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第一部
26:彼女の初仕事
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精霊リエルがシノ宅に来てから翌日の朝。
シノはいつも通り夜明け前に起きると、日課の村周囲散歩という名の魔物討伐へ出向いていた。昨日は知らぬ間のテンション上昇で魔法を派手に放ってしまっていたので、今日は控えめに。
「おはようシノさん。昨日の子とは、仲良くやれているかい?」
「おはよう御座います。もちろん上手くやれていますよ」
「精霊さんだって聞いた時は驚いたけれど、世の中色々あるもんだねぇ」
「この世界は、まだまだ知らないことだらけですからねー」
この世界の設定を作った本人ゆえに大概のことは知っているような気もするが、それはさておき。まだ一日目ではあるけれど、リエルのことは村の皆も快く受け入れてくれているようだ。
精霊ということも手伝ってか、来訪祭みたいなのがいずれ開かれるのだろうか?
ただでさえ神聖な種族なのだから、どういう扱いになるのか気になるところではある。
(そろそろリエルも起きてるころかな)
もう陽が昇り始めているので、シノは一旦家に戻っておくことにした。昨夜のやり取りのように、これからは朝の挨拶が出来る相手が出来たのだからなお更だ。
それこそこれは漫画やゲームでありがちな、友人を朝起こしにいくという展開と似ている気もする。
もしまだ起きてなかったら寝顔を見てやるぞ! などと思いつつ家へと足早に戻ってきたシノであったが、窓から明かりが見えたのでどうやらもう起きていたようだ。
「ただいまー」
そして、今まではなんとなく家の中へ向けて言っていたこの言葉も、今となっては意味のあるものとなった。
「おかえりなさいシノさん。それと、おはよう御座います!」
「おはよーリエル。ん、何やら良い匂いが……」
寝間着姿にエプロンという何とも珍妙な組み合わせで出迎えたリエル。それに、台所から漂う良い匂いということはもしかして――――――
「朝ご飯の用意をしておきました!」
なんと人間――――――否。精霊が良く出来た子なのだろうか! 昨日の気遣いといい、リエルは基本的に物凄く良い子なのかもしれない。
修行に付き合ってあげる必要があるから暇な時間は減るかと思っていたけれど、これだと逆に手が空く時間が増えそうだ。
「ありがとう、ほんとに助かるよー!」
「ふふ、どう致しまして。同居人としては当然の行いですから」
このおかげでシノは何一つ時間を気にすることなく、この後の予定の準備を行うことが出来た。
が、頼りっぱなしもさすがにどうかと思ったので当番制か何かを決めておいたほうがいいかもしれない。自分が何もしなくなってしまったら今後何かと困る場面が出てきそうではあるし。
「そろそろ学校に行こうと思うんだけど、リエルも一緒に来てみる?」
「は、はい! 人間の子達がどのように学んでいるのか興味があるので」
「学ばせ方は、殆ど私が決めちゃってるようなものだけどねー」
朝食を済ませた二人は準備を終えると家を出る。ちなみにリエルは昨日の服のままだ。
ボタンが幾つも付いたシャツに、燕尾状の黒っぽいローブ姿。昨日初めて見た時はそこまで何も思わなかったが、こうして改めて見てみるとちょっとだけ目立つような気がする。
行き交う村人達と挨拶を交わしながら、二人は学校の建物を目指して歩いていた。
学校へたどり着くと既に子ども達が待っており、シノの姿を見るとすぐさま席へと着く。
「みんな、おはよう!」
「おはようございまーす!」
さすがに教室内に入るわけにはいかないと思ったのか、リエルは外からそっとその様子を見ていた。
子ども達から元気な挨拶が返ってきたのを確認して笑顔で何度も頷いたシノだったが、
「みんな、昨日した話は覚えてるかな?」
「はーい! 精霊についてのお話だったよね?」
「そうそう。それでね、その精霊なんだけど――――――」
昨日の授業で話していたことの続きをやるつもりなのか、子ども達に話を振る。
そして辺りを見回すと、入り口のドアからこちらを見ているリエルと目が合った。それを見て意味ありげに笑ってみせた彼女は、続けてこう言ってみせる。
「――――――なんと今日は、その精霊さんが実際に来ていますっ!」
その言葉に子ども達から驚きと小さな騒めきが生じたが、一番驚いているのはまさにその精霊であるリエル本人であった。
急に呼ばれるとは予想もしていなかったのか、入り口の方から裏返ったような驚きの声が聞こえる。目を丸くして慌ててしまうリエルに対してシノは何の悪気もない笑顔と共に手招きをしていた。
それを見て観念した彼女は、少し恥ずかしそうにしながらも教室内へと入ってくる。
「えっ、このお姉ちゃんが精霊さんなの……!?」
「金色のお目々がすごく綺麗ー!」
リエルの姿を見た子ども達は、更なる驚きと共に感嘆の声を漏らしていた。
ちょっとだけざわざわし始めた子ども達を落ち着かせた後、シノが改めて紹介する。
「彼女の名前はリエル。人の姿をしているけど、精霊さんです!」
「は、初めまして! リエルといいます。みんな、よろしくお願いしますっ」
「よろしくお願いしまーす!!!」
もちろん子ども達は誰一人として怖がったりなどといった反応は見せず、元気のよい返事をした。それを見て安心したのか、リエルはほっと胸を撫で下ろす。
リエルを教室に迎えたことによって、今日の授業は二人で進めることとなった。冒険者であるシノはもちろん色々と詳しいが、本場の精霊である彼女のほうが経験と知識は段違いだ。
村の子ども達の中には将来、冒険者を目指している子もちらほらいたりする。北の大森林の話が出た途端に、数名の男の子が興味津々に身を乗り出して聞き始めたほどだ。
「それじゃあ、今日の授業はここまで!」
「ありがとうございましたー!!!」
そしてあっという間に授業は終わり、子ども達が続々と帰り始める。隣で一緒に見送っているリエルを見ると、なんだかやり切ったような表情をしていた。
「思い付きだったけど、上手くいったみたいでよかったね!」
「急に振られた時はさすがにドキッとしましたけど……」
「あはは、ごめんごめん! せっかくの機会だったから、ね?」
「でもまぁ……良い経験にはなったと思います。これも修行の一環かもしれませんね」
そう言って彼女は苦笑する。子ども達と仲良くなることもできたし、これで皆との距離も縮まったのではないだろうか。
ともあれこれでシノの日課は終わったので、あとはリエルに付き合ってあげるだけだ。
顔を見合わせて頷いた二人は、森の訪れに向かうことにした。
◇
店に来た二人は少し早めの昼食をとることにした。昨日と変わらず、リエルはローザの料理に感動していたようだ。
日課である魔物の討伐報告も終えてちょっと一息。シノは席についてお茶を飲んでいる。
向こうではローザとリエルが何やら話しているようだが、邪魔しても悪いので先ほどから待っている形だ。そのまま十分ほど経った後、リエルがこちらへと戻ってくる。
「シノさん、討伐依頼があるんですけど……同行してもらえますか?」
「うん、もちろん。どんな内容なの?」
彼女に促されてカウンターの方へ戻ると、ローザが説明を始めた。
「山岳地帯にまたワイバーン種の魔物が多く見られるようになっていて、駆け出しの冒険者の方が手を焼いているとの報告が挙がっていまして……」
「ワイバーン種か……魔物としては中級クラスだからそりゃあね」
「空を飛んでいますし、接近戦も難しいと思います」
山岳地帯の場所はクラド村とジェネスの中間辺りで、先日の討伐に行った森林とは反対の位置だ。それなりに強い魔物が根城を構えていたりするので、冒険者以外はまず近寄らない。
とはいえ、距離としてはそこまで遠くはない。歩いても一時間ちょっとぐらいなので、夕方までには帰ってこれるだろう。
「その依頼、引き受けた! リエルのお手並みも拝見といったところかな」
「そうですね。私の力も知って頂きたいですし、頑張ります!」
「それではお二人共、よろしくお願いしますね」
依頼の受注を確認すると、ローザは笑顔でぺこりとお辞儀をしてみせた。それに対して揃って頷き返した二人は踵を返そうとする。が、その際に――――――――
「それじゃあ行ってくるね。……私の可愛い妹っ」
「シノさん? 妹って一体どういう――――――」
「リ、リエルさんは知らなくていいですからっ! いいですから!!!」
――――――――ちょっとだけローザをからかったりして、シノは悪戯っぽく笑いながら店を出て行った。
この感じだと、これから先もちょくちょく弄られそうだなぁとローザは苦笑を浮かべる。シノのことだし仕方ないと思う反面、本当に嫌がることを彼女はしないのでそこだけは安心といったところか。
そうして昼も少し過ぎた頃、二人の冒険者は山岳地帯へと魔物討伐へ向かっていくのであった。
シノはいつも通り夜明け前に起きると、日課の村周囲散歩という名の魔物討伐へ出向いていた。昨日は知らぬ間のテンション上昇で魔法を派手に放ってしまっていたので、今日は控えめに。
「おはようシノさん。昨日の子とは、仲良くやれているかい?」
「おはよう御座います。もちろん上手くやれていますよ」
「精霊さんだって聞いた時は驚いたけれど、世の中色々あるもんだねぇ」
「この世界は、まだまだ知らないことだらけですからねー」
この世界の設定を作った本人ゆえに大概のことは知っているような気もするが、それはさておき。まだ一日目ではあるけれど、リエルのことは村の皆も快く受け入れてくれているようだ。
精霊ということも手伝ってか、来訪祭みたいなのがいずれ開かれるのだろうか?
ただでさえ神聖な種族なのだから、どういう扱いになるのか気になるところではある。
(そろそろリエルも起きてるころかな)
もう陽が昇り始めているので、シノは一旦家に戻っておくことにした。昨夜のやり取りのように、これからは朝の挨拶が出来る相手が出来たのだからなお更だ。
それこそこれは漫画やゲームでありがちな、友人を朝起こしにいくという展開と似ている気もする。
もしまだ起きてなかったら寝顔を見てやるぞ! などと思いつつ家へと足早に戻ってきたシノであったが、窓から明かりが見えたのでどうやらもう起きていたようだ。
「ただいまー」
そして、今まではなんとなく家の中へ向けて言っていたこの言葉も、今となっては意味のあるものとなった。
「おかえりなさいシノさん。それと、おはよう御座います!」
「おはよーリエル。ん、何やら良い匂いが……」
寝間着姿にエプロンという何とも珍妙な組み合わせで出迎えたリエル。それに、台所から漂う良い匂いということはもしかして――――――
「朝ご飯の用意をしておきました!」
なんと人間――――――否。精霊が良く出来た子なのだろうか! 昨日の気遣いといい、リエルは基本的に物凄く良い子なのかもしれない。
修行に付き合ってあげる必要があるから暇な時間は減るかと思っていたけれど、これだと逆に手が空く時間が増えそうだ。
「ありがとう、ほんとに助かるよー!」
「ふふ、どう致しまして。同居人としては当然の行いですから」
このおかげでシノは何一つ時間を気にすることなく、この後の予定の準備を行うことが出来た。
が、頼りっぱなしもさすがにどうかと思ったので当番制か何かを決めておいたほうがいいかもしれない。自分が何もしなくなってしまったら今後何かと困る場面が出てきそうではあるし。
「そろそろ学校に行こうと思うんだけど、リエルも一緒に来てみる?」
「は、はい! 人間の子達がどのように学んでいるのか興味があるので」
「学ばせ方は、殆ど私が決めちゃってるようなものだけどねー」
朝食を済ませた二人は準備を終えると家を出る。ちなみにリエルは昨日の服のままだ。
ボタンが幾つも付いたシャツに、燕尾状の黒っぽいローブ姿。昨日初めて見た時はそこまで何も思わなかったが、こうして改めて見てみるとちょっとだけ目立つような気がする。
行き交う村人達と挨拶を交わしながら、二人は学校の建物を目指して歩いていた。
学校へたどり着くと既に子ども達が待っており、シノの姿を見るとすぐさま席へと着く。
「みんな、おはよう!」
「おはようございまーす!」
さすがに教室内に入るわけにはいかないと思ったのか、リエルは外からそっとその様子を見ていた。
子ども達から元気な挨拶が返ってきたのを確認して笑顔で何度も頷いたシノだったが、
「みんな、昨日した話は覚えてるかな?」
「はーい! 精霊についてのお話だったよね?」
「そうそう。それでね、その精霊なんだけど――――――」
昨日の授業で話していたことの続きをやるつもりなのか、子ども達に話を振る。
そして辺りを見回すと、入り口のドアからこちらを見ているリエルと目が合った。それを見て意味ありげに笑ってみせた彼女は、続けてこう言ってみせる。
「――――――なんと今日は、その精霊さんが実際に来ていますっ!」
その言葉に子ども達から驚きと小さな騒めきが生じたが、一番驚いているのはまさにその精霊であるリエル本人であった。
急に呼ばれるとは予想もしていなかったのか、入り口の方から裏返ったような驚きの声が聞こえる。目を丸くして慌ててしまうリエルに対してシノは何の悪気もない笑顔と共に手招きをしていた。
それを見て観念した彼女は、少し恥ずかしそうにしながらも教室内へと入ってくる。
「えっ、このお姉ちゃんが精霊さんなの……!?」
「金色のお目々がすごく綺麗ー!」
リエルの姿を見た子ども達は、更なる驚きと共に感嘆の声を漏らしていた。
ちょっとだけざわざわし始めた子ども達を落ち着かせた後、シノが改めて紹介する。
「彼女の名前はリエル。人の姿をしているけど、精霊さんです!」
「は、初めまして! リエルといいます。みんな、よろしくお願いしますっ」
「よろしくお願いしまーす!!!」
もちろん子ども達は誰一人として怖がったりなどといった反応は見せず、元気のよい返事をした。それを見て安心したのか、リエルはほっと胸を撫で下ろす。
リエルを教室に迎えたことによって、今日の授業は二人で進めることとなった。冒険者であるシノはもちろん色々と詳しいが、本場の精霊である彼女のほうが経験と知識は段違いだ。
村の子ども達の中には将来、冒険者を目指している子もちらほらいたりする。北の大森林の話が出た途端に、数名の男の子が興味津々に身を乗り出して聞き始めたほどだ。
「それじゃあ、今日の授業はここまで!」
「ありがとうございましたー!!!」
そしてあっという間に授業は終わり、子ども達が続々と帰り始める。隣で一緒に見送っているリエルを見ると、なんだかやり切ったような表情をしていた。
「思い付きだったけど、上手くいったみたいでよかったね!」
「急に振られた時はさすがにドキッとしましたけど……」
「あはは、ごめんごめん! せっかくの機会だったから、ね?」
「でもまぁ……良い経験にはなったと思います。これも修行の一環かもしれませんね」
そう言って彼女は苦笑する。子ども達と仲良くなることもできたし、これで皆との距離も縮まったのではないだろうか。
ともあれこれでシノの日課は終わったので、あとはリエルに付き合ってあげるだけだ。
顔を見合わせて頷いた二人は、森の訪れに向かうことにした。
◇
店に来た二人は少し早めの昼食をとることにした。昨日と変わらず、リエルはローザの料理に感動していたようだ。
日課である魔物の討伐報告も終えてちょっと一息。シノは席についてお茶を飲んでいる。
向こうではローザとリエルが何やら話しているようだが、邪魔しても悪いので先ほどから待っている形だ。そのまま十分ほど経った後、リエルがこちらへと戻ってくる。
「シノさん、討伐依頼があるんですけど……同行してもらえますか?」
「うん、もちろん。どんな内容なの?」
彼女に促されてカウンターの方へ戻ると、ローザが説明を始めた。
「山岳地帯にまたワイバーン種の魔物が多く見られるようになっていて、駆け出しの冒険者の方が手を焼いているとの報告が挙がっていまして……」
「ワイバーン種か……魔物としては中級クラスだからそりゃあね」
「空を飛んでいますし、接近戦も難しいと思います」
山岳地帯の場所はクラド村とジェネスの中間辺りで、先日の討伐に行った森林とは反対の位置だ。それなりに強い魔物が根城を構えていたりするので、冒険者以外はまず近寄らない。
とはいえ、距離としてはそこまで遠くはない。歩いても一時間ちょっとぐらいなので、夕方までには帰ってこれるだろう。
「その依頼、引き受けた! リエルのお手並みも拝見といったところかな」
「そうですね。私の力も知って頂きたいですし、頑張ります!」
「それではお二人共、よろしくお願いしますね」
依頼の受注を確認すると、ローザは笑顔でぺこりとお辞儀をしてみせた。それに対して揃って頷き返した二人は踵を返そうとする。が、その際に――――――――
「それじゃあ行ってくるね。……私の可愛い妹っ」
「シノさん? 妹って一体どういう――――――」
「リ、リエルさんは知らなくていいですからっ! いいですから!!!」
――――――――ちょっとだけローザをからかったりして、シノは悪戯っぽく笑いながら店を出て行った。
この感じだと、これから先もちょくちょく弄られそうだなぁとローザは苦笑を浮かべる。シノのことだし仕方ないと思う反面、本当に嫌がることを彼女はしないのでそこだけは安心といったところか。
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