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第二部
39:大切だからこそ
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魔眼病を治す魔法薬の作成に取り掛かっていたリエルであったが、仕上げと思われる段階で突然自分の手をナイフで切るという行動に出た。
すぐさま白く透き通った肌に赤い線が生まれ、当然のごとく彼女は痛みに顔を歪めている。
仕上げの材料を切るのかと思いきや切ったのは自分の手だったので、そのあまりに予想外な行動に、様子を見ていたシノは驚き慌ててしまう。
「ちょ、ちょっと何やってるのリエル!?」
まさに秒ともいえる速さでナイフで切りつけている手を止めたシノは、即座に回復魔法を発動させてその傷を癒す。幸いにも数センチ程度の切り傷だったのであっという間に完治した。
だが、既に流れ出た彼女の血だけは止まることがなく、そのまま真下へと落下。そこにあるのは火起こし台の火元と、いつの間にか描かれていた小さな魔法陣。
そのちょうど中心に血が落下した瞬間――――――
「これは……!?」
魔法陣から青い炎が立ち上り、薬の容器を熱し始めたのだ。リエルを除いた全員が驚く中、シノだけは何かを察した様子。仕上げとは、つまりこういうことなのだろう。
「魔力を含んだ血を触媒として起こした火でなければ……この薬を仕上げることができないんです」
「成る程……それでは確かに、普通の医者では知りえないのも納得だ……」
リエルの説明に対して医者は驚きつつも頷く。とりあえず、マリーには見られていなかったようで安心だ。手を切って血を流すなど怖がられるに決まっている。
「そういうことは先に言ってよ……! 何事かと思ったじゃない!」
「ご、御免なさい……。さすがにシノさんに血の要求なんてできませんし、この場だと他に私ぐらいしかいなかったので……」
「確かにそうかもしれないけど……血を流すのなら一言ぐらいは欲しいかも」
心底心配したような表情で、シノがリエルをぎゅっと抱きしめた。その際に少しだけリエルの顔が赤くなる。
性分なのかもしれないが、彼女は一人で突っ走ってしまうことがたまに見受けられるので近くにいるシノとしてはちょっと心配になってしまう。
「一人でやるな、とは言わないけど……もう少し、自分の身を大事にしてよね?」
「……はい! 今後は気を付けようと思います」
「うん、それなら結構!」
抱きしめていた手を離すと、シノは満足そうに笑顔で頷いた。リエルは容器を手に取るとそれを混ぜ始め、みるみる内に薬は青く澄んだ液体へと変化する。
ついさっきまでは濃縮された抹茶のような色をしていたはずなのだが、これが魔法薬というものなのだろう。
「バルトさん、これをマリーちゃんに」
「あぁ、わかった。マリー、お薬が出来たぞ。ちゃんと飲めるか?」
コップに移した薬を受け取ったバルトは、すぐさま寝ている娘の元へ向かう。マリーはゆっくり身体を起こして小さく頷くと薬を手に取った。
しばらくの間、青い薬を不思議そうに見つめていたが、やがてコップを傾けるとこくこくと飲み始める。
「このお薬……ちょっと苦い……」
「頑張って、マリーちゃん! 無事に治ったらまた一緒に遊んであげるから!」
「うん、頑張る……」
特殊な材料で作っているため、やはり普通の薬よりも苦いようだ。活発なマリーでさえこういう感想が出てくるのだから、他の子だともっとキツいものがあるだろう。
皆に見守られながらもなんとか薬を飲み切ったマリーは、若干涙目っぽくなりながらも長く息を吐いてみせた。
「よぉし、よく頑張った! さすが俺達の娘だ!」
「偉いわよ、マリー!」
喜ぶ両親に抱きしめられながら、マリーは自然と笑顔になる。これでもう心配はいらないだろう。医者と共に、リエルとシノも安堵の息をついていた。
「マナ・レデュースによって完治した魔眼病は、再発することはない筈です。魔力の過剰な溜め込みを自動で抑えてくれるので」
「これは私も、まだまだ医者として精進のしがいがあるということかな。はっはっは」
もう五十は過ぎていると思うのだが、まだ学べることがあると知って医者の男性はなんだか嬉しそうである。今回のように特殊な事例はさておき、今後も村の医者として頑張ってもらいたいものだ。
マリーの方は薬が効き始めたようで、既に眠ってしまったようだ。彼女をベッドに寝かせた両親はそっと布団を掛け直してあげた後に、
「先生方。それにリエルさん。ありがとう御座いました!」
深々と頭を下げてお礼を言う。それに対して三人は笑顔で頷くと、揃って家を後にする。
医者の男性と別れた後、二人は森の訪れへと向かった。リエルはともかく、シノは依頼から帰ってきてまだ報告を済ませていないからだ。
そもそも、リエルも報酬らしい報酬を貰っていなかった気がするのだがそれを尋ねてみると、
「マリーちゃんが笑顔になってくれさえすれば、私にとってはそれが報酬です!」
と、至極もっともらしい言葉が返ってきた。笑顔が宝とは、彼女は聖人か何かだろうか? 精霊なのだから聖なる存在ではあるかもしれないけど。
「無欲だなぁリエルは……どこかの商売っ子とは違って」
「ふふっ、欲深い精霊っていうのもなんだかおかしな話ですよ?」
神聖な存在であるはずの精霊が欲に塗れていたら色々と厄介そうだ。そうして笑い合いながら二人が歩いていると――――――
「――――――そのどこかの商売っ子が、どうかしましたか?」
「うわぁっ!?」
いつから居たのか、小さな影が突然割り込んできた。驚いて飛び退いたシノと入れ替わりの位置に立っていたのは、ちょっとジト目気味のティエラ。話すのに夢中で、いつの間にか近づいてきたことに気付かなかったのだろう。
「私からしてみれば、シノだって欲が無い気がしますけれど」
「あ、あはは……ティエラに言われちゃ形無しだよ」
友人からの容赦ないツッコみに、シノは苦笑しつつ頭を掻いた。いつもやっている教師仕事などに関しては授業料を貰っているわけでもないので、欲無しと言われればそうかもしれないけれど。
欲で仕事をしている商人と比べてもなぁと思ったりしたが、口に出すとまた何か言われそうなのでここは黙っておく。
「二人揃っているということは、依頼は無事に済んだようですね」
「はい! マリーちゃんのことなら、もう安心です」
「商人さん達の護衛も終わったから、これから報告しにいくところだよ」
「なるほど。私もちょうど店に向かうところでしたので、ご一緒しましょう」
「それはいいんだけど……お店のことはいいの?」
「ついさっき最後のお客が来ましたので、今日はもう店仕舞いです」
店に戻ったと思えばまた閉めてしまうとは、相変わらず自由過ぎる経営体勢だ。それでこそティエラ、というのもあるかもしれないが。
彼女に言わせれば、客が来ない時間帯に店番していても意味がないとのことだが、果たしてそれが理に適っているのかいないのか。
二人は顔を見合わせて肩を竦めると、ティエラと共に依頼の報告へと向かうのであった。
◇
昼過ぎの貸し切り感とは打って変わって、夕暮れ時ともなると森の訪れの店内は多くの客でいつも通り賑わっていた。
「――――――しかし、作るまでに血を流さなければならないとは、魔法薬というものは相変わらず面倒ですね」
「血を……流す……? そんな大怪我をするほど危険な材料採集だったんですか!?」
「ちょっと待ってティエラ。なんか間違って伝わっちゃってるから!」
マリーを治す薬を説明する下りで案の定ローザに驚かれはしてしまったものの、無事に完治したことを聞いて改めて安心しているようだ。
シノが知る限りでは魔眼病を発症したのはあの子だけだったので、これから先同じことが起こったとしても対抗策が出来たのは良いことだろう。
とはいえ、その度に血が必要になるとそれはそれで嫌な気もするので、代替案を考える必要があるかもしれない。あの手の病気に有効な治療魔法や方法などが別に載ってないか、いずれまたあの設定集を見返しておくことにしよう。
「そういえば、ジェネスでの護衛依頼はどうでしたか?」
「特に問題なく終わったよ。久々にベイルさんにも会ったし、元気そうだった」
「確か……シノさんが武道大会で闘った人でしたよね?」
「そうそう。思った通り、かなり腕の立つ剣士だったよ。私の出番は殆どなかったかも」
シノの方は、懐かしい人物と依頼先で再会していたらしく、大会が終わった後も街所属の冒険者として頑張っているようだ。今回に関しては依頼での共闘となっていたので、彼にとってはやはり嬉しかったりしたのだろうか。
別れ際には「また会おう!」などと、熱血漢っぽい言葉をかけられていたのが想像できてしまう。来年の武道大会でまた当たるのを期待ぐらいはしておこう。
それからひとしきり談笑した後に、
「――――――というわけで、これは私からのサービスです。どうぞ!」
厨房を振り返ったローザが給仕から手渡されたのは大皿に盛りつけられた肉野菜炒めだった。相変わらず美味しそうである。
突然出てきたそれに驚いて、料理とローザを交互に見ている三人であったが、
「今日もお疲れ様でしたということで、まかないみたいなものですよ」
そう言われて安心したのかホッと息をつく。シノとリエルに関しては今日は奔走していたのだし、体力をつけておかなければならないだろう。
「では、これは三等分にして頂くということで」
「ティエラって、今日ほとんど仕事してなくない……?」
「脳内ではずっと、アイデア出しのために働いていましたよ。それにちゃんと店番もしていましたし」
「さっきここを出て行かれてから一時間ぐらいしか経ってませんけどね……」
「ほ、ほら! 頭を使うとお腹が減るっていいますし、ティエラさんも大変なんですよきっと」
「あなたならそう言ってくれると思っていましたよリエル。お礼に少し分けてあげましょう!」
いつの間にか鍋奉行ならぬ野菜炒め奉行になっていたティエラはさておき、それぞれの分を取り分ける一同。
その光景を見て可笑しくなったのか、ローザは思わず笑ってしまった。これが、彼女たちにとっていつも通りの光景ということだ。
そんな和やかかつ賑やかな空気に包まれながら、三人の夕餉の時は過ぎていくのであった。
すぐさま白く透き通った肌に赤い線が生まれ、当然のごとく彼女は痛みに顔を歪めている。
仕上げの材料を切るのかと思いきや切ったのは自分の手だったので、そのあまりに予想外な行動に、様子を見ていたシノは驚き慌ててしまう。
「ちょ、ちょっと何やってるのリエル!?」
まさに秒ともいえる速さでナイフで切りつけている手を止めたシノは、即座に回復魔法を発動させてその傷を癒す。幸いにも数センチ程度の切り傷だったのであっという間に完治した。
だが、既に流れ出た彼女の血だけは止まることがなく、そのまま真下へと落下。そこにあるのは火起こし台の火元と、いつの間にか描かれていた小さな魔法陣。
そのちょうど中心に血が落下した瞬間――――――
「これは……!?」
魔法陣から青い炎が立ち上り、薬の容器を熱し始めたのだ。リエルを除いた全員が驚く中、シノだけは何かを察した様子。仕上げとは、つまりこういうことなのだろう。
「魔力を含んだ血を触媒として起こした火でなければ……この薬を仕上げることができないんです」
「成る程……それでは確かに、普通の医者では知りえないのも納得だ……」
リエルの説明に対して医者は驚きつつも頷く。とりあえず、マリーには見られていなかったようで安心だ。手を切って血を流すなど怖がられるに決まっている。
「そういうことは先に言ってよ……! 何事かと思ったじゃない!」
「ご、御免なさい……。さすがにシノさんに血の要求なんてできませんし、この場だと他に私ぐらいしかいなかったので……」
「確かにそうかもしれないけど……血を流すのなら一言ぐらいは欲しいかも」
心底心配したような表情で、シノがリエルをぎゅっと抱きしめた。その際に少しだけリエルの顔が赤くなる。
性分なのかもしれないが、彼女は一人で突っ走ってしまうことがたまに見受けられるので近くにいるシノとしてはちょっと心配になってしまう。
「一人でやるな、とは言わないけど……もう少し、自分の身を大事にしてよね?」
「……はい! 今後は気を付けようと思います」
「うん、それなら結構!」
抱きしめていた手を離すと、シノは満足そうに笑顔で頷いた。リエルは容器を手に取るとそれを混ぜ始め、みるみる内に薬は青く澄んだ液体へと変化する。
ついさっきまでは濃縮された抹茶のような色をしていたはずなのだが、これが魔法薬というものなのだろう。
「バルトさん、これをマリーちゃんに」
「あぁ、わかった。マリー、お薬が出来たぞ。ちゃんと飲めるか?」
コップに移した薬を受け取ったバルトは、すぐさま寝ている娘の元へ向かう。マリーはゆっくり身体を起こして小さく頷くと薬を手に取った。
しばらくの間、青い薬を不思議そうに見つめていたが、やがてコップを傾けるとこくこくと飲み始める。
「このお薬……ちょっと苦い……」
「頑張って、マリーちゃん! 無事に治ったらまた一緒に遊んであげるから!」
「うん、頑張る……」
特殊な材料で作っているため、やはり普通の薬よりも苦いようだ。活発なマリーでさえこういう感想が出てくるのだから、他の子だともっとキツいものがあるだろう。
皆に見守られながらもなんとか薬を飲み切ったマリーは、若干涙目っぽくなりながらも長く息を吐いてみせた。
「よぉし、よく頑張った! さすが俺達の娘だ!」
「偉いわよ、マリー!」
喜ぶ両親に抱きしめられながら、マリーは自然と笑顔になる。これでもう心配はいらないだろう。医者と共に、リエルとシノも安堵の息をついていた。
「マナ・レデュースによって完治した魔眼病は、再発することはない筈です。魔力の過剰な溜め込みを自動で抑えてくれるので」
「これは私も、まだまだ医者として精進のしがいがあるということかな。はっはっは」
もう五十は過ぎていると思うのだが、まだ学べることがあると知って医者の男性はなんだか嬉しそうである。今回のように特殊な事例はさておき、今後も村の医者として頑張ってもらいたいものだ。
マリーの方は薬が効き始めたようで、既に眠ってしまったようだ。彼女をベッドに寝かせた両親はそっと布団を掛け直してあげた後に、
「先生方。それにリエルさん。ありがとう御座いました!」
深々と頭を下げてお礼を言う。それに対して三人は笑顔で頷くと、揃って家を後にする。
医者の男性と別れた後、二人は森の訪れへと向かった。リエルはともかく、シノは依頼から帰ってきてまだ報告を済ませていないからだ。
そもそも、リエルも報酬らしい報酬を貰っていなかった気がするのだがそれを尋ねてみると、
「マリーちゃんが笑顔になってくれさえすれば、私にとってはそれが報酬です!」
と、至極もっともらしい言葉が返ってきた。笑顔が宝とは、彼女は聖人か何かだろうか? 精霊なのだから聖なる存在ではあるかもしれないけど。
「無欲だなぁリエルは……どこかの商売っ子とは違って」
「ふふっ、欲深い精霊っていうのもなんだかおかしな話ですよ?」
神聖な存在であるはずの精霊が欲に塗れていたら色々と厄介そうだ。そうして笑い合いながら二人が歩いていると――――――
「――――――そのどこかの商売っ子が、どうかしましたか?」
「うわぁっ!?」
いつから居たのか、小さな影が突然割り込んできた。驚いて飛び退いたシノと入れ替わりの位置に立っていたのは、ちょっとジト目気味のティエラ。話すのに夢中で、いつの間にか近づいてきたことに気付かなかったのだろう。
「私からしてみれば、シノだって欲が無い気がしますけれど」
「あ、あはは……ティエラに言われちゃ形無しだよ」
友人からの容赦ないツッコみに、シノは苦笑しつつ頭を掻いた。いつもやっている教師仕事などに関しては授業料を貰っているわけでもないので、欲無しと言われればそうかもしれないけれど。
欲で仕事をしている商人と比べてもなぁと思ったりしたが、口に出すとまた何か言われそうなのでここは黙っておく。
「二人揃っているということは、依頼は無事に済んだようですね」
「はい! マリーちゃんのことなら、もう安心です」
「商人さん達の護衛も終わったから、これから報告しにいくところだよ」
「なるほど。私もちょうど店に向かうところでしたので、ご一緒しましょう」
「それはいいんだけど……お店のことはいいの?」
「ついさっき最後のお客が来ましたので、今日はもう店仕舞いです」
店に戻ったと思えばまた閉めてしまうとは、相変わらず自由過ぎる経営体勢だ。それでこそティエラ、というのもあるかもしれないが。
彼女に言わせれば、客が来ない時間帯に店番していても意味がないとのことだが、果たしてそれが理に適っているのかいないのか。
二人は顔を見合わせて肩を竦めると、ティエラと共に依頼の報告へと向かうのであった。
◇
昼過ぎの貸し切り感とは打って変わって、夕暮れ時ともなると森の訪れの店内は多くの客でいつも通り賑わっていた。
「――――――しかし、作るまでに血を流さなければならないとは、魔法薬というものは相変わらず面倒ですね」
「血を……流す……? そんな大怪我をするほど危険な材料採集だったんですか!?」
「ちょっと待ってティエラ。なんか間違って伝わっちゃってるから!」
マリーを治す薬を説明する下りで案の定ローザに驚かれはしてしまったものの、無事に完治したことを聞いて改めて安心しているようだ。
シノが知る限りでは魔眼病を発症したのはあの子だけだったので、これから先同じことが起こったとしても対抗策が出来たのは良いことだろう。
とはいえ、その度に血が必要になるとそれはそれで嫌な気もするので、代替案を考える必要があるかもしれない。あの手の病気に有効な治療魔法や方法などが別に載ってないか、いずれまたあの設定集を見返しておくことにしよう。
「そういえば、ジェネスでの護衛依頼はどうでしたか?」
「特に問題なく終わったよ。久々にベイルさんにも会ったし、元気そうだった」
「確か……シノさんが武道大会で闘った人でしたよね?」
「そうそう。思った通り、かなり腕の立つ剣士だったよ。私の出番は殆どなかったかも」
シノの方は、懐かしい人物と依頼先で再会していたらしく、大会が終わった後も街所属の冒険者として頑張っているようだ。今回に関しては依頼での共闘となっていたので、彼にとってはやはり嬉しかったりしたのだろうか。
別れ際には「また会おう!」などと、熱血漢っぽい言葉をかけられていたのが想像できてしまう。来年の武道大会でまた当たるのを期待ぐらいはしておこう。
それからひとしきり談笑した後に、
「――――――というわけで、これは私からのサービスです。どうぞ!」
厨房を振り返ったローザが給仕から手渡されたのは大皿に盛りつけられた肉野菜炒めだった。相変わらず美味しそうである。
突然出てきたそれに驚いて、料理とローザを交互に見ている三人であったが、
「今日もお疲れ様でしたということで、まかないみたいなものですよ」
そう言われて安心したのかホッと息をつく。シノとリエルに関しては今日は奔走していたのだし、体力をつけておかなければならないだろう。
「では、これは三等分にして頂くということで」
「ティエラって、今日ほとんど仕事してなくない……?」
「脳内ではずっと、アイデア出しのために働いていましたよ。それにちゃんと店番もしていましたし」
「さっきここを出て行かれてから一時間ぐらいしか経ってませんけどね……」
「ほ、ほら! 頭を使うとお腹が減るっていいますし、ティエラさんも大変なんですよきっと」
「あなたならそう言ってくれると思っていましたよリエル。お礼に少し分けてあげましょう!」
いつの間にか鍋奉行ならぬ野菜炒め奉行になっていたティエラはさておき、それぞれの分を取り分ける一同。
その光景を見て可笑しくなったのか、ローザは思わず笑ってしまった。これが、彼女たちにとっていつも通りの光景ということだ。
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