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第一部
12:気になる実力は
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「――――――それでは、さっそく始めて参りましょうっ!」
とある日の昼下がり、晴れ空の下に威勢の良い大きな声が響く。
競技場のような造りをしたその場所にはゆうに千人を超えるであろう人々が集っており、場は歓声に満ち溢れていた。
この場所はクラド村ではなく、村から一時間ほどの距離にある隣街、ジェネスの中央にある競技場だ。
これだけの人数が集っているとなれば何かのイベントが行われているのだが、
「一人目は、人呼んで冒険者教師こと、クラド村のシノ・ミナカワさん!!! 対するは、ジェネスが誇る若手冒険者、ベイル・ストラードさん!!!」
その中心。大勢の観客が見守る真っただ中に、シノが立っていた。しかも、このイベント――――――もとい、大会の参加者として。
真っ白な敷石で造られた十メートル四方ほどの中心部分で、二人が向かい合っている。
司会者がベイルと紹介した彼は、黒い短髪に同色の瞳。精悍な顔をした青年だ。既に構えている姿からしてやる気十分といった感じである。
そんな彼と相対しているシノはというと、
「さぁ、もう後戻りは出来ないよ……。気合入れろ、私……!」
観客としてではなく参加者として立っている現状を今になって実感しているのか、その顔からは不安の色が隠しきれていない。
なんで参加しちゃったんだろうなぁと今更ながらに思い返す彼女をよそに、司会の男性は相変わらず大きな声でルールの説明を行っていた。
このような状況になってしまった事の発端は、一週間ほど前に遡る……
◇
魔物大発生の討伐から帰ったシノは冒険者の皆と別れた後、森の訪れへと戻った。
他の三人は次の依頼を受けにいくとかで早々に村を後にしてしまったらしく、既にその姿はない。
本職の冒険者というのはやはり色々と忙しいものだと改めて思う。一応、シノもその一人ではあるけれど。
「んーっ……久しぶりに思いっきり戦った気がするなぁ」
「お疲れ様でした、シノさん。お蔭様で被害も少なくて済んだそうですよ」
「うんうん、それなら何より!」
結局一番魔物を討伐したのはシノだったようで、報酬額もかなりのものになっていた。それこそ、一か月程度の生活資金にはできるぐらいに。
あれほど大口の依頼はめったにないので、妥当といえば妥当な報酬だろう。
「これで私のことを、本職は冒険者だってことは改めて分かって貰えたよね」
「冒険者の方より強い教師の人なんて、まずいませんからね……」
「あはは……確かにそうかも」
その事実を改めて認識したのか、シノは苦笑気味に頭を掻いてみせる。
時刻はそろそろ夕方になる頃合いだろうか。店内のカウンター席で、ローザが作ってくれたお菓子を摘みながらいつも通り談笑していた。
今はまだ人がまばらだが、これから夜になると討伐や依頼帰りの冒険者で賑わうことだろう。
魔物討伐の話題が終わってしばらくすると、ふとローザが話を振ってきた。
「今回の一件もそうですけど、シノさんの実力って実際どのぐらいなんでしょうか?」
「実力っていわれても色々とあるからねぇー。魔法の腕だったり力の強さだったり」
「魔法に関してはもう誰もが知るところですけど、他の実力は見たことがないというか……」
他の実力というのは、刀剣の扱いや近接戦を含む腕っぷしのことを指しているのだろうか。
確かに、シノが毎朝のようにやっている村周辺の討伐の際は魔法を使っていることが殆どで、接近戦で戦っているところを見たことはない。
普段の服装のこともあるので、あまり激しい動きをしたら色々と駄目というのもあるかもしれないが。
「……別に、そこまで驚かれるような腕前はないと思うよ?」
「そ、そういうものなんでしょうか……確かめられたことなどはないんですか?」
「ないない。確かめるっていってもそんな機会は殆ど――――――」
確かめるための体力測定などがあるわけではないし、見せられる機会などないだろう。シノからそんなことを言い出した日には、一体何事かと思われてしまいそうだし。
だが、シノは何かに気付いて突然言葉を切る。それと同時に、ローザが思い出したかのように「あっ」と声を漏らして何かを察したようだ。
「確かもうすぐ、ジェネスで武道大会があったような……」
彼女が思い出したのは、隣街のジェネスで年に一度開かれている武道大会。近隣の街や村。もしくは話を聞きつけた腕利き達が集って頂点を決める伝統行事だ。
シノはもちろん知っており、何度か見に行ったこともあるのだが、ずっと参加はしていなかった。
冒険者や教師業で普通に生活できればそれでいいし、賞金も出るらしいのだが、別にお金に困っているわけではないので彼女的には参加する意味はあまりない。
「そういえば、もうそんな時期だったっけ……すっかり忘れてたよ」
「去年は、王都から遥々参加しにきた方が優勝されてましたね!」
実はローザはかなりの観客常連で、毎年必ず大会を観に行っている。
この店を任されている立場上、ここの常連から出場者が出ていることもあるため、彼ら彼女らの応援という意味合いもあるのだろう。
大会から帰った皆が賞金で豪遊している姿も何度か見かけたことがあったし、せっかくだからと自分も招き入れられたのはまだ記憶に新しい。
それはそれとして、ローザが言わんとしていることはなんとなくわかった。
「……もしかして、それに出てくださいって言ってる?」
ド直球に訊いてみると図星なのか、ひどく慌てたようにあたふたし出してしまう。見ていてなんだか面白い挙動である。
シノの中で武道大会といえば、屈強な男達が熱血な戦いを繰り広げているイメージだ。実際に見た限りでは男性の参加者が殆どであるし、女性はたまにしか出場していない。その中に自分が入っていくのは、物凄く場違いなんじゃないだろうか?
「そ、それはー……その……なんというか……」
これは完全に「武道大会で実力を見てみたいです!」と言わんばかりの反応だ。
普段は控えめな雰囲気の彼女だが、こうなるといつもの調子はどこへいったのか、シノでも折れかねないほど粘られてしまうので、ちょっと困りものである。
魔物を相手にするならまだしも、対人戦となると加減がよくわからないためちょっとやり辛い。
でもなんか期待されちゃってるし、さてどうしたものか。
「武術とかはあまり得意じゃあないんだけど……。いきなり負けて、期待外れとか思わないのならいいよ」
「そ、そんな失礼なこと思ったりしませんよ!」
さすがにローザの口からそんな言葉は出てこないとは思うが、負けた際の予防線ぐらいは張っておいたほうがいい。
最初の試合からとんでもない相手と当たる可能性だってあるわけだし。
結局、上手く乗せられてしまった感じがあるけれども……まぁ仕方がない。ここは流れに任せるとしよう。
「うーん……分かったよ。出ればいいんでしょ、出れば」
「ご、ごめんなさい。なんだか強制するようになってしまって……」
「気にしなくていいよ。それに――――――」
「?」
「対人にも慣れておかないと、いざって時に困るかもしれないしね」
大会外で誰かと戦う予定があるわけではないが、慣れておくのは悪いことではないとは思う。
魔物相手では最強を誇っていても、人を相手にするとなった途端に何もできないなどというパターンは結構ありがちだ。もし自分がそうなってしまったらさすがにまずいだろう。
そのためにも、この武道大会はうってつけの場だと考えるべきだ。何事も前向きに。ただし、突っ走らずに。
「当日は、最前列で応援させてもらいますので!」
「言わなくてもいつも一番前で応援してるでしょ、ローザは」
「となるとまた、母に留守をお願いしないといけませんね」
「エリザさんもまだまだ現役ってことかなぁ」
ローザの留守中は、先代の店主でもあるエリザが久々に店先に出てくることになるだろう。
彼女に店の経営を譲って以来、村の中でたまに会うぐらいではあるのだが、経営の前線を退いた今でも一日ぐらいなら余裕で任せられるだろう。
「女将さんが来るって!? 久々に会いてぇなぁー」
「大会も見にいきたいけど、エリザさんのご飯を久々に食べる機会も捨てがたい……」
「武道大会が終わってからでも間に合うって!」
森の訪れの店主は代々好かれているようで、周囲の冒険者達がざわざわし出す。
そういえば自分も久しく、あの人が作るご飯食べてなかったなぁ。腕前はしっかりと娘に受け継がれてこそいるが、やはり本家となればまた一味違う。
大会が終わるまで――――――――というより、ローザが帰ってくるまでは店にいてくれるだろうし、その時に御馳走をお願いしてみようかな。などと考えるうちにシノのやる気が少し上がる。
「武器や魔法攻撃は禁止だったよね。準備ぐらいはしておかないとなぁー」
「準備というと……どうするんですか?」
「大会の日まで、魔物は出来るだけ魔法以外で倒す! 接近戦に慣れておかないとね」
「結構、形から入るタイプなんですね……」
これにはローザも、さすがに少し苦笑い。
今までは遠距離からの魔法で不意打ちかつ一撃で倒していたが、大会への慣らしも兼ねて接近戦の練習もしておいたほうがいいだろう。
もちろん、手負いで取り逃がすようなことは絶対にしない。村の入り口で起こったことの二の舞になっては絶対に駄目だ。たとえそれが村の外だとしても。
「よーし、魔物でも冒険者でもかかってこい!」
誰に言うでもなく気合を入れ直すシノ。少なくとも、無駄に緊張するということはなくなったようだ。あとは、この心意気のまま当日を迎えられるように努力はしよう。
千人を超えるであろう観客に見守られながら戦う度胸はそこまでないが、伝統行事なのだし胸を張って参加するべきだ。
そして準備の時間はあっという間に過ぎ、一週間後の大会当日を迎えることになる。
◇
歓声が渦巻く中、舞台の中央にて向かい合って立つシノとベイル。
それよりも何よりも、彼はシノと戦えることが嬉しいようだった。世の中広しといえど、ペリアエルフと手合わせできる機会などそうないからだろう。
森の訪れでよく出会う顔なじみ達もこの大会に参加しているようだし、なんだかんだで彼女は注目されている存在ということか。
「――――――場外に出るか、降参した時点で負けとなります! それでは第一試合、開始してください!!!」
二人の対戦者が向かい合う中、審判役の大きな声が舞台に響き、今年のジェネス武道大会の初戦がいよいよ幕を開けたのだった。
とある日の昼下がり、晴れ空の下に威勢の良い大きな声が響く。
競技場のような造りをしたその場所にはゆうに千人を超えるであろう人々が集っており、場は歓声に満ち溢れていた。
この場所はクラド村ではなく、村から一時間ほどの距離にある隣街、ジェネスの中央にある競技場だ。
これだけの人数が集っているとなれば何かのイベントが行われているのだが、
「一人目は、人呼んで冒険者教師こと、クラド村のシノ・ミナカワさん!!! 対するは、ジェネスが誇る若手冒険者、ベイル・ストラードさん!!!」
その中心。大勢の観客が見守る真っただ中に、シノが立っていた。しかも、このイベント――――――もとい、大会の参加者として。
真っ白な敷石で造られた十メートル四方ほどの中心部分で、二人が向かい合っている。
司会者がベイルと紹介した彼は、黒い短髪に同色の瞳。精悍な顔をした青年だ。既に構えている姿からしてやる気十分といった感じである。
そんな彼と相対しているシノはというと、
「さぁ、もう後戻りは出来ないよ……。気合入れろ、私……!」
観客としてではなく参加者として立っている現状を今になって実感しているのか、その顔からは不安の色が隠しきれていない。
なんで参加しちゃったんだろうなぁと今更ながらに思い返す彼女をよそに、司会の男性は相変わらず大きな声でルールの説明を行っていた。
このような状況になってしまった事の発端は、一週間ほど前に遡る……
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魔物大発生の討伐から帰ったシノは冒険者の皆と別れた後、森の訪れへと戻った。
他の三人は次の依頼を受けにいくとかで早々に村を後にしてしまったらしく、既にその姿はない。
本職の冒険者というのはやはり色々と忙しいものだと改めて思う。一応、シノもその一人ではあるけれど。
「んーっ……久しぶりに思いっきり戦った気がするなぁ」
「お疲れ様でした、シノさん。お蔭様で被害も少なくて済んだそうですよ」
「うんうん、それなら何より!」
結局一番魔物を討伐したのはシノだったようで、報酬額もかなりのものになっていた。それこそ、一か月程度の生活資金にはできるぐらいに。
あれほど大口の依頼はめったにないので、妥当といえば妥当な報酬だろう。
「これで私のことを、本職は冒険者だってことは改めて分かって貰えたよね」
「冒険者の方より強い教師の人なんて、まずいませんからね……」
「あはは……確かにそうかも」
その事実を改めて認識したのか、シノは苦笑気味に頭を掻いてみせる。
時刻はそろそろ夕方になる頃合いだろうか。店内のカウンター席で、ローザが作ってくれたお菓子を摘みながらいつも通り談笑していた。
今はまだ人がまばらだが、これから夜になると討伐や依頼帰りの冒険者で賑わうことだろう。
魔物討伐の話題が終わってしばらくすると、ふとローザが話を振ってきた。
「今回の一件もそうですけど、シノさんの実力って実際どのぐらいなんでしょうか?」
「実力っていわれても色々とあるからねぇー。魔法の腕だったり力の強さだったり」
「魔法に関してはもう誰もが知るところですけど、他の実力は見たことがないというか……」
他の実力というのは、刀剣の扱いや近接戦を含む腕っぷしのことを指しているのだろうか。
確かに、シノが毎朝のようにやっている村周辺の討伐の際は魔法を使っていることが殆どで、接近戦で戦っているところを見たことはない。
普段の服装のこともあるので、あまり激しい動きをしたら色々と駄目というのもあるかもしれないが。
「……別に、そこまで驚かれるような腕前はないと思うよ?」
「そ、そういうものなんでしょうか……確かめられたことなどはないんですか?」
「ないない。確かめるっていってもそんな機会は殆ど――――――」
確かめるための体力測定などがあるわけではないし、見せられる機会などないだろう。シノからそんなことを言い出した日には、一体何事かと思われてしまいそうだし。
だが、シノは何かに気付いて突然言葉を切る。それと同時に、ローザが思い出したかのように「あっ」と声を漏らして何かを察したようだ。
「確かもうすぐ、ジェネスで武道大会があったような……」
彼女が思い出したのは、隣街のジェネスで年に一度開かれている武道大会。近隣の街や村。もしくは話を聞きつけた腕利き達が集って頂点を決める伝統行事だ。
シノはもちろん知っており、何度か見に行ったこともあるのだが、ずっと参加はしていなかった。
冒険者や教師業で普通に生活できればそれでいいし、賞金も出るらしいのだが、別にお金に困っているわけではないので彼女的には参加する意味はあまりない。
「そういえば、もうそんな時期だったっけ……すっかり忘れてたよ」
「去年は、王都から遥々参加しにきた方が優勝されてましたね!」
実はローザはかなりの観客常連で、毎年必ず大会を観に行っている。
この店を任されている立場上、ここの常連から出場者が出ていることもあるため、彼ら彼女らの応援という意味合いもあるのだろう。
大会から帰った皆が賞金で豪遊している姿も何度か見かけたことがあったし、せっかくだからと自分も招き入れられたのはまだ記憶に新しい。
それはそれとして、ローザが言わんとしていることはなんとなくわかった。
「……もしかして、それに出てくださいって言ってる?」
ド直球に訊いてみると図星なのか、ひどく慌てたようにあたふたし出してしまう。見ていてなんだか面白い挙動である。
シノの中で武道大会といえば、屈強な男達が熱血な戦いを繰り広げているイメージだ。実際に見た限りでは男性の参加者が殆どであるし、女性はたまにしか出場していない。その中に自分が入っていくのは、物凄く場違いなんじゃないだろうか?
「そ、それはー……その……なんというか……」
これは完全に「武道大会で実力を見てみたいです!」と言わんばかりの反応だ。
普段は控えめな雰囲気の彼女だが、こうなるといつもの調子はどこへいったのか、シノでも折れかねないほど粘られてしまうので、ちょっと困りものである。
魔物を相手にするならまだしも、対人戦となると加減がよくわからないためちょっとやり辛い。
でもなんか期待されちゃってるし、さてどうしたものか。
「武術とかはあまり得意じゃあないんだけど……。いきなり負けて、期待外れとか思わないのならいいよ」
「そ、そんな失礼なこと思ったりしませんよ!」
さすがにローザの口からそんな言葉は出てこないとは思うが、負けた際の予防線ぐらいは張っておいたほうがいい。
最初の試合からとんでもない相手と当たる可能性だってあるわけだし。
結局、上手く乗せられてしまった感じがあるけれども……まぁ仕方がない。ここは流れに任せるとしよう。
「うーん……分かったよ。出ればいいんでしょ、出れば」
「ご、ごめんなさい。なんだか強制するようになってしまって……」
「気にしなくていいよ。それに――――――」
「?」
「対人にも慣れておかないと、いざって時に困るかもしれないしね」
大会外で誰かと戦う予定があるわけではないが、慣れておくのは悪いことではないとは思う。
魔物相手では最強を誇っていても、人を相手にするとなった途端に何もできないなどというパターンは結構ありがちだ。もし自分がそうなってしまったらさすがにまずいだろう。
そのためにも、この武道大会はうってつけの場だと考えるべきだ。何事も前向きに。ただし、突っ走らずに。
「当日は、最前列で応援させてもらいますので!」
「言わなくてもいつも一番前で応援してるでしょ、ローザは」
「となるとまた、母に留守をお願いしないといけませんね」
「エリザさんもまだまだ現役ってことかなぁ」
ローザの留守中は、先代の店主でもあるエリザが久々に店先に出てくることになるだろう。
彼女に店の経営を譲って以来、村の中でたまに会うぐらいではあるのだが、経営の前線を退いた今でも一日ぐらいなら余裕で任せられるだろう。
「女将さんが来るって!? 久々に会いてぇなぁー」
「大会も見にいきたいけど、エリザさんのご飯を久々に食べる機会も捨てがたい……」
「武道大会が終わってからでも間に合うって!」
森の訪れの店主は代々好かれているようで、周囲の冒険者達がざわざわし出す。
そういえば自分も久しく、あの人が作るご飯食べてなかったなぁ。腕前はしっかりと娘に受け継がれてこそいるが、やはり本家となればまた一味違う。
大会が終わるまで――――――――というより、ローザが帰ってくるまでは店にいてくれるだろうし、その時に御馳走をお願いしてみようかな。などと考えるうちにシノのやる気が少し上がる。
「武器や魔法攻撃は禁止だったよね。準備ぐらいはしておかないとなぁー」
「準備というと……どうするんですか?」
「大会の日まで、魔物は出来るだけ魔法以外で倒す! 接近戦に慣れておかないとね」
「結構、形から入るタイプなんですね……」
これにはローザも、さすがに少し苦笑い。
今までは遠距離からの魔法で不意打ちかつ一撃で倒していたが、大会への慣らしも兼ねて接近戦の練習もしておいたほうがいいだろう。
もちろん、手負いで取り逃がすようなことは絶対にしない。村の入り口で起こったことの二の舞になっては絶対に駄目だ。たとえそれが村の外だとしても。
「よーし、魔物でも冒険者でもかかってこい!」
誰に言うでもなく気合を入れ直すシノ。少なくとも、無駄に緊張するということはなくなったようだ。あとは、この心意気のまま当日を迎えられるように努力はしよう。
千人を超えるであろう観客に見守られながら戦う度胸はそこまでないが、伝統行事なのだし胸を張って参加するべきだ。
そして準備の時間はあっという間に過ぎ、一週間後の大会当日を迎えることになる。
◇
歓声が渦巻く中、舞台の中央にて向かい合って立つシノとベイル。
それよりも何よりも、彼はシノと戦えることが嬉しいようだった。世の中広しといえど、ペリアエルフと手合わせできる機会などそうないからだろう。
森の訪れでよく出会う顔なじみ達もこの大会に参加しているようだし、なんだかんだで彼女は注目されている存在ということか。
「――――――場外に出るか、降参した時点で負けとなります! それでは第一試合、開始してください!!!」
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