ワールドマテリアルズ~転生先は、自分が原作者の異世界でした。

依槻

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第一部

35:医学者の成果

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 まさに証拠返しともいえる運びで見事にローレルの疑いを晴らす事に成功したシノ達。私怨じみた訴えから始まった裁判は、勝利という形で無事に幕を下ろした。
 裁判所を後にして病院へ戻った一同は、そこで改めて従業員達からの祝福を受ける。

「お帰りなさい先生! きっと勝てると信じていましたよ!」

「疑いが晴れて、本当によかったです!」

 いつもは静かな院内が少しだけ騒がしくなり、当のローレルは若干照れ臭そうだ。これで彼はいつも通りの日常へ戻ることができるだろう。
 今更になってこの空気を実感しているのか、ファルマも心底安心したような表情を見せている。


「……シノさん、リエルさん。改めてお礼を言わせて頂きます。この度は本当に助かりました。ありがとう御座います」


 応接室で二人を真正面から見据えたローレルとファルマは深々と頭を下げて感謝を述べた。

「裁判までの日数を聞いた時は焦りましたけど……無事に終わって良かったです」

「ホントですよ! ああいう人は、一度痛い目を見ればいいんですっ」

 リエルはおそらくラウス達のことを言っているのだろう。誰から見ても彼のやり方は強引そのものであったし、これを機に少しでも更生すればいいのだが。
 そんな話をしていると、ローレルが思い出したかのように話し出す。


「例の手紙をやり取りしていた二人なのですが……実は昔、私と共に学んでいた同期なんですよ」


 助手であるファルマは知っていたようだが、シノとリエルはそう聞いた途端驚きを隠せなかった。

「ローレルさんと同級生……!?」

「ええ。私は医療の道を進むことに決めていたので勉学の日々を送っていましたが、ライバル心を燃やした彼ら――――――特に、ラウスは私を追い越そうとあらゆる手を尽くしていたそうです」

「それでも結局、ローレルさんに及ぶことがなかった、と……」

「彼はリューンベルでも名のある家柄出身ですからね。昔から一番に拘る性格でしたから……。リヒターも何かと私と競いたがって、衝突してしまったことが何度かあります」

「結果的に実力では敵わず、挫折を経験したんですね……」

 全てを持っているエリートほど、いざ挫折した時は脆いとはよく聞く。それでラウスはローレルに対抗することを諦め、役人の道へ進んだということか。同業であるリヒターも、常に上を行くローレルに対して敵対心のようなものを持っていたのだろう。

「両名が共謀して今回の裁判を起こしたのは、昔を思い出した焦りからの行動……だったのかもしれません」

 かつての同級生の姿を思い出しているのか、ローレルは苦い表情でため息をついた。

「ローレルさんが新たな研究を始めたのが、その原因になったと……?」

「そんな横暴な! まるで自分以外が伸びることを忌み嫌っているみたいじゃないですか!」

「悲しいけれど、悪の権力者っていうのはいつの時代もそういうものなのかもね……」

 出る杭は打つ。それが良いものでも悪いものであっても関係なくだ。特にラウスは今までもそうやって自らの地位を維持してきたのかもしれない。まさに悪代官の所業だが、それが一度挫折してどん詰まっていた彼に出来る唯一の抵抗だったのだろう。
 熱くなって言葉が強くなるリエルをなだめつつ、シノは小さくため息をついた。

「腐っても、彼らは私の幼馴染ですから……またやり直してほしいとは思っていますよ」

「一週間後に両名の裁判が改めて行われるそうです。そこで全てが決まることでしょう」

 これに関しては動かぬ証拠が出てしまっているため、有罪は避けられないだろう。失脚や資格の剥奪は確実といってもいい。
 そしてその後釜はもうちょっとまともな人物になってほしいなぁとシノは思っていた。

「ならこれ以上は、私達が関与するところではありませんね」

「そうですよ。悪人なら、然るべき手順を踏んでから裁かれるべきです!」

 今度の裁判に限ってはたった二日というわけではなく一週間というそれなりの猶予があるため、形式に則ってちゃんと開かれることになる筈だ。
 あとのことは当事者達に任せておくべきということで、話は一旦そこで終わる。

「そういえばローレルさん。あれから、研究の進展はどうですか?」

 前回の訪問からそれなりの日数が経っていたので、シノは進捗が気になったようだ。
 たった一度魔法を見せただけなのだが、それでも問題ないとローレルやファルマは言っていた。
 だが、果たしてその後どうなったのかは直接聞き出せてはいない。

「完全な成果、とは言えませんが……少しだけなら成功はしましたよ」

「!!!」

 シノの問いに対してローレルは含み笑いをしてみせると、何事かを呟いた後に手を空にかざす。すると、小さな虹色の淡い光が発生して数秒ほどで消え去った。
 彼女はもちろんその光に見覚えがあった。紛れもなく、シノ自身が考えた魔法が発する光である。先ほどの裁判でラウスが提示した写真に収められていたのもまさにこれだろう。

「凄い……本当に模倣することが出来たんですね!」

「まだまだシノさんには遠く及ばないので、威張って見せられるほどではありませんけどね」

 多分無理だろう程度に失礼ながら思っていたのだが、これにはさすがに驚かざるを得なかった。ローレルは謙遜こそしているが、まさか本当にシノの魔法が模倣できてしまうとは。

「先生の眼は確か。とお伝えしたでしょう?」

「本場の研究者の凄さが改めて分かった気がします……」

「さすが、各地で噂になるだけの実力はあるということですね……」

 ローレルの実力を語るファルマは、何故かちょっと得意げである。まだ試作段階ではあるようなので実用化は先らしいのだが、そう遠くはならないだろう。
 シノが使ったあの魔法は彼女だからこそノーリスクで扱えたのであって、ローレルがあのレベルで使用した際の影響などは、まだ調べる必要はありそうだが。

「誰かを治すのが医師としての本懐ですからね。そのためには己が身は最大限使いますよ」

「そんなローレルさんだからこそ、ファルマさんも付いていってるんでしょうか?」

「……まぁ、否定はしませんが」

 シノが疑問を投げかけると、一瞬だけ間をおいてファルマが答える。
 そこには何だか彼の腕前以外の理由がある気がしないでもないが、ここでツッコむのは野暮というものか。傍から見ると上司と部下だけれども、こういう付かず離れずの関係もなんだかいいなぁと思うのであった。
 かと言って、お互いが鈍感で機会を逃してしまうというパターンにだけははまって欲しくはないが。

「これなら、今度はお叱りの手紙が役所から届くこともありませんね」

「ははは。そうならないように、これからはより尽力していくことにしますよ」

 そうして四人は互いに顔を見合わせて笑いあった。いざ魔法が完成さえしてしまえば、お叱りどころか大称賛が届くに違いない。自分の魔法が形は変われど世界に広まるのはなんだか不思議な気分ではあるけれど、その日を楽しみにしておくとしよう。

「それでは、私達はそろそろ失礼しますね。明日には村へ帰ろうと思います」

「分かりました、お二人ともお気をつけて」

「……此度の恩は、決して忘れません。次に来訪された時は、職員一同で歓迎したいと思います」

「また遊びにきますね。私も能力に磨きをかけて、それこそ何度でも!」

 恐らく今回一番の功労者であろうリエルの力強い宣言。その成長を願いつつ、二人は病院の建物を後にした。

「……さて! 明日までずっと自由だから、リューンベル観光といこうか!」

「はい! 私も通ってきただけの街だったので色々と見て回りたいです!」

 ローレルやファルマを含む病院の皆からの見送りを背に受けながらさっそうと街へ繰り出した二人。
 こうして、激動ともいえるリューンベルでの一日は、穏やかな終わりへ向かっていくのであった。
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