ワールドマテリアルズ~転生先は、自分が原作者の異世界でした。

依槻

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第一部

9:発展への兆し

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「寄りたい所があると仰っていたのは、シノさんの家だったんですね」

 森の訪れへ来たシノは、ちょうど手が空いていたローザに話を聞いていた。
 どうやらローレルは、シノの家に来る前に此処にも顔を見せていたようだ。彼女の話を聞いていると、彼とは面識があったらしい。

「昔、私が病気で倒れてしまった時に診て下さったのがローレルさんなんですよ。そういった意味では、命の恩人かもしれませんね」

「なるほど。かなり腕が立つお医者さんでもあるんだね」

「回診のお仕事で隣街まで来られていたみたいで、すぐに駆け付けて下さいましたからね」

 そういえばローザがまだ小さい頃、お見舞いにいったこともあった気がする。その時はどんな医者が来ていたのか見る機会はなかったけど、彼のことだったようだ。

「憧れからか、大きくなったら都に行って働きたい! ……とか言っていた時期もあります。もう随分と昔の話ですけどね」

「都に行くなんて、さすがに止められたんじゃない?」

「ものの見事に、家族全員から……」

 医者や学者はどの世界でも憧れられる職業なのだろう。正直なところ、シノ自身もそういった人達をカッコ良いと思ってたりする。

「おいおい、ローザちゃんが都に行っちまったら寂しくて泣くぞー!」

「この村の数少ない彩りなんだから、なっ!」

 話を聞いていた周囲の顔なじみ達が、ローザに対して声をかけてきた。家族の反対もそうだが、こういった意味でも村から離れてほしくはないのがわかる。

「も、もう! 調子のいいこと言わないでください……!」

 件の彼女は、若干顔を赤くしながら手をブンブンと振って抗議の意を示していた。そういう仕草がまた可愛いとか思われてしまうのだけど、多分本人は気付いてないと思われる。
 そんなこんなで店内はしばし、賑やかな笑い声に包まれていた。

「ローレルさんは、もうお帰りになられたんですか?」

「うん、護衛の人と一緒に帰ったよ。護衛付きっていうのがまた凄いよね」

「野盗被害などが無いとも言い切れませんからね。用心は大切です」

「それもそうか。ある意味、魔物より厄介かも……」

 さすがにシノはまだその類に出会ったことがなかった。
 別の街などに出掛けたりする時は大概、他の冒険者と連れ立って行っていたので、野盗が潜んでいてもおいそれと手出しなどしないと思うが、一人でどこかへ行く場合は別だ。
 いずれリューンベルへ出向くことになるだろうが、その時は恐らく一人旅になる。特にシノの場合は見た目若い女性なのだし、余計に狙われてもおかしくない。

「……私も護衛とか雇ったほうがいいのかな?」

「さすがにそれは大袈裟だと思いますけど……というか、シノさんは冒険者じゃないですか」

「そういえばそうだった」

 真剣な顔で考え始めたシノを見て、ローザが思わず苦笑する。ただでさえペリアエルフという希少な存在なのだし、そこに護衛でも付こうものなら傍から見ればどこかの重鎮か何かと思われてしまうだろう。

「遠方への護衛なら、俺に任せてくれよっ!」

「お前はシノさんに気に入られたいだけだろ」

「い、いいだろ別に!」

 冒険者達が我こそはと名乗りをあげるが、シノはそれをやんわりと断っておく。あまり気を使わせるのも悪いし、遠方へ行く方法なら他にもあるだろう。そもそも、まだ行く日程すら決まってもいないのだし、今考えてもしょうがない。
 ローザにしてもシノにしても、色々な意味で皆からの人気はあるんだなと改めて実感していた。

「ほ、ほら! 皆さんそろそろ出発の時間じゃないですか?」

「あっ、やべぇ! すっかり話し込んじまった!」

「どやされる前にさっさと行くぞ! それじゃあな、お二人さん!」

 どうやら依頼に出向く前だったらしく、ローザに促されて気付いたのか、冒険者の男性二人組は急ぎ足で森の訪れを後にしていった。
 そんな彼らの様子を見て少し可笑しくなったのか、シノとローザは顔を見合わせて笑う。

「それじゃあ、私もそろそろ帰るね。また明日!」

「はい、また明日」

 シノも彼らに続けて席を立つと、店を後にした。それを見届けたローザは、小さな声で気合を入れ直して仕事を再開する。
 ほどなくして冒険者達の談笑で少しざわつく店内は、いつも通りの風景が流れ始めた。


 ◇


 二日後。ローレルは護衛の兵士と共に、リューンベルまで無事に帰り着いていた。

「それではローレル殿。自分はこれにて失礼致します」

「あぁ、道中どうもありがとう。兵団の皆にもよろしく言っておいてくれ」

 仕事場付近まで辿り着いたローレルは、従者の兵士に礼を言って別れる。
 大きな街ともなると多くの兵士が所属する兵団が存在しているので、彼らとは顔なじみといったところか。医者であるが故に様々な街へ回診に出掛けることだってあるし、たびたび依頼しているのだろう。
 自身の勤め先である病院へ戻ってきたローレルは、関係者用のドアを開けた。何故か鍵がかかっていなかったようだが、別に不用心というわけではない。何故ならば、

「お帰りなさいませ、先生。長旅お疲れ様でした」

 ドアの向こうで出迎えてきたのは、ローレルより頭1つ分ほど背の低い女性。ここは彼の仕事場なので、恐らくは助手といったところだろう。

「私の留守中に変わったことはあったかい?」

「特には。と言いたいところですが……こちらを」

 ローレルの問いかけに対して一瞬だけ目を伏せた彼女は、便箋を取り出すと彼に渡した。
 封は切られていないが、表面には「リューンベル中央役所」と書かれているのが見える。それだけでも何やら物々しい雰囲気があるのは明らかだった。
 ローレルは神妙な面持ちで封を切ると、中に入っていた一通の手紙に目を通す。内容を確認すると、彼は苦い表情を隠そうともせず、そのあと小さな溜息をついた。

「先生……難しい顔をされていますが、一体何が?」

「……どうやら、研究の資金援助もそろそろ限界らしい」

 どうやら手紙に書かれていた内容は金銭に纏わることのようだ。それも、かなり重要なことだということが彼の表情から見て取れる。ローレルは手紙を棚にしまうと椅子に腰を下ろし、長く息を吐いた。
 そんな彼の様子を見て心配そうな表情を向けてきた助手に対して彼は、苦笑交じりの表情で小さく首を振ってみせる。

「恐らく、もうしばらくは問題ないだろうさ。猶予があるうちにどうするかが重要ではあるが……」

「進展の宛ては、あるのですか?」

「噂の人物にも会うことが出来たし、期待は出来ると思うよ」

「それは、先日出掛けられたクラド村の?」

「うん、力になってもらえたら……はさすがに厚かましいかもしれないが、あの人からヒントの一つでも学ぶことが出来れば心強い」

 二人が話しているのはシノのことだろう。彼女の魔法に興味があったというだけではなく、ローレル自身にも明確な目的があって出向いていたようである。
 それこそが、先ほど苦い顔で見ていた手紙の内容にも関係しているということか。二人のやり取りを見るに、既に何度かあのような手紙が送られてきているのだろう。
 このタイミングでシノという人物を見つけることが出来たのは幸運だったかもしれない。

「それまでは、私も私で頑張るとするよ」

「無理だけはなさらないで下さいね。その方がいざ来訪された時に困りますので」

「はははっ、分かっているとも」

 先ほどまでの苦い表情も少し消え、笑顔に戻ったローレルは再び仕事机へ顔を向ける。助手の女性も仕事を再開し、各々のやるべきことへ戻っていくのであった。
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