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好きになってしまった【アレックスside】
しおりを挟むルーシアに告白した。
そう言い放った俺に、マイクは目を剥いた。
「お、おまっ、もう王女殿下に告白したのか!? というか、いつ彼女の事好きだって気づいたんだよ!?」
マイクは前のめりになりながら、俺に詰め寄った。
ーー俺はルーシアの事が好きだ。愛している。だから告白した。なんの問題もないだろう。
きっかけは分からないが、気がついたらいなければならない存在だった。この数ヶ月間、この気持ちは恋情を抱いているわけではなく、ただもの珍しい存在に執着しているだけかもしれない。そう思い続けていた。だが。
ルーシアと思いが繋がる以前、顔も覚えていない遊びの女と寝た際のことだ。
場所は相手の屋敷だったので、行為後はこの屋敷にもう用はないとすぐに服を拾い集め、帰る支度をしていた。
「そういえば、やっとルーシア様に婚約者が出来たらしいですわよ」
(ああ、もうとっくに知っている。どこぞの伯爵令嬢から聞いた)
きっと、その令嬢がルーシアの婚約について周囲の人間に所構わずべらべらと話したのだろう。見るからに口が軽そうだったから当然だ。
噂は光の速度で広がり、社交界やサロンの場でもその話題が持ちきりになっているというらしい。ゆえに目の前の女がその話題を知っていても、何ら不思議ではなかった。
俺はルーシアの婚約について知ってから、そのウサを晴らすかのように毎日毎晩、違う女を抱いた。だが、その女を時折ルーシアと重ねて見てしまい、罪悪感は重なっていった。そのためなのか抱くだけでは飽き足らず、まるで恋人のような振る舞いを公衆の面前で行った。
ルーシアと出会う前ならば、確実にやらないであろう行為を。
それはある意味、ルーシアに対しての当てつけのようなものに過ぎなかった。
だがルーシアは、毎週のように2人でしている茶会でもその話題は持ち出さなかった。あるいは全く知らないのか、平然とした態度で俺と話していたのだ。
そんな彼女の態度や、婚約を未だひた隠しにしている様子に日々苛立ちが募っている。かと言って、彼女の前でだけでは曝け出さなかった。いや、それは語弊には語弊がある。曝け出すことができなかったのだ。
怒りを露わにして、嫌われる事が何よりも怖かったからだ。今の距離を大切にしたい気持ちが少なからずあったのだ。
そんなことを考えていると、遊びの女は声高々に言った。
「そういえば私の父が言っていたのだけど、王女様とその婚約者。今度の逢瀬の後、正式に婚約を発表なされるそうですよ」
(逢瀬?正式に婚約を発表?……なんだよ、それ)
俺はその衝撃の事実に、心臓が破裂しそうなほどの衝撃を受けた。そしてその後、心の中を怒りに近い禍々しい感情が支配する。
どうにかして行き場のない感情を抑えようとしたアレックスは、外の空気でも吸えばマシになるだろうと考え、足早に女の屋敷を出ることにしたのだった。
家に帰り、ワインを片手に女の言っていたことを考える。
(俺は、ルーシアが誰かと結婚する事が絶対に許せない。それはなぜ……?)
考えればもう答えは簡単な事だった。
ーー俺はルーシアの事が好きになってしまったのだ。
マイクに、ルーシアへの感情を伝えると非常に驚いたように見えたが、すぐさま喜びへの変わった。
「お前、本当に良かったな~。アレクは一生女を愛せないんじゃないかって、ずっと心配してたんだぜ~」
俺はずっと、女への不信感を覚えながら生きてきた。それは、女性という存在を俺へ媚びを売る以外能がない人間なのだと裏で軽蔑していたせいだろう。
(マイクに心配されるほど、とはな)
アレクは苦笑いを浮かべた。そしてその後少しの間考え込んだ後、口を開く。
「ありがとな。俺、全てを受け入れてもらえるように、頑張るから」
ーー全てを受け入れてもらう。
それが俺にとってどんなに辛く厳しい道のりなのか、目の前のマイクには分かっていたようだった。
それゆえか、何故か申し訳なさそうな顔をする。
「何かあったらいつでも相談に乗るから」
マイクはいつものヘラヘラとした表情ではなく、何かを固く決意したような瞳で言った。
俺は意識せずとも口元が緩んでしまうことを感じた。
「それじゃあ俺行くね~。あと少しで愛しの王女殿下がくるらしいからね~」
マイクは席を立ち上がり、応接室のドアを開けた。そのあと振り返り、小さく言葉を紡ぐ。
「頑張れよ」
再度申し訳なさそうな表情を浮かべ、歩き始めようとする。
そのとき、俺は何故か心の底の弱気な気持ちを吐き出してしまった。
「マイク、ゲームのことは……」
「王女殿下に今、伝えることではないんじゃないか。…………時を見た方がいいと、俺は思う」
俺の声に被せるよう、マイクが真面目な声で述べた。
俺は、ハッとした表情を浮かべ、口を結ぶ。
「見送りは結構だよ~」
マイクはその言葉を残し、屋敷の玄関口へと向かっていった。
俺はその後ろ姿を見たあと、考え込むように視線を床に落とした。
そして、ふぅと大きく溜息をつき、自室へと向かおうとしたその時。
「アレク様」
柱の物陰から聞き覚えのある、俺にとって何よりも愛しい存在の声が聞こえたのだ。
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