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お茶会にて【アレックスside】

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その日、俺は兄の友人に誘われてお茶会に出席していた。
それは堅苦しい舞踏会のような公式行事ではなく、身内内だけで開かれるひっそりとしたものだった。

「アレク様!こちらのお菓子はいかがですか?」

「アレク様はそんなものよりも、こちらの紅茶をお飲みになるんですわよ!」

「アレク様の前で争うだなんて見苦しいわ。ねぇアレク様。今夜私といかがかしら」

近くにいる令嬢たちがこぞってアピールする姿を見て、俺はこっそりと嘆息した。

(どいつもこいつもうざったいな)

そう心の中で思いつつも、〝秀麗の貴公子〟である俺は紳士的に令嬢たちに返事をする。
ふと、あの王女様ならこんな風に醜い争を繰り広げるなんで絶対にしないだろうと、なぜかそんな考えが頭をよぎる。

(目の前にいりゃしないのに、一体なに考えてんだろな)


先日ルーシアと会う前に、マイク相談を持ちかけてきたときだ。その場に突然ルーシアが現れて肝が冷えた。
幸いにも会話自体は聞かれていなかったのか、〝ゲーム〟のことは知られずに済んだ。彼女のためにも自分のためにも、いずれ正直に告白せねばならない。だが、今はまだその度胸がなかった。


ーー俺は、ゲームで彼女に近づいたのだ。


(……そう知られれば、あの人は離れていくだろうか。いや、いかないわけ……ないか。)

誰だって、自分に関わることを自分のあずかり知らぬところで賭けの一部にされていたと知れば、間違いなく不愉快に思うはずだ。
そんなことは分かっている。だから、俺は話せないのだ。

今考えてもどうしようもないことを思案していると、目の前で言い争っていた令嬢の1人が俺に話しかけてきた。

「アレク様!そういえば、王女様の〝婚約者〟の話、知っていますか?」

「……?」

(俺は……聞いたことなんて、ない)

「い、いや。聞いたことないな。本当に王女殿下に婚約者なんているのかい?だだの噂、じゃないのかな」

「いいえ!デタラメではないのです。私の親戚になのですが、王から王女様との縁談の話が以前から出ていたのです」

目の前の令嬢は、まるで幼い子供が知識を披露するかのように得意げになって話している。それと共に、俺の表情が少しずつ翳っていくことを彼女は気がつかない。

「親戚は、一度目の結婚で奥方を亡くされているんです。そのような方に嫁ぐなんて、よほど王女様は貰い手がいなかったのでしょうか」

「……」

令嬢は声高々に笑う。

「だって容姿は確かに美しいですが、あの態度、ですものね。アレク様もそうは思いません?」

そんな質問も俺の耳には入っていなかった。


ーールーシア姫に婚約者。
そんなこと本人の口から聞いたことはない。


俺の心には拭いきれぬ怒りが溢れていた。それはルーシアに対しても、自分に対してもだった。

(結局、向こうにとってみれば俺は友人止まりなのか。心のどこかでそれ以上を望んでいたことに今さら気づいて、バカみたいだ)

本人は隠していたのかそうでないのかは分からない。だが俺にとってみれば、裏切られた気持ちが大きかった。だが。


(俺が『ゲーム』をしているのと同じか)


そう思って自嘲の笑みを浮かべる。やはり、女を好きになること以上に面倒なことなんてない。そう思って息をつく。

それなのに体は本能のように、自分と異なる肉体を欲する。俺はそれを恨めしく思った。

(今日も適当な女を誘うか)

俺は諦めたような表情で自嘲の笑みを浮かべていた。

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