ワールドマテリアルズ~転生先は、自分が原作者の異世界でした。

依槻

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第二部

41:あなたにプレゼントを

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 元の世界でもクラド村でも、クリスマスのメインイベントともいえるプレゼント交換会。子ども達が次々に手に取っていく中、最後の一個を手に取ったのはシノだったのだが、


「これって当たり……だよね!?」


 一つだけ仕込まれている当たりを、今年はなんと彼女が引き当ててしまったのである。
 まさに残り物には福があるというやつだろうか。子ども達やリエルはもちろんのこと、仕込んだ本人であるローザも口に両手を当てて驚いていた。

「いいないいなー!」

「何が入ってるの? はやく開けてー!」

 当たりと書かれた中くらいのサイズの袋を手にしたシノはすぐさま子ども達に囲まれて開封をせがまれる。それを落ち着かせながらも、彼女は袋を開けてみた。
 持った時に柔らかい感じがしたので、布製の何かが入っているのだろうか? そんな思いを抱きつつ取り出すと――――――

「えっ!?」

 袋から姿を現した物を見た瞬間、シノは驚きのあまりしばらく固まってしまった。
 中に入っていた当たりのプレゼントとは、大きさ三十センチほどのぬいぐるみだったのだが、それはただのぬいぐるみではない。


「こ、これ……私だよね? 私そっくりのぬいぐるみだよね!?」


 まさかまさかの、シノ本人を模して作られたものだったのだ。デフォルメこそされてはいるが、着ている服といい髪や瞳の色といい、彼女そっくりである。
 作った本人であるローザは口から顔に両手の位置が移り恥ずかしそうにしているが、凄く嬉しそうなのは誰が見ても明らかだ。
 よもや本人が引き当ててしまうとは、これは結構奇跡的な出来事かもしれない。

「かわいいー!」

「小っちゃい先生だー!」

「私にも見せて見せてー!」

 シノぬいぐるみを見た子ども達が一斉に彼女の周りに集まり始めるが、子ども達以上に喜んでいるのが――――――


「か、可愛いぃーー! 何これ可愛いっ! これすっごく可愛いよ!!!」


 自分のぬいぐるみを思いっきり抱きしめているシノ本人であった。銀色の瞳をキラキラ輝かせさせながら、まるで少女かのようにはしゃいでいる。
 普段はまず見せないようなその様子を見たリエルは思わず笑ってしまう。冒険者や教師である前に、やっぱり一人の女性なんだなぁと。
 先ほどから「可愛い」を連発して語彙が行方不明気味のシノだが、一分ほど騒ぎまくった後にようやく落ち着いたのか長く息をついてみせる。

「ありがとう、ローザ! 一生大事にさせてもらうからね!」

「そ、そこまで喜んで頂けたなら私も嬉しいです……!」

「シノさん! 私も抱っこしていいですか!」

 リエルにぬいぐるみを渡してあげると、即座にぎゅっとそれを抱きしめた。彼女もまた、金色の瞳をキラキラ輝かせている。もしかすると、癒しの魔法でもかかっているのだろうか? ぬいぐるみそのものが癒しの塊みたいなものだけれども。
 どうやらこの様子を見るに、今年のプレゼント交換会は大成功ということで間違いないだろう。
 ちなみにローザは手作りクッキーが当たり、リエルには編み物が得意な子が作ったマフラーが当たっていた。十歳に満たないのにあそこまで作れるとは、クラド村の子ども達は中々にレベルが高い気がする。

「さぁみんな! この後はお店でクリスマス会だから、まだまだ楽しんでいこうね!」

「はーい!!!」

 シノが子ども達に呼びかけると相変わらず元気な声が返ってきた後、皆は続々と学校を後にし始めた。
 彼女らもそれに続き、今日のメイン会場である森の訪れへと向かう。いつの間にかぬいぐるみはシノの手に戻っていた。既に相当なお気に入りと化しているようである。

「それでは、私達も急ぎましょうか」

「また飲み過ぎて、面白い子にならないようにねー?」

「き、気を付けます!」

「ローザさん、酔うと面白い子になっちゃうんですね……」

 百年祭の日を思い出してちょっとした冗談を飛ばしつつ、三人は雪の降る道を歩いていくのであった。


 ◇


 プレゼント交換会の間にすっかり日は暮れ、降りしきる雪と建物から漏れる柔らかな明かりで、村はすっかりクリスマスの夜といえる雰囲気になっていた。
 森の訪れには大勢の人が集まっており、かなりの賑わいっぷりだ。今日のことを聞きつけた近隣の冒険者の姿もあり、思い思いに騒いでいる。
 そして今日、そんな店を切り盛りしているのは誰かというと、

「おかえりシノさん! 子ども達のご機嫌っぷりを見ると、今年も無事に終わったようだね」

 こういう日の頼れる代打。ローザの母親エリザが、いつものように快活な笑顔と共に出迎えてくれた。嵐のように忙しい店内ではあるが、それでもこの余裕を見せるのはさすがというべきか。

「こんばんはエリザさん! 素敵なプレゼントも貰っちゃったからねー」

「おや、それはローザが作ってた物じゃあないか! 想いが通じたってやつなのかねぇー」

「え? 想いが通じたってどういう――――――」

 交換で勝ち取ったぬいぐるみをエリザに見せたシノだが、彼女はそれを見て感慨深そうに頷いている。
 言葉の意味を問う前に、エリザは「ふふん」と意味ありげに笑ってみせると、


「そのぬいぐるみは、ローザがシノさんに当たって欲しくて作ってた物だからさっ」


 と言ったのだった。もちろん、それを聞いたローザ本人は途端に慌てだしてしまう。言うなれば、好きな人を皆の前で暴露されてしまったような構図だ。

「お、お母さんっ! それは黙っててって言ったでしょ!!?」

「えぇー? 別にいいじゃないか。シノさんならいずれ気付くだろうしさ」

「そういうことじゃなくてえぇぇー!」

 耳まで真っ赤になりがら、エリザの身体を揺すって精一杯の抗議をしているが、もはや手遅れ。その光景を見ていたシノとリエルは二人揃って苦笑している。

「シノさんのことを姉のように慕ってるっていうのも納得できますねー……」

「実際私も、妹みたいな存在として見ちゃってるしね。……妹にしては年が離れすぎてるけど」

 こういう時のローザは友人の一人としてではなく、やっぱり可愛い妹のように思えてしまうのであった。ここで更に畳みかけると恥ずかしさでローザが倒れてしまいそうなので、さすがにやめてはおくけれど。

「た、大切にしてくださいねっ! 絶対ですよ!?」

「言われなくても分かってるって。これを雑に扱ったら罰が当たるもの」

「私も、精一杯可愛がらせてもらいますので!」

 まだ赤さが残る顔を向けてお願いするローザに対して、二人はさも当然のように答えた。
 リエルはそう言いながらぬいぐるみの頭を撫でており、その仕草がなんだか可愛らしく見える。

「しっかしまぁ、改めて見ると見事なもんだねぇ。本人より可愛いんじゃないのかい?」

「シツレイな! どうせ私は可愛さが劣化したおばちゃんですよーだ」

「あっはっは! あまりむくれると、ぬいぐるみみたいな顔になっちまうよ?」

 そんな冗談を言い合いながら一同は笑い合う。まったく、この人のペースにはいつも呑まれっぱなしだ。
 しばらくの後、再び入り口のドアが開くと新たな来客が店へとやってくる。

「ごきげんよう皆さん! 少し店仕舞いが遅れてしまいました」

 どうやら、ティエラもクリスマス会に間に合ったようだ。口元がマフラーで隠れているため、いつもより子どもっぽい印象を受ける。言葉にもいつもより覇気のようなものが感じられた。
 普段は割と淡々とした彼女だが、今日ばかりはさすがにテンション高めなようだ。

「いらっしゃいティエラ! もう皆集まっちゃってるよ」

「こんばんはエリザさん! 今日は戦場のような忙しさですね」

「そりゃそうさ! 店を構える者同士として、手伝いの一つも頼みたいもんだけどねぇ」

「申し訳ないですが、そこは頑張ってとしか言えませんね……」

 そう言うと慰労の意味を込めて笑ったティエラは、エリザと小さくハイタッチを交わす。
 というか、こういう時に彼女のドジが発動してしまうと余計ややこしくなる気がするので、手伝わないというのはある意味正解だと思う。こういう日なのでそれでも皆は笑って流してくれそうではあるが。

「……おや。シノが小さなシノを抱えているじゃないですか!」

 ぬいぐるみに気付いたティエラが、実に自然な動作でそれを受け取ってみせる。これも親友ならではということだろうか。
 ただでさえ子どもぐらいの背丈なので、ぬいぐるみを抱いていると余計に子どもっぽく見えてしまう。カメラがあれば写真に収めたいところだが、生憎シノは持っておらず村にも置いてないのでそこだけが残念だ。

「すっごく可愛いですよね、シノさんのぬいぐるみ!」

「確かに。同じ物を作って店に置いておきたいぐらいです。ウチに雑貨コーナーでも設けましょうか」

「そ、それはちょっとやめてほしいかも……」

 突然、シノぬいぐるみを商品化しようとした彼女はとりあえず止めておいた。村の名物みたいになってしまったらさすがに恥ずかしい。
 元の世界にいたアイドルや芸能人も、自身がグッズ化される時はこういう気分だったりするのだろうか?

「集まる人は、みんな集まった感じでしょうか?」

「そうだね、じゃあそろそろ――――――」

 店内を見回したローザが確認すると、シノは頷きながらある物を取り出す。それは、昼頃にティエラから受け取っていた巨大なクラッカー。
 店の中央までそれを抱えていくと、皆と談笑していた村長へと手渡した。こういう時に立場を立てる人は立てるのが、シノの流儀である。

「皆さーん、こちらに注目ー! では村長、お願いします」

 彼女が大きな声で周囲に呼びかけると、談笑の声が一旦収まって視線が一斉に集まった。
 そんな中、クラッカーを抱えた村長が咳払いをして一言。


「今年も今日という日をこうして大勢で祝えることを、私は大変嬉しく思います。村の皆も冒険者の方々も、どうかこれからもこの村をよろしくお願い致します」


 店内から拍手が起こり、村長はそれに笑顔で応える。それからシノに目配せをして頷いたのを確認すると、クラッカーを構えた。撃った勢いで倒れると危ないので、傍らには奥さんが寄り添う形となっている。

「それでは皆さん――――――」

 皆が期待して見守る中、村長の手が発射の紐にかけられ、思いっきり引っ張って見せた。
 そして―――――――



「メリークリスマースっ!!!」



 一斉にその声が大きく響き渡った後にクラッカーが発射され、破裂音と共に色とりどりの光が森の訪れの天井へ向かってゆき、弾けて周囲へ降り注ぐ。
 それが合図であったかのように再び皆が思い思いに騒ぎ出してあっという間に賑やかさが戻ってくる中、クラド村のクリスマスは今年も過ぎていくのであった
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