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結婚式の後 ①
しおりを挟むあっという間に3日間は過ぎていった。その間フランツとすれ違うことはあれど挨拶をする程度で、互いに話すことはなかった。かと言って、世間話を持ちかけられても隠居生活を送っていると言っても過言ではなかったエリィは世俗に疎いため、ろくな返しが出来るとは思えない。ある意味ではありがたいことだと考えていた。
そして本日、エリィはフランツと結婚式を挙げた。結婚は新郎新婦共真っ白な服装で行われ、女性は白いドレス、男性は白いジャケットにベスト、トラウザーという様式だ。2人もその形式にのっとり、純白の衣に身を包んだ。
エリィの着ているドレスは細部まで細かく織られており、レースやフリルがふんだんにあしらわれているものだった。彼女の人形のように繊細で美しい外見と相まって、まるで天女のようだと参列者の間では話題になっている。だが本人はそんなことはいざ知らず、心の中で「こんな堅苦しい服、早く脱いでしまいたい」と思っていた。それは、フランツがエリィのドレス姿を見るな否や言った一言のせいでとある。
「馬子にも衣装だな」
結婚相手を目の前にしていうことではないだろう。せめてお世辞でも「可愛らしい」「とてもよく似合っているよ」など一言いえないのだろうか。紳士として、貴族としてどうなのだと口を尖らせるエリィだった。
傲慢な笑みを浮かべながら感想を述べるフランツはその中性的な外見と相まって純白の正装が嫌味なほどに似合っていた。悔しさと同時に心臓を高鳴らせてしまったので、それはエリィの心の中に留めておくことにした。
結婚式の中で誓文書にサインをすることにより、夫婦は誕生する。それはこの国の昔からの文化であった。エリィも通例通りサインを捧げ、こうして2人は夫婦となった。
たった一枚の紙によって関係が変わってしまうことに不思議な気持ちを覚える。家族というものは、はたしてそんなにも軽いものなのだろうか。契約的な結婚だったにしても、お互いのことをほとんど知らぬまま契りを交わしてしまった。これでもう戻ることはできないのだ。エリィは一抹の不安を覚えたが、呪いを解くためならばなんでもすると覚悟を決めたのだ。もう突き進むほか道はない。
そうして結婚式は無事、終わりを告げた。のであるが……。
「結婚式を行うとは聞いていましたけど、結婚披露宴を行うだなんて聞いていませんでした」
エリィは不機嫌な口調で異議を唱えた。結婚を無事に終え、さあ帰ろうと共に馬車へと取り込もうとする寸前に言われたことだった。
当日になって知った新事実に驚きを覚える。結婚披露宴は行わない貴族もいるため、今回もそうだと思い込んでいたのだが。ただでさえ貴族連中に注目される中、一切の不備のないよう慎重に行動していたため疲労の蓄積量はいつも以上であった。心も体も疲れ切っている上で、さらに披露宴までやると聞かされて怒り心頭になるのも無理はない。
「他貴族との交流は大切にしなければならない。お前もそんなことは分かってるだろう」
「……えぇ、分かっています。けど!」
エリィは披露宴を行うことに対して異議を唱えているのではない。前もって知らせてくれなかったことに怒りを覚えていたのだ。事前に知ってさえいれば心構えも違ったであろうし、結婚式でもうまく手を抜いて披露宴まで気力を残しておくことができただろう。そんなことはいざ知らず、フランツは呆れたように言った。
「お前は俺の隣で大人しくしていればいい。以前言っただろう? お飾りの妻として隣にいてくれればいいと。そうすれば公爵家とのつながりを誇示できるんだ。俺はその間にも解呪してやってるのだから、一石二鳥だろ」
フランツの言い分は最もだといえるが、言い方というものがあるだろう。だが、ここでこちらが折れなければ無意味な口論が続く。そう考えたエリィは仕方なしにため息をついた。
「そうですね。わかりました」
承諾したエリィに満足したのか、フランツは高らかな微笑みを浮かべながら目の前にある馬車に乗り込む。このまま屋敷へと向かうらしい。
結婚披露宴は、子爵邸の離れにあるホールにて行われるらしい。
子爵とは言えどレヴィアン家は国王の覚えもめでたく、栄えている。金銭面も伯爵家や侯爵家よりも裕福と言っても過言ではなく、下手をすればプロマイア公爵家よりも財を持っているかもしれないのだ。それはひとえにフランツの父であるレヴィアン子爵が仕事上手であり、ここ最近レヴィアン子爵家は伯爵の位を賜るのではないかと密かに噂されているとのことだった。これはすべてお喋り好きなイリーナからの情報だ。
エリィは自身の仕度もしなければと、憂鬱な気分で屋敷への馬車へと乗り込んだ。
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