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第一部
15:決勝で垣間見たもの
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ついこの間見かけた冒険者と再会し(顔を合わせたわけではないが)、その場所が武道大会決勝というまさかの事態。
討伐の様子を少し見ていた程度だが、大群相手にも圧倒的な強さだったため、相対する相手としては申し分ないほどの強敵といえるだろう。これは油断できないなと思ったシノの腕や足にも自然と力が入る。
そんな彼女の心情を汲み取ったのか、ステラは口元に微笑を浮かべると、
「貴女と戦えて光栄よ。お互い、良い決勝戦にしましょう」
と、静かな声で語りかけた。その口調はかなり大人びているように聞こえ、自分より年上なのではないかと思えた。だとすると彼女はエルフ族だったりするのだろうか。
人数こそ多くはないがエルフ族の出場者もいたのだし、そこまで驚くようなことではないかもしれないが。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
しかしながら、女性同士の決勝戦というのはそれはそれで珍しいことかもしれない。更に両者がエルフ族だとすれば、シノが覚えている限りでは一度もない対戦カードだった筈だ。
これは恐らく、近年稀に見る注目の一戦となることだろう。
「それではジェネス武道大会決勝戦……開始して下さい!!!」
司会が決勝戦開始を告げて、舞台へと銅鑼の音が大きく響き渡った――――――と、思った直後にシノの目の前へ突如として人影が迫る。その正体は紛れもなくステラだ。
普通であれば開始して少しの間は相手の出方を見るのが定石なのだが、彼女はまさに速攻とも言える突貫を仕掛けてきたのだ。
音が止み切っておらず周囲の気配が乱れる中、素早い手刀による一撃が繰り出される。
「っ!」
もし向かい合った時に構えていなかったら、まともに食らっていたかもしれない。
咄嗟に目の前で腕を交差させたシノは、彼女の初撃を見事に受け止めることに成功する。
ようやく銅鑼の音が止んだ舞台中央に腕と腕がぶつかり合う乾いた音が響くと、ステラは仮面の上からでもわかるほどに、驚きの表情を浮かべていた。
「今のを防ぐなんて、さすがね」
「避ける暇が無かったので……」
対するシノも、若干焦りの色を見せながら言葉を返す。対人戦においては初撃で大体どんな相手かがわかるらしいが、さすがにシノはその領域には到達できていない。
だが、なんとなくは感じ取れた気がした。ステラは武道大会のような場だけではなく、単純に戦い慣れているということに。
旅の冒険者ということだが、傭兵や用心棒の経験もあるのではないだろうか? 一切の迷い無く突っ込んできたのを見た限りではそう思えた。
「お互いに戦い方も似ているようだし、それ以上の何が出来るか……かしら?」
「……そうですね。退屈な戦いには、させませんよ……っ!」
二人共が回避に重きを置いた戦い方ならば、避けて避けられが続いて決着がつかない可能性がある。それを何となく察したステラが、初撃の膠着状態の最中で言葉を漏らした。
それに対し、受け止めた手を腕ごと押し返したシノが反撃に出る。押し返したステラに合わせるように素早く前へ飛び、弧を描くような回し蹴りを連続で繰り出してみせた。
だが当然ながらそれらは全て避けられてしまい、まるで舞いであるかのように身体を捻った動きのステラを見た観客から歓声があがる。
「す、凄い……戦っているはずなのに、あんなに華麗な動作ができるなんて……」
ずっとシノを応援していた観客席のローザもこれにはさすがに目を奪われてしまっていたようだ。
「はぁぁっ!」
「てやぁぁっ!!」
それからしばらくの間、舞台上には二人の掛け声が鋭く響き続ける。
素早い動きで繰り出されるステラの体術をシノはギリギリで避け続け、時には華奢な腕と足でそれを防ぎ反撃へと転じる。
これがもし初戦だったら上手い反撃も出来ていなかったかもしれないが、ここまで何度も勝ち上がって戦っていたので、そこは大丈夫なようだ。
「頑張れよぉー!」
「頑張れー!」
会場が更なる盛り上がりに包まれる中、観客席からは村の皆の声援が飛び続けていた。それに対して手を振ったりする余裕はないが、背中で有難く受け取っておく。
そもそもこの大会への参加も、自分がどのぐらい強いかを確かめるという疑問から始まったことだ。どうせなら優勝までいって出来る限り示すものは示しておきたい。
だからといって、武闘家みたいなのに転身する気はないけれども。
――――――バシィッ!!
もう十数回目になるだろうか。
互いの攻撃を受け止めた状態で、シノとステラが再び膠着状態となった。
二人の位置は、舞台のやや端っこといったところだろうか。ここで決定的な一撃でも決まれば場外負けだって狙えるかもしれない。
「対人経験は無いって聞いたけど……そうでもなかったりするのかしら?」
「まさか。単に、慣れが早いだけだと思います……よっ!」
つい昨日まで人を殴ったことすらなかった彼女が、ここまで対人で戦えているのは驚くべきことだ。戦いの中で成長するという言葉だってあるし、それがかなり優れているといったところか。
最初と同じように攻撃を受け止めた手を力強く押し返すと、ステラが一瞬だけ姿勢を崩した。それを見逃さず、シノがすぐさま彼女へと突貫を仕掛ける。
が、しかし――――――――
「――――――甘いわねっ!」
「うわっ!?」
姿勢を崩したことすら利用したステラはそのまましゃがむと、スライディングを繰り出してきたのだ。
まさか反撃をもらうとは思っていなかったシノは足元を掬われてしまう。
勢いに攫われて足が地面から離れてしまい、そこを逃がすまいとステラが追撃。シノの身体を掬い上げるように投げを決めにかかり、直後に身体が宙を舞う。
舞台の端っこは目と鼻の先だ。このままでは場外に落ちて負けてしまう!
「……くっ!」
一か八か、全体重を無理やり下方向に傾けようと試みるとその直後、シノの身体が舞台へと落下した。
場外まであとわずか数センチといったところでギリギリ踏みとどまることが出来ていたようだ。まさに土俵際といったところか。やるだけやってみるものである。
(あ、危なかった……)
安心したのも束の間。今のはただ、負けを回避しただけに過ぎない。
シノが踏みとどまったことに気付いたステラは今度こそ最後の一撃を繰り出すべく、低くしていた姿勢を直すとすぐに反転。
「これで、決めさせてもらうわよっ!」
腕を前で交差させ、確実な場外吹き飛ばしを狙った体当たりを仕掛けてきた。
まだシノは立ち上がろうとしている体勢のため、まともに食らえば今度こそ負ける。避ける時間もないため、ここは正面きってぶつかるしかない。
片足をついた状態のシノは突貫してきたステラと向かい合うと、片手を軸にして蹴り上げるような動作をとる。
「――――――てやぁっ!」
「……なっ!?」
それはまるで巴投げかのようで、交差させていたステラの手にちょうど足が引っかかり、彼女は身体ごと斜め上へと浮き上がる。その先は落ちたら負けの場外だ。
そのまま何事もなければシノの勝利で終わっていたはずなのだが――――――――
「えっ!?」
慣れないことをしたに加えて体当たりの勢いにつられてしまったのか、蹴り上げた本人であるシノも一緒に場外へと投げ出されてしまったのだ。
果たしてこれは成功なのか失敗なのか。両者は同時に驚きの表情を浮かべながら、一秒ほど宙を舞った。
――――――ドサッ! ドサッ!!
二人が場外へと落下したと思われる音が、舞台の端っこから聞こえてくる。シノは仰向けに。ステラは逆にうつ伏せの姿勢で場外に倒れていた。
お互いに勢いよく飛ばされたわけではないため、幸いにも目立った怪我などはないようである。
すぐに彼女らの下へ、審判役と司会者が走ってくると、勝敗を決めるための判定と審議を始めた。この場合は一体どちらの勝ちとなるのだろうか?
起き上がった後、舞台の中央へ向かう二人に対して観客の視線が一斉に集まり、息を呑んでその結果を待っている。
「只今、試合の結果が出ました!!! 今年の武道大会、見事優勝の栄冠を獲得したのは――――――」
司会の熱の入り方は最高潮に達し、会場は結果を聞くために歓声が止み、静まり返っていた。
観客席ではローザを含む村の皆がシノの勝利を祈っているのが見える。対するステラにも、多くの観客が勝利を期待して見守っていた。
数秒の間をおいて、審判役が二人のうち一人の腕を掴んで勢いよく掲げてみせる。
「――――――ステラ・アーシェルさんです!!!」
その瞬間、会場には割れんばかりの拍手喝采が響き渡り、ステラの勝利とシノの健闘を称えた。
どうやら、自分の方が一瞬だけ早く地面についてしまっていたらしい。同士討ちになることも考えていないわけではなかったし、こればかりは仕方がない。
仮面の下からでもわかるほどの笑顔で拍手喝采に応えていたステラだが、シノへ顔を向けると、試合開始前と同じような微笑みを見せる。
「近年稀に見る素晴らしい試合が出来たわ。ありがとう、シノさん」
「こちらこそ。私は……まだまだかもしれませんね」
「あら、そんなことはないわ。もし貴女が最初から戦い慣れてたら、私なんて簡単に負けていたかもしれないわね」
「そういうものでしょうか?」
「そういうものよ。またどこかで会えることを楽しみにしているわ」
勝者だからといって決して驕らない彼女は、どことなく掴みどころのない人物だなぁとシノは感じていた。
だからこそ、あれほどの腕前を持ちながら旅の冒険者をやっているのかもしれない。
向けていた顔を改めて観客側に戻したステラだがその間際に、
(……ん?)
何かに気付いたシノは一瞬だけ眉をひそめた。
司会者を見る。審判役を見る。どちらもそれには気づいていない様子だ。一瞬だけではあったのだが、その何かが彼女には見えていた。
「それでは、来年もこの舞台でお会い致しましょうっ! 本日は多くのご観覧およびご参加、誠にありがとう御座いました!!!」
司会者が締めの挨拶を行っているが、既にシノの興味は先ほど気付いたあるものに向いてしまっていた。
森林で見かけた時から始まり、実際に対峙してこうして終わるまで明るみに出ることはなかった、決勝の対戦相手――――――ステラの仮面の下。
(気のせいじゃ……ないよね?)
再びの拍手喝采に包まれ、二人は別々の入場口へと去っていく。
後ろを振り返ってみたが、彼女もまたこちらを振り返っているなんてことはない。なんとかもう一度確認したかったけれど、さすがに失礼だろう。
それほどまでにシノは、一瞬だけ仮面の下に見えたものが気になってしまっていた。
――――――自分と同じ、輝くような銀色の瞳を。
討伐の様子を少し見ていた程度だが、大群相手にも圧倒的な強さだったため、相対する相手としては申し分ないほどの強敵といえるだろう。これは油断できないなと思ったシノの腕や足にも自然と力が入る。
そんな彼女の心情を汲み取ったのか、ステラは口元に微笑を浮かべると、
「貴女と戦えて光栄よ。お互い、良い決勝戦にしましょう」
と、静かな声で語りかけた。その口調はかなり大人びているように聞こえ、自分より年上なのではないかと思えた。だとすると彼女はエルフ族だったりするのだろうか。
人数こそ多くはないがエルフ族の出場者もいたのだし、そこまで驚くようなことではないかもしれないが。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
しかしながら、女性同士の決勝戦というのはそれはそれで珍しいことかもしれない。更に両者がエルフ族だとすれば、シノが覚えている限りでは一度もない対戦カードだった筈だ。
これは恐らく、近年稀に見る注目の一戦となることだろう。
「それではジェネス武道大会決勝戦……開始して下さい!!!」
司会が決勝戦開始を告げて、舞台へと銅鑼の音が大きく響き渡った――――――と、思った直後にシノの目の前へ突如として人影が迫る。その正体は紛れもなくステラだ。
普通であれば開始して少しの間は相手の出方を見るのが定石なのだが、彼女はまさに速攻とも言える突貫を仕掛けてきたのだ。
音が止み切っておらず周囲の気配が乱れる中、素早い手刀による一撃が繰り出される。
「っ!」
もし向かい合った時に構えていなかったら、まともに食らっていたかもしれない。
咄嗟に目の前で腕を交差させたシノは、彼女の初撃を見事に受け止めることに成功する。
ようやく銅鑼の音が止んだ舞台中央に腕と腕がぶつかり合う乾いた音が響くと、ステラは仮面の上からでもわかるほどに、驚きの表情を浮かべていた。
「今のを防ぐなんて、さすがね」
「避ける暇が無かったので……」
対するシノも、若干焦りの色を見せながら言葉を返す。対人戦においては初撃で大体どんな相手かがわかるらしいが、さすがにシノはその領域には到達できていない。
だが、なんとなくは感じ取れた気がした。ステラは武道大会のような場だけではなく、単純に戦い慣れているということに。
旅の冒険者ということだが、傭兵や用心棒の経験もあるのではないだろうか? 一切の迷い無く突っ込んできたのを見た限りではそう思えた。
「お互いに戦い方も似ているようだし、それ以上の何が出来るか……かしら?」
「……そうですね。退屈な戦いには、させませんよ……っ!」
二人共が回避に重きを置いた戦い方ならば、避けて避けられが続いて決着がつかない可能性がある。それを何となく察したステラが、初撃の膠着状態の最中で言葉を漏らした。
それに対し、受け止めた手を腕ごと押し返したシノが反撃に出る。押し返したステラに合わせるように素早く前へ飛び、弧を描くような回し蹴りを連続で繰り出してみせた。
だが当然ながらそれらは全て避けられてしまい、まるで舞いであるかのように身体を捻った動きのステラを見た観客から歓声があがる。
「す、凄い……戦っているはずなのに、あんなに華麗な動作ができるなんて……」
ずっとシノを応援していた観客席のローザもこれにはさすがに目を奪われてしまっていたようだ。
「はぁぁっ!」
「てやぁぁっ!!」
それからしばらくの間、舞台上には二人の掛け声が鋭く響き続ける。
素早い動きで繰り出されるステラの体術をシノはギリギリで避け続け、時には華奢な腕と足でそれを防ぎ反撃へと転じる。
これがもし初戦だったら上手い反撃も出来ていなかったかもしれないが、ここまで何度も勝ち上がって戦っていたので、そこは大丈夫なようだ。
「頑張れよぉー!」
「頑張れー!」
会場が更なる盛り上がりに包まれる中、観客席からは村の皆の声援が飛び続けていた。それに対して手を振ったりする余裕はないが、背中で有難く受け取っておく。
そもそもこの大会への参加も、自分がどのぐらい強いかを確かめるという疑問から始まったことだ。どうせなら優勝までいって出来る限り示すものは示しておきたい。
だからといって、武闘家みたいなのに転身する気はないけれども。
――――――バシィッ!!
もう十数回目になるだろうか。
互いの攻撃を受け止めた状態で、シノとステラが再び膠着状態となった。
二人の位置は、舞台のやや端っこといったところだろうか。ここで決定的な一撃でも決まれば場外負けだって狙えるかもしれない。
「対人経験は無いって聞いたけど……そうでもなかったりするのかしら?」
「まさか。単に、慣れが早いだけだと思います……よっ!」
つい昨日まで人を殴ったことすらなかった彼女が、ここまで対人で戦えているのは驚くべきことだ。戦いの中で成長するという言葉だってあるし、それがかなり優れているといったところか。
最初と同じように攻撃を受け止めた手を力強く押し返すと、ステラが一瞬だけ姿勢を崩した。それを見逃さず、シノがすぐさま彼女へと突貫を仕掛ける。
が、しかし――――――――
「――――――甘いわねっ!」
「うわっ!?」
姿勢を崩したことすら利用したステラはそのまましゃがむと、スライディングを繰り出してきたのだ。
まさか反撃をもらうとは思っていなかったシノは足元を掬われてしまう。
勢いに攫われて足が地面から離れてしまい、そこを逃がすまいとステラが追撃。シノの身体を掬い上げるように投げを決めにかかり、直後に身体が宙を舞う。
舞台の端っこは目と鼻の先だ。このままでは場外に落ちて負けてしまう!
「……くっ!」
一か八か、全体重を無理やり下方向に傾けようと試みるとその直後、シノの身体が舞台へと落下した。
場外まであとわずか数センチといったところでギリギリ踏みとどまることが出来ていたようだ。まさに土俵際といったところか。やるだけやってみるものである。
(あ、危なかった……)
安心したのも束の間。今のはただ、負けを回避しただけに過ぎない。
シノが踏みとどまったことに気付いたステラは今度こそ最後の一撃を繰り出すべく、低くしていた姿勢を直すとすぐに反転。
「これで、決めさせてもらうわよっ!」
腕を前で交差させ、確実な場外吹き飛ばしを狙った体当たりを仕掛けてきた。
まだシノは立ち上がろうとしている体勢のため、まともに食らえば今度こそ負ける。避ける時間もないため、ここは正面きってぶつかるしかない。
片足をついた状態のシノは突貫してきたステラと向かい合うと、片手を軸にして蹴り上げるような動作をとる。
「――――――てやぁっ!」
「……なっ!?」
それはまるで巴投げかのようで、交差させていたステラの手にちょうど足が引っかかり、彼女は身体ごと斜め上へと浮き上がる。その先は落ちたら負けの場外だ。
そのまま何事もなければシノの勝利で終わっていたはずなのだが――――――――
「えっ!?」
慣れないことをしたに加えて体当たりの勢いにつられてしまったのか、蹴り上げた本人であるシノも一緒に場外へと投げ出されてしまったのだ。
果たしてこれは成功なのか失敗なのか。両者は同時に驚きの表情を浮かべながら、一秒ほど宙を舞った。
――――――ドサッ! ドサッ!!
二人が場外へと落下したと思われる音が、舞台の端っこから聞こえてくる。シノは仰向けに。ステラは逆にうつ伏せの姿勢で場外に倒れていた。
お互いに勢いよく飛ばされたわけではないため、幸いにも目立った怪我などはないようである。
すぐに彼女らの下へ、審判役と司会者が走ってくると、勝敗を決めるための判定と審議を始めた。この場合は一体どちらの勝ちとなるのだろうか?
起き上がった後、舞台の中央へ向かう二人に対して観客の視線が一斉に集まり、息を呑んでその結果を待っている。
「只今、試合の結果が出ました!!! 今年の武道大会、見事優勝の栄冠を獲得したのは――――――」
司会の熱の入り方は最高潮に達し、会場は結果を聞くために歓声が止み、静まり返っていた。
観客席ではローザを含む村の皆がシノの勝利を祈っているのが見える。対するステラにも、多くの観客が勝利を期待して見守っていた。
数秒の間をおいて、審判役が二人のうち一人の腕を掴んで勢いよく掲げてみせる。
「――――――ステラ・アーシェルさんです!!!」
その瞬間、会場には割れんばかりの拍手喝采が響き渡り、ステラの勝利とシノの健闘を称えた。
どうやら、自分の方が一瞬だけ早く地面についてしまっていたらしい。同士討ちになることも考えていないわけではなかったし、こればかりは仕方がない。
仮面の下からでもわかるほどの笑顔で拍手喝采に応えていたステラだが、シノへ顔を向けると、試合開始前と同じような微笑みを見せる。
「近年稀に見る素晴らしい試合が出来たわ。ありがとう、シノさん」
「こちらこそ。私は……まだまだかもしれませんね」
「あら、そんなことはないわ。もし貴女が最初から戦い慣れてたら、私なんて簡単に負けていたかもしれないわね」
「そういうものでしょうか?」
「そういうものよ。またどこかで会えることを楽しみにしているわ」
勝者だからといって決して驕らない彼女は、どことなく掴みどころのない人物だなぁとシノは感じていた。
だからこそ、あれほどの腕前を持ちながら旅の冒険者をやっているのかもしれない。
向けていた顔を改めて観客側に戻したステラだがその間際に、
(……ん?)
何かに気付いたシノは一瞬だけ眉をひそめた。
司会者を見る。審判役を見る。どちらもそれには気づいていない様子だ。一瞬だけではあったのだが、その何かが彼女には見えていた。
「それでは、来年もこの舞台でお会い致しましょうっ! 本日は多くのご観覧およびご参加、誠にありがとう御座いました!!!」
司会者が締めの挨拶を行っているが、既にシノの興味は先ほど気付いたあるものに向いてしまっていた。
森林で見かけた時から始まり、実際に対峙してこうして終わるまで明るみに出ることはなかった、決勝の対戦相手――――――ステラの仮面の下。
(気のせいじゃ……ないよね?)
再びの拍手喝采に包まれ、二人は別々の入場口へと去っていく。
後ろを振り返ってみたが、彼女もまたこちらを振り返っているなんてことはない。なんとかもう一度確認したかったけれど、さすがに失礼だろう。
それほどまでにシノは、一瞬だけ仮面の下に見えたものが気になってしまっていた。
――――――自分と同じ、輝くような銀色の瞳を。
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