19 / 69
第一部
18:商売娘は帰還する
しおりを挟む
「ふぅ、なんとか日暮れ前には帰り着けたかな」
リューンベルから往復の定期船に乗ってクラド村に帰ってきたのは、まだ陽も沈みかけの時間帯。こうして思うと、陸路で行くのとは大違いの早さだ。
ならば毎回船を使えばいいのにと思われるかもしれないが、そもそも定期船の数が少ないので、たとえ急ぎの用でも陸路を使ったほうが結果的に手っ取り早い場合もある。
急がば回れという言葉もあるし、その時によりけりということだろう。
(もうちょっと定期船の本数も増えて欲しいんだけどなぁ……)
とはいえやっぱり陸路は大変なので、楽が出来るならばそっちに頼りたいものだ。今のシノなら転移魔法で行き来ぐらいできそうではあるが、もし見られたらただ事ではないからやりはしないけれども。
港から戻ってきたシノは徐々に夜の明かりが目立ち始めた村の中、すぐに森の訪れへと向かう。
「ただいまー!」
ドアを開けるなり帰還報告をしたシノは、顔なじみの冒険者達と挨拶を交わしつつ、空いているカウンター席へ座って一息つく。店内は今日も夜の賑わいを見せていた。
「おかえりなさい、シノさん! 都はどうでしたか?」
「久々に行ったけど、相変わらず活気とか色々桁違いだったよ。ローレルさん達も、村の皆によろしくだって」
「無事にお会い出来たんですね。それはよかったです!」
「それはもう。魔法を見せてあげたりしたんだけど、盗まれる勢いだった」
「ふふ、伊達に高名な方ではないですからね」
やはり彼はローザだけではなく、名実ともに誰もが認める人物なようだ。次にリューンベルを訪れた際には本当にシノの魔法が再現されているかもしれない。それはそれで彼女としては願ったりかなったりな結果なわけだが。
「あ、そうそう。これは頼まれておいたお土産ね」
お土産のことを思い出したシノは、鞄から大小さまざまな筒状の容器を取り出す。
その数は五つほどで、色とりどりの包装がなされていた。当然ながら全て香辛料だ。
「わぁ、こんなに沢山……! ありがとう御座います、シノさん!」
「いいのいいの。いつもお世話になってるお礼だから」
「これなら、新作料理にも挑戦できそうですね!」
都の市場でオススメされて買ったものだが、どうやら当たりだったようだ。初めて見る香辛料達を前に、ローザは瞳をキラキラさせている。
そして、反応を見せたのは喜んでいる彼女だけではない。ローザが新作料理というワードを口にした瞬間、周囲の席がガタッと音を立てる。
「新作料理だって!?」
「また楽しみが一つ増える……!」
「これで魔物退治もはかどるぜ!」
さすがはクラド村が誇る料理上手だ。あの一言で冒険者達をざわつかせてしまうとは。むしろ皆は、彼女の料理目当てでここに通っているのだろうか。
いやまぁ自分もその節が少しあるから人のことは言えないのだけれど。
「が、頑張って新作を作ります……!」
皆の期待の視線を受けて少し恥ずかしくなったのか顔を赤くしてしまったが、ここで引き下がるわけにはいかないといった感じで言ってみせる。
それに応えるように、続けて周囲から小さく歓声があがった。これは新作が完成したら暫くは忙しくなるなと、店内で接客をしていた従業員達が笑う。
こうしてまた少しだけ活気が足された村の一日は、いつも通りに過ぎていった。
◇
翌日の昼過ぎ、いつもの日課と教師仕事を終えたシノは村の中をのんびりと散歩中。
今日は冒険者向けに入ってきている依頼がないので、魔物討伐に出向く必要がない。村自体は一時間もあれば歩いて一周出来てしまうほどの広さだが、たまにはこういうのもいいものだ。
「んー……やっぱり村の環境が一番だなぁ……」
村をぐるりと一周し、門の近くまで戻ってきたシノは大きく伸びをした。その際に門番の男達と目が合い、彼らが笑い掛けながら手を振るのが見える。
散歩も終わったし、森の訪れにでも行こうかなと思って足を店の方角へと向けたが、
「おっ! おかえり、商売娘! 首尾は上々だったか?」
門番達が誰かに対して声をかけるのが聞こえ、シノが振り返った。
彼らの視線の先にいたのは、右目が隠れたセミロングの青髪に緑の瞳を持つエルフ族の少女。魔女と旅装束を二で割ったような服を着ており、背中には大きな鞄を背負っている。
気さくに話しかけられている様子からして、彼らとは親しい仲の様子だが……
「その呼び方はやめて頂きたいんですが……って、そこにいるのは――――」
「……ティエラ? ティエラじゃない! 久しぶり!」
どうやらシノとも親しい間柄の人物のようで、気付いた彼女へすぐさま駆け寄っていく。同じく駆け寄ってきた少女を受け止めると、そのままその場でぐるぐる回ってみせた。こんな様子のシノはかなり珍しいといえるだろう。
「正しくは約三か月ぶりですね。シノはお変わりないようで、何よりです!」
彼女の名前はティエラ・ヴァイス。エルフ族にして魔法道具を扱う商人だ。
一応このクラド村に住所はあるのだが、職業柄ほとんど家にいないことが多い。その象徴として、自宅兼店舗は年中閉店の札がかかったままなので、寂れかけと復活を繰り返している有様である。
そして何よりも――――――
「急に王都に行くって言ってたから心配したんだよ! いつも後先考えないから……」
「ま、そこは謝っておきますよ。ですが商機だけは逃したくはないので!」
このようなやり取りからも感じ取れるように、ティエラはシノの昔からの友人であり、その付き合いはもうかれこれ五十年近くになるだろうか。
家の部屋がかなり余っているかつ一人暮らしなシノがシェアハウスを申し出たこともあったのだが、そもそもティエラが年中留守なため成り立たなかったことは記憶に新しい。
「まぁ、その分だと色々と成功はしたみたいだね」
「それは当然ですよ。王都の人は色々と羽振りが良くてですね――――――」
「あー……うん。そういう生々しい話はまたにしよっか」
「はっ。私としたことが、失礼しました。とりあえず、まずは家に帰りましょうか」
成功談を語り始めようとしたティエラを一旦落ち着かせると、実に二か月ぶりの帰宅となる彼女の家へと向かって二人は歩き始める。
ちなみに、友人にも関わらず常に敬語なのは彼女の癖のようなものらしく、実際にこういう人物がいるとは驚きだ。などと、知り合った当初はよく思ったものだ。これも異世界の醍醐味だろうか?
「閉店の札を裏返して、と……ただいま戻りました、我が自宅兼工房よ」
白い木材で作られた他の家より少し大きめの建物へやってくると、シノとティエラは中へ入る。
工房というだけあって、内部は様々な物が置かれた作業机や魔女っぽい釜などがある。彼女は商人ではあるが、自分で魔法道具の制作をしてたりもするのだ。
壁際の棚にはたくさんの商品が並べられているのが見えた。
「久々に入ったけど、相変わらずこの村に似合わない独特な雰囲気だよね」
「まぁ、小さな村の魔女工房なんて異色めいてますからね」
ティエラは鼻歌交じりに、荷物の片付けを行っている。
普通こういう店は冒険者が数多く行き交う街などにあるものなので、比較的規模の小さなクラド村にあるのはかなり珍しいといえるだろう。
なので商品のラインナップも、冒険者向きというよりは一般人向けの物が多い。行商で遠くまで足を延ばす時のみ、冒険者向きの強力な道具を持っていっている。
「どうですか? シノは先生なのですから、是非子ども達に魔法道具の授業を――――」
「やらないし、危ないから! もし怪我したらどうするのよ」
「むー……残念。ですが、遊んでる最中に魔物に襲われた時の護身にもなりますよ?」
なんだか以前もこんな話をした気がするなぁとシノは思い返す。
そもそも魔法関連の授業なら街の方の学校などでやっているはずだし、小さいうちから教えていてもそこまで役には立たないだろう。
扱いを間違えると事故になる可能性だってあるのだし。護身用に、というティエラの言葉には一理あるが、今はその必要も殆どない。
「いや、もう村に結界張っちゃったから魔物に関しては大丈夫だよ」
「いつの間にそんな魔法を覚えてたんですか……!?」
「私も日々、それなりに精進してるということだよ」
「さすが貴女は、私と一線を画す存在ですね」
実際のところは精進も何も、自分が作った設定をそのままやっただけなのだが、もし知られたら物凄く面倒なことになりそうなので、もちろん内緒にしておくことにしよう。
「そういえば、今度の売れ筋商品は何だったの?」
「よくぞ訊いてくれました。それはですね――――――」
何気なく話を振ってみると、待ってましたと言わんばかりの反応を返した。見た目は少女だがこういうところは商人気質だなぁと改めて思う。
ティエラが一旦奥の部屋へ引っ込むとガサゴソと音が聞こえ、すぐに戻ってくる。
「――――――これです。その名もフラッシュボトル!」
そう言った彼女の手には手のひらサイズのガラス玉のような物が握られていた。内部には白い光が明滅しており、見るからに魔法道具だということがわかる。
「すごく綺麗だねー。どんな効果があるの?」
「内側にフラッシュ――――――目くらましの魔法が内包されているので、護身用道具としては最適かと」
目くらましの魔法は初級レベルなので、学べば大概誰でも習得することはできる。だが、咄嗟に詠唱する暇がない場合もあるのでこれは有用な道具といえるだろう。元の世界で例えれば、使い方は閃光手榴弾に近いと思う。
「王都の近くともなれば、魔物もそれなりに強いですからね。これで隙を作った間にズバーン! とかやっちゃえるわけです」
ティエラは少し得意げに笑ってみせる。彼女は戦闘こそからっきしだが、物を作る才能に関してはかなりのものがある。
もし冒険者パーティに居ようものなら、後衛としてかなり貢献してくれそうだ。
「王都の道具屋に定期購入の契約も取り付けましたし、当分は懐も安泰ですよ!」
また生々しい話が出つつも、彼女はフラッシュボトルを頭上に掲げてまだ笑っている。それは別にいいのだが、その様子を見てシノは何かを思い出しかけていた。
確かにティエラは道具作りの才能がある。商人としてもやり手だ。だがしかし、他に何かあったような――――――――
「――――――あっ」
急に素に戻ったかのようなティエラの声を聞いてようやく何かを思い出したらしい。シノは即座に顔を腕で覆い、彼女に背を向ける形でしゃがみ込んだ。
見ると、先ほどまで頭上に掲げていた物が無くなっている。いや――――――落下し始めている。
持っていた本人であるティエラが気付いた時には既に遅い。
――――――パリンッ! パアァァァァァッ!!!
店の床に落ちて割れたフラッシュボトルは即座に凄まじい光を放ち、店内は一瞬にして物凄い明るさに包まれた。
シノは完全に背を向けているので何ともないのだが、
「あぁぁーーっ! 目が! 目があぁーーっ!!!」
内包されていた目くらましの光をもろに食らったティエラの悲鳴が店内に響く。両手で顔を覆って後ろに倒れた彼女は床をゴロゴロと転げまわっていた。
光が収まって正面に向き直ったシノは、そんな友人の様子を見て思いっきり苦笑する。
……そういえばティエラは、昔からよく変なところでドジを踏む子だったなと。
リューンベルから往復の定期船に乗ってクラド村に帰ってきたのは、まだ陽も沈みかけの時間帯。こうして思うと、陸路で行くのとは大違いの早さだ。
ならば毎回船を使えばいいのにと思われるかもしれないが、そもそも定期船の数が少ないので、たとえ急ぎの用でも陸路を使ったほうが結果的に手っ取り早い場合もある。
急がば回れという言葉もあるし、その時によりけりということだろう。
(もうちょっと定期船の本数も増えて欲しいんだけどなぁ……)
とはいえやっぱり陸路は大変なので、楽が出来るならばそっちに頼りたいものだ。今のシノなら転移魔法で行き来ぐらいできそうではあるが、もし見られたらただ事ではないからやりはしないけれども。
港から戻ってきたシノは徐々に夜の明かりが目立ち始めた村の中、すぐに森の訪れへと向かう。
「ただいまー!」
ドアを開けるなり帰還報告をしたシノは、顔なじみの冒険者達と挨拶を交わしつつ、空いているカウンター席へ座って一息つく。店内は今日も夜の賑わいを見せていた。
「おかえりなさい、シノさん! 都はどうでしたか?」
「久々に行ったけど、相変わらず活気とか色々桁違いだったよ。ローレルさん達も、村の皆によろしくだって」
「無事にお会い出来たんですね。それはよかったです!」
「それはもう。魔法を見せてあげたりしたんだけど、盗まれる勢いだった」
「ふふ、伊達に高名な方ではないですからね」
やはり彼はローザだけではなく、名実ともに誰もが認める人物なようだ。次にリューンベルを訪れた際には本当にシノの魔法が再現されているかもしれない。それはそれで彼女としては願ったりかなったりな結果なわけだが。
「あ、そうそう。これは頼まれておいたお土産ね」
お土産のことを思い出したシノは、鞄から大小さまざまな筒状の容器を取り出す。
その数は五つほどで、色とりどりの包装がなされていた。当然ながら全て香辛料だ。
「わぁ、こんなに沢山……! ありがとう御座います、シノさん!」
「いいのいいの。いつもお世話になってるお礼だから」
「これなら、新作料理にも挑戦できそうですね!」
都の市場でオススメされて買ったものだが、どうやら当たりだったようだ。初めて見る香辛料達を前に、ローザは瞳をキラキラさせている。
そして、反応を見せたのは喜んでいる彼女だけではない。ローザが新作料理というワードを口にした瞬間、周囲の席がガタッと音を立てる。
「新作料理だって!?」
「また楽しみが一つ増える……!」
「これで魔物退治もはかどるぜ!」
さすがはクラド村が誇る料理上手だ。あの一言で冒険者達をざわつかせてしまうとは。むしろ皆は、彼女の料理目当てでここに通っているのだろうか。
いやまぁ自分もその節が少しあるから人のことは言えないのだけれど。
「が、頑張って新作を作ります……!」
皆の期待の視線を受けて少し恥ずかしくなったのか顔を赤くしてしまったが、ここで引き下がるわけにはいかないといった感じで言ってみせる。
それに応えるように、続けて周囲から小さく歓声があがった。これは新作が完成したら暫くは忙しくなるなと、店内で接客をしていた従業員達が笑う。
こうしてまた少しだけ活気が足された村の一日は、いつも通りに過ぎていった。
◇
翌日の昼過ぎ、いつもの日課と教師仕事を終えたシノは村の中をのんびりと散歩中。
今日は冒険者向けに入ってきている依頼がないので、魔物討伐に出向く必要がない。村自体は一時間もあれば歩いて一周出来てしまうほどの広さだが、たまにはこういうのもいいものだ。
「んー……やっぱり村の環境が一番だなぁ……」
村をぐるりと一周し、門の近くまで戻ってきたシノは大きく伸びをした。その際に門番の男達と目が合い、彼らが笑い掛けながら手を振るのが見える。
散歩も終わったし、森の訪れにでも行こうかなと思って足を店の方角へと向けたが、
「おっ! おかえり、商売娘! 首尾は上々だったか?」
門番達が誰かに対して声をかけるのが聞こえ、シノが振り返った。
彼らの視線の先にいたのは、右目が隠れたセミロングの青髪に緑の瞳を持つエルフ族の少女。魔女と旅装束を二で割ったような服を着ており、背中には大きな鞄を背負っている。
気さくに話しかけられている様子からして、彼らとは親しい仲の様子だが……
「その呼び方はやめて頂きたいんですが……って、そこにいるのは――――」
「……ティエラ? ティエラじゃない! 久しぶり!」
どうやらシノとも親しい間柄の人物のようで、気付いた彼女へすぐさま駆け寄っていく。同じく駆け寄ってきた少女を受け止めると、そのままその場でぐるぐる回ってみせた。こんな様子のシノはかなり珍しいといえるだろう。
「正しくは約三か月ぶりですね。シノはお変わりないようで、何よりです!」
彼女の名前はティエラ・ヴァイス。エルフ族にして魔法道具を扱う商人だ。
一応このクラド村に住所はあるのだが、職業柄ほとんど家にいないことが多い。その象徴として、自宅兼店舗は年中閉店の札がかかったままなので、寂れかけと復活を繰り返している有様である。
そして何よりも――――――
「急に王都に行くって言ってたから心配したんだよ! いつも後先考えないから……」
「ま、そこは謝っておきますよ。ですが商機だけは逃したくはないので!」
このようなやり取りからも感じ取れるように、ティエラはシノの昔からの友人であり、その付き合いはもうかれこれ五十年近くになるだろうか。
家の部屋がかなり余っているかつ一人暮らしなシノがシェアハウスを申し出たこともあったのだが、そもそもティエラが年中留守なため成り立たなかったことは記憶に新しい。
「まぁ、その分だと色々と成功はしたみたいだね」
「それは当然ですよ。王都の人は色々と羽振りが良くてですね――――――」
「あー……うん。そういう生々しい話はまたにしよっか」
「はっ。私としたことが、失礼しました。とりあえず、まずは家に帰りましょうか」
成功談を語り始めようとしたティエラを一旦落ち着かせると、実に二か月ぶりの帰宅となる彼女の家へと向かって二人は歩き始める。
ちなみに、友人にも関わらず常に敬語なのは彼女の癖のようなものらしく、実際にこういう人物がいるとは驚きだ。などと、知り合った当初はよく思ったものだ。これも異世界の醍醐味だろうか?
「閉店の札を裏返して、と……ただいま戻りました、我が自宅兼工房よ」
白い木材で作られた他の家より少し大きめの建物へやってくると、シノとティエラは中へ入る。
工房というだけあって、内部は様々な物が置かれた作業机や魔女っぽい釜などがある。彼女は商人ではあるが、自分で魔法道具の制作をしてたりもするのだ。
壁際の棚にはたくさんの商品が並べられているのが見えた。
「久々に入ったけど、相変わらずこの村に似合わない独特な雰囲気だよね」
「まぁ、小さな村の魔女工房なんて異色めいてますからね」
ティエラは鼻歌交じりに、荷物の片付けを行っている。
普通こういう店は冒険者が数多く行き交う街などにあるものなので、比較的規模の小さなクラド村にあるのはかなり珍しいといえるだろう。
なので商品のラインナップも、冒険者向きというよりは一般人向けの物が多い。行商で遠くまで足を延ばす時のみ、冒険者向きの強力な道具を持っていっている。
「どうですか? シノは先生なのですから、是非子ども達に魔法道具の授業を――――」
「やらないし、危ないから! もし怪我したらどうするのよ」
「むー……残念。ですが、遊んでる最中に魔物に襲われた時の護身にもなりますよ?」
なんだか以前もこんな話をした気がするなぁとシノは思い返す。
そもそも魔法関連の授業なら街の方の学校などでやっているはずだし、小さいうちから教えていてもそこまで役には立たないだろう。
扱いを間違えると事故になる可能性だってあるのだし。護身用に、というティエラの言葉には一理あるが、今はその必要も殆どない。
「いや、もう村に結界張っちゃったから魔物に関しては大丈夫だよ」
「いつの間にそんな魔法を覚えてたんですか……!?」
「私も日々、それなりに精進してるということだよ」
「さすが貴女は、私と一線を画す存在ですね」
実際のところは精進も何も、自分が作った設定をそのままやっただけなのだが、もし知られたら物凄く面倒なことになりそうなので、もちろん内緒にしておくことにしよう。
「そういえば、今度の売れ筋商品は何だったの?」
「よくぞ訊いてくれました。それはですね――――――」
何気なく話を振ってみると、待ってましたと言わんばかりの反応を返した。見た目は少女だがこういうところは商人気質だなぁと改めて思う。
ティエラが一旦奥の部屋へ引っ込むとガサゴソと音が聞こえ、すぐに戻ってくる。
「――――――これです。その名もフラッシュボトル!」
そう言った彼女の手には手のひらサイズのガラス玉のような物が握られていた。内部には白い光が明滅しており、見るからに魔法道具だということがわかる。
「すごく綺麗だねー。どんな効果があるの?」
「内側にフラッシュ――――――目くらましの魔法が内包されているので、護身用道具としては最適かと」
目くらましの魔法は初級レベルなので、学べば大概誰でも習得することはできる。だが、咄嗟に詠唱する暇がない場合もあるのでこれは有用な道具といえるだろう。元の世界で例えれば、使い方は閃光手榴弾に近いと思う。
「王都の近くともなれば、魔物もそれなりに強いですからね。これで隙を作った間にズバーン! とかやっちゃえるわけです」
ティエラは少し得意げに笑ってみせる。彼女は戦闘こそからっきしだが、物を作る才能に関してはかなりのものがある。
もし冒険者パーティに居ようものなら、後衛としてかなり貢献してくれそうだ。
「王都の道具屋に定期購入の契約も取り付けましたし、当分は懐も安泰ですよ!」
また生々しい話が出つつも、彼女はフラッシュボトルを頭上に掲げてまだ笑っている。それは別にいいのだが、その様子を見てシノは何かを思い出しかけていた。
確かにティエラは道具作りの才能がある。商人としてもやり手だ。だがしかし、他に何かあったような――――――――
「――――――あっ」
急に素に戻ったかのようなティエラの声を聞いてようやく何かを思い出したらしい。シノは即座に顔を腕で覆い、彼女に背を向ける形でしゃがみ込んだ。
見ると、先ほどまで頭上に掲げていた物が無くなっている。いや――――――落下し始めている。
持っていた本人であるティエラが気付いた時には既に遅い。
――――――パリンッ! パアァァァァァッ!!!
店の床に落ちて割れたフラッシュボトルは即座に凄まじい光を放ち、店内は一瞬にして物凄い明るさに包まれた。
シノは完全に背を向けているので何ともないのだが、
「あぁぁーーっ! 目が! 目があぁーーっ!!!」
内包されていた目くらましの光をもろに食らったティエラの悲鳴が店内に響く。両手で顔を覆って後ろに倒れた彼女は床をゴロゴロと転げまわっていた。
光が収まって正面に向き直ったシノは、そんな友人の様子を見て思いっきり苦笑する。
……そういえばティエラは、昔からよく変なところでドジを踏む子だったなと。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる