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第一部
33:リューンベル逆転裁判
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ラウス・ノワルドの執務室から決定的な証拠を入手することが出来たシノ達は、急ぎ足で裁判所を目指していた。
役所を出てから少し後、リューンベルの街中に正午を告げる鐘の音が大きく響き渡り、それに応じるように二人の焦りが増す。それでも全速力で走ったのが幸いしたのか、鐘が聞こえてからそれほど時間はかからずに裁判所へとたどり着くことができた。
「……ふぅ、何とか間に合ったって感じだね……」
「そ……そう、ですね……はぁ……はぁ……」
「リエル、大丈夫……?」
シノはこの長年で培った体力に自信があるため多少走ってもどうということはないのだが、リエルはそうもいかなかったようだ。かなり息があがってしまっており、心なしか記憶陣を使った時よりも疲れているように見えた。
うっかり倒れてしまわないようにシノが肩を貸そうとするが、
「は、はい……それよりも、急ぎましょう……!」
それをやんわりと断ってみせた後、裁判所の入り口へ向かって先陣を切って歩き出す。そんな彼女を見たシノは「やれやれ」と苦笑を浮かべたものの、その後について建物内へと入った。
覚悟を決めた二人を迎え入れるかのように裁判所の周囲は、街の喧騒とは裏腹に静まり返っているように感じる。
それはまさに、この先に待っているのは決戦の場ということを暗に示しているかのようであった。
◇
一方、シノ達が到着する少し前のリューンベル裁判所法廷内。
彼女達以外の全ての役者がそろっている場内は、厳粛な雰囲気に包まれていた。
中央には告訴されたローレル本人が立っており、後方の傍聴席ではファルマや病院の授業員達が心配そうに見守っている。
そして、弁護人と反対側にいる人物こそが今回の原告であり検察の役も務める男。悪名高いと噂されている役人のトップ、ラウス・ノワルドである。
赤を基調として金色の装飾がされたやたらと派手なスーツを着ており、短く切り揃えた金髪に口髭を生やしたその風貌はまさに「偉そう」という言葉が似合うだろう。彼はやや強面の表情で、先ほどからじろりと法廷内を見渡している。
「それでは、これより裁判を執り行う。被告人は前へ」
やがて裁判が始まると、ローレルは一歩前へと出た。その表情は緊張と不安が入り混じっていた。罪状の読み上げ等が行われている間も、じっとしたまま動こうとはしていない。変に抵抗すると立場が悪くなりかねないからだろう。
「――――以上が此度の起訴内容となる。被告人ローレル・グラッドよ、何か意見はあるか?」
「私が今までとは異なる方向性で医療魔法の研究を行ったことに間違いはありません。しかし……」
「しかし……何だね?」
「そもそも研究とは新しきを開拓するためのものです。それを見てくれのみで危険などと言われてしまうのは、こちらとしても同意しかねます」
「つまり、貴殿が行っている研究は確実に安全といえるものであり、不審性も危険性もないと――――」
発言を許されたローレルは研究を行っていることは事実として認めたものの、それが不振だ危険だなどと言われてしまうのは納得できないと反論した。
それに対して裁判長も概ね同意といえる表情を浮かべていたが、
「――――――今更そのようなことを言うか! 貴殿の誤った裁量で進められた後に事故でも起こってみろ。取り返しが付かんことにでもなったらどうする!」
裁判長の言葉に割り込むように、すかさずラウスが怒声をあげる。
まるで自分がローレルの立場ならばどんなことでも見定められるとでも言いたげな感じだ。自分が過ちを犯す可能性など微塵も考えていない傲慢っぷりを見て、傍聴席にいたファルマがラウスを睨みつけていたが、当の本人は気付いてすらいない様子。
「静粛に! それでは、弁護人の意見を聞こう」
検察側である彼の一言によってざわついた場内を鎮めた裁判長は弁護人に意見を促す。
すると弁護側に座っていた短髪黒髪の男性が立ち上がり、弁護を始めた。
「調べによると、ローレル氏が研究に着手するきっかけとなったのは、ある来訪者に起因するとのことです。その人物から技術継承のようなものを受けて、此度の研究に至ったとか」
「ふむ……して、その人物は信用に足りえるのか?」
「はい。ここから南地方のクラドという村にて百年以上居を構えているエルフだと聞いておりますので、信用は十分だと思われます」
「ならばその人物をここに呼んでみせるがいい! 見せてもらったほうが手っ取り早いではないか!」
「それが出来れば苦労はせぬだろう、ノワルド殿よ。そもそも早期に法廷を開く要請をしたのは貴殿ではないか」
普通ではありえないほどの早さで裁判までもっていったというのに、疑いを晴らしたければ遠くに住んでいる証人を連れてこいときた。
これほどまでに無理難題を吹っ掛けてくるとは、彼がいかに普段からいい加減なことをしているかが伺える。金で地位を築いたというのもまんざら大袈裟な表現ではないのだろう。
「正規の手続きを取ったかと思えば、蓋を開けてみれば得体の知れぬ研究……。それをいち早く中止させずとしてなんとするのだ!」
相変わらず大声でまくしたてるラウスを見て、裁判長は大きな溜め息をついた。恐らく今までも似たようなやり取りを見てきたのだろう。
この光景を傍から見ると明らかにラウスが悪者にしか見えないが、皆飽き飽きしているようにも見える。
「全くですよ。まるで早く裁判を終わらせないと困ることでもあるかのようですね」
そんな中、弁護人の男性はそう言って向かいに座っているラウスをちらっと見た。
「貴様……まさか、この私が何か仕組んだとでも言いたいのか!!!」
「誰もそんな事は言っていませんよ。ただ単に気になっただけです」
「罪人候補の肩を持っている弁護人の分際で、何を言っても戯言にしかならぬぞ!」
逆に自分が疑われていることに怒ったラウスはまたしても声を張り上げる。
だが、現時点で証拠がないのは事実だ。これではただの言葉遊びにしかならないだろう。
「無論、私とて言葉一つでこの場を開かせたわけではない。ここに、貴様の怪しげな研究風景を収めた写真だってあるのだぞ!」
すると、ラウスはポケットから一枚の写真を取り出してみせた。ちなみにこの世界における写真はかなり貴重なもので、カラーともなればより高価となる。
その写真には、病院の一室で魔法研究をしていると思われるローレルの姿が写っていた。
「虹色の光……。なるほど、確かにそれが医療魔法と言われると素直に頷けないのもわかるが……」
「その通り! 治癒効果のある魔法というのは緑の光を放つのが当たり前でしょう」
裁判長は唸りつつその写真に目をやっており、それを逃すまいと全面的に同意を重ねるラウス。だが、これはある意味盗撮と言われても仕方がないようにも思えるのだが、恐らくそんな反論をしたところで無駄なのだろう。
「技術提供をしたというその者にしたって、本当に治癒魔法を教えたというのか? 共謀しているという線も捨てきれんぞ」
続けて彼の口から出てきたのは、まるでシノまでも悪者かのような発言。それを聞いた傍聴席のファルマは目に見えて怒っているが、拳を握りながらもなんとか抑えていた。
ただ、こうなってしまうと口頭だけで不審を拭うことはできないのは確かだ。彼が写真を提示したように、こちらも物的証拠で対抗しなければならないのだから。
なんとか食い下がろうとしていた弁護人の男性も苦い表情のまま若干頭を抱えている。逆にラウスは勝ち誇ったような表情だ。
このままではローレルの有罪ということで押し切られてしまうのではないかと思われたその時、
――――――――バアァァンッ!!!
法廷中央にある大きな扉が勢いよく開き、全員の視線がそちらに注目した。
開いた扉の先に立っていたのは、紅い髪に銀色の瞳を持つ一人の女性。
「この裁判に――――――異義を申し立てます!!!」
医学者ローレル・グラッドの疑いを晴らすためにやってきた、シノの姿であった。
役所を出てから少し後、リューンベルの街中に正午を告げる鐘の音が大きく響き渡り、それに応じるように二人の焦りが増す。それでも全速力で走ったのが幸いしたのか、鐘が聞こえてからそれほど時間はかからずに裁判所へとたどり着くことができた。
「……ふぅ、何とか間に合ったって感じだね……」
「そ……そう、ですね……はぁ……はぁ……」
「リエル、大丈夫……?」
シノはこの長年で培った体力に自信があるため多少走ってもどうということはないのだが、リエルはそうもいかなかったようだ。かなり息があがってしまっており、心なしか記憶陣を使った時よりも疲れているように見えた。
うっかり倒れてしまわないようにシノが肩を貸そうとするが、
「は、はい……それよりも、急ぎましょう……!」
それをやんわりと断ってみせた後、裁判所の入り口へ向かって先陣を切って歩き出す。そんな彼女を見たシノは「やれやれ」と苦笑を浮かべたものの、その後について建物内へと入った。
覚悟を決めた二人を迎え入れるかのように裁判所の周囲は、街の喧騒とは裏腹に静まり返っているように感じる。
それはまさに、この先に待っているのは決戦の場ということを暗に示しているかのようであった。
◇
一方、シノ達が到着する少し前のリューンベル裁判所法廷内。
彼女達以外の全ての役者がそろっている場内は、厳粛な雰囲気に包まれていた。
中央には告訴されたローレル本人が立っており、後方の傍聴席ではファルマや病院の授業員達が心配そうに見守っている。
そして、弁護人と反対側にいる人物こそが今回の原告であり検察の役も務める男。悪名高いと噂されている役人のトップ、ラウス・ノワルドである。
赤を基調として金色の装飾がされたやたらと派手なスーツを着ており、短く切り揃えた金髪に口髭を生やしたその風貌はまさに「偉そう」という言葉が似合うだろう。彼はやや強面の表情で、先ほどからじろりと法廷内を見渡している。
「それでは、これより裁判を執り行う。被告人は前へ」
やがて裁判が始まると、ローレルは一歩前へと出た。その表情は緊張と不安が入り混じっていた。罪状の読み上げ等が行われている間も、じっとしたまま動こうとはしていない。変に抵抗すると立場が悪くなりかねないからだろう。
「――――以上が此度の起訴内容となる。被告人ローレル・グラッドよ、何か意見はあるか?」
「私が今までとは異なる方向性で医療魔法の研究を行ったことに間違いはありません。しかし……」
「しかし……何だね?」
「そもそも研究とは新しきを開拓するためのものです。それを見てくれのみで危険などと言われてしまうのは、こちらとしても同意しかねます」
「つまり、貴殿が行っている研究は確実に安全といえるものであり、不審性も危険性もないと――――」
発言を許されたローレルは研究を行っていることは事実として認めたものの、それが不振だ危険だなどと言われてしまうのは納得できないと反論した。
それに対して裁判長も概ね同意といえる表情を浮かべていたが、
「――――――今更そのようなことを言うか! 貴殿の誤った裁量で進められた後に事故でも起こってみろ。取り返しが付かんことにでもなったらどうする!」
裁判長の言葉に割り込むように、すかさずラウスが怒声をあげる。
まるで自分がローレルの立場ならばどんなことでも見定められるとでも言いたげな感じだ。自分が過ちを犯す可能性など微塵も考えていない傲慢っぷりを見て、傍聴席にいたファルマがラウスを睨みつけていたが、当の本人は気付いてすらいない様子。
「静粛に! それでは、弁護人の意見を聞こう」
検察側である彼の一言によってざわついた場内を鎮めた裁判長は弁護人に意見を促す。
すると弁護側に座っていた短髪黒髪の男性が立ち上がり、弁護を始めた。
「調べによると、ローレル氏が研究に着手するきっかけとなったのは、ある来訪者に起因するとのことです。その人物から技術継承のようなものを受けて、此度の研究に至ったとか」
「ふむ……して、その人物は信用に足りえるのか?」
「はい。ここから南地方のクラドという村にて百年以上居を構えているエルフだと聞いておりますので、信用は十分だと思われます」
「ならばその人物をここに呼んでみせるがいい! 見せてもらったほうが手っ取り早いではないか!」
「それが出来れば苦労はせぬだろう、ノワルド殿よ。そもそも早期に法廷を開く要請をしたのは貴殿ではないか」
普通ではありえないほどの早さで裁判までもっていったというのに、疑いを晴らしたければ遠くに住んでいる証人を連れてこいときた。
これほどまでに無理難題を吹っ掛けてくるとは、彼がいかに普段からいい加減なことをしているかが伺える。金で地位を築いたというのもまんざら大袈裟な表現ではないのだろう。
「正規の手続きを取ったかと思えば、蓋を開けてみれば得体の知れぬ研究……。それをいち早く中止させずとしてなんとするのだ!」
相変わらず大声でまくしたてるラウスを見て、裁判長は大きな溜め息をついた。恐らく今までも似たようなやり取りを見てきたのだろう。
この光景を傍から見ると明らかにラウスが悪者にしか見えないが、皆飽き飽きしているようにも見える。
「全くですよ。まるで早く裁判を終わらせないと困ることでもあるかのようですね」
そんな中、弁護人の男性はそう言って向かいに座っているラウスをちらっと見た。
「貴様……まさか、この私が何か仕組んだとでも言いたいのか!!!」
「誰もそんな事は言っていませんよ。ただ単に気になっただけです」
「罪人候補の肩を持っている弁護人の分際で、何を言っても戯言にしかならぬぞ!」
逆に自分が疑われていることに怒ったラウスはまたしても声を張り上げる。
だが、現時点で証拠がないのは事実だ。これではただの言葉遊びにしかならないだろう。
「無論、私とて言葉一つでこの場を開かせたわけではない。ここに、貴様の怪しげな研究風景を収めた写真だってあるのだぞ!」
すると、ラウスはポケットから一枚の写真を取り出してみせた。ちなみにこの世界における写真はかなり貴重なもので、カラーともなればより高価となる。
その写真には、病院の一室で魔法研究をしていると思われるローレルの姿が写っていた。
「虹色の光……。なるほど、確かにそれが医療魔法と言われると素直に頷けないのもわかるが……」
「その通り! 治癒効果のある魔法というのは緑の光を放つのが当たり前でしょう」
裁判長は唸りつつその写真に目をやっており、それを逃すまいと全面的に同意を重ねるラウス。だが、これはある意味盗撮と言われても仕方がないようにも思えるのだが、恐らくそんな反論をしたところで無駄なのだろう。
「技術提供をしたというその者にしたって、本当に治癒魔法を教えたというのか? 共謀しているという線も捨てきれんぞ」
続けて彼の口から出てきたのは、まるでシノまでも悪者かのような発言。それを聞いた傍聴席のファルマは目に見えて怒っているが、拳を握りながらもなんとか抑えていた。
ただ、こうなってしまうと口頭だけで不審を拭うことはできないのは確かだ。彼が写真を提示したように、こちらも物的証拠で対抗しなければならないのだから。
なんとか食い下がろうとしていた弁護人の男性も苦い表情のまま若干頭を抱えている。逆にラウスは勝ち誇ったような表情だ。
このままではローレルの有罪ということで押し切られてしまうのではないかと思われたその時、
――――――――バアァァンッ!!!
法廷中央にある大きな扉が勢いよく開き、全員の視線がそちらに注目した。
開いた扉の先に立っていたのは、紅い髪に銀色の瞳を持つ一人の女性。
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