ワールドマテリアルズ~転生先は、自分が原作者の異世界でした。

依槻

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第二部

40:銀の雪とクリスマス

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 少し前から空気は冷え込んでこそいたが、いよいよクラド村を含む周辺地域にも本格的な冬が訪れようとしていた。
 今年はちょっと遅めの初雪となったようだが、村の子ども達は久しぶりの雪にはしゃいで走り回っている。
 そしてここにも、そんな冬を毎年のように楽しむ人物が一人。


「メリークリスマース!!!」

「!? お、おはよう御座いますシノさん……」


 雪の降る中でもいつもの日課をこなして帰ってきたシノの開口一番。朝食の準備をしていたリエルは、驚いて食器を落としそうになってしまった。
 そして当然のように、シノの発した言葉に対しての疑問を抱きつつ首を傾げている。

「メリー……クリスマス? それは一体、何でしょうか?」

「あ、そうだった。リエルにはまだ教えてなかったんだっけ……」

 これは失敗したと言わんばかりにシノは苦笑。この世界にキリストはいないし、もちろんクリスマスというのも存在しない。その他にも色々となかったりするのだが、それではさすがに味気ないと感じたシノが、行事として取り入れてはどうかと昔に提案したのが始まりだ。
 キリストの生誕祭とかいう意味合いではなく、ただ単に冬の行事としての一環としてクリスマスを取り入れているのだ。
 朝食の間にそう説明を受けたリエルはとりあえず、クリスマスのことを理解したようだ。

「なるほど、冬の行事ということなんですね。それは楽しそうです!」

「方々の街でやってるような堅苦しいのじゃなく、みんなが楽しめる一日としてだからねー」

 シノが教師の仕事を始めてからしばらくしてからクリスマス行事が始まったので、もう五十年近くにはなるだろうか。おかげでクリスマスは、すっかりクラド村特有の行事として定着した。
 ハロウィンやイースターがないのは最悪まぁいいとしても、クリスマスぐらいはあって然るべきだろう。

「そういうわけだから、皆とのプレゼント交換会は夕方から! 忘れないようにね、リエル」

「は、はい! これは、何を準備しようか迷いますね……」

 これもクリスマスの醍醐味か、毎年シノの生徒達が集まってプレゼント交換会をすることになっており、彼女の部屋にはみんなから貰った物が飾ってあったりする。
 シノは当然、今年の分は既に準備済みだ。去年は出先で見つけた花の髪飾りを選んだのだが、見事女の子に当たってとても喜んでくれていたのをよく覚えている。

「それじゃあ私は学校へ行ってくるね」

「いってらっしゃいませ、シノさん!」

 クリスマスの日でも一応学校の授業はあるのでそれだけは欠かさない。見送ったリエルもローザの手伝いをしにいくようで、彼女に続いて家を後にした。
 ほどなくして学校へやって来たシノは、まだ昼前だというのに浮足立っている子ども達と出会う。それを見た彼女も心なしか嬉しそうだ。

「おはよう、みんな!」

「おはよーございまーす!!!」

 返ってくる挨拶もいつもの数割増しな気がする。やっぱり子どもはこうでなくちゃいけない。皆を見回して満足気に頷いたシノは、いつも通りの授業を始めた。
 夕方からのことで頭がいっぱいになっていてちゃんと聞いてくれるか不安ではあったが、その心配はいらなかったようで、子ども達は今日も至って真面目なようだ。

「それじゃあ今日はここまで! 夕方の交換会、遅れないようにね!」

「ありがとうございましたー!!!」

 しばらくして今日の授業は終わり、雪がちらほら降っている中、子ども達は一旦帰路に着く。途中で今日のプレゼント内容を訊かれたりもしたがそれはその時まで秘密だ。
 皆を見送った後に学校を閉めたシノは、続いてティエラの魔法道具店へと足を向ける。この日も店はちゃんと開けてくれていたようで、彼女が来たことに気付くと顔を上げて出迎えた。

「メリークリスマス、ティエラ!」

「ごきげんよう、シノ。頼まれていたものは出来てますよ」

「さすがティエラ! 仕事が早くて助かるよー」

「私にこのような制作依頼をするのは、数ある客の中でもあなたぐらいですけどね」

 どうやらシノはティエラに何か頼んでいたようで、カウンターの裏から筒状の物を取り出してみせる。それはカラフルな装飾がなされた巨大なクラッカーのようなものだった。
 魔法道具の応用で、発射すると綺麗な光が辺りに散らばるという特別製である。凄く無駄に凝ったパーティーグッズだ。
 実は、百年祭でシノが店に訪れた時に放たれたのがこれと同じものだったりする。意外にもティエラは遊び心があるのかもしれない。

「年に一度の日なんだし、パーッと盛り上げないとね!」

「どちらかといえばパーッとではなくてパーン! とですけどね」

「細かいことは気にしないっ。それじゃあ、また夜にお店でね!」

「わかっていますよ。ではまた後ほど」

 道具の代金を支払ったシノは大きなクラッカーを抱えると、足早に店を後にするのであった。
 次に向かうのは今日のメイン会場となる森の訪れだ。子ども達とのプレゼント交換会の後は、皆がここに集結するのでそれは大盛り上がりとなることだろう。

「メリークリスマース、ローザ!」

「メリークリスマスです! シノさん!」

 店に入るなり、シノとローザがハイタッチを交わす。控えめな性格であるローザも、この日ばかりは幾分かテンション高めなようだ。これがクリスマス効果というヤツだろうか。
 リエルは給仕の手伝いをしているようで、向こうのテーブルを行ったり来たりしている。

「これは、今夜は忙しくなるだろうね。百年祭以来かな?」

「さすがにアレを超える忙しさはないと思いますけどねー……」

「当事者の私としても、いかに大変な準備だったかが肌で感じ取れたよ」

 百年祭は自分を祝ってくれる催しだったがクリスマスは違う。正確にはシノが広めたこの村オリジナルのクリスマスだが、今日はみんなで騒いでみんなで楽しむ催しだ。
 そのまま話し込んでいると、手伝いに一区切りつけたリエルがこちらへと戻ってきた。

「相変わらず頑張ってるねー、リエル」

「はい! こういった催しは初めてですし、精一杯楽しみたいので!」

「スピリティアにいた頃は、お祭りとかはなかったの?」

「大精霊様の生誕祭はあったんですが、どちらかというと儀式のようなものなので……」

 彼女の話から察するに、祭りというよりも式典に近い感じだろう。それだと羽根を伸ばして楽しむということはさすがに出来ないなと思う。
 一度見てみたい気もするけれど、そもそもスピリティアに入ることが出来ないのだから今は諦めておくとしよう。

「リエルさんが大精霊になったら、この村でも生誕祭が行われたりするんでしょうか?」

「それはそれで、私としてもちょっと恥ずかしいです……」

「その時は形式ばった堅苦しいのじゃなくて、盛大に祝ってあげるよ! この村の催しなんだからね」

 そうして話に花を咲かせつつも、一同は夜のパーティーに向けて着々と準備を進めていくのであった。


 ◇


 やがて時刻は夕方になり、メインイベントともいえるプレゼント交換会の時がやってくる。子ども達が思い思いのプレゼントを手にして学校へと戻ってきた。
 シノは当然のことながらリエルも参加しており、なんとローザの姿まである。別に店番をサボっているわけではなく、ちゃんとした理由があった。

「ローザお姉ちゃんのプレゼント、絶対に当ててやるぞー!」

「今年こそは、俺が貰うんだもんねー!」

「ぜぇーったいに、私が手に入れるんだからっ!」

 プレゼント交換の山の中には、ローザが手作りした当たりのプレゼントが仕込まれているのである。
 ティエラとは別の方向性で器用な彼女は、服からお菓子から色々な物を作ることができるので、試しに当時やってみたところ大反響だったらしい。
 十年ほど前から始まったそれは、以降毎回恒例になっているといった感じだ。仕込んでいるローザ本人もまんざらではなさそうなので、これはこれで良いと思う。
 ちなみに去年は毛糸の帽子が当たりプレゼントだった。街の本格的なお店で売っているのと遜色ないクオリティで驚いた覚えがある。


「さーて、みんな揃ったかな? 始めるよー!」


 集まった子ども達にシノが呼びかけると可愛らしい歓声が返ってくる。彼女の後ろにはプレゼント箱の山が築かれており、その数は三十個を超えていた。
 果たしてこの中からローザ渾身の当たりを引き当てるのは誰になるのだろうか。当人である彼女は、先ほどから笑顔でその様子を見守っている。
 シノは教室の隅に置いてある小さなパイプオルガンの場所へ行くと、おもむろにそれを弾き始めた。
 この間に、子ども達がプレゼントをどんどん取っていくという流れになっている。彼女は最後に残っているプレゼントを貰っていくようだ。
 大中小と様々な大きさがあるが、中身は全てわからないようになっているので、どれを取っても特に問題などない。

「……よし。じゃあ私の分はこれ!」

 子ども達がそれぞれプレゼントを取り終わったのを確認したシノは演奏を終えると、最後に残っていた1つを手に取った。
 一番小さいのが残ると思っていたが、意外にもそれなりの大きさがある箱だ。これはちょっと期待できるかもしれない。
 教室を見渡した彼女がその後に合図をすると、皆が一斉にプレゼントを開け始めた。思わぬ中身に喜んだり、中にはちょっと残念がったりする声がしばらく室内へと響く。
 そんな中、シノも自分が取ったプレゼントの箱を開けていたのだが、


「……えっ!!?」


 その中身を見た瞬間、本当に驚いたような声と共に目を丸くした。それに反応した全員が、一斉にシノへ視線を向ける。
 箱の中に手を入れ、彼女が恐る恐る取り出したそれには――――――――


「当たり」と大きく書かれ、綺麗な装飾がなされた袋が入っていたのであった。
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