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11.悪魔の企み
この目の前の義弟は一体何を企んでいるのか。ディアナは冷静にと自身に言いかけながら、質問を投げる。
「えっと……ナイン、あなた何を……」
「姉様、僕と結婚しましょう」
(………………は?)
目の前の男は一体なにを突拍子もないことを言っているのか。ディアナは思わず腰を抜かしそうになった。
(結婚って言ったの!?ナインは……私と結婚しようと思ってるの!?)
ふざけているのかと思えば、目の前の義弟はいたって真面目な様子だった。それを見て、ディアナはさらに慄く。
「結婚すれば、すべて丸く収まりますよね。幸いなことに、僕は今年で16になりました。成人して結婚できる歳です」
ナインは満足げに言葉を述べた。まるで、ディアナが却下することなど全く思い至っていないような表情だ。
(まず、私たちは姉弟でしょ……大前提から間違ってるわよ……!)
心の中で呟く。
監禁されるよりかはマシだと思うのは、すでに心が麻痺しているのだろうか。
ディアナはどうにか義弟の考えの通りにならないよう、説得するほかなかった。
「あ、のね、ナイン。以前も言ったはずだと思うけど、私たちは姉弟なのよ。……分かってる?」
「ええ、もちろん。分かってます。」
「なら……」
ディアナの期待を孕んだ声は、圧倒的な自信満々な声によって遮られた。
「大丈夫です。僕がなんとかします」
ナインは企みを含んだ微笑みを浮かべる。優男に見せかけて、頭の回る弟だ。彼なら恐らく本当になんとかしてしまうだろう。彼を優しい男だと思っている人達に「あなた騙されてるわよ」と、触れ回りたいくらいだ。
(……っ!このままでは、本当にナインの言った通りになってしまうわ)
そうなっては一貫の終わりだ。ディアナは頭を悩ませた。どうにかして、ナインの考えを変えなければすべて彼の思う通りになってしまうだろう。
(あの子の意見を変える方法……なにか!なにかないかしら……!!)
一つ、思い至ることはあった。ただ、『これ』をする事は義弟の思いを受け止めるのと同意なのだ。そして、成功するとは思えない苦肉の策ともいえた。
(だけど、なりふり構っていられない。それに、手段なんて選んでられないわ)
ディアナは心を決める。目を瞑り、息を大きく吐く。そしてその後、ゆっくりと目を開け、微笑を浮かべた。
「ねぇ、ナイン」
「なんですか?姉様」
ナインは毅然とした態度で言葉を返す。するとディアナは、笑みを深めーーーー。
彼の頰にキスを落としたのだ。
ナインは義姉の思わぬ行動に、言葉が出ないようだった。放心している義弟を尻目に、ディアナは耳元へと口を持っていく。
「ナイン…………結婚するなら、これ以上のもっともっと親密なこと、しなきゃならないのよ」
囁く度、唇が耳殻に触れる。互いの熱い吐息が感じられるほどの距離ではあるが、ディアナは気にせずに続けた。
「急ぐことなんてないの。ナインは焦っているように見えるわ。まだ人生は長いのだからお互い、心が納得出来てからの方がいいでしょ?………………ね?」
彼女は反応を伺いながら、ナインの首に手を回す。彼はといえば、何故か微動だしなかった。
ーーーーディアナが取った方法。それはどこからどう見ても『色仕掛け』のほかならなかった。しかも思惑は見え見えで、こんなものに騙される人の方がどうかしている。だが、目の前の義弟はといえば。
「…………っ!!!!」
反応を見る限り、どうかしている部類の人間のようだった。
普段は何をされても平静としているナイン。だがそれは今や見る影もない。彼は顔、首、耳を全て真っ赤に染めていた。
ディアナが頰にキスをしてからというもの、突然の義姉の行動に呆然と立ちつくしていたナイン。だが彼女が首へと抱きつくと、まるで意識を取り戻しかのように、みるみるうちに赤くなっていったのだ。そしてあからさまに動揺を見せた。
(えっと……まさかここまで動揺するとは……思わなかったわ)
自分のしたこととはいえ、義弟の変わりように、ディアナの方が狼狽えそうなった。
どんなに大人っぽく見えても、ナインはまだ16歳。ディアナへの監禁騒ぎなどを除けば、比較的真面目な男だ。女性に不慣れだとは分かってはいたのだが、まさかここまでとは。
(って、そんなことを考えてるん場合じゃないわ!どうにかして結婚を止めさせるためなんだから)
「結婚は、もう少し待って。お願い?」
苦肉の策とも言える色仕掛け。弟にしていると考えるだけで、なんだか気が滅入りそうになる。だが、今はそんなことを考えている事態ではないのだ。
(こんなことで頷いてくれるとは思えな……)
「…………………は、い」
「…………………え?」
ディアナは思わず声を上げた。ナインはそれ以降、口を開かず黙り込んでいる。
目の前の義弟は、今にも消えそうな細い声で『是』を唱えたのだ。
(まさか私を監禁するとか言ってたナインが…………まったく見る影もないわ)
まさかの色仕掛け成功に驚愕したディアナだったが、目の前で顔を赤らめている義弟の愛らしさに思わず頰が緩んでしまう。少しばかしの色仕掛け程度で固まってしまった初心な義弟。まったくもってチョロ過ぎる。
(結婚の話が流れて良かったわ。でも……悪魔は私なのかもしれないわね)
彼女は自嘲する。
ディアナはその日、『色仕掛け』が弟に対する最大の対抗手段だと学んだのだ。
感想 15
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