愛人になさるおつもりはございませんか?」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる